横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

過去の超巨大地震は必ず噴火を誘発した、というのは本当か?

2015年05月01日 | 火山情報
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マグニチュード9クラスの超巨大地震の後には、これまで例外なく、近隣の火山が噴火している」などという報道を、良く見かけます(たとえばこちらのニュース記事「大地震が噴火誘発?数年内に連動か」)。そして、2011年3月に巨大地震を経験した日本でも、近々大きな噴火が起きるだろう、という論調も目立ちます。

しかしながら、「巨大地震の後に火山が噴火した」というのが正しいとしても、「超巨大地震があったから近隣の火山が噴火した」というわけでは、必ずしもありません。とにかく火山というものは、世界中のあちこちで常に噴火していますので、たまたま超巨大地震の後に噴火が起こっても、何も不思議ではないわけです。

実際、少し調べてみますと、超巨大地震の後に噴火が誘発されたと思われるケースもありますが、そうとも言えないケースもあるようです。

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近代のM9クラスの超巨大地震といえば、以下の5つがあります(東北地方太平洋沖地震を除く)。

・カムチャッカ地震 Mw9.0 (1952年)
・アリューシャン地震 Mw9.1 (1957年)
・チリ地震 Mw9.5 (1960年)
・アラスカ地震 Mw9.2 (1964年)
・スマトラ島沖地震 Mw9.0 (2004年)

では、それぞれについて、その直後の近隣の火山活動をみてみます。


1.カムチャッカ地震(1952年)
 →カルピンスキ火山群が翌日に噴火。タオリュシルカルデラが1週間後に噴火。ベズイミアニ山が3年後に噴火。


カルピンスキ火山群は、このときの噴火しか噴火記録がないようです。また、地震から3年後のベズイミアニ山の噴火は、比較的大規模なものであったようです。ですので、このケースは、たしかに巨大地震がある程度の噴火活動を誘発したと考えられそうです。

ですが、カムチャッカ半島には、カムチャッカ火山群と呼ばれる活発な火山が密集しています。なかには、クリュチェフスカヤ山のように、日本でいえば桜島のようにほとんどいつも噴火活動をしている火山もあります。シベルチ山という火山は、1854年、1956年、2013年と大規模な噴火を繰り返しています。近年最大規模の噴火は、トルバチク山という別の火山によるものであり、1975年から1976年にかけて起きたものです。前述のベズイミアニ山も、2010年に再び噴火を起こしています。

こうしてみますと、カルピンスキ火山群などの噴火については巨大地震に誘発されたと言えそうだとしても、カムチャッカ火山群において、巨大地震直後に火山活動が特別に活発になったようには見えないという点にも、留意が必要と思われます。


2.アリューシャン地震(1957年)
 →ブセビドフ山が4日後に噴火。


よく調べてみますと、ブセビドフ山のこの1957年の噴火は「questionable eruption」、すなわち噴火したか否かが疑わしい活動だそうです。噴火があったのだとしても、翌日には完全に活動が収まっていたようです。ですので少なくとも、この巨大地震が大きな火山活動を誘発したとは言えないようです。

なお、大きな地震のあとに火山で噴火があったと「誤認」するケースは、これまで他にもあるのだそうです。地震による振動や鳴動、土砂崩れなどが火口周辺で起き、噴火と誤認することがあるようです。


3.チリ地震(1960年)
 →コルドンカウジェ山が2日後に噴火。


あくまで主観的な印象ですが、この噴火活動は地震と関係がありそうに思えます。コルドンカウジェ山が噴火を開始したのは、地震発生からわずか38時間後です。VEIが3と、比較的大きな噴火でもありました。また、この噴火以来、コルドンカウジェ山は2011年まで噴火していません。たしかにチリにも多くの火山がありますが、時間空間的にみても相関関係がありそうに思えます。


4.アラスカ地震(1964年)
 →トライデント山が2ヶ月後に噴火、リダウド山が2年後に噴火。


トライデント山というのは、実は非常に噴火が多い火山で、1913年、1949年、1950年、1953年、1964年、1966年~1968年、1974年~1975年、1983年…と噴火しています(このうち規模が大きかったのは1953年)。リダウド山も、1881年、1902年、1922年、1966年、1989年~1990年、2009年と大きな噴火を繰り返しています。

他にもアラスカには幾つか火山がありますから、このうち地震の2ヶ月後や2年後に噴火があったとしても、ほとんど偶然と言って良いレベルだと思われます。すなわち、このアラスカ地震の場合は、直後に噴火を誘発したとは結論できないと言えそうです。


5.スマトラ島沖地震(2004年12月)
 →タラン山が4ヶ月後に噴火、メラピ山が1年3ヶ月後に噴火、ケルート山が3年後に噴火。


そもそも、説明するまでもありませんが、インドネシアは日本と同じで、大地震の有無にかかわらず頻繁に大きな噴火が起きている国です。タラン山を含むスマトラ島のバリサーン山脈では、ここ15年ほどだけ見ても、

ペイットセイグ山(1998年4月)、カバ山(2000年8月)、ペイットセイグ山(2000年12月)、マラピ山(2001年)、タラン山(2001年)、クリンチ山(2001~2002年)、クリンチ山(2004年8月)、マラピ山(2004年8月)、タラン山(2005年4月)、クリンチ山(2007年)、クリンチ山(2009年6月)、シナブン山(2010年8月)、マラピ山(2011年)、クリンチ山(2013年6月)、シナブン山(2013年9月~2014年2月)

…と非常に多くの噴火が起きており、このうちのひとつがスマトラ島沖地震から4ヶ月後に起きたのだとしても、単に偶然である可能性が高いということが言えると思います。つまり、スマトラ島沖地震の場合も、噴火が地震によって誘発されたとは言えないと思われます。

メラピ山やケルート山にいたっては、そもそも震源のスマトラ島沖から離れたジャワ島の、しかも東部の火山です。しかも、ケルート山が大規模の噴火を起こしたのは、1919年、1951年、1966年、1990年、2014年と、地震の有無と関係なく何度もあります。少なくともジャワ島のメラピ山とケルート山の噴火に関してはコジツケと言って良いのではないかと思います。


 ■

…以上のとおり、「これまでM9クラスの超巨大地震後には、必ず火山噴火が誘発されてきた」という説の真偽から、少々疑ってみたほうが良いと思われます。

特に火山列島日本の場合、近年だけをみても、大きな地震の発生とほとんど相関なく、多くの火山が噴火してきました。桜島は噴火し続けています。記憶に新しいところでは、大島三原山や三宅島などが噴火し、雲仙普賢岳も噴火し、浅間山も噴火し、有珠山の大噴火をはじめ北海道の各火山も噴火してきました。

震災からもう4年が経過していますので、ここで仮に今どこかで(たとえば東北の蔵王山や吾妻山で)大きな噴火が起きても、「巨大地震に誘発されたのだ!」と結論するのは、短絡的にすぎると思います。まずは「疑似相関かも知れない」と疑うことが真っ当な科学であり、地震予知詐欺に引っかからない秘訣にもなります。そもそも地震や火山噴火は、「地震があった、じゃあ噴火が誘発されるだろう」といったレベルの、単純なものではないとも思えるのです。


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8 コメント

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Unknown (元通りすがり)
2015-05-02 15:48:23
ありがとうございます。

学問(自然科学にかぎらず、社会科学や人文科学など、凡そ客観性を求められるもの)は、先入見や常識に囚われてはいけないということを改めて考えさせられました。まずデータを直視し、それが何を語っているのか、耳を傾けることが大事ですね。できるようでなかなかできないですが。

それぞれの地震と噴火の相関関係を仔細に考察していったら、また興味深いものが見えてくるかもしれません。地道な作業でしょうが、誰かやれば面白いかも。と、無責任に思ったりしました。
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Unknown (ばーど)
2015-05-02 20:50:59
こんばんはです。

火山噴火と地震の相関性という話題は、最近賑やかですが、安易に飛びつくのは危険ですね。
確か日本で、火山噴火と地震の関係性が高いと言われているのは、江戸時代の宝永地震と富士山の宝永噴火のケースだけでしたね。

もちろん、関連性がある事は否定できませんし、地震に誘発されて火山噴火と言うことはあり得ると思っていますが、先入観だけで突っ走ると、どこかの先生たちの理論と同じになってしまいます。
科学にショートカットはありません。地道にデータを集め検証し、理論を構築していくことが、一番の近道と言うことになるんでしょうね。

それではまた。
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前後即因果の誤謬 (サンピラー)
2015-05-03 00:08:13
興味深い記事をありがとうございます。

この手の誤謬は「前後即因果の誤謬」と呼ばれています。
「AのあとにBが起きた」→「Aが原因でBが起きた」というタイプの誤謬で、呪術や迷信の多くはこの誤謬があります。
本当に「Aが原因でBが起きた」のかも知れませんが、「AのあとにBが起きたから」では証明になりません。
また、「Aが原因でBが起きる」ことが示せても、「Aが原因でBが『必ず』起きる」とは言えません。


