「バングラデシュの現代的貧困」
セドリック・グウェルヌール 嶋崎正樹訳
レポートを読んでショックを受けた。少しバングラデシュのニュースが遠ざかっていたからである。バングラデシュはシャプラニールやJOCSから現地のお知らせが届いていたのだが。ここちょっと目にしていない。
私自身はバングラデシュには行ったことがない。しかしバングラデシュとは縁がある。バングラデシュからの客を迎えたこともあるし、和美さんは写真の仕事で行ってもいる。このレポートのクルナにだ。それは5年前のことだ。
さて、レポートの内容を見出しから紹介するとこうだ。レポーターがル・モンドの記者であるから欧米をさしてるが、決してよそ事のことではない。
欧米事情に向けたエビの養殖、アパレル産業はバングラデシュを貧困から脱却させるはずだった。ところが開発の名の下に、バングラデシュの国民は、とりわけ貧困化と人権蹂躙を被っている。
そしてその裏づけとしての内容が取材されているのである。
バングラデシュの南西部、ガンジス川が蛇行する低地、2000年、地元の有力者たちは干拓地の水門を開き、貧しい農民たちの土地を海水に沈めた。ワイロで動く警察とグルになって、その土地を設けの出るエビの養殖場にかえたのだ。
海水につかった農地は塩分が5倍に増え、農作物は育たなくなり、家畜も病気になった。周辺の土地を不毛にし、農民を追い出す作戦でもある。
80年代以来、先進国での需要が急増したため、アジアと南米では大規模なエビの養殖が行われている。世界第5位のバングラデシュでは、マングローブの森や肥沃な土地を19万ヘクタールも養殖場に換えた。そうして出来た養殖場では、年間3万トンの甲殻類が生産され、ほぼすべてが先進国へと輸出されている。国連によれば、1億4300万人の国民の8割は、1日あたり2ユーロ以下で生活している。キロ当たり10ユーロのエビを食べることは出来ない。だがそうした輸出のおかげで、バングラデシュはグローバル化の波に乗ることになった。所得が蓄えられれば、国民全体が利益を売るはずなのだ。ところが・・・
「彼らはわれわれの血を吸っている。白人を肥やすために、どれだけのバングラデシュ国民が死ななければならないのか?
とどのつまりは、儲けて良い思いをする者がいる一方、さらに貧しく虐げられる人々がいる。昔も今も、変わらぬパターンだ。こんな情景は歴史にもいっぱいある。そして21世紀にもなってもまだまだ続いているのだ。
私の記憶にあるバングラデシュはパキスタンから分離独立してバングラデシュとなった。北海道ほどの面積に日本並みの人口。ガンジス川のデルタには山はなく、洪水も多い。最貧国のひとつ。識字率も低い。イスラムの国。チッタゴン丘陵には仏教徒もいるにはいるが。石がないのでコンクリートには土を焼いてレンガをつくりそれを砕いて砂利の代わりに使っている。所得格差は大きく、まだまだ小作人が多い。イスラム社会なので女性の地位が低く、性的差別や性的被害も多い。シャプラニールの活動は聞いている。「ダンネバート」(ありがとう)と言う言葉も覚えている。
サイクロンが襲うたびに繰り返される被害。田畑は水につかり、家畜は流され、人命も犠牲になる。そこで緊急避難所が日本のNGOの支援で出来ている。記憶にあるのはあまり芳しくない情報ばかりだが。
でも女性たちが手漉きでつくるジュートの紙は今も使っている。pcにかけている布もバングラデシュのものだ。
1986年、私たちは「豊かさの裏側」というタイトルでスライド作品を制作した。私たち日本人が豊かに暮らす裏側で、飢えに苦しむ人々がいる。その飢えも自然災害とかではなく、人為的に飢えを起こさせる構造があることを考えた作品だった。
これを南北問題と言った。先進工業国と呼ばれる国々が北半球に多く、発展途上国と呼ばれる国々が南に多いことからこう呼ばれたのだった。
北の4分の1の人びとが、4分の3の食料を食べ、南の4分3の人びとが4分の1の食料を食べている。資源や農産物、海産物の搾取だけでなく、労働力も搾取している。こういう実情を捉えて訴えた作品だった。
