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甲状腺腫瘍診療ガイドライン

2011-07-13 | 内分泌・代謝・腎臓
日本内分泌外科学会、日本甲状腺外科学会より2010年版出版 
3600円+税

以下、疫学、診断のみ要点

甲状腺癌の危険因子にはどのようなものが存在するか?
A放射線被ばく(被爆時年齢19歳以下、大量)は明らかな危険因子である。 
A一部の甲状腺癌には遺伝が関係する。 
B体重増加は危険因子である。

小児甲状腺癌あるいは小児ろ胞癌は成人例に比較して予後に差異が存在するか?
B 小児甲状腺癌は成人と比較して長期の生命予後は良好である。その中で小児乳頭癌は診断時に進行した癌であるようにみえても、適切な治療によって良好な長期の生命予後が得られる。小児ろ胞癌は報告例が極めて少ないが、予後は良好と考えられる。 

甲状腺癌の遺伝について
遺伝により発生する甲状腺癌は存在するが、甲状腺癌全体のごく一部にすぎない。 
髄様癌のうち、多発性内分泌腫瘍症2型に属するものは遺伝により発生する。 
髄様癌以外の甲状腺癌では、家族性甲状腺癌が遺伝により発生すると考えられているが、その詳細については不明な点が多い。 

甲状腺癌の組織型の頻度について
甲状腺癌の組織型をみると、乳頭癌が圧倒的に多く、ろ胞癌、髄様癌、未分化癌、悪性リンパ腫、その他の順となる。 

分化癌の未分化転化について
急速に増大する硬くて可動性のない甲状腺腫、著名な呼吸困難、嚥下困難を示す場合は分化癌の未分化転化を疑う。未分化転化は転移リンパ節、転移臓器でも起こる。 
分化癌の未分化転化のメカニズムについては解明されておらず、疫学的には乳頭癌、ろ胞いずれからも転化することが示されている。同様に分子生物学的にも乳頭癌、ろ胞癌が未分化転化を示す報告がみられる。 

我が国における甲状腺癌の罹患率、有病率、死亡率について
わが国の2003年における甲状腺癌推定罹患数は8069例(男性2023例、女性6046例)であった。人口10万人当たりの粗罹患率は男性3.25、女性9.26、年齢調整罹患率は男性2.56、女性7.17であった。我が国における甲状腺癌の有病率は人口1.000人当たり1.3(男性0.6、女性1.9)と推定される。我が国の2007年における甲状腺癌による死亡数は1558例(男性518例、女性1040例であった。人口10万人当たりの粗死亡率は男性0.84、女性1.61、年齢調整死亡率は男性0.49、女性0.64であった。 

甲状腺腫瘍における悪性腫瘍の頻度は?
B甲状腺腫瘍における悪性腫瘍の頻度は、疫学的調査、集団検診、ドック検診、剖検例などによって異なるが、健常人で偶発的に甲状腺結節が発見された場合、悪性腫瘍である確率は3.7~15.9%である。 

悪性腫瘍の可能性を高める病歴とそのオッズ比または危険率は? 
A放射線被爆歴
B甲状腺腫瘤の合併または既往
B体重増加
C2生殖歴
C2食事/嗜好因子
B甲状腺疾患の家族歴(良性甲状腺腫瘤) 

悪性腫瘍の可能性を高める理学所見・症状の感度・特異度は?
B甲状腺腫瘍における悪性腫瘍の可能性を高める理学所見は、結節の周囲組織への固定、リンパ節腫脹、声帯の麻痺(さ声)、4cm以上の結節、呼吸困難、嚥下困難、咳ソウなどである。 
C1ある程度悪性を疑うものとして、硬い腫瘤、腫瘍の急激増大がある。 

悪性腫瘍の診断で推奨される画像診断法とその感度・特異度あるいはユウ度比は?
B 悪性腫瘍の診断における画像診断法は超音波検査、シンチグラフィー、CT、FDG-PETなどが挙げられる。なかでも超音波検査法は最も有用であり、推奨される。その感度は、43-100%、特異度66-93%、ユウ度比は2.76~13.8である。 
C1 CTは感度78.6%,特異度81.3%, ユウ度比4.2である。 
C2 123Iシンチグラフィは感度92.3%、特異度17.2%、ユウ度比1.11である。
C1 201Tlシンチグラフィは感度65~100%、特異度71%、ユウ度比13.9である。 
C2 FDG-PETは感度60-100%、特異度61~65.8%、ユウ度比1.52~2.92である。 

悪性腫瘍の可能性を高める血液検査所見とその感度・特異度あるいはユウ度比は?
C1 カルシトニンは甲状腺腫瘍全体における悪性腫瘍のスクリーニングには適さないが、甲状腺髄様癌を予見する腫瘍マーカーとしては有効である。 
C2 CEAは甲状腺髄様癌で高値を示し得るが、その特異性は乏しい。また、その他の甲状腺癌のスクリーニングには適さない。 
C2 TSHは甲状腺分化癌の増殖因子であるが、診断的マーカーとしてその位置付けには乏しい。
C2 サイログロブリンは甲状腺分化癌の可能性を高めるが、その特異性は乏しい。 

細胞診の感度・特異度は?
A FNAは甲状腺腫瘤の術前診断として、その手技の簡便性と感度・特異度の高さより強く推奨される。 

気管・食道・反回神経への浸潤を術前に評価する診断法として超音波,CT, MRI, 喉頭, 気管支鏡の感度・特異度は?
B気管浸潤に関しては、超音波検査では感度91-93%、特異度91-93%、MRIが感度74-94%、特異度73-83%であり、気管内視鏡も感度92%、特異度83%と特に気管粘膜への浸潤の評価に有用である。
B食道浸潤については、CTの感度905、特異度90%、MRIの感度67-82%、特異度94%、食道超音波内視鏡検査では感度82.9%でいずれも有用である。 
B反回神経に関しては、喉頭鏡検査による声帯の麻痺を検討するのは感度76%、特異度100%と有用である。 
C1 CTでも診断方法によっては反回神経浸潤に関して感度87%、特異度90%と高率で有用である。 

良性と診断された腫瘍の自然歴は?
B50%以上の縮小、増大率は0-20%, 4-22%と報告されている。

良性と診断された腫瘍に対するTSH抑制療法の実施は非実施に比べて腫瘍を縮小させるか?
C2 甲状腺良性結節に対する甲状腺ホルモン剤投与によるTSH抑制療法は、1年以内の短期では有意な縮小が得られるとの報告が多いが、長期的にはその有効性は少なく、甲状腺ホルモン剤投与による心血管系や骨そしょう症の合併症を考慮すると甲状腺ホルモンによるTSH抑制療法は積極的には推奨できない。 

ろ胞癌の病理組織学的診断における再現性は?
C1 甲状腺腫瘍のうち、ろ胞性腫瘍の病理診断は最も難しい領域のひとつであり、甲状腺病理を専門とする病理医間でもろ胞性腫瘍の病理診断が一致する率は必ずしも高くない。 

結節性甲状腺腫の手術適応
1 大きな腫瘤を形成している。 
2 増大傾向あり 
3 圧迫またはその他の症状
4 整容的に問題がある。 
5 超音波検査で癌が否定しきれない
6 細胞診断で癌が否定しきれない
7 縦隔内へ結節が進展している。 
8 機能性結節である。
9 サイログロブリンが異常高値である。 


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