大地震というのは、直接的に自分の命に関わる出来事なので、多少の誤謬・詭弁に気付かずに、情報でもそのまま受け入れてしまうのかも知れません(本来、これはやってはいけないことなのですが)。
マスコミは、感情や知的弱者につけこむのが得意なので、不安を煽って、統計データを見せて、一般市民を信じさせます。

地震・噴火予知をする人、マスコミ、一般市民がそれぞれ誤謬・詭弁に騙されたり騙したりしているので、なかなかこの問題は深刻なんだなと感じます。
地震・噴火予知を見れば、ある意味で論理学を学べるでしょう。

Wikipediaの「誤謬」・「詭弁」の記事は秀逸だと思います。地震・噴火予知にも当てはまるものがたくさんあります。
誤謬
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%A4%E8%AC%AC
詭弁
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A9%AD%E5%BC%81

もちろん誤謬と詭弁だけではありません。
「世の中には3つの嘘がある。嘘、大嘘、そして統計だ。」と言われるほど、統計は危険なものです。
マスコミなどが見せる「統計データ」というのは、結果がどうにでもなるものが多く、鵜呑みにはできません。


個人的には、「超巨大地震の発生→すぐに近くの活火山が活発化することがある」というのはあると思っていますが、最近言われている「4年以内」というのは長すぎると思います(長すぎる上に3.11では外してる)。

「M○.○の地震が発生して○ヶ月以内に震央から○○km以内の活火山が噴火する確率は○○%」という感じで、厳密に調べれば、興味深い結果になると思います。

ネット上ではなぜか、逆に「噴火→大地震(火山性ではない)」というのも言われています。
御嶽山が噴火したとき、Yahoo!知恵袋では、「噴火は大地震を誘発するのですか?」という質問が大量発生したのを覚えています。11月の長野県北部の地震のあとは、「御嶽山により誘発したんですか?」という質問がありました。
高校の数学で習ったとおり、「逆が成り立つとは限らない」と思うのですが。
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地震学者 島村英紀氏について (ユウちゃんママ)
2015-05-15 20:49:21
こんばんはm(._.)m
箱根山の火山性地震が増加していて心配しています。

島村氏は箱根山と富士山が繋がっていて箱根が噴火すると富士山も連動して噴火すると言っています。
島村氏は信用できる地震学者なのでしょうか?

御社の箱根山火山性地震についての見解を教えてください。
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Re: 地震学者 島村英紀氏について (横浜地球物理学研究所)
2015-05-18 15:51:30
>ユウちゃんママ様

コメント有難うございます。

箱根山については、2001年や2011年など、これまでも今回のような活動はみられてきたので、それと比べて特段の危険があるとは言えません。もちろん、平常時に比べて噴火等の可能性は高いとは言えます。

島村先生については、信頼できると思ってはいるのですが、最近のメディアや著書での発言をみると、いささか不正確なものや、過度に危機を煽るような発言も目立っています。

火山として「つながっている」というのは、通常は火山学では「同じマグマだまりを共有している」という意味になります。その意味では、箱根山と富士山がつながっているというのは誤りです。もちろん、他の間接的な要因により、連動して噴火する可能性は否定はできませんが。

ほかにも火山を専門とする信頼できる火山学者は大勢いらっしゃるので、火山に関して島村先生にメディアが発言を求めること自体に、個人的には疑問を感じます。
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Unknown (ユウちゃんママ)
2015-05-23 20:23:06
ご返答、ありがとうございました。

もしもの時の為に準備が必要ですね。
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超巨大化大地震 (田中孔治)
2015-09-07 00:08:28
テレビ放送では、震度8.0とか震度9.7のあっちこっちで、大地震が起こって居るが。一斉に、全噴火が有る場合も、可能性が。高いその時は、必ずしも無いとは言い切れないが。その時は、地球滅亡に、始まる可能性にあのノストラダムスの予言で、1999年から始まる9.11テロリストにより、そして、3.11地震と巨大津波と、そしてまた、よその国では、テロリスト寄って人々に、惨殺に見事に、一致して居ます。それから、世界は、新たに、日本が戦争に、しょとして居ます。それが。ノストラダムスの予言に、ズバリ的中して居ます。その中で、気候と災害に、台風で、自然体を世界では地震と巨大大地震火山が爆発で世界が。破滅の時に、来るのではなかろうか。2020年の夏に、地球滅亡に、なるんではなかろうか。
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Unknown (えけ、)
2016-05-14 11:36:19
田中孔治さん

突っ込み所だらけですが・・・

まず日本語を勉強した方が良いですよ。
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