そのとき、熱帯エビの問題にも触れている。エビの消費量のトップはアメリカと日本だった。特にブラックタイガーの養殖は目を見張るばかりだった。当時、もっとも盛んだったのは台湾の高雄だった。しかし病気の発生でエビ養殖は全滅。養殖はマングローブを伐採してタイ沿岸に移った。フィリピンも同様。東南アジアはどこもそうだ。、
フィリピンのネグロスはサトウキビの島だった。砂糖の暴落で地主は砂糖の生産をやめ、農地を養殖池に変えていった。ネグロスの人々が職を失い、農地がないので彼らに飢餓が襲った。バングラと同じだった。
バナナやコーヒー、紅茶、ゴム・・先進国に売れる換金植物、しかしそこにすむ住民の穀類を育てるのはやせた土地と後回しになっている。生産地のいたるところで見られる現象だ。本来そこに住む人たちの楽しみのための食品が、金になるということでそこに住む人びとを苦しめている。それが現実。
私たちは太ったおじさんが「¥」や「$」を抱えて食料、資源を買い占めているイラストを描いた。
アパレル産業を見てみよう。アパレル産業がバングラデシュに入り込んでいるのは知ってはいた。私がロンドンで置き忘れて送ってもらったダウンのジャケットがバングラデシュ製であったから。ダウンのジャケットなんて必要のないバングラでなぜ生産しているのか、と不思議に思ったからだった。
アパレル産業がバングラに進出しているのは低賃金の故にである。日本だって人件費の安い中国へ、さらに低いヴェトナムにと、低賃金をもとめて移動している。
バングラデシュで有名ブランドが買い付けるTシャツ1枚の買い付け価格は1ユーロだそうだ。 労働力の搾取、それでもバングラデシュの女性たちは、地獄のような職場でも、職があることを受け入れている。
女性の地位の低さの故にだ。先進国がこういう労働条件でものが生産されていることを知り、改善を求めていく以外ない。
所得格差の社会は往々に人権侵害を引き起こす。生きる権利、幸せを求める権利、それまでも阻害されてしまうからだ。
セドリック・グウェルヌール 嶋崎正樹訳
レポートを読んでショックを受けた。少しバングラデシュのニュースが遠ざかっていたからである。バングラデシュはシャプラニールやJOCSから現地のお知らせが届いていたのだが。ここちょっと目にしていない。
私自身はバングラデシュには行ったことがない。しかしバングラデシュとは縁がある。バングラデシュからの客を迎えたこともあるし、和美さんは写真の仕事で行ってもいる。このレポートのクルナにだ。それは5年前のことだ。
さて、レポートの内容を見出しから紹介するとこうだ。レポーターがル・モンドの記者であるから欧米をさしてるが、決してよそ事のことではない。
欧米事情に向けたエビの養殖、アパレル産業はバングラデシュを貧困から脱却させるはずだった。ところが開発の名の下に、バングラデシュの国民は、とりわけ貧困化と人権蹂躙を被っている。
そしてその裏づけとしての内容が取材されているのである。
バングラデシュの南西部、ガンジス川が蛇行する低地、2000年、地元の有力者たちは干拓地の水門を開き、貧しい農民たちの土地を海水に沈めた。ワイロで動く警察とグルになって、その土地を設けの出るエビの養殖場にかえたのだ。
海水につかった農地は塩分が5倍に増え、農作物は育たなくなり、家畜も病気になった。周辺の土地を不毛にし、農民を追い出す作戦でもある。
80年代以来、先進国での需要が急増したため、アジアと南米では大規模なエビの養殖が行われている。世界第5位のバングラデシュでは、マングローブの森や肥沃な土地を19万ヘクタールも養殖場に換えた。そうして出来た養殖場では、年間3万トンの甲殻類が生産され、ほぼすべてが先進国へと輸出されている。国連によれば、1億4300万人の国民の8割は、1日あたり2ユーロ以下で生活している。キロ当たり10ユーロのエビを食べることは出来ない。だがそうした輸出のおかげで、バングラデシュはグローバル化の波に乗ることになった。所得が蓄えられれば、国民全体が利益を売るはずなのだ。ところが・・・
「彼らはわれわれの血を吸っている。白人を肥やすために、どれだけのバングラデシュ国民が死ななければならないのか?
