スマートフォンやパソコン(PC)などのデジタル機器でメールやLINE、写真・文書の保存、ネット取引などをしている人は増えています。もし自分の身に何かあったとき、機器内にのこされたやりとりやデータはどうすればいいでしょうか。

 「みなさんはパソコンやスマホをのこして死ねますか?」

 11月中旬、大阪市であった「デジタル終活セミナー」。講師を務めた日本デジタル終活協会代表理事の伊勢田篤史弁護士(34)の問いかけに、参加者の一人で、兵庫県三田市の野間和美さん(48)は「死ねない」と思った。

 野間さんは、ブログやフェイスブックなどのSNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)を日常的に使っている。「デジタルデータは形はないけど、のこってしまう。自分に何かあったとき、データがどうなるのか気になっていた」と参加した理由を明かす。デジタル機器内には個人情報も多く、「誰かに気軽に頼めるものではない」。

 9月下旬には神戸市で関西デジタル遺品シンポジウムが開かれ、弁護士や司法書士、寺の住職ら約30人が参加。講演した一般社団法人「デジタル遺品研究会ルクシー」代表理事の古田雄介さん(40)は、「機器の持ち主が何の準備もしていないと、遺族はものすごく大変なんです」と語った。

 近年は、持ち主以外がパソコンやスマホなどを使えないようにするロック機能が強化され、機器の中のどこに、どんなデータがあるのかも、持ち主以外が把握するのは難しい。「デジタル遺品は、遺族から『見えない』のが最大のネック」だという。

 では、どうすればいいか。

 ログイン前の続き伊勢田弁護士は、デジタル終活セミナーで参加者に「デジタル世代の引き継ぎノート」を書いてもらっている。

 ノートには、機器の保管場所やフェイスブックなどの使用状況、メールアドレス、ログインするためのパスワードなどのほか、自分に何かあったとき、デジタル機器やデータをどうしてほしいか、希望を書く欄もある。

 まずは、デジタルデータにどのようなものがあるかを把握し、「のこしたいもの」と「隠したいもの」とに分ける。

 たとえば、仕事関係の資料は、引き継げるようにしておかないと、同僚や取引先に迷惑をかけてしまうこともある。また、株やFX(外国為替証拠金取引)などお金が絡む取引をしている場合も、家族に伝えられるようにしておきたい。

 一方、家族にも知られたくないデータは、家族が関心を持たなさそうな名前のフォルダーに入れるなどしておく。これは、必要なデータだけを家族に取り出してもらった後、データ復旧ができないよう、機器自体を破壊処理してもらうように頼んでおくことが前提だ。

 生きている間にノートを家族に見られたくない場合は、銀行の貸金庫に預けるか、そこまでできない場合は封筒に入れ、封印しておく。伊勢田さんは「のこされる人に余計な手間をかけないためにも年齢を問わず、デジタル終活を考えてほしい」と話す。

パスワード解除、依頼増加