何故その店に入ろうと思ったのだろう。ただの思いつき?通りががりの時間つぶし?
入った途端、後悔した。客は私一人。
喫茶店の主人らしきおばあさんがテーブルを使って.割子弁当らしきものを配膳中だった。
昼間から暗い店内。薄汚れた古いテーブル。埃だらけの床。
カウンターにはだらしなく物が積まれ、ポリ袋に入ったパンが口も閉めず置かれていた。
今日は土曜日なのでお弁当のランチはありませんが、サンドイッチかカレーなら出来ます。
弁当のランチはできない?では今作ってるそれは予約なのか?
ちょうど昼にさしかかる時間。特別お腹がすいてるわけではなかったが、今から用事をこなすまで何か食べておきたかった。
メニューを見て決めかねている私に、淡々と盛り付けをしながら店主が苛ついている様子が伝わってきた。
仄暗い喫茶店に年老いた女主人と私の二人。
なんだか不穏なオーラに包まれ、気分が重くなった。
出ようか?でも水とおしぼり出てるし。
おしぼりを手に取ると、絞りが甘く、ぐしょぐしょで少し臭う。手を清めるはずのおしぼりで菌をつけてしまうなんて。
どういたします?
店主が苛立ちを抑えながらたたみかける。意を決して、ミックスサンドとアイスコーヒーを注文。
店主は盛り付けを中断して、カウンター奥へ降り、曇ったペットボトルに入った出しっぱなしのアイスコーヒーをグラスに注ぎ出す。なんだか濁っていて古そう。途端気持ち悪くなり
あのお、サンドイッチもう作ってます?時間がないので、できたらキャンセル・・・
言いかけると、ぎらりと目を剥き早口で、
作ってるよ‼時間ないならお包みしますけど
・・・・【作ってねえし】
そう叫びたくも、何も言えない。
店主は、アイスコーヒーを差し出し、そこからサンドイッチを作り始めた。
私は気弱にうなだれ、いつもはブラックなのに、なみなみとガムシロをつぎ、ミルクを垂らし、濁ったアイスコーヒーをちびちび飲んだ。
やはり美味しくない。想像通りの味だった。
しばし待つと、サンドイッチを持った店主が現れ、お待ちどうさまと素っ気なく言いながら皿を置く。と同時に隅の一切れが崩れてテーブルに落ちた。
あら、あら、すみません。すぐ作りなおすね。
店主はたいして慌てた様子もなく、落ちたサンドイッチを拾い、その一切れ分をまた作り持ってきた。くっきり指の跡がついた一切れのサンドイッチ。
その頃には食欲も失せ、作りなおさないでいいです。こんなに食べられませんからと心でつぶやき、しかし、やはり何も言えずにいた。
至って平凡な可も不可もないサンドイッチだったが、店主のオーラに狼狽し、結局半分も手をつけず、代金を払い店を出た。外に出ると何故か開放感に包まれため息が出た。
店と店主が持つ独特のオーラに気圧され、エネルギーを吸い取られたような時間だった。
疲れたなあ。もう二度と行かないようにしよ。