横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

御嶽山の噴火と、雌阿寒岳の噴火(2006年)と、の前兆を比較する

2014年10月07日 | 火山情報
10月4日に放送された『NHKスペシャル』において、北海道大学名誉教授の岡田弘氏が、今回の御嶽山の噴火前にみられた兆候が、2006年の雌阿寒岳噴火のときと似ている(だから予知できたはずである)と指摘されました。ご覧になった方も多いかと思います。

ですが、具体的に何がどれだけ似ていたか、については全く触れられませんでした。そこで、ここで少し詳細に比較してみます。

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まず、今回の御嶽山噴火において、特徴的だった前兆は、1~2日間にわたる火山性地震の突発的増加と、その後の減少です。噴火の2週間前ほどに火山性地震が突発的に現れ、噴火当日までに減少したわけです。(以下の資料はいずれも気象庁発表の火山活動発表資料からの引用)




これに対し、2006年の雌阿寒岳噴火の前にも、火山性地震が1~2日間にわたって突発的に現れては減少する、という傾向がみられました(下図)。確かに、火山性地震の時系列傾向は似ていると言えます。




さらに、いずれのケースでも、増加した火山性地震の震源が、火口直下の深さ約1km(海面下深さ)に集中していたことも共通しています。これに加えて、山体膨張などといった地殻変動が噴火前にほぼ見られなかったことも、類似しています。そして、結果として現れた噴火の結果が小規模な水蒸気爆発であったことも、共通しています。

…これだけ見ますと、雌阿寒岳噴火と同じ傾向がみられたのだから噴火は予知できた、と言ってしまいそうになります。

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ですが、似ていない点も、実は多々あるのです。

まず、観測された火山性地震の数自体が、全く違うことがわかります。今回の御嶽山噴火の前には、最大でも1日で85回(9月11日)です。これに対し、雌阿寒岳の噴火前に観測された火山性地震の数は、2006年2月18日で516回、翌19日で351回です。さらに、3月7日には、鶴居村で震度1を観測するほどの大きな地震もありました。火山性地震の活動レベル自体が、大きく異なると言えそうです。

(※ただし、御嶽山については地震計の故障などで万全の体制ではなかったことも考慮すべきではあるでしょう)

また、火山性地震の突発的増加は、御嶽山噴火の前には1回だけでしたが、雌阿寒岳の場合には2006年2月18日ころと同3月11日ころの、2回もあったわけです。同様な傾向とはいえ、1回と2回とでは大違いと言えましょう。しかも、2回目の増加でも、火山性地震の数が非常に多い(1回目と同等)ことが分かります。

さらに、2006年の雌阿寒岳噴火(3月21日)の前には、火山性微動も観測されていたことがわかります(下表)。火山性微動は、岩石の破壊によって起こる地震とは異なり、マグマ等の流体移動に直接関連して起こるものと思われています(※ただし火山性微動の要因は非常に多岐にわたると考えられていますので、一概には言えません)。



雌阿寒岳では、2006年2月18日における火山性地震の観測と同時に、ある程度の規模の火山性微動も現れ、噴火の前に少なくとも6回観測されていたわけです。噴火を疑うのに十分なデータと言えます。このように、火山性地震の活動レベルや、火山性微動の兆候において、御嶽山の場合と雌阿寒岳の場合とでは、似ているようで全く違うことがわかります。

そして何より、これだけのレベルの火山性地震や火山性微動を見せながら、2006年の雌阿寒岳の噴火は、ごく小規模の水蒸気爆発でしかなく、総噴出量は約9000トンに過ぎないものでした。これに対し、今回の御嶽山の噴火においては、降灰量が100万トン前後と推定されています。

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以上のとおり、今回の御嶽山でみられた兆候と、雌阿寒岳でみられた兆候は、よくみてみると全く違うことが分かります。何より、今回の御嶽山の場合には、現れた活動のレベルが、噴火を予期させるほどのレベルとまでは言えないことが分かると思います。

そしてもちろん、このような火山性地震の推移がみられれば噴火が起こる、という相関関係が過去に蓄積して得られているわけでもありません。むしろ、火山性地震が増えていって(特に地下1kmより浅いB型火山性地震が増えていって)噴火にいたるケースのほうが、これまで多くみられているわけです。そして一方で、火山性地震があっても、噴火がないケースが多々あるわけで、それは近年の御嶽山についても雌阿寒岳についても言えることです。

噴火が起こったあとで、「予測できた」と言うのは簡単です。ですが、少なくとも今回の御嶽山については、「噴火は予測できたはずだ」と軽々しく言うべきではないと考えます。

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