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スタチンを併用するとダプトマイシン(DAP)関連筋症のリスクは上がるか

2018-11-16 | 抗菌薬・関連薬剤
CID 2018:67 (1 November) • Dare et al

背景
DAPは分割投与で筋毒性があったが24時間毎の投与で毒性を最低限にできるとわかり、承認を得た。これまでの研究でMyopathyの頻度は2-14%で、肥満患者でより認めやすく、横紋筋融解症も5%まで報告がある。一方、HMG-CoA阻害薬のスタチン自体も5-10%にMyopathyを生じ、同じ代謝経路の薬剤との併用がリスクになる。DAPは肝代謝とするエビデンスはなく、これまでの研究ではスタチンとDAPの併用でMyopathyや横紋筋融解症のリスクが増すことを示したものはないか、あってもStudyデザインや母数の問題があった。

方法
単施設Retrospective Matched case control study、成人・小児を対象。2004年~2015年。診療録からDAP使用歴を拾い上げ、MyopathyはICD-9を使用。Inclusion criteriaはDAPの3日間以上の使用、ベースラインの正常範囲のCK値の測定、治療中1回以上のCKの測定、DAP開始後7日以内に手術がない、CK上昇のほかの原因の記載がないこととした。CK>200をMyopathy、CK>2000を横紋筋融解症とした。それぞれのMyopathyは同じ期間治療しているMyopathyのないコントロールに1:1に、横紋筋融解症は1:4に割り付けた。
ケースとコントロールはmanualでカルテreviewした。リスクファクターはp<0.10のものを多変量解析に導入した。

結果
3042名がDAPの暴露があり、1294名がDAP関連筋症の可能性があり、1748名がコントロールの候補だったが、それぞれmanual reviewで除外され、128名(4.2%)がDAP関連筋症となった。103名が筋症、25名が横紋筋融解症に分類された。菌血症(108名、42.2%)、椎体炎(104名、40.6%)。バンコマイシンアレルギー・不耐性(136名、53%)、耐性GPCの治療が62名(24%)。治療期間は筋症群で平均25日(3-176日)、横紋筋融解症群で13日(1-24日)。CK上昇までの治療期間は筋症で平均16.7日(1-58日)、横紋筋融解症で11.2日(1-24日)。CK上昇した60%でDAPは中止された。

患者背景としては、筋症でBMI>30がリスク、年齢・肝硬変・がん・アルコール多飲はリスクを下げた。横紋筋融解症では女性、BMI>30がリスク、年齢はリスクを下げた。
臨床的特徴としては、筋症ではDAPの用量にコントロールとの有意差はなく、椎体炎と深部膿瘍の治療で生じやすく、MRSEの感染症、BSIでは生じにくかった。横紋筋融解症でもDAPの用量はコントロールと有意差なく、深部膿瘍・腹膜炎で生じやすく、24時間ごとの投与で生じにくかった。コントロールと比較して、横紋筋融解症では理想体重で計算したCrClが低く、理想体重を用いた計算ではDAPが過剰投与になる割合が多かったが、実体重ではそうでなかった。

単変量解析でスタチンの併用は筋症と横紋筋融解症と関連があった。抗ヒスタミン薬との併用は筋症と関連していたが、横紋筋融解症とは関連がなかった。フィブラートとの併用は横紋筋融解症と関連していたが、筋症とは関係がなかった。
多変量解析で筋症と関連しているのは深部膿瘍の治療、抗ヒスタミン薬の併用、スタチンの併用だった。横紋筋融解症ではBMI>30、スタチンの併用が独立したリスク因子で、年齢はリスクを下げた。5種類のスタチンのすべてが筋症と関連していたが、プラバスタチンが最大(OR12)だった。

Discussion
スタチンの併用がDAP関連の筋症や横紋筋融解症のリスクに影響するか評価した初めての研究。本研究でのスタチン筋症は4.2%、横紋筋融解症は0.8%だったが、データ欠損もあり実際にはもっと高い可能性がある。128名のコホートは最大。規模の大きな研究でスタチンとの併用のriskで有意差がついたのも初めて。製薬会社はスタチンとの併用を控えるように推奨しているが、実際には16%しか中断されていなかった。やめられない場合には週2回などCKフォローをすべき。
抗ヒスタミン薬の過量服薬で横紋筋融解症が生じる報告はあるが、用法通りの使用では副作用としては多くない。今回の研究では筋症のリスクを増すが、横紋筋融解症とは関連しなかったが、Nが少ないのでさらに研究が必要。
年齢があがると、横紋筋融解症のリスクが下がったのは、若者の方が活動的で、高齢者の方が筋量が少ないことなどが関連しているかもしれない。スタチンの研究では高齢や筋量の低下は筋症のリスクを上げるため、今回の結果とは対照的である。

今回の研究でBMI>30は横紋筋融解症のリスク因子となり、DAPの用量はたいてい実体重で計算し、肥満での調整は不要とされているが、理想体重と実体重で治療効果が変わらないという先行研究もあることから、肥満患者では理想体重を用いて計算すべきか。
LimitationとしてはRetrospectiveでNが完全ではないこと、臨床症状のみの筋症を見逃している可能性、リスク因子の分析でサンプルサイズが小さく限られたこと。

結論 
DAP投与中のCK上昇で定義した筋症の最大のコホート研究。スタチンとの併用もしくは肥満患者では週2回CK値のモニタリングを推奨。スタチンの中断も検討を。
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