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政府は日本郵政をどうしたいのか(2012年12月26日)

安倍内閣が2012年12月26日発足した。そこで一つの疑問。
政府保有の日本郵政株の売却処分の方針は民主党政権末期に示された。しかし日本郵政は、経営の自由(手足)を縛られた状態。そのため日本郵政の将来図を自ら明確に描けないでいる。
安倍政権はもしこの売却収入を増やしたいなら、明確な青写真を日本郵政自身が描けるように、環境を整える必要がある。
逆に民間企業との競合しない分野に日本郵政の活動を限定した場合、そもそも日本郵政が民間企業として存続できるか、その限定された分野は民間企業が担って採算が合う分野であるのか、などを検討する必要がある。もうそうした制限をつけるなら売却して高値に売れるはずがないからである。売却そのものが失敗する可能性が高いということだ。
日本郵政の安楽死がいいのなら、実は放置していても、日本郵政は縮小を続けるだろう。しかし株式売却を急ぐなら、話は別である。
それなりのサクセスストーリーを描けるようにする必要がある。

日本郵政は2012年12月19日 斉藤次郎社長(元大蔵次官)の退任と坂篤郎副社長(2009年10月に副社長就任 元大蔵省主計局次長)の昇格人事を発表した(取締役会で決定)。2015年秋の上場が目標。住宅ローンなど新規業務は新政府の判断待ち。
 住宅ローンなどの個人向け融資業務 すでに低金利競争が激しく収益あげられるか疑問も出ているが。
 長期火災保険の募集業務
 企業向け融資 などが政府の判断待ちだが
 認可権限をもつ金融庁 は 判断を急がない方針

政府の郵政民営化委員会 12月18日 ゆうちょ銀行が申請していた融資業務の参入の条件付容認示す
 住宅ローンは直営店に限定。最初の2年は82店。5年経過後に全直営店に拡大。
 住宅ローンの融資上限は2億円 カードローンは300万円 
 融資残高や金利の状況を年2回程度郵政民営化委員会に報告
 法人向け融資は大企業に限定 メーンバンクになるのは禁止 協調融資でも主幹事業務認めず
 中小企業向け融資は見送り 

政府の郵政民営化委員会(西室泰三委員長) 12月14日 ゆうちょ銀行の融資参入を条件付きで認める方針示す
 認可権限もつ金融庁はなお慎重 内部管理体制に問題あるとしている 収益計算体制や内部管理体制の脆弱さを問題にする
 反面 金融2社の業績低迷で過疎地の郵便局網の維持が困難になる事態を憂慮。

2012年11月27日 関係閣僚による郵政フォローアップ会議 
        学資保険の新商品を30日に認可する方針決める かんぽ生命の保険金支払い漏れ問題対策含め8項目の
        停止条件付 4月の発売開始に向けて準備進めることになる   

2012年11月22日 政府の郵政民営化委員会 学資保険の商品内容を容認する意見書をまとめ金融庁と総務省に提出

2012年10月29日 日本郵政の株式上場計画が 郵政民営化委員会に提示された 2015年秋に上場(最終的な売却時期の判断は政府)
上場時期の明示が新規業務認可の前提との議論に対応したもの
金融2社の売却先送りは日本郵政株の高値売却のため。
これに対して金融界は反発している。郵政改革の明確な筋道を示す必要がある。基本的な問題は時代遅れになりつつある
郵便システムをどう再構築してゆくかだ。民間業務との競合が問題であるなら、補完に徹するでもいいのではないか。
発足は2007年 グループの連結純資産は約11兆円 グループ従業員は23万人 うち20万以上が日本郵政
1997年のJR東海以来の大型の国有企業上場になる
・赤字化している郵便事業(信書は事実上の独占が認められているが ネットの普及で毎年3-4%取扱い件数は減少続く)の立て直しが急務
・郵便物引受件数の減少が続き赤字化している
2003年度 250億通
2010年度 200億通を割る
・過疎地の人員維持コストが経営を圧迫している
・不採算局の削減が困難である。
・民間に比べて高い給与体系であり民間との競争が困難である。民間に比べ2割高いとされる
・民業圧迫懸念から新商品導入がむつかしい

2012年10月1日 郵便事業会社と郵便局会社が統合「日本郵便」に 副会長に稲村公望氏
全国2500カ所の集配センターを郵便局に統合するなど

民間金融団体は 暗黙の政府保証が残るうちは競争上不公平として新規業務参入に反対 株式の売却時期明示も求める
2012年9月13日 民間金融団体8団体は ゆうちょ銀行が融資など新規業務に参入することに反対する共同声明を発表
ゆうちょ銀の株式売却など民営化計画の早期公表
経営規模の縮小
郵便事業の損失を金融事業に転嫁しないリスク遮断措置が必要 とする

2012年9月3日 ゆうちょ銀行 金融庁と総務省に 個人・法人向け新規業務の認可申請
              個人事業主 高齢者 サラリーマン向け 住宅ローン 教育・自動車などの無担保ローン
              資金の7割以上を国債で運用する現在の事業モデルは利ザヤが薄く
              金利変動リスクも大きいとして住宅ローンへの進出を強く希望 
              すでに2008年5月からスルガ銀行と提携 住宅ローンの仲介業務始める
              自営事業者 高齢者などを対象に取り組み 仲介実績は2000億円超えた
              預貯金残高は2010年度末で175兆円 ピーク時の3分の2に比べ 90億円減少

       かんぽ生命  学資保険の見直しの認可申請(死亡保障引き下げ保険料引き下げ)
              養老保険(需要が低迷)に偏った契約構成の見直しが課題
              民間が主力とする ガン保険に進出できない  
              養老保険から入院特約切り離し単品で発売 など
              保有契約件数は年金保険のぞき3903万件 過去10年間で半減   

2012年4月12日 郵政民営化改正法案が民自公(自公案に民が乗った形)などの賛成で衆院通過
日本郵政による金融持ち株会社2社の株式完全売却の義務付けを努力規定に改める
2017年9月末までに完全売却の従来方針を撤廃。
郵便事業会社と窓口業務を手掛ける郵便局会社を合併する
グループ5社を4社に再編
→ 政府による日本郵政株売却に狙い
民主党政権成立直後の2009年成立の株式売却凍結法の廃止
政府が100%保有する日本郵政株は3分の1超残して売却可能に
日本郵政が金融2社の株式の半分以上を売却した段階で金融2社による新規事業進出は認可制から届け出制に。
郵便 貯金 保険の3事業に関して日本郵政などに全国一律のサービス提供を義務付け
4月27日 参院本会議も通過。小泉郵政改革を修正した改正郵政民営化法が成立した。民営化路線を後退させるが、この法律の狙いは
震災財源のための政府保有の日本郵政株売却にあるとみるべき。2010年度末で政府の保有は8.4兆円 3分の1で5.5兆円の財源。
しかし成長シナリオを描けなければ、予定した売却益がでないことも。

しかし郵政の経営環境の厳しさは衆目の一致するところだ。

2012年3月7日 政府の郵政民営化委員会(田中直毅委員長)は、日本郵政グループの金融2社について、完全民営化しないのであれば
少額貯金や小口保険に業務は限定されるべき。また郵政株の売却を禁じた株式売却凍結法の早期解除も必要とする意見書を公表した。

西川辞任
 日本郵政の西川善文社長の辞任表明が2009年10月20日に行われたがこれは当然だ。新たな政府の方針に反する発言を繰り返す人間が国有企業のトップの職に留まることはもともとおかしな話だ。西川氏はもと三井住友銀行頭取。頭取まで登り詰め進退をわきまえたはずの年齢の人物が、9月16日の連立政権発足後なお最後の最後まで職にしがみついた。西川辞任の当日、政府(鳩山内閣)は、郵政事業の基本的なあり方を閣議決定、さらに時を経て2010年4月30日に郵政改革法案を閣議決定した。
 こうした鳩山内閣の動きに対して、郵貯事業の縮小という流れに反するものとの批判がでている。確かにネットの普及で郵便事業の縮小は時の流れである。しかし他方で、郵便局網を維持するのであれば、収益源がなくてはならない。郵貯の預入限度額引き上げや新規事業はそこからでてきた議論である。もうひとつの背景は、景気対策などの財源問題。国債や財投機関債などの消化の役割が郵貯に対して改めて期待されている。
 これを歴史の流れを覆すものとの批判がある。しかしそうではなくて、小泉改革が郵便事業の将来ビジョンを明確に示さなかったことが、こうした事態を招いたといってよい。
 西川氏とのからみで、09年10月に予定されていた日本通運との宅配便事業の統合が宙に浮いた(この統合は2010年7月に行われるがお中元の時期と重なったことでトラブルを生み、客離れを招いた)。前政権下でさえ、「かんぽの宿」のオリックスへの譲渡契約(08年12月)が鳩山邦夫総務相(当時)の疑義表明で白紙撤回されている(09年2月)。日本郵政の経営はたびたび、政治に翻弄されている。
 郵便局には全国2万4000のネットワークという財産がある反面、郵便事業は存続の危機にある。電子メールの増加に対して郵便物の取り扱い量は減少を続けているし、郵便小包は宅急便に明らかに客を奪われている。この矛盾があるなか、金融業務も民間金融機関に対して明確な優位性はなく、縮小を続けている。きちんとした将来ビジョンを描かせて、民営化するのが筋だろう。
 私は郵便局は競争力がない現状を素直に受け入れて、民間組織と競合するものとしてではなく(また特定事業者との提携は避けて)、社会的なインフラとしてベーシックなサービス(郵便や金融サービス)を社会的弱者(地方にいる人、老人や障害者など)を中心にすべての国民に等しく提供する組織として、つまり半官半民の公的組織として生き残りを考えてはどうかと考える。
 端的にいえば、郵政民営化そして政府保有郵政株の売却は郵便局の生き残り策としてそもそも誤っているのではないか(無駄な努力をさせているのではないか)。
2009年10月22日から労働組合(CWU)がストライキに入った英国郵政事業(Royal Mail)の状況は、電子メールの増加の一方で郵便が毎年減っていること、民間事業者の参入が郵政事業を脅かしていることなど(cf."On the brink", Economist, Oct.17, 2009, 55;"Postal services, sort it out", Economist, Oct.31, 2009, 14, 16;"The world ailing postal services, dead letter", Economist, Oct.31, 2009, 67-68)日本の郵政事情と似ている面がある。このような郵便事業縮小は、世界的な歴史的な変化でもあり避けようがない。その中で郵便局網をどうするかの判断が問われている。

郵政事業の今後 ネットワークの活用
 政府は2009年10月20日に郵政事業見直しに関する基本方針を閣議決定した。郵便局ネットワークを活用して、郵便、郵便貯金、簡易生命保険の基本的なサービスを郵便局で一体的に提供することがうたわれている。
 日本郵政の取締役会は、2009年10月28日、西川社長の後任として元大蔵事務次官の斉藤次郎氏を正式に選んだ。斉藤氏は小沢一郎氏と盟友関係にあるとされ、小沢氏の信頼が厚い。そこで亀井氏が小沢氏に配慮したのだとの観測記事(「小沢幹事長に媚びを売った亀井氏の戦略」『エコノミスト』2009年11月3日p.13)は、間違ってはいないのではないか。
西川氏とともに高木祥吉副社長は退任。社外取締役は、牛尾治朗氏、丹羽宇一郎氏、奥谷礼子氏など5人が退任。しかし奥田碩氏、西岡喬氏は留任した。なお6人の退任で、同社の指名委員会の5人のうち奥田氏を除く4名が退任。指名委員会は機能しなくなった。国有企業で、選挙で選ばれた政府の方針に反旗を掲げる西川氏が速やかに辞任しなかったことにすべての原因はあり、混乱の責任は西川氏にある。
 副社長に、官僚から旧大蔵、旧郵政から一人ずつの二人、民間からは銀行、経済界から一人ずつの二人。計4人とした。このほか社外取締役は、各分野から12名が任命された。人選は幅広い分野から公益性、公共性を重視した布陣となった。

郵便局をベーシックサービスとして再生する
 2010年度の郵便物取扱数は24年ぶりに200億通を割り込み、郵便事業会社は営業赤字に陥る見込み。なんらかの収益対策なくして2万4000局を維持できるか。約20万の雇用を維持できるだろうか。一定の業務のスリム化はいずれにせよ不可避だ。
 しかしよく考えてみる郵便局の機能・存在は、地方社会や高齢化社会にはやさしい。民業圧迫というが、もともとは民業がいないところで先行して活動していたので、本来は棲み分けがあった。歴史的には民業があとから出てきたというべきだろう。とはいえ民間の輸送業者による小荷物取扱との競合に加えて、電子メールの登場もあり、郵便取扱の縮小は、大きなトレンドとしては変えようがない。赤字を避けるには業務のスリム化は不可避。しかし収益事業の強化も考える必要がある。
 ここで2万4000局のネットワークを通じた窓口での人手による対応という旧時代的なシステムの是非を考えたい。このシステムで郵便局は、顔がたがいにわかる地域のネットワークの結節点になっており、地方社会や高齢化社会に対応しているという意味では時代遅れではなく時代の先端にある側面もある。これを残す一つの方法が金融のベーシックサービスの提供を郵便局に負わせるという考え方である。だとすれば、金融業務の強化(そこからの収益)は郵政の生き残り策として検討に値する。過疎地では郵便局が金融を含めたライフラインになっている現実がある。
 鳩山民主党政権は、国民党の亀井静香郵政・金融担当相に押し切られる形で2010年3月30日の閣僚懇談会で郵便貯金の預入限度額を1000万円から2000万円に引き上げ、簡易保険の加入限度額を1300万円から2500万円に引き上げることを決めた。民間金融機関は預金保険料の支払い負担を考え預金保険の保証額を2000万円に引き上げることには反対した。そこで預金保険料引き下げでの決着が模索されている。この方針は2010年3月23日までに固まっていたがその後閣内の異論が表面化。閣僚懇談会で決着が図られた。(この預入限度額の問題はその後、民主党政権の迷走のなかで実現されないままになる)。

 要するに、インターネットの普及により、郵便事業の採算性が失われるなか、民間との競合を避けるために置かれている規制で、郵便貯金、簡易生命保険とも、縮小を続けている。ユニバーサルサービスの提供という足かせも採算性悪化の要因。現在の政府は、日本郵政の手足を縛った状態で日本郵政の上場を急いでおり、日本郵政株でできれば多額の財政収入を得ようとしている。どう考えてもそれは矛盾している。

0riginlly appeared in Oct.21, 2009.
Corrected and reposted in May 3, 2010 and Dec.29, 2012.

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