感染症内科への道標

研究学園都市つくばより感染症診療・微生物検査・感染制御の最新情報を発信しております。

隔離予防策のためのCDCガイドライン2007

2010-01-01 | 感染制御
横浜市立大学付属病院満田年宏先生により翻訳され3200円で出版。
日本語訳は現在、各種サイトで無料で入手できるが、やはり製本されているとみやすいのは否めない。

医療環境における感染性病原体伝播に関する科学的データの検討
・飛沫感染:鼻粘膜、結膜、そしてやや頻度は落ちるが、口が呼吸器系ウイルスのための感受性の侵入口であることが研究によって立証されている。以前から定義されるリスク区域は患者の周囲3フィート(9.144cm)以内の距離とされている。特に新興病原体や毒性の強く病原体への暴露の可能性がある場合、患者の6(1m83cm)~10フィート(3m5cm)以内に居る時や病室へ入る際にはマスクを装着するのが賢明である。稀に、通常は飛沫経路によって伝播するこのない病原体が、短い距離を隔てた空気中に拡散していることがある。→ブドウ球菌:cloud baby現象、cloud adult現象
・空気感染:空気感染は、時間と距離をおいても感染力を維持することのできる感染性病原体を含んだ呼吸可能な大きさの浮遊飛沫咳、あるいは微粒子の散布によって発生する。ヒト結核菌、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス。インフルエンザウイルスやライノウイルスなどの、その他の特定の呼吸器感染性病原体と一部の消化器系のウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)についても、自然の状態および実験的状況下で、病原体が小粒子エアロゾルを介して伝播する可能性がある。3フィートを超えて発生しているが、限られた空間内にとどまっており、空気流において生存能力を維持するとは考えにくい。
・クロストリジウム・ディフィシル:C.difficileのリスク増加と最も高頻度に関連する抗菌薬には、第3世代のセファロスポリン、クリンダマイシン、バンコマイシン、フルオロキノロンなどがある。医療施設に伝播がある場合、芽胞を手指から物理的に除去するために擦式アルコール系手指消毒薬より水と石鹸を使用し、環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを含有する消毒剤を用いる。

医療環境における感染性病原体の伝播予防に必要とされる基本要素 
・手指衛生という用語には、水と普通の石鹸あるいは殺菌剤を含む石鹸による手洗い、水の使用を必要としない、アルコールを主成分とした製品の使用の両方が含まれる。つけ爪はグラム陰性桿菌や酵母様真菌のような病原菌を、普通の爪の個人より多く保菌することが示されている。高リスク患者と接触する医療者はつけてはならない。カテゴリーIA
・手袋:手袋は、鋭利物の外部表面の血液量を46-86%減少させる。患者ケアの際、清潔なものから汚れたものへ作業する原則を遵守し、患者ケアに直接必要な環境表面の汚染を制限することによって、感染性病原体の伝播を減少させることができる。体の部位の交差汚染を防ぐためには1人の患者のケアに際して手袋を交換する必要がある。再使用するため手袋を洗うことは禁忌である。
・環境対策:高頻度接触表面、特に患者近辺の表面(ベットレール、ベットサイドのテーブル、移動式便器、ドアの取っ手、流し台、患者のすぐ近くにある表面と器具など)については、あらゆる患者ケア区域で清掃と消毒が重要である。C.difficileを有する患者のヘアのルーチンの環境消毒には、5.25%の次亜塩素酸ナトリウム(家庭の漂白剤)と水を1:10に希釈したものを使用するように一部の研究者は推奨している。

感染性病原体の伝播予防のための予防策
・標準予防策:感染が疑われているか、確定されているか、推測されているかに関わりなく、すべての患者に適用される一連の感染予防の実務。すべての血液、体液、分泌物、汗以外の排泄物、傷のある皮膚、粘膜には、感染性病原体が含まれる可能性があるとの原則に基づく。→手指衛生、暴露に応じた手袋、ガウン、マスク、アイ・プロテクション、フェイスシールド ①呼吸器衛生・咳エチケット②安全な注射の実施③カテーテルの挿入、腰椎穿刺の処置時の脊髄または硬膜外のスペースへの注入に対するマスクの使用
手指衛生:血液、体液、分泌物、排泄物、汚染物質に触れた後:手袋をはずした直後、患者ケアと患者ケアの間
手袋:血液、体液、分泌物、排泄物、汚染物質との接触に対して:粘膜や傷のある皮膚との接触に対して
ガウン:衣服や露出した皮膚が血液、体液、分泌物、排泄物と接触することが予想される手技及び患者ケアの作業に際して
マスク・ゴーグル・フェイスシールド:特に吸引や気管内挿管の際など、血液、体液、分泌物のはね返りや散布が発生する可能性のある手技や患者ケアの作業に際して
汚れた患者ケア用器具:他者および環境への病原体の伝播を防ぐように扱う:視覚的な汚れがある場合は手袋を装着する:手指衛生を実施する。
環境の感染制御:環境表面、特に患者ケア区域の接触頻度の高い表面のルーチンな手入れ、清掃、消毒に関する手順を作成する。 
布と洗濯物:他者または環境への病原体の伝播を防ぐように扱う
針その他の鋭利物:リキャップしない。リキャップの必要がある場合はすくうようにする片手リキャップ法のみを採用し、利用可能な場合は安全なものを用いる。使用済みの鋭利物を、耐貫通性容器に入れる。 
患者の蘇生術:口および口腔の分泌物との接触を避けるために、マウスピース、蘇生バック、その他の人工換気用の器材を用いる。 
患者の収容:患者の伝播のリスクが高い場合、環境を汚染する可能性が高い場合、適切な衛生を維持できない場合、感染のリスクあるいは感染後に不利な結果を招くリスクが高い場合、個室を優先する。 
呼吸器衛生/咳エチケット:症状のある患者に、くしゃみや咳をするときに口と鼻を覆うように指示する:ティッシュを使用し、ノンタッチ式の容器に捨てる。呼吸器の分泌物で手指が汚れた場合は手指衛生を遵守する。忍容できればサージカルマスクを装着する。できれば3フィート(91.44cm)以上の間隔をあける。

・接触予防策:接触予防策が必要な患者には個室が望ましい。個室を利用できない場合、感染制御の担当者と相談することが推奨。(ベット間を3フィート 91.44cm以上離す)、汚染されている可能性のある区域との接触に伴うあらゆる接触に対して、ガウンと手袋を装着する。VRE, C.difficile, ノロウイルス等では個人防護服(PPE)を装着し、病室を出る前に廃棄すること。
・飛沫予防策:特別な空調や換気は不要。飛沫経路によって伝播する感染症に罹患した多床室の患者には、3フィート(91.44cm)以上の間隔を空けることと、ベットとベットの間にカーテンを引くこと。患者は外部に移動する時マスクを装着、医療従事者は感染患者との密接な接触に際してマスクを装着する。飛沫予防策下にある患者の搬送者にはマスクは不要である。
・空気予防策:1時間あたり12回、既存の施設は1時間あたり6回の換気、N95の使用・


アスペルギルス:標準
アメーバ症:標準
RSウイルス:接触(罹病期間中)
胃腸炎:標準
アデノウイルス:標準
ウイルス性:標準 
エルシニア・エンテロコリティカ:標準 
キャンピロバクター:標準 
クリプトスポリジウム:標準
クリストリジウム・ディフェシル:接触(電子体温計を共有しない。アルコールは芽胞には効果が無く、次亜塩素酸塩溶液が必要。水+石鹸による手洗いが必要)
コレラ:標準 
サルモネラ属:標準 
赤痢菌:標準
大腸菌:標準 
腸炎ビブリオ:標準 
ノロウイルス:標準(排泄物や嘔吐物によって高度に汚染された区域を清掃する人にはマスクの装着が役立つ、トイレに重点を置いた一貫した環境の清掃と消毒を確実に行う。伝播が継続している場合、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が清掃に必要。アルコールは活性に乏しいが有効でないエビデンスはない。
ランブル鞭毛虫:標準 
ロタウイルス:接触(罹病期間中)
インフルエンザ:飛沫
ウイルス肝炎:A型標準~G型 標準
エキノコックス:標準(人-人間伝播しない)
壊死性腸炎:標準
ガス壊ソ:標準
エントロウイルス:標準
オウム病:標準 ヒトーヒト伝播しない。 
回帰熱:標準 
疥癬:接触(効果的治療開始後24時間まで)
回虫症:標準
カンジダ症:標準
呼吸器感染症(成人):標準 
急性トラコーマ:標準 
Q熱:標準
狂犬病:標準
ギョウ虫:標準
クラミジア・トラコマチス:標準
クラミジア肺炎:標準 
クリプトコッカス症:標準 
食中毒:標準(ウェルシュ、ブドウ球菌、ボツリヌス)
肺結核:空気(感染性結核だる可能性が非常に低いと考えられ、臨床的症候を説明できる別の診断がある場合、あるいは抗酸菌に対する喀痰塗マツ検査が3回陰性だった場合、予防策を中止する。(少なくとも1例は早朝に採取する。3回の喀痰標本は8-24時間あける)
結膜炎:急性ウイルス性は接触
HIV:標準 
b 型インフルエンザ菌による喉頭蓋炎:飛沫(効果的治療後24時間まで)
皮膚ジフテリア:接触
咽頭ジフテリア:飛沫(抗菌薬療法が中止され培養の結果が陰性となるまで×2)
大きいジョク創感染:接触(罹病期間中)
小さいジョク創感染:標準 
シラミ:アタマジラミは接触、ケジラミ、ヒトジラミは標準、ケジラミは性的接触を介して伝播、ヒトジラミは衣服で伝播、脱ぐ際はガウンと手袋を装着。
シラミ寄生症:接触
水痘・帯状疱疹:空気・接触(病変が乾燥しカ皮化するまで)、感受性のある医療従事者は病室に入るべきではない。免疫のある医療従事者の防護に関する勧告はない。暴露された感受性のある医療従事者は、暴露後の接種の有無にかからわず、最初の暴露後8日目から最後の暴露後21日目まで、VZIGを受けている場合は28日目まで業務から外す。
→帯状疱疹に対しては空気・接触はあらゆる患者における播種性のもの、免疫不全患者における限局性のもの、播種性感染が除外されるまで、病変を物理的に封じ込める又は覆うことのできる、免疫が正常な患者における限局性のものでは標準だが、感受性のある医療従事者は患者ケアを直接提供しない。
多剤耐性菌(感染あるいは保菌):標準/接触
髄膜炎:b型インフルエンザ菌、髄膜炎菌が疑われる場合は効果的治療が行われる24時間まで飛沫、その他は標準
スポロトリコーシス:標準 
接合真菌症:標準 
創部感染:広範囲では接触(ドレッシングを使用していないがか、ドレッシングにより排膿が適切に物理的に封じ込められていない場合)
ソ径リンパ肉芽腫:標準
単純ヘルペス:新生児は接触、再発性は標準、重症では接触
デング熱:標準 
伝染性単核症:標準 
伝染性軟属腫:標準 
トキソプラズマ:標準
トリコモナス症:標準
尿路感染症:標準 
猫ひっかき症:標準 
膿カシン:接触(治療開始後24時間経過するまで)
肺炎:アデノウイルスは飛沫、接触、A群溶連菌は飛沫、黄色ブドウ球菌は標準、カリニ肺炎は標準だが免疫不全患者との同室は避ける。
梅毒:標準
発疹チフス:標準
パルボウイルスB19:飛沫
非定型抗酸菌症:標準
百日咳:飛沫(5日目まで、個室が望ましい)
風疹:飛沫(発疹の開始後7日目まで)
ブドウ球菌疾患は広範囲に及ぶ皮膚、創部、熱傷部又SSSSでは接触 
ブルセラ症:標準
放線菌症:標準
マイコプラズマ肺炎:飛沫
麻疹:空気(発疹発現後4日間)
マラリア:標準
ムコール症:標準
野兎病:標準 
ライノウイルス:飛沫
ライム病:標準
リケッチア:標準
リステリア:標準
流行性耳下腺炎:飛沫(治療後9日目まで、感受性のある医療従事者はケアを行うべきではない)
レジオネラ:標準
レプトスピラ:標準 
肺炎:効果的治療後24時間まで飛沫
腸管に菌・ウイルスが排泄されるものでおむつをしている人や失禁している人は罹病期間中接触予防策

個人防護具(PPE)の取り外し方 
・病室を出る前に出口か前室で取り外す
① 手袋の外側は汚染されている。外側を反対側の手袋をした手で持ち外す。外した手袋は手袋をした方の手で持つ。手袋をしていない方の手の指を反対側の手袋の下の手首のところにすべり込ませる。
② ゴーグルまたはフェイスシールドの外側は汚染されている。汚れていないヘットバンドや耳かけ部分をもつ
③ ガウンの前面と袖は汚染されている。首、次に腰ひもをとく。脱いだガウンは裏返しにして丸めて捨てる。
④ マスクの前面は汚染されている。下部のひも次に上部のひもあるいはゴムひもだけを持って外す。
⑤ PPEをすべて外した後は、直ぐに手指衛生を行う。

→取り付けはガウン→マスク→ゴーグル→手袋


Multidrug-resistant –organisms(MDRO) (多剤耐性菌):一般に、一つまたは複数のクラスの抗菌薬に耐性であり、通用は市販されている抗菌薬のうち、1-2種類を除くすべてに耐性の細菌(MRSA, VRE, ESBL)等
Surgical mask :手術を受けている患者と手術室の職員の両方を微生物および体液の伝ぱから保護するために、手術室の職員が手術中に口と鼻を覆う診療器材。サージカルマスクは感染性の大きな飛沫(5μmを超える大きさ)との接触から医療従事者を保護するためにも用いられる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 喘息予防・管理ガイドライン2009 | トップ | 新年 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

感染制御」カテゴリの最新記事