横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

村井俊治氏の地震予測は、GPSの誤差を考慮しておらず、信用できません

2014年09月08日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
本サイトにおいても、たびたび批判(予測が当たっていない点、外れたのに的中だと言い張る点、予測方法の特許に不備がある点)してきた、東大名誉教授の村井俊治氏(JESEA・地震科学探査機構)の地震予測。

彼らは有料メルマガ『週刊MEGA地震予測』などで地震予測を行っていますが、内容をみてみますと、彼らが予測の根拠としているデータそのものにも非常に怪しい点が見受けられます。怪しいというより、明らかにデタラメであると断じざるを得ません。以下にご説明します。

 ■

村井俊治氏ら(JESEA)のサイトには、彼らが地震予測の根拠としている、地殻変動の観測結果のデータが紹介(こちら)されています。このページにおいて彼らは、地震発生前に、1週間単位で、数センチ規模の地殻変動を捉えたと主張しています。






…ですが、地震も起こさず1週間も経たないうちに地殻が数センチも動いているという時点で、かなり怪しいデータだと言わざるを得ません。

 ■

たとえば、国土地理院で公表されている地殻変動をご覧ください。





上の図は、最近1年間の地殻変動を示しています。左上にスケールがありますが、大きく動いた場所でも、1年間で5~6センチしか動いていないことが見てとれます。

また、国土地理院で観測を強化している特定地点の地殻変動をみてみましょう。






これら強化観測地域における観測結果においても、年間で5センチも動いていないことが分かります。

このように、一般的に言うと、xyzいずれの方向にも、地殻変動は年間5センチ程度かそれ未満しか観測されないのです。

にもかかわらず、村井俊治氏らのサイトでは、たった1週間のうちに4センチだの8センチだのという大きな地殻変動を捉えて、地震の前兆だとしています。つまり、国土地理院などで発表されている誤差補正後の地殻変動データと、明らかに相容れないのです。これは、非常に大きな疑問符がつきます。

ちなみに、一概には言えないのですが、一般に数センチ規模で断層が一度にズレると、おおむねM3~M4クラスの地震が起こるレベルです。また、ごく浅い震源での地震を除けば、地表での変動はもっと少なくなります。ですので、1週間に4センチだの8センチだのという地表の変動は、地殻変動というより、「スロー地震」(それも大規模の)と呼べるほどの異常です。こんなものが日本各地で頻繁に起こっているとするなら、それこそ地震学を揺るがす大発見だと思います。

 ■

GPSに代表される全地球測位システム(GNSS)というのは、幾ら受信機や衛星の機械を精度よく作っても、(単独では)誤差を免れません。電波が通過する電離層の状態や、成層圏内での水蒸気量や温度などによって、散乱やマルチパスが生じて、誤差がどうしても出てしまうのです。たとえ気象条件を加味して誤差を補正しても、短期間では数センチの誤差は残ってしまいます。

このように考えますと、1週間単位で数センチ規模の地殻変動を、日本のあちこちで、年間に何度も何度も観測している村井氏らのデータは、単にGPS(GNSS)の誤差を適切な補正なく示したもの、つまりただのノイズだと考えるのが自然です。

(※2014年11月後記)
村井俊治氏は自身のツイッターなどで、国土地理院で公開されている電子基準点の「日々の座標値」を、ノイズ等を取り去ることなく、そのまま使っていることを自ら明言しています。国土地理院のサイトで、「日々の座標値」には様々なノイズが含まれており、そのままでは使用できないという注意書きがなされているにもかかわらず、です。「日々の座標値」は、気象条件などの各種影響を完全に取り去ったものとは程遠く、近隣点との比較や基線ベクトルをみた修正(単独のデータをみるより格段に精度が高くなる)を行う前のデータであり、いわばノイズまみれのデータなのです。2月に「一斉に」異常変動を起こしたと言っていますが、おそらく単に降雪や雪雲などの気象条件によるものでしょう。こうした一連の計測値データをみて、値の変動が「ノイズであろう」と客観的に判断することすらできず、本当に地殻が8センチも動いていると信じきっているようですので、有料サービスを提供する前に、科学の勉強をぜひやり直して欲しいと思います。

以上のとおり、村井俊治氏らは、電子基準点データの誤差変動、つまり単なるノイズをみて、「地震が起こる」と騒いでいるだけのようです。すなわち、実際には地殻は動いていないのに、GPSデータのノイズによる変動をみて「地殻が動いている」と勘違いして、地震の予兆だと主張しているのです。その意味では、串田嘉男氏の予測に非常に似たものを感じます。

いずれにしましても、有料でサービスを提供している以上は、彼らの方法がどれだけ信頼に足るものなのか、つまり具体的にどのような方法でGPSの誤差をセンチオーダー以下に補正しているのかを、彼らは明らかに示す必要があると思います。

 ■

※なお、村井俊治氏の地震予測のデタラメさや、実際に予測がまったく当たっていない(のに村井氏自身や週刊誌が的中させたと言い張っている)点については、このエントリの後にも繰り返し指摘しています。ぜひ併せてご参照ください。

村井俊治氏の地震予測を信じてはいけません(3)
村井俊治氏の地震予測を信じてはいけません(2)
村井俊治氏の地震予測を信じてはいけません(1)
.
.

コメント (12)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2014年9月3日 16時24分頃 栃... | トップ | 2014年9月16日 12時28分頃 ... »
最新の画像もっと見る

12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
長野北部地震 (地震大っ嫌い)
2014-12-02 19:21:45
長野北部地震は予測が当たっているように思えるのですが、どう思われますか?
検証してください。
Re: 長野北部地震 (横浜地球物理学研究所)
2014-12-02 21:50:58
>地震大っ嫌い さま

逆に、どうして当たっていると思われるのか、教えて頂きたいです。

場所、期間、規模の3要素について、村井氏がどう予測していたのか、ご教示ください。

我々の認識では、村井氏は本年3月頃からずっと長野県付近に警告を出し続け、御嶽山噴火後に警告を解除し、その後に当該地震が起きたわけです。かなり見事な「ハズレ」だと思うのですが。これで「当たり」なら、もう何でもありになってしまいます・・・。

あれだけ外しても「予測していた」と強弁する村井氏本人でさえ、twitterで「ハズレたと思った」と認めています(ただ、周りの人に「ハズレじゃない」と言われましたなどと、実に卑怯な逃げ方をしていますが)。
望みも捨てたくない (yupa)
2014-12-04 00:17:47
一週間で数センチ規模の地殻変動が実際起こっているとは考えにくいという意見には、頷けます。
研究職に縁のない私でも、全国一斉に変動!といわれると、ノイズや計器の不具合かと疑います。

しかし村井氏が利用している素のデータに入っているノイズの中に、地震予測につながるものがあるのではないかと思いました。
iPS細胞発見のきっかけが、全種類を混合した最後のスピッツにあったように。
Unknown (地震大っ嫌い)
2014-12-08 19:37:13
ありがとうございますm(._.)m
なんか心配しすぎてそれぞれの予測に一々気にしてしまいます。
Unknown (神功皇后)
2015-05-06 08:21:19
「「国土地理院などで発表されている誤差補正後の地殻変動データと、明らかに相容れないのです。これは、非常に大きな疑問符がつきます。」」

村井さんは、生データをみている。
国土地理院は補正したデータを見ている。

これが答えだとかんがえられます。

即ち、「局所的」に「通常」と明らかに違う「破壊的な変動」をみている。

と私は考えています。

村井さんを批判する前に・・・・
「国土地理院が生データを如何に補正し、如何に丸めているのか」
を、明らかにして議論するべきです。

地震の予知に有効なのは、A:生データ, B:補正されたデータ
どちらを使うべきなのか。

是非、反論してください。



如何ですか?


Unknown (Unknown)
2015-05-06 08:41:43
何処にフォーカスを当てるのか?
によって、異なると思います。

指摘の答えとして、

・「生データ」を観測する意味は、直近の変動にフォーカスをあてている。
・「スムージングされたデータ」を観測する意味はスムージングした期間以上の変動にフォーカスをあてている。

村井さんは短期の予測に興味があり。
国土地理院は長期の変動がどうなのかを議論している。

Re: Unknown (横浜地球物理学研究所)
2015-05-07 09:39:27
>神功皇后さま

コメント、誠に有難うございます。

>地震の予知に有効なのは、A:生データ, B:補正されたデータ
>どちらを使うべきなのか。

地殻の動きをより正確に表している「補正されたデータ」ではなく、ノイズまみれの「生データ」を使うべきであるという理由が、何かあるのでしょうか? 私には全く思いつきませんので、ご教示いただけますと助かります。

本文中にも記載しましたが、GNSS(GPS)のデータは短期では、電離層の状態、成層圏内での水蒸気量、周囲の樹木の繁茂によるマルチパス等で、ノイズが生じます。こういったノイズを補正する前の生データを(村井氏のように)使ってしまうと、実際の地殻の動きが、ノイズに埋もれて全く分からなくなります。

国土地理院では、ノイズを取り除くため、基線ベクトルをみた補正、水蒸気量等の気象条件を後から参照した異常値の補正、などを行っています。

なお、村井俊治氏のように日々の座標値をそのまま使うと、単なるノイズに一喜一憂するナンセンスなことなってしまうことは、この記事ではなく以下の記事を読んでいただけると、よく分かると思います。ご参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/47e78b9471e8cbc740b0c0efa0ef710a
ノイズと補正の意味を正しく理解していますか? (ばーど)
2015-05-07 21:57:30
神功皇后様の意見を読んで感じたのは、地殻変動のデータに対する認識が、根本的に「ずれている」ということです。

>「国土地理院が生データを如何に補正し、如何に丸めているのか」
を、明らかにして議論するべきです。

この意見に集約されていますが、「国土地理院が生データを如何に補正し、如何に丸めているのか」
を、明らかにして議論するべきです。

神功皇后様は、国土地理院が補正したデータを「都合良く改竄されたもの」と考えておいでなのです。

これは陰謀論者がよく使う論理です。

政府や権力者にとって都合の悪いものは隠され、改竄されているという発想だけで語られているので、なぜデータに問題があると考えているのか、考えられるのかという客観的な考察は、一切されていないのです。
ついでに言えば、村井氏などの理論が正しいか、データの取り扱いに問題はないかという客観的な視点もありません。

だから横浜地球物理学研究所様が、いかにGNSS(GPS)の生データにノイズがあるか、村井氏の主張がそのノイズに振り回されているかという、ごく常識的な説明を聞いてもそれを理解できず(このブログで書かれていることは、高校地学レベルの知識と、大学レベルの論理的思考能力があれば、容易に納得できるぐらい、初歩的なお話ししかされていません)、「是非、反論してください。」などという、けんか腰のイタイ発言が出来るのでしょう。

神功皇后様も村井氏も、GPSのノイズの意味、それをどうして補正しなくてはいけないかという理由を全く理解されていないのです。

私は今でこそ村井氏の理論を否定的に考えていますが、最初は否定などしていませんでした。むしろ好意的に注目していました。
しかし彼の理論と実際の結果を客観的に考え、また大きな地震があれば、過去の発言を強引にこじつける主張を見るにつけ、否定的な立場になっただけです。

国土地理院のデータに疑義を挟む前に、なぜ生データと補正データの差異があるのか、科学的な知識と論理的な思考で理由を考察してみれば、ここに書き込む前に答えは簡単に出るでしょうに。
見方を変えると (通りすがり)
2015-06-10 07:53:19
私もあなたのおっしゃる通りだと思います。
しかし、

>電波が通過する電離層の状態や、成層圏内での水蒸気量や温度などによって、散乱やマルチパスが生じて、誤差がどうしても出てしまうのです。

とありますが、
電離層の状態の変化が地震の前兆であるとか、成層圏内での水蒸気量や温度など変化が地震の前兆であるとか、
村井氏は、「GPS測定値の変動」ではなく、「誤差の原因」の方に地震の前兆が現れていると考えているのかも知れません。
Re: 見方を変えると (横浜地球物理学研究所)
2015-06-10 10:15:50
>電離層の状態の変化が地震の前兆であるとか、成層圏内での水蒸気量や温度など変化が地震の前兆であるとか

ご指摘のとおり、そうした可能性までは当ブログでは否定していません(ただ、測定値の異常と地震との相関関係は全く読み取れませんが)。

しかしながら、村井氏は、その可能性は全く考えてはいないようです。地震前には地殻が動くので、測定値の異常はノイズではない、とハッキリ主張していますので。

地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)」カテゴリの最新記事