ストラディヴァリと比肩する名声を持った ヴァイオリン製作師の
ベルゴンツィ氏が 来日時に受けたインタビュー。
「あなたの楽器の音色が気に入っているという楽器愛好家が
日本にも大勢いますが、あなたご自身は自分の楽器の音色の
特徴についてどういうご意見をお持ちですか?」
すると、彼は即座にこう答えた。
「あらゆるヴァイオリンには、固有の音色なんてありません。
ヴァイオリンから聞こえてくる音というのは、すべてその
弾き手の音です。別の人が弾けば別の音がします」と。
あるヴァイオリニストが家を売ってストラディヴァリを買った。
「私、ストラディヴァリなら私が弾いてもさぞかしいい音が
してくれるだろうと思って買いました。最初はなるほどと
思うような気がしました。それがしばらくして、ふと気がついて
みると、以前から知っている私の音がしているんですよね。
ひとりの弾き手が長く同じ楽器を弾いていると、その楽器は
その弾き手の音になってしまうという話を聞きましたけれども、
私の場合もそうなんでしょうか。それだったら高いお金を出して
ストラディヴァリを買う必要はなかったんです。前の楽器でも
私の音がしていましたから。でも、ストラディヴァリでも
私の音は変わらなかったんです。」
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いや驚きました。「家を売ってストラディヴァリを買った」のは
辻久子さんでしょう。尺八もまったく同じです。
A氏とB氏が尺八を取り換えても、結局はその人の音になります。
尺八にはそれぞれクセがあります。ロの音(筒音)が鳴り響くもの、
甲(カン)がきれいに伸びるもの、立ち上がりが良いもの、
押して鳴るもの。また、5孔と多孔で機能がちがいます。
私は1尺8寸管だけで7本持っており、古管、5孔、7孔、9孔、
それぞれ、曲に応じて使い分けます。私自身の中では、微妙な
こだわりがあるのですが、聴いている方にとっては、どの尺八で
吹こうが、全部同じに聞こえるようです。エンビ管の5,000円の
尺八も200万円の尺八も 録音した音で聞き分けることは
自分でも難しいです。すべて私(一路)の尺八に聞こえるのです。
録音でも、音色と吹き方の違いで 誰が吹いているかはわかりますが、
吹いてる尺八の銘(製管師)まではわかりません。
結局、楽器の個性ではなく、吹き手の個性の方が大きく影響するのです。