私のおばちゃん家は東北の山奥の山奥…。
最寄りのバスを降りて歩くこと1時間ほど。
山奥へ山奥へ歩き、景色は山また山しか見えなくなった頃に、
ポツンと見えてくる藁葺き屋根の家でした。
囲炉裏があり、土間だけでも10畳はあったんではないか…と思われる、
まるで日本昔話みたいな家でした。
お隣さん(家)は?と言うと、大人の足で歩いても20分~30分くらい離れた場所にあったと思います。
そのお隣さんに「タックやん」と呼ばれるおじいちゃんがいました。
痩せてひょろっとしていて…まるでレレレのおじさんみたいな人でした。
おばあちゃんとは、お茶飲み友達でタックやんはよく遊びに来ていました。
そのタックやん、お茶は嫌いだがお茶を散々出し切った後のふやけたお茶っ葉が大好物。
お風呂は嫌いだが、水浴びが大好き。
ちょっと不思議なおじいちゃん。
タックやんの悩みは、入れ歯が噛み合わない事。
長年放って置いたために、歯茎が痩せてさらに噛み合わず、会話の途中で入れ歯が飛び出す事もしょっちゅう、ロレツが回らなくなる。
おばあちゃん家の裏庭で大きな牛蛙を見つけると「カール、カールがいたぞ」
タライを借りにきた時も「ターイ、ターイ貸して」
必ず必要事項は2度言う。自分でもロレツが回らず発音がおかしいことに気づいていたからだと思います。
長い付き合いのおばあちゃんは、わかってるみたいで、何度も聞き直さずに、タライを持ってきます。
ある春の日、おばあちゃん家では、おじいちゃんの7回忌の法事が行われる事になり、親戚一同が集まりました。
子沢山のおばあちゃんの親戚一同は、孫たちも含めるとかなりの多人数。
山奥の家なので、親戚たちは、前日に集まり、酒盛りをして顔合わせをするのが常でした。
ところが、その日、一番下のおじさんが夕方になってもなかなか現れない。
おじさんはいつも、東京から奥さんと子供2人を連れて、自分の車でやって来る。
「ヤス、遅いなぁ…」
「午前中に家を出たらしいから、もう着いてもおかしくない時間なのになぁ…」
「ちょっと山を下って、様子を見に行ってみるか…」
「いや、ダメだ。この間この少し奥に熊を見たって言う人がいるんだ」
「熊か…。冬眠から覚める時期だな…」
確かに、鹿でも熊でも、狼でも住んでそうな山だ。
しかし、時間は、刻々と過ぎ、皆の言葉も少なくなり、おじさんの到着の遅れを心配している空気が充満してきた。
「まさか、事故にでもあったんじゃなかろうか…」
「ヤスは運転は慣れてるから心配ない」
「だけど、ホラ、この間の雨で、ここへ来る途中の細道が土砂崩れにあって、通れなくなっていたんじゃないか?」
「土砂は撤去したが…」
「昨夜も雨降ってたよな…地盤も緩んでるし…」
「心配だ。どれ、ちょっと様子を見に行って来る」
そこで、タックやん、
「じへんしゃで、見てくーよ」
タックやんは、自転車で来ていた。
「おぉ、それじゃ、タックやん、頼むわ」
タックやんは、皆の期待を背に受け、意気揚々と出て行った。
しかし…今度はタックやんも帰らない。
「タックやんも遅いなぁ…」
「熊、大丈夫かな?」
「自転車だし、大丈夫だろう…」
「だけど…、自転車でも襲われたって話聞いた事あるぞ…」
シーンとなった時、
タックやんが形相を変えて飛び込んできた。しかも、衣服はドロドロで破れている。
「タ、タックやん、ど、どうしたっ‼」
「く、くま‼」
「熊っ⁉」
騒然となった。
大人の男たちは、持てる限りの武器を手にする。
包丁、ナタ、すりこぎ、バットを手に飛び出して行った。
子供の私は、おじさん一家が熊に遭遇し、身動きがとれない惨事を想像していた。
すると、タックやんが男泣きをする。
残った女達が、タックやんの様子がおかしいのに気づく。
「熊じゃなくて、くーま」
「え?」
「くーま。くーま」
実は、ぬかるんだ細道で、車のタイヤを取られ、立ち往生している…と話したかったらしいのだ。
折しも、熊が出たと言う噂の中、運悪く、ロレツの回らないタックやんが様子を見に行ってしまった事がタックやんの悲劇を生んでしまった。
しかも、タックやんは、ぬかるみで自転車が転倒して、ドロドロで、衣類が破けただけ…。
事の重大さに男泣きをしてしまったタックやん。
タックやんはその後すぐに、歯医者に行きました。
もちろん、武器を持った大人たちは、大爆笑をしながら、おじさん家族を連れだって帰って来ました。
最寄りのバスを降りて歩くこと1時間ほど。
山奥へ山奥へ歩き、景色は山また山しか見えなくなった頃に、
ポツンと見えてくる藁葺き屋根の家でした。
囲炉裏があり、土間だけでも10畳はあったんではないか…と思われる、
まるで日本昔話みたいな家でした。
お隣さん(家)は?と言うと、大人の足で歩いても20分~30分くらい離れた場所にあったと思います。
そのお隣さんに「タックやん」と呼ばれるおじいちゃんがいました。
痩せてひょろっとしていて…まるでレレレのおじさんみたいな人でした。
おばあちゃんとは、お茶飲み友達でタックやんはよく遊びに来ていました。
そのタックやん、お茶は嫌いだがお茶を散々出し切った後のふやけたお茶っ葉が大好物。
お風呂は嫌いだが、水浴びが大好き。
ちょっと不思議なおじいちゃん。
タックやんの悩みは、入れ歯が噛み合わない事。
長年放って置いたために、歯茎が痩せてさらに噛み合わず、会話の途中で入れ歯が飛び出す事もしょっちゅう、ロレツが回らなくなる。
おばあちゃん家の裏庭で大きな牛蛙を見つけると「カール、カールがいたぞ」
タライを借りにきた時も「ターイ、ターイ貸して」
必ず必要事項は2度言う。自分でもロレツが回らず発音がおかしいことに気づいていたからだと思います。
長い付き合いのおばあちゃんは、わかってるみたいで、何度も聞き直さずに、タライを持ってきます。
ある春の日、おばあちゃん家では、おじいちゃんの7回忌の法事が行われる事になり、親戚一同が集まりました。
子沢山のおばあちゃんの親戚一同は、孫たちも含めるとかなりの多人数。
山奥の家なので、親戚たちは、前日に集まり、酒盛りをして顔合わせをするのが常でした。
ところが、その日、一番下のおじさんが夕方になってもなかなか現れない。
おじさんはいつも、東京から奥さんと子供2人を連れて、自分の車でやって来る。
「ヤス、遅いなぁ…」
「午前中に家を出たらしいから、もう着いてもおかしくない時間なのになぁ…」
「ちょっと山を下って、様子を見に行ってみるか…」
「いや、ダメだ。この間この少し奥に熊を見たって言う人がいるんだ」
「熊か…。冬眠から覚める時期だな…」
確かに、鹿でも熊でも、狼でも住んでそうな山だ。
しかし、時間は、刻々と過ぎ、皆の言葉も少なくなり、おじさんの到着の遅れを心配している空気が充満してきた。
「まさか、事故にでもあったんじゃなかろうか…」
「ヤスは運転は慣れてるから心配ない」
「だけど、ホラ、この間の雨で、ここへ来る途中の細道が土砂崩れにあって、通れなくなっていたんじゃないか?」
「土砂は撤去したが…」
「昨夜も雨降ってたよな…地盤も緩んでるし…」
「心配だ。どれ、ちょっと様子を見に行って来る」
そこで、タックやん、
「じへんしゃで、見てくーよ」
タックやんは、自転車で来ていた。
「おぉ、それじゃ、タックやん、頼むわ」
タックやんは、皆の期待を背に受け、意気揚々と出て行った。
しかし…今度はタックやんも帰らない。
「タックやんも遅いなぁ…」
「熊、大丈夫かな?」
「自転車だし、大丈夫だろう…」
「だけど…、自転車でも襲われたって話聞いた事あるぞ…」
シーンとなった時、
タックやんが形相を変えて飛び込んできた。しかも、衣服はドロドロで破れている。
「タ、タックやん、ど、どうしたっ‼」
「く、くま‼」
「熊っ⁉」
騒然となった。
大人の男たちは、持てる限りの武器を手にする。
包丁、ナタ、すりこぎ、バットを手に飛び出して行った。
子供の私は、おじさん一家が熊に遭遇し、身動きがとれない惨事を想像していた。
すると、タックやんが男泣きをする。
残った女達が、タックやんの様子がおかしいのに気づく。
「熊じゃなくて、くーま」
「え?」
「くーま。くーま」
実は、ぬかるんだ細道で、車のタイヤを取られ、立ち往生している…と話したかったらしいのだ。
折しも、熊が出たと言う噂の中、運悪く、ロレツの回らないタックやんが様子を見に行ってしまった事がタックやんの悲劇を生んでしまった。
しかも、タックやんは、ぬかるみで自転車が転倒して、ドロドロで、衣類が破けただけ…。
事の重大さに男泣きをしてしまったタックやん。
タックやんはその後すぐに、歯医者に行きました。
もちろん、武器を持った大人たちは、大爆笑をしながら、おじさん家族を連れだって帰って来ました。