もう数十年も昔、子供の頃、銀座のステーキで有名なレストランに家族で食事に行った。その頃は、銀座に行くとなると いい服を着て、おめかしして行ったものです。
隣の席にはグリーンのブレザーにチェックのシャツ、首には赤いネッカチーフというお洒落な紳士。一見超一流の芸術家のようだ。
しばらくして、隣の紳士のテーブルにステーキが運ばれてきた。紳士は、小声でボーイを呼んで「これがフィレかね?。私はフィレを頼んだはずだ」と。
ボーイは、小声で「すぐお取替えします」と言って去った。
しばらくして、フィレステーキが運ばれてきた。
また紳士が「君、ちょっと」とボーイを呼び止める。
ナイフを入れて「私は、ミディアムと頼んだはずだ、シェフを呼んでくれないか」と。
しばらくして料理長がやってきた。「私は、ここのフィレステーキが食べたくて来た。これでは“〇〇”のお店の名が泣きますよ」と、もの静かだが厳しい忠言に、料理長は黙ってうなだれているだけ。
その頃には私達の食事は終わっていた。
一部始終を見聞きしていて、私は子供心にその紳士からいろいろなことを学んだ。声を荒げない、冷静沈着な態度。一流とはこういうことかと。
この時私は、フィレとサーロインの違い、焼き方にも注文をつけることを知ったが、その後二度とその“一流”の店に行くことは無かった。
ブログで検索してみたがその店はもう無いようだ。つぶれたか。