旅館8

2023-09-10 08:40:52 | 日記
「事件があったって本当?」

「事件…?」

父親が突拍子もない声をあげる。

徹弥が言った"事件"が気になっていた。

おそらくこの件を知っていだろう…と思われる祖父を見ると、祖父は目線を反らし、普段は食べない大きめなメンチカツを口に頬張り、『げほけほ…』と軽く咳き込んだ。その態度は話題に入りたくないようにも見えた。

「事件は…無かったと思うなぁ…。じいさんの時代だから、俺はわからない…。」

父親は祖父を見るが、祖父は話題に混じろうとしない。

「お父さんは生まれてなかったの?」

「生まれてたけど、子供時代だったからなぁ」

「おじいちゃんは?知らない?」

敢えて、聞いた。

「うん…まぁ…。ちょっと聞いたことはあるが…」

「うん。」

「…さてと…。」

祖父は急に用事を思い出したかのように、席を立った。