邦人人質事件下での安倍首相ISIS挑発の理由
中東を訪問中の安倍晋三首相は1月17日、エジプトで開かれた
「日エジプト経済合同委員会」
で中東政策についてスピーチした。
このなかで、安倍首相はこう述べた。
「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。
地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me1/eg/page24_000392.html
2億ドルの支援について、安倍首相は
「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」
と述べた。
イスラム国(ISIL)による、邦人2名の殺害予告が発せられたのは、この直後である。
邦人の湯川遥菜(はるな)さんと後藤健二さんがISILに拘束されているなかで、
「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」
と演説をしたのだからISILが強硬な姿勢に出てくることは想定の範囲内の対応である。
日本政府は後藤健二さんがISILに拘束されているとの情報をすでに入手していたと見られ、2名の邦人がISILに拘束されているなかで、対応策を取ることを迫られ続けてきた。
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ISILによる邦人2名の殺害予告が発せられ、日本政府は厳しい対応を迫られているが、政府対応の基本方針として、二つのことがらが提示されている。
ひとつは、
「人命第一での対応」、
いまひとつは、
「テロに屈せず」
である。
どちらももっともな方針に見えるが、問題は、この二つの方針自体に矛盾をはらむことだ。
「テロに屈せず」の方針は「人命第一」に反する側面がある。
逆に、
「人命第一」は「テロに屈せず」に反する側面を伴う可能性を秘める。
したがって、日本政府は、最終的にいずれかの立場を明確にしなければならなくなる。
メディアの論調は三つに分かれている。
「テロに屈するな」
の主張が見られる一方で、
「人命第一で対応せよ」
の主張が見られるが、
これ以外に、
「「人命第一」の対応が必要だが、併せて「テロに屈する」べきではない」
との主張が見られる。
三つ目の主張には、判断が示されていない。
曖昧な判断である。
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日本政府が「人命第一」の対応を取るのなら、エジプトでの演説は極めて不適切であった。
ISILに邦人が人質で取られているときに、
「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」
と宣言することは、ISILに宣戦布告するようなものである。
今回の事態を意図的に引き起こしたとの批判を免れぬものである。
最終的に邦人が犠牲になることを通じて、「テロとの闘い」を前面に押し立てて、ISILに対する軍事攻撃を展開する米国軍に日本軍が加担するような図式が描かれているとの憶測が浮上しかねない。
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そもそも、ISILの誕生の背景には、
サイクス・ピコ協定という、欧米帝国主義による世界支配の構図に対するイスラム陣営の反発があることを見落とせない。
サイクス・ピコ協定による国境線は人工的に引かれたもので、不自然なものである。
残忍な行為は断じて是認されないが、近代以降の欧米および日本による世界進出、帝国主義自体が、暴虐性と残忍性を伴っていたことを見落とせない。
今回の問題に対して、日本政府は「テロに屈せず」ではなく「人命第一」で対応することを明確に示すべきである。