とどのつまりは、儲けて良い思いをする者がいる一方、さらに貧しく虐げられる人々がいる。昔も今も、変わらぬパターンだ。こんな情景は歴史にもいっぱいある。そして21世紀にもなってもまだまだ続いているのだ。
私の記憶にあるバングラデシュはパキスタンから分離独立してバングラデシュとなった。北海道ほどの面積に日本並みの人口。ガンジス川のデルタには山はなく、洪水も多い。最貧国のひとつ。識字率も低い。イスラムの国。チッタゴン丘陵には仏教徒もいるにはいるが。石がないのでコンクリートには土を焼いてレンガをつくりそれを砕いて砂利の代わりに使っている。所得格差は大きく、まだまだ小作人が多い。イスラム社会なので女性の地位が低く、性的差別や性的被害も多い。シャプラニールの活動は聞いている。「ダンネバート」(ありがとう)と言う言葉も覚えている。
サイクロンが襲うたびに繰り返される被害。田畑は水につかり、家畜は流され、人命も犠牲になる。そこで緊急避難所が日本のNGOの支援で出来ている。記憶にあるのはあまり芳しくない情報ばかりだが。
でも女性たちが手漉きでつくるジュートの紙は今も使っている。pcにかけている布もバングラデシュのものだ。
1986年、私たちは「豊かさの裏側」というタイトルでスライド作品を制作した。私たち日本人が豊かに暮らす裏側で、飢えに苦しむ人々がいる。その飢えも自然災害とかではなく、人為的に飢えを起こさせる構造があることを考えた作品だった。
これを南北問題と言った。先進工業国と呼ばれる国々が北半球に多く、発展途上国と呼ばれる国々が南に多いことからこう呼ばれたのだった。
北の4分の1の人びとが、4分の3の食料を食べ、南の4分3の人びとが4分の1の食料を食べている。資源や農産物、海産物の搾取だけでなく、労働力も搾取している。こういう実情を捉えて訴えた作品だった。
そのとき、熱帯エビの問題にも触れている。エビの消費量のトップはアメリカと日本だった。特にブラックタイガーの養殖は目を見張るばかりだった。当時、もっとも盛んだったのは台湾の高雄だった。しかし病気の発生でエビ養殖は全滅。養殖はマングローブを伐採してタイ沿岸に移った。フィリピンも同様。東南アジアはどこもそうだ。、
フィリピンのネグロスはサトウキビの島だった。砂糖の暴落で地主は砂糖の生産をやめ、農地を養殖池に変えていった。ネグロスの人々が職を失い、農地がないので彼らに飢餓が襲った。バングラと同じだった。
バナナやコーヒー、紅茶、ゴム・・先進国に売れる換金植物、しかしそこにすむ住民の穀類を育てるのはやせた土地と後回しになっている。生産地のいたるところで見られる現象だ。本来そこに住む人たちの楽しみのための食品が、金になるということでそこに住む人びとを苦しめている。それが現実。
私たちは太ったおじさんが「¥」や「$」を抱えて食料、資源を買い占めているイラストを描いた。
アパレル産業を見てみよう。アパレル産業がバングラデシュに入り込んでいるのは知ってはいた。私がロンドンで置き忘れて送ってもらったダウンのジャケットがバングラデシュ製であったから。ダウンのジャケットなんて必要のないバングラでなぜ生産しているのか、と不思議に思ったからだった。
アパレル産業がバングラに進出しているのは低賃金の故にである。日本だって人件費の安い中国へ、さらに低いヴェトナムにと、低賃金をもとめて移動している。
バングラデシュで有名ブランドが買い付けるTシャツ1枚の買い付け価格は1ユーロだそうだ。 労働力の搾取、それでもバングラデシュの女性たちは、地獄のような職場でも、職があることを受け入れている。
女性の地位の低さの故にだ。先進国がこういう労働条件でものが生産されていることを知り、改善を求めていく以外ない。
所得格差の社会は往々に人権侵害を引き起こす。生きる権利、幸せを求める権利、それまでも阻害されてしまうからだ。