新藤宗幸(しんどう・むねゆき)立教大学教授(当時)
昨年(2000年)12月、森政権は「行政改革大綱」を閣議決定し、新しい中央省庁体制にふさわしい公務員制度を作り上げることにした。そして03月27日に公務員制度改革案の大枠を決定した。
そこには、信賞必罰の人事制度を確立するとして、能力や業績に応じた新たな給与制度や、民間企業との人事交流の円滑化、天下りの規制、労働三権の制約への再考などが盛り込まれた。しかし、この大枠は、公務員制度改革の本質に迫るものだろうか。
国家公務員制度の根幹を形成しているのは、幹部候補生官僚によるキャリア・システムである。1種試験に合格し、省庁別に採用された幹部候補生官僚(キャリア組官僚)のみが、本省の課長・局長・事務次官に就任できる。それ以外のノンキャリア組が、本省課長職に就くことは、ほとんど不可能である。キャリア組はまさに「特権階級」であって、若くして警察署長や税務署長を経験し、自治体の行政幹部にもなる。
そこに生まれがちな「偏狭なエリート意識」が、警察不祥事の温床ともなった。逆に、外務省の機密費スキャンダルは、ノンキャリア組から引き上げられた官僚のキャリア組官僚への「負い目」が、温床となったともいえる。
加えて、政治主導の行政が行政改革の目標とされているが、中央省庁の意思は、キャリア組官僚を中軸として形成され、政令・省令さらには下級機関への通達などに具体化される。また、省庁間調整も、これらキャリア組官僚によって実質的に担われている。
副大臣・大臣政務官制度の導入は、キャリア組官僚を軸とする行政に政治の意思を反映させる試みではある。だが、各省に3名程度の政治的任命職を配置しても、政治の意思にこたえた行政体制の構築にはつながらない。キャリア組官僚を中軸とする生涯職公務員制度の抜本的改革こそ、必要とされていよう。
橋本政権で始まった行政改革会議が公務員制度改革の処方せんをゆだねた公務員制度調査会は、1999年03月の最終報告で、各省による意欲と専門能力ある人材の適切な採用が不可欠として、公務員採用試験の分類と省庁別採用制度に変更を加える必要はないとした。
公務員制度調査会の最終報告にも今回の大枠にも、従来、行政の継続性、専門性、公平性を名分として改革に抵抗してきたキャリア組官僚の利益が、露骨に反映されていよう。
これらの名分は、行政機関の日常業務の遂行には、当然の原則だが、今日問われているのは、政策・事業体系のあり方だ。行政の継続性を理由として、事業目的の時代適合性などおかまいなしに大型公共事業が継続してよいのか。
能力に応じた公務員の処遇と政治主導の行政を実現するためには、まずは、キャリア組官僚制度を廃止し、政治的任命職の範囲を大幅に拡大することである。少なくとも、局次長級以上のポストを政治的任命職とすべきであろう。
この職のすべてを政治家が占める必要はない。民間人の任用や、公務員のなかから年功序列にとらわれない任用があってよい。生涯職公務員の昇進に上限を設けてはじめて、公務員間の能力や成績による平等な競争と評価が実現するし、政治による行政の指導も実質をともなう。
こうした幹部公務員制度の改革は、政治家に政策運営の責任を自覚させることにもなる。行政の総合性、戦略性、機動性を語る政治は、まさにこの意味での公務員制度の改革を、明確に打ち出すべきである。
(朝日、2001年04月12日)
感想
同じ事は地方自治体の公務員についても言えると思いますが、人材の面で現状では難しい面もあると思います。しかし、局長、部長の一部を政治的任命職にする手は可能だと思います。
それに○○委員といった「特別職」に御用委員が選ばれるのも大問題でしょう。
根本的には、徴兵制ならぬ徴公務員制を考えたらどうかと、愚考しています。政治的任命職以外の「意思決定力のない公務員」は全国民が交代で勤めるのです。
いずれにせよ、国民の監視が大切でしょう。今ではインターネットがあり、カウンター・ホームページも作れるというのに、それをしている人やグループがどれだけあるのでしょうか。
真理は光を愛し、不正は闇を好むのです。
昨年(2000年)12月、森政権は「行政改革大綱」を閣議決定し、新しい中央省庁体制にふさわしい公務員制度を作り上げることにした。そして03月27日に公務員制度改革案の大枠を決定した。
そこには、信賞必罰の人事制度を確立するとして、能力や業績に応じた新たな給与制度や、民間企業との人事交流の円滑化、天下りの規制、労働三権の制約への再考などが盛り込まれた。しかし、この大枠は、公務員制度改革の本質に迫るものだろうか。
国家公務員制度の根幹を形成しているのは、幹部候補生官僚によるキャリア・システムである。1種試験に合格し、省庁別に採用された幹部候補生官僚(キャリア組官僚)のみが、本省の課長・局長・事務次官に就任できる。それ以外のノンキャリア組が、本省課長職に就くことは、ほとんど不可能である。キャリア組はまさに「特権階級」であって、若くして警察署長や税務署長を経験し、自治体の行政幹部にもなる。
そこに生まれがちな「偏狭なエリート意識」が、警察不祥事の温床ともなった。逆に、外務省の機密費スキャンダルは、ノンキャリア組から引き上げられた官僚のキャリア組官僚への「負い目」が、温床となったともいえる。
加えて、政治主導の行政が行政改革の目標とされているが、中央省庁の意思は、キャリア組官僚を中軸として形成され、政令・省令さらには下級機関への通達などに具体化される。また、省庁間調整も、これらキャリア組官僚によって実質的に担われている。
副大臣・大臣政務官制度の導入は、キャリア組官僚を軸とする行政に政治の意思を反映させる試みではある。だが、各省に3名程度の政治的任命職を配置しても、政治の意思にこたえた行政体制の構築にはつながらない。キャリア組官僚を中軸とする生涯職公務員制度の抜本的改革こそ、必要とされていよう。
橋本政権で始まった行政改革会議が公務員制度改革の処方せんをゆだねた公務員制度調査会は、1999年03月の最終報告で、各省による意欲と専門能力ある人材の適切な採用が不可欠として、公務員採用試験の分類と省庁別採用制度に変更を加える必要はないとした。
公務員制度調査会の最終報告にも今回の大枠にも、従来、行政の継続性、専門性、公平性を名分として改革に抵抗してきたキャリア組官僚の利益が、露骨に反映されていよう。
これらの名分は、行政機関の日常業務の遂行には、当然の原則だが、今日問われているのは、政策・事業体系のあり方だ。行政の継続性を理由として、事業目的の時代適合性などおかまいなしに大型公共事業が継続してよいのか。
能力に応じた公務員の処遇と政治主導の行政を実現するためには、まずは、キャリア組官僚制度を廃止し、政治的任命職の範囲を大幅に拡大することである。少なくとも、局次長級以上のポストを政治的任命職とすべきであろう。
この職のすべてを政治家が占める必要はない。民間人の任用や、公務員のなかから年功序列にとらわれない任用があってよい。生涯職公務員の昇進に上限を設けてはじめて、公務員間の能力や成績による平等な競争と評価が実現するし、政治による行政の指導も実質をともなう。
こうした幹部公務員制度の改革は、政治家に政策運営の責任を自覚させることにもなる。行政の総合性、戦略性、機動性を語る政治は、まさにこの意味での公務員制度の改革を、明確に打ち出すべきである。
(朝日、2001年04月12日)
感想
同じ事は地方自治体の公務員についても言えると思いますが、人材の面で現状では難しい面もあると思います。しかし、局長、部長の一部を政治的任命職にする手は可能だと思います。
それに○○委員といった「特別職」に御用委員が選ばれるのも大問題でしょう。
根本的には、徴兵制ならぬ徴公務員制を考えたらどうかと、愚考しています。政治的任命職以外の「意思決定力のない公務員」は全国民が交代で勤めるのです。
いずれにせよ、国民の監視が大切でしょう。今ではインターネットがあり、カウンター・ホームページも作れるというのに、それをしている人やグループがどれだけあるのでしょうか。
真理は光を愛し、不正は闇を好むのです。