なすがままに

あくせく生きるのはもう沢山、何があってもゆっくり時の流れに身をまかせ、なすがままに生きよう。

人生の荒波 木更津篇

2006-02-18 09:19:28 | 昭和
転勤命令がおりて一ヶ月もしない11月下旬、僕達夫婦は3歳の娘の手を引いて木更津駅に降りた。転勤命令を受け入れたのは嫁さんだった。「ねえ、こんな経験めったに出来んよ、一度北九州を離れて遠くに住みたいと思ってたんよ、子供はまだ学校行ってないし、木更津に行こうよ」と嫁さんの方が積極的だったのだ。駅前に出て時計を見るとまだ4時前なのにあたりは暮れかかっていた、そうか「関東は日没が九州よりも1時間早いんだ」改めて「遠くに来たもんだ」と思った。みんなおなかが空いていたので駅前にあるうどん屋で夕食を食べる事にした。その時のうどんの味に僕と嫁さんは言葉を失った。醤油ベースのスープにぼそぼその麺、こんなうどん食えたもんじゃない。僕たちはうどんを半分以上残してその店を去った。空腹を満たすため次に向かったのはラーメン屋だった、「中華そば」とのれんが掛かっていた。その「中華そば」がまた醤油味だった。ねぎとメンマそして鳴門が数枚チャーシュウは入ってなかった。
物心付いた時から九州の豚骨ラーメンがラーメンだと思っていた。そんな九州人に関東の中華そばは絶対に受け入れる事の出来ない味だった。嫁さんは「がっかりやね、みんな醤油味ばっかり、食べ物がまずいとその町に住みたいと思わんよね」とため息交じりに嫁さんが言った。そのとおりである、初めて訪れた町で初めて食べた味があの味である、その町に住みたくないと思ったのは同じ気持ちだった。その時、黒崎で当たり前のように食べていた「唐そば」のラーメンの味を思い出した。そして、早く北九州に戻りたいと、転勤初日にして、すでに望郷の念に駆られたのだった。