昭和55年夏僕は辞職願を提出した。K無線に新社長が就任して3ヶ月目の事だ。時を同じくしてやはり辞表を提出した同僚が他に2名いた、M社員とY社員だった。会社は退職していく僕たち3名のために小倉本店近くの小料理屋で送別会を開いてくれた。酒宴もたけなわになるに従って、僕たち退職組の座っている上座が周りと雰囲気が合わなくなってきだした。僕たち3名を除いてその席にいる全社員がB電気に移籍する事が決定しているのだ、僕たち3名の退職組と話が合うわけがなかった。みんな、九州最大の大型電気専門店の社員になれる事を誇りに思っていた、当然経済的及び将来的にも明るい希望を持っていた。僕たち3人は「負け組」の席にいたのである。僕たちは3人はお互いに黙々と杯を交し合った。早く、この座から逃げ帰りたい気持ちだった。その夜どのようにして家まで帰ったのか覚えてないほど泥酔いして帰った僕は次の朝いつものように目がさめた。そして、仕事に行くために身支度をしている時に家内の言葉に動作が止まった「あんた、もう会社を止めたんやろ、着替えてどこに行くん?」。「あっ そうやったの。習慣ちゃ恐ろしいの」と言って僕は普段着に着替えた。そして、頭の中が空っぽになっているのに気が付いた。退職後第一日目の感想である。さて、これから何をしようか、次の就職先などまだ探す気はない、失業保険とこれまでの蓄えで2年位位は楽に生活出来るだけのお金は持っていたので。経済的な心配はなかった。ただ、心に中にオーデイオの商売から引退した事の寂しさはいつまでも消えなかった。やはり、オーデイオが好きだったのだと思った。その後黒崎のK無線はB電気オーデイオ館に改装され元同僚達は何事もなかったように楽しく仕事をしているように見えた。 続く
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