植田日銀総裁は5月15日の経済財政諮問会議 で、物価の見通しについて、「現在は2%を上回っているが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」とした。
これに対して同席した、ノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われる 清滝教授は、植田総裁と真っ向から対立する意見を出したのだ。
清滝教授は、世界経済の現状を「インフレが進行しており、欧米では政策金利の大幅な引上げにもかかわらず、2%を超えるインフレが数年は続くと予想されている」とした上で、日本についても「円安と輸入物価の高騰から、目標値を超えるインフレが続いている」と分析。
その上で、たとえ物価が植田総裁の見通し通りに1〜2%に下がったとしても「インフレ率が1~2%程度に定着すれば、量的・質的緩和は解除すべきである」と指摘した。
植田総裁が量的緩和の解除に慎重なのは、国内で金利が上がりはじめれば日本国債を大量に保有する金融機関に含み損が発生し、アメリカのシリコンバレー銀行のように経営難に陥る地銀が出かねないという懸念もあるからだ。住宅ローンを組む多くの人にも大きなダメージとなりかねない。
低金利に慣れ切った今の日本で金融政策を正常化すると、大きな痛みを伴いかねないのだ。
しかし、グローバル標準の経済学者である清滝教授は発言がたちどころにマーケットに影響する植田総裁と違って、なれ合い的な“日本の空気”など気にする必要などないのだろう。
長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘したのだ。
※ちなみに、清滝教授がノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われるゆえんは、1997年に日本のバブル崩壊を説明する「清滝・ムーアモデル」を英経済学者のジョン・ムーア氏と共同で示したことによる。この理論は、リーマンショックでも実証され、金融危機の対応にも貢献したという。
日本のバブル崩壊では、土地や株などの資産価格が暴落した。銀行は不動産などを担保に融資をおこなうが、担保価値が下がることで金融機関の融資もまた停滞する。これが不況を招き、さらに資産価値が下落するという負のスパイラルが不況を長期化させる。
これを精密に分析して解明したのが「清滝・ムーアモデル」で、「失われた20年」とか「失われた30年」と言われる日本の長期停滞を言い当てた。
日本停滞の根本原因を知り尽くす清滝教授だけに、経済財政諮問会議で次のような苦言も呈している。
「量的・質的金融緩和は持続的成長につながらない」
「1%以下の金利でなければ採算が取れないような投資をいくらしても経済は成長しない」
つまり、量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます