日本泌尿器科学会編
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CQ1 腎癌の発症について肥満・職業・生活習慣・環境・遺伝因子に注意を喚起することは推奨されるか?
肥満,喫煙,金属や有機溶媒を使用する環境などの因子を持つ患者には注意を喚起することが推奨される。これは,肥満が腎癌の発症リスクを最大で4倍あげ,喫煙が腎癌の発症リスクをあげるためである。また,職業や環境では有機溶媒や金属を使用する労働環境は腎癌の発症リスクをあげるためである。
von Hippel-Lindau(フォン・ヒッペル・リンドウ,VHL)病やBirt-Hogg-Dube(バート・ホッグ・デューベ,BHD)症候群などの優性遺伝性腫瘍好発疾患では特に注意を払い,定期的検査で腫瘍の早期発見を行うことが推奨される。これは,VHL病やBHD症候群などの遺伝性腎癌患者で,遺伝子異常を持つ未発症血縁者は腎癌発症のリスクが非常に高いため,早期発見と早期治療が予後を改善できると考えられるためである。
CQ2 腎癌の早期発見にはどのような検査が有用か?
腎癌の早期発見には腹部超音波検査が有用で,確定診断としてCT検査を施行する。
一方,顕微鏡的血尿の有無や静脈性尿路造影は有用でない。
CQ3 透析患者における腎癌のスクリーニングは推奨されるか?
透析患者における腎癌のスクリーニングは,その発生率の高さから早期発見,治療により予後の改善が期待できるため推奨される。特に若年者,長期透析患者においては腹部超音波検査,CTによる定期的スクリーニングが有益である。
CQ4 検診や人間ドックで腎腫瘤が指摘された場合,次に行う検査は何か?
腎腫瘤に対する画像診断としては造影CTが最も精度が高く,造影CTが推奨される。
CQ5 腎癌の病期診断に胸部CTや骨シンチ,PETは推奨されるか?
腎癌の遠隔転移臓器で最も頻度の高い部位は肺であるため,病期診断に胸部CTは必要である。
骨シンチについては良性骨病変との鑑別が困難で,その特異度の低さからルーチンの病期診断検査としての有用性は低く,血清アルカリフォスファターゼの上昇や骨痛などの症状を有し,骨転移の疑われる患者では有用と考えられる。
また,近年FDG-PET検査が一般的に普及してきており,その有用性の詳細については明らかではないが,今後,遠隔転移の検索,さらに経過観察における再発の診断にその有用性が期待できる。
CQ6 腎癌の予後予測因子として,赤沈,CRP,IAPは推奨されるか?
腎癌の予後因子として,赤沈やCRPは重要で,治療前検査として推奨される。
一方,IAPについては,まだ十分な検討がされておらず,臨床的に強く推奨するものではない。
CQ7 Stage I,IIの腎癌に対する腎摘除術において腹腔鏡手術は推奨されるか?
Stage I,IIの腎癌症例に対する腹腔鏡手術は,手術の安全性(合併症発生率)・患者生存率・非再発率などについては開腹術と比べ有意差はなく,標準術式の一つとして勧められる。
また,開腹術と比較して出血量が有意に少ないことや術後回復の点から低侵襲手術と考えられる。
CQ8 腫瘍径4cm以下(T1a)の腎癌患者において腎部分切除術は推奨されるか?
制癌性は根治的腎摘除術と同等で,特に腎機能保持の面で有用であり,腎部分切除術は推奨される。
CQ9 有転移腎癌患者において腎摘除術は推奨されるか?
転移巣を有する腎癌患者に対する腎(患側腎)摘除術は,performance status(PS)が良好で,術後インターフェロンによる免疫療法が可能な患者には推奨される。
CQ10 根治的腎摘除術においてリンパ節郭清は推奨されるか?
遠隔転移がなくリンパ節腫大が認められない場合は推奨されない。リンパ節転移の可能性は非常に低くリンパ節郭清による生存率向上に寄与しない。
リンパ節転移が疑われる場合は推奨される。リンパ節郭清および術後補助療法により生存率の向上が期待される
CQ11 腎癌に対する腎摘除術において患側の副腎温存は推奨されるか?
腎癌に対する腎摘除術において,最近は術前の画像評価で患側副腎への浸潤,転移の所見がなければ同時の患側副腎摘除はしなくてもよいという傾向にあるが,腫瘍径が大きい腎癌患者における患側副腎温存には注意を要する。
CQ12 下大静脈腫瘍血栓を有する腎癌患者での腫瘍血栓摘除術は推奨されるか?
下大静脈腫瘍血栓を有する腎癌患者のうち,所属リンパ節転移や遠隔転移を認めない局所腎癌患者において腫瘍血栓摘除術は推奨される。
CQ13 転移巣に対する外科的治療は推奨されるか?
転移巣を有する腎癌患者のうち,performance status(PS)が良好で転移巣が切除可能な場合は,転移巣に対する外科的治療が推奨される。
CQ14 小さな腎癌に対する経皮的局所療法は推奨されるか?
全身状態や合併症により根治的な治療が困難な場合や患者が手術を拒否した場合に推奨される。
小さな腎癌に対する経皮的局所療法としてのラジオ波焼灼術(RFA:Radiofrequency ablation)および凍結療法(Cryoablation)は腎部分切除術との比較検討および長期的評価が十分になされていないが,腫瘍が小さく(3~5cm以下)外方に突出する場合は制癌が可能である
CQ15 腎癌転移巣に対する放射線治療は推奨されるか?
腎癌の脳転移に対してガンマナイフ,定位放射線療法が有効な場合がある。
腎癌の骨転移に対する外照射放射線治療は,疼痛の改善とQOLの改善が認められる
CQ16 進行腎癌に対するインターフェロンα,インターロイキン2などのサイトカイン単独療法は推奨されるか?
進行腎癌に対するインターフェロンα単独療法は推奨される。
進行腎癌に対するインターロイキン2単独療法は推奨される
CQ17 進行腎癌患者に対するインターフェロンαとインターロイキン2などの併用療法,あるいは抗癌剤との併用療法は推奨されるか?
進行腎癌患者に対するインターフェロンαとインターロイキン2の併用療法は奏効率の向上が期待でき,推奨される。
抗癌剤との併用療法は5-FUについては有効である可能性がある。
ビンブラスチンとの併用療法の意義は認められず,推奨されない
CQ18 Stage I,IIの腎癌に対する根治的腎摘除術後の再発予防のために補助サイトカイン療法は推奨されるか?
Stage I,IIの腎癌に対する腎摘除術後の再発予防のための補助療法として,サイトカイン療法は推奨されない。
なぜなら,インターフェロンα(IFN-α),インターロイキン2(IL-2)またはその併用療法,さらにIFN-α+IL-2+5-FUの3剤併用療法による腎摘除術後の再発予防効果についてはRCT(Randomized Controlled Trial)で証明されていないからである
CQ19 進行腎癌患者に対する分子標的治療は推奨されるか?
腎癌進行患者に対して分子標的薬(sorafenib,sunitinib,temsirolimus,bevacizumab)による治療は腫瘍縮小効果,生存期間の延長が期待され,治療法として推奨される。
CQ20 進行腎癌でサイトカイン療法無効例に対し今後期待される治療法はあるのか?
サイトカイン療法が無効の腎癌進行例に対しては,分子標的薬が有効である。
それ以外には,非骨髄破壊性同種造血幹細胞移植(RIST)が有効である。
また,フッ化ピリミジン系の薬剤の一部が有効である。
CQ21 根治的腎摘除術後のフォローアップの際に推奨されるプロトコールはあるのか?
根治的腎摘除術後の再発のリスクに合わせて適切なフォローアップの検査項目ならびに時期を決定すべきである。
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