ガンの末期には全身諸所の臓器にガンが転移し、ガンそのものの痛みよりも、ガンが周囲の組織や神経を冒して激しい痛みを生じることが多い。ガンは脊髄を冒したり、肋膜を冒したり、骨に転移すると、胸や腰や骨や関節に激しい痛みが起こる。
人々はよく、痛い病気で死にたくないという。ガンの末期に訴える痛みは、これを経験したことのない人には想像を超えるいたみである。人間の肉体が痛むと、その痛みは、食欲をなくさせ、睡眠を妨げる。また、痛みがひどいと、むかつきを招き、食事はますますとれなくなる。さらに肉体の痛みは、人間の心にも強い影響を与え、不安や恐怖の心をかきたてる。そのため、心の平静さがまったく失われてしまうのである。
しかし、からだの痛みは精神状態によって不思議に変化する。死の不安や恐れがあっても、なんとかその人をみんなが支えて意義深い毎日を過ごさせようと協力すれば痛みも軽くなる。肉体が病んでも心が病まない人には、その病に耐えられる不思議な力が与えてくれるといえよう。