(フィクション!)
ハロプロ研修生への加入お誘いの電話から一週間。
事務所で保護者への説明会兼、手続きがあった。
母親は、やけにウキウキした様子で出かけていった。
「ただいまーーー。ねえねえ聞いてよ、聞いてよ」
えええ。
なんだそのテンション。
帰宅した母親は、興奮した様子で私にいろいろと話をしてくれた。
「まず事務所に入る時、こぶしファクトリーのれいれい・たぐっちとすれ違ったのよ」
おいおい知ってたのかよ、こぶしファクトリー。
しかも公式ニックネーム。
あんたハロプロ大好きじゃねえか。
「でもKAN見かけなかったよ、KAN。
いたら一緒に歌ってほしかったのに。
愛は勝つの替え歌、『心肺内科だねー』って」
くっだらねーな。
絶対にやめてくれ。
他に。
ちゃんとした情報も。
同期の研修生は私を含めて3人、ということとか。
レッスンは東京と名古屋の2か所で行われていて、東京は私ともう一人、残りの一人は名古屋で受けるらしいってこととか。
初レッスンは今度の土曜からスタート、とか。
なんだか話を聞いているだけで緊張してきてしまった。
同期の研修生とも初顔合わせ、か。
仲良くできるかな。
学校のことがあっただけに、考えるとお腹が痛くなってきた。
あ!
という間に当日。
用意するものを再チェック。
動きやすい服装オッケー。
(スウェットにTシャツなど)
室内シューズオッケー。
調理用ラップの芯オッケー。
最後が謎だけど、とりあえず忘れ物なし!
午後2時に事務所前に集合。
研修生のマネージャーさんが待っていてくれているらしい。
でも1時間前に到着してしまった。
当然、マネージャーさんもいなかった。
時間を潰そうにも、事務所の周りには児童公園くらいしかないし。
ここで1時間はキツイな。
その時、目線の先には東京タワーが!
初めて来たかもしれない、東京タワー。
サーティワンのストロベリーチーズケーキをカップで注文、フードコートに座った。
「あれぇー!」
はて。
後方から、握ると音の鳴るアヒルのおもちゃのような高い声が。
こんなところでおもちゃに話しかけられるわけないし。
私ったら、疲れてるのかしら。
まだ中2なのに、やだわ。
「あれれぇー!」
空耳ではないらしい。
困った。
これから世にも奇妙な物語が始まるのかしら。
今のところ、タモリはいないわ。
勇気をもって振り返ると。
巻き巻きツインテール。
ウサギのキャラクターが前面に大きく描かれた黄色のTシャツ。
その上に、レース素材のジャケット。
ピンクのフリフリスカート。
『火の用心』の刺しゅう入りスポーツバッグ。
バッグには栃木のゆるキャラ『しもつかれくん』ストラップ。
推定、身長143センチ。
ヤバい。
無視するしかない。
目を見たら、宇宙とか異次元とかに連れてかれちゃうやつだ。
「あれれれぇー!」
どうしよう。
肩に手を置かれた。
もうこれは逃げようがない。
パパ、ママ、さようなら。
ゆっくりと振り返り、顔を見た。
ん?
どこかで見たような。
「久しぶり」
うーん、誰だっけ?
「ほら、言った通りでしょ」
なにを言ってるんだ、この子は。
「絶対また会えるって、キセキ言ったじゃん」
あーあ。
思い出した。
貴石と書いてキセキ。
この前のオーディションで話しかけてきた子だ。
「これから研修生のレッスンでしょ? キセキもなの!」
ということは。
あなたも受かったんですね、ハロプロ研修生に。
それは意外ですぅ!
どちらかというと、ハロプロ研修生より『いちごミルキッス』とかいう怪しい地下アイドルのほうに行くかと思いましたよ私は!
「よろしくね」
「よろしく、お願いします」
「やだな。敬語なんてやめてよ、他人みたい」
やだな。他人ですよ。
完全なる、他人ですよ。
まじりっけのない、他人ですよ。
「いくつ?」
「今、14歳。中2です」
「じゃあキセキのいっこ下だね」
と。
ととと。
年上ですか?
年上でその服装ですか。
そうですか。
ははは。
「あれ、話の途中でどこ行くの?」
キセキに腕をつかまれた。
うーん。
無意識に、この場から立ち去ろうとしていたらしい。
「年上だけど、遠慮は無しだからね。キセキって呼んで」
遠慮なんてしませんよ。
ははは。
そもそも私は部活も入ってないし、上下関係が苦手だ。
クラスメイトのゲロミズはソフトテニス部に入ってて。
ピンクのヘアゴムを付けて行っただけで、3年生から1時間説教をくらったらしい。
ピンクや赤・青・黄色を付けていいのは3年だけで、1、2年は黒か茶色しかダメだそうで。
それがうちの学校の絶対的ルールだそうで。
そんなこと、生徒手帳のどっこ見ても書いてないんだけどね。
話を聞いて、帰宅部で良かったと心底思った。
「じゃ、そういうことで。キセキさんさよなら」
「待ってよ、帰るの? これからレッスンだよ」
ああ、そうだった。
どうもさっきから頭が回りませんで。
「しっかりしてよー」
ムカ。
「ところで、あなたの名前は?」
「へへ、名乗るほどのものでは。つまらねえ普通の女子中学生でして」
笑顔をキープしたまま、待っているキセキ。
ちっ。
こいつは回避不可な状況だ。
「ヤ、ヤエです」
おっと、ついに名前公表しちまったぜ。
「これからよろしくね、ヤエちゃん」
うわー。
ここでハグしてきますか?
ストレートに言います。
キモイっす。
この時にたった鳥肌は、レッスンが始まるまで消えることはなかった。
(つづく)
ハロプロ研修生への加入お誘いの電話から一週間。
事務所で保護者への説明会兼、手続きがあった。
母親は、やけにウキウキした様子で出かけていった。
「ただいまーーー。ねえねえ聞いてよ、聞いてよ」
えええ。
なんだそのテンション。
帰宅した母親は、興奮した様子で私にいろいろと話をしてくれた。
「まず事務所に入る時、こぶしファクトリーのれいれい・たぐっちとすれ違ったのよ」
おいおい知ってたのかよ、こぶしファクトリー。
しかも公式ニックネーム。
あんたハロプロ大好きじゃねえか。
「でもKAN見かけなかったよ、KAN。
いたら一緒に歌ってほしかったのに。
愛は勝つの替え歌、『心肺内科だねー』って」
くっだらねーな。
絶対にやめてくれ。
他に。
ちゃんとした情報も。
同期の研修生は私を含めて3人、ということとか。
レッスンは東京と名古屋の2か所で行われていて、東京は私ともう一人、残りの一人は名古屋で受けるらしいってこととか。
初レッスンは今度の土曜からスタート、とか。
なんだか話を聞いているだけで緊張してきてしまった。
同期の研修生とも初顔合わせ、か。
仲良くできるかな。
学校のことがあっただけに、考えるとお腹が痛くなってきた。
あ!
という間に当日。
用意するものを再チェック。
動きやすい服装オッケー。
(スウェットにTシャツなど)
室内シューズオッケー。
調理用ラップの芯オッケー。
最後が謎だけど、とりあえず忘れ物なし!
午後2時に事務所前に集合。
研修生のマネージャーさんが待っていてくれているらしい。
でも1時間前に到着してしまった。
当然、マネージャーさんもいなかった。
時間を潰そうにも、事務所の周りには児童公園くらいしかないし。
ここで1時間はキツイな。
その時、目線の先には東京タワーが!
初めて来たかもしれない、東京タワー。
サーティワンのストロベリーチーズケーキをカップで注文、フードコートに座った。
「あれぇー!」
はて。
後方から、握ると音の鳴るアヒルのおもちゃのような高い声が。
こんなところでおもちゃに話しかけられるわけないし。
私ったら、疲れてるのかしら。
まだ中2なのに、やだわ。
「あれれぇー!」
空耳ではないらしい。
困った。
これから世にも奇妙な物語が始まるのかしら。
今のところ、タモリはいないわ。
勇気をもって振り返ると。
巻き巻きツインテール。
ウサギのキャラクターが前面に大きく描かれた黄色のTシャツ。
その上に、レース素材のジャケット。
ピンクのフリフリスカート。
『火の用心』の刺しゅう入りスポーツバッグ。
バッグには栃木のゆるキャラ『しもつかれくん』ストラップ。
推定、身長143センチ。
ヤバい。
無視するしかない。
目を見たら、宇宙とか異次元とかに連れてかれちゃうやつだ。
「あれれれぇー!」
どうしよう。
肩に手を置かれた。
もうこれは逃げようがない。
パパ、ママ、さようなら。
ゆっくりと振り返り、顔を見た。
ん?
どこかで見たような。
「久しぶり」
うーん、誰だっけ?
「ほら、言った通りでしょ」
なにを言ってるんだ、この子は。
「絶対また会えるって、キセキ言ったじゃん」
あーあ。
思い出した。
貴石と書いてキセキ。
この前のオーディションで話しかけてきた子だ。
「これから研修生のレッスンでしょ? キセキもなの!」
ということは。
あなたも受かったんですね、ハロプロ研修生に。
それは意外ですぅ!
どちらかというと、ハロプロ研修生より『いちごミルキッス』とかいう怪しい地下アイドルのほうに行くかと思いましたよ私は!
「よろしくね」
「よろしく、お願いします」
「やだな。敬語なんてやめてよ、他人みたい」
やだな。他人ですよ。
完全なる、他人ですよ。
まじりっけのない、他人ですよ。
「いくつ?」
「今、14歳。中2です」
「じゃあキセキのいっこ下だね」
と。
ととと。
年上ですか?
年上でその服装ですか。
そうですか。
ははは。
「あれ、話の途中でどこ行くの?」
キセキに腕をつかまれた。
うーん。
無意識に、この場から立ち去ろうとしていたらしい。
「年上だけど、遠慮は無しだからね。キセキって呼んで」
遠慮なんてしませんよ。
ははは。
そもそも私は部活も入ってないし、上下関係が苦手だ。
クラスメイトのゲロミズはソフトテニス部に入ってて。
ピンクのヘアゴムを付けて行っただけで、3年生から1時間説教をくらったらしい。
ピンクや赤・青・黄色を付けていいのは3年だけで、1、2年は黒か茶色しかダメだそうで。
それがうちの学校の絶対的ルールだそうで。
そんなこと、生徒手帳のどっこ見ても書いてないんだけどね。
話を聞いて、帰宅部で良かったと心底思った。
「じゃ、そういうことで。キセキさんさよなら」
「待ってよ、帰るの? これからレッスンだよ」
ああ、そうだった。
どうもさっきから頭が回りませんで。
「しっかりしてよー」
ムカ。
「ところで、あなたの名前は?」
「へへ、名乗るほどのものでは。つまらねえ普通の女子中学生でして」
笑顔をキープしたまま、待っているキセキ。
ちっ。
こいつは回避不可な状況だ。
「ヤ、ヤエです」
おっと、ついに名前公表しちまったぜ。
「これからよろしくね、ヤエちゃん」
うわー。
ここでハグしてきますか?
ストレートに言います。
キモイっす。
この時にたった鳥肌は、レッスンが始まるまで消えることはなかった。
(つづく)