感染症内科への道標

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科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2010  

2010-12-22 | 内分泌・代謝・腎臓
日本糖尿病学会より2010年9月出版3800円

2007年版より改訂され2010年に糖尿病学会より出版。一般医向けの糖尿病治療ガイド、専門医研修向けの糖尿病専門医研修ガイドブックの中間的存在。前者2つがより実践的な内容なのに対して本書ではエビデンスの評価が主体となっている。前者二つの繰り合わせが正直実践には使いやすい。

エッセンス
・HbA1C:国際標準値に直すと0.4%増加。糖尿病の診断基準におけるHbA1cがJDSでは6.1%となる。当面JDS, 国際標準を併記すること。将来的には全て国際標準値で統一される。英文論文や英文著書、国際学会の発表におけるHbA1cの記載は、平成22年7月1日より国際標準値による新しい表記法に移行。

・空腹時血糖値100-109mg/dlを正常域の中で正常高値とする。この集団についてはOGTTを行って正常型、境界型あるいは糖尿病型のいずれに属するかを判定することが勧められる。Grade B コンセンサス

・糖負荷試験を行う場 Grade A コンセンサス
10時間以上絶食の後、朝食前に75gグルコースを含む溶液を服用させる。空腹時、負荷後30-60分おきに採血して血糖値を測定する。空腹時と2時間値の測定は必須で、臨床の場では途中時点での血糖値も調べるのが望ましい。可能であれば空腹時と30分後のインスリン値を測定して初期インスリン反応を調べる。
(正常型であっても1時間血糖値の高いものでは糖尿病型に悪化する率が高い、正常型、境界型でインスリン分泌指数 0-30分のインスリン上昇量と血糖上昇量の比が0.4以下のものでは糖尿病型に進展しやすい。

・75g糖負荷試験(OGTT)が推奨される場合
1)強く推奨
空腹時血糖値が110-125mg/dlのもの
随時血糖値が140-199mg/dlのもの
HbA1C(JDS)が5.6-6.0%のもの(明らかな糖尿病の症状の存在があるものを除く)
2)望ましい
高血圧・脂質異常症など動脈硬化のリスクをもつものは特に施行が望ましい
空腹時血糖値が100-109mg/dlのもの
HbA1C(JDS値)が5.2-5.5%のもの
上記を満たさなくても、濃厚な糖尿病の家族歴や肥満の存在するもの

・血糖コントロールの指標と評価
HbA1c(JDS値)(%) 優 5.8%未満 良 5.8-6.5%未満 可 不十分(6.5-7.0%) 不良(7.0-8.0%) 不可 8.0% 以上

・血糖以外のコントロールの目標値
BMI 22 血圧130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)
血清脂質 LDLコレステロール 冠動脈疾患(-) LDL120mg/dl未満 (+) LDL100mg/dl未満
中性脂肪 150mg/dl未満 HDLコレステロール40mg/dl以上

食事療法:指示エネルギー量の50-60%以下を炭水化物とし、蛋白質は標準体重あたり1.0-12g.残りを脂質で摂取する。脂質の総摂取量は総エネルギー量の25%以内とし、飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸はそれぞれ摂取エネルギー量の7%, 10%以内におさめる。食物繊維は積極的に:20-25g。野菜は1日300gを目標。アルコールは1日25g以下。夜9時以降は食事を控える。良く噛む。

運動療法:尿ケトン陽性のときは運動を行わない。血糖100mg/dl以下の時は炭水化物を1~2単位摂取。運動は緩徐に増やす。両足をよく観察し、足に合った足底全体へのクッションのある靴を用いる。インスリンや経口血糖降下薬で治療中の患者では、運動中のみならず運動当日~翌日にも低血糖を生じる恐れがある。したがって速効型あるいは超速効型インスリンにて治療している症例では運動前インスリン投与量を中間型あるいは混合型インスリンにて治療している場合は朝食前のインスリン投与量を運動量に合わせて減少させるなどの調節を要する。インスリンの投与量の調節は運動強度や運動の持続時間により異なるが、投与インスリン量を1/2-2/3に減量するのが一般的である。夕方以降に運動を行う場合には夜間の低血糖の危険性が高まることに注意する。一方インスリン欠乏状態で全身性の強い運動を行った場合、ケトーシスを生じる危険がある。1型糖尿病患者でケトーシスを起こしやすい症例などでは運動に際してインスリン投与量をあまり減らさず、捕食で調整するとよい場合がある。

糖尿病薬
・スルホニル尿素酸:膵ランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌を促進。食事・運動療法がおろそかであると体重増加がおこりやすい。 
・ピグアナイド薬:肝臓からのグルコース放出の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリン感受性を高める作用。ヨード造影剤使用前2日間は用いるべきではない。2010年に高用量(2250mg/日)まで使えるメトホルミン塩酸塩(メトグリコ)が承認された。
・αグルコシダーゼ阻害薬:腸管での糖の分解を抑制して吸収を遅らせる。
・チアゾリシン薬:末梢でのインスリン感受性を高め、肝臓からのグルコース放出を抑制する。 
・速効型インスリン分泌促進薬:効果がより速やか。食後高血糖がみられる患者に特に適した薬物である。
・DPP-4阻害薬:2009年にシタグリプチン、2010年にビルダグリプチン、アログリプチンが承認。GLP受容体作動薬と同様に血糖値に依存して食後のインスリン分泌を促進する。
・GLP-1受容体作動薬:2010年にリラグルチドが承認。注射製剤。

シックデイルール 
・できるだけ摂取しやすいかたちでエネルギー、炭水化物を補給する。 
・水分は少なくても1lはとる。
・自己血糖測定を行い、できれば尿ケトン体測定も行う 
・食事ができないからといってインスリン量を極端に減らしたり中止してはいけない。 

血圧:130/80mmHg未満
眼:年1回定期受診
微量アルブミン定性陽性→ACE 阻害薬。正常血圧の患者に対しても、顕性腎症への進展を予防する。
糖尿病性神経症:アルドース還元酵素阻害薬(ポリオール代謝活性の亢進を抑制)
フットケアに注意。
その他:LDLは120mg/dl以下。(HMG-CoA.高TG血症に対してはフィブラート系薬剤を第一選択とする。)アスピリンは大血管の二次予防に有効である。歯周病に注意する。


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