中国政府が積極的な経済対策を実施できないのにはわけがある。従来の大型経済対策で中心的な役割を演じてきた地方政府の財政が「火の車」だからだ。
主な歳入源だった土地使用権の売却収入が不動産市場の不調で大幅に減少したことが災いして、地方政府は過剰債務問題に苦しんでいる。地方政府は今や中国経済にとっての足枷になってしまったと言っても過言ではない。
「地方政府が駄目なら、中央政府が主体となって経済対策を実施すべき」との声が出ているが、中央政府は重い腰を上げる気配を示していない。
中央政府が財政規模を拡大するためには人民元の大量発行が不可欠だが、中国は日本や米国のように自国通貨(人民元)を自由に発行できない事情があるようだ。産経新聞特別記者の田村秀男氏の指摘だ。
中国人民銀行(中央銀行)の資金発行(マネタリーベース)の伸びと中国の外貨準備の伸びの間に強い相関関係があることに気づいた田村氏は「中国の通貨金融制度は実質的には『米ドル本位制』だ」と主張する。
これが意味するのは、外貨準備(ドル資産)が潤沢でなければ、中国政府は人民元を大量発行できないということだ。
リーマン危機が発生した時点のドル資産は人民元発行残高の1.3倍に達していたが、その後、減少し始め、2015年にその比率は1を割り込んでしまった。
2018年以降、トランプ政権との間で貿易戦争が勃発したため、その比率はさらに低下している。
ウクライナ戦争を契機に中国製品の購入を人民元で行う動きが広がっていることも悩みの種だ。「人民元の国際的な地位が向上している」と言われている反面、これまで貿易で得ていたドルの量が目減りするという深刻な副作用が生じている。
制度上、人民銀行の裁量で人民元を発行できることになっているが、「ドル資産の裏付けなしに人民元を大量発行すれば、人民元の価値が暴落する」と恐れる中央政府は人民元の大量発行を伴う財政出動ができないというわけだ。
これが正しいとすれば、中国経済がハードランデイングするとのシナリオは一気に現実味を帯びてくる。
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