Entrance for Studies in Finance

PTS(ECN)について

Hiroshi Fukumitsu

PTS(ECN)とは
 一般にコンピューター画面を介した取引を、スクリーン取引とか電子取引という。そのうち取引所類似の多数の参加者が取引に同時に参加できるシステムを作って、取引者がこのシステムplatformで取引できるようにしたものをPTS propreitary trading system私設取引システムとか、ECN electronic communication network電子取引システムという。 ここで紹介するのは、取引所の時間外に個人取引が可能になるような夜間取引のためのPTSが相次いでいることである。
 もう少し別の視点でみると、PTS(ECN)は、取引所より優れている点があって顧客を集める自信があるなら、夜間に限らず取引所に正面から対抗して、昼間の立会時間中に開いてよい。現にアメリカではECNが、個人というよりは機関投資家相手に、取引所より電子取引に対応している決済速度の速いシステムを導入して、取引所を脅かすまでに成長した。
 ECNの登場と成長の背景には、リスクを避け収益機会を失わないため24時間取引のニーズが高いこと。機関投資家による売買が増えていること。PCを使うだけでなくPCソフトを使った高速自動取引が増えていること(→アルゴリズム取引)。そしてこのような変化にそもそも取引所の対応が後手後手に回って追いつかなかったことが示されている。海外でのプロ向け市場開設の問題も、機関投資家のコストの安い市場開設要求に取引所が対応を遅らせてきたことの現れである。
 PTS(ECN)の増加と繁殖は、取引所exchangesが新たなニーズへの対応に遅れていることを反映している。もっともさらに大きくみれば、やがて増えたPTS(ECN)は淘汰されてゆくともみられる。取引の集中には合理性があり、取引所がカバーしていないところに新市場ができることにも合理性がある。市場maket placeというのは本質において集中と分散を未来永劫繰り返すものではないか。

2010年 日本の株式PTS ようやく拡大始まる
 1998年の証券取引法改正でPTS可能に。入れ替わりがあり、2006年春に稼働していたのはマネックスのもの(マネックスナイター)と。機関投資家相手のインスティネットのもの(取引時間は午前8時から午後5時 指値対当方式など。機関投資家などが対象)。
 これにカブコムが2006年9月にまず新たに参入した。証券取引所の取引時間外で証券投資家の中で機関投資家は海外市場で売買することもできるが、個人投資家にはこれまでそうした手段がなかった。また立会時間後に企業が重要情報の発表を行うことが多いが、夜間市場はそれに最初に投資家が反応する場所になる。しかし流動性に課題が残っているとされていた。
 PTSの売買は東証が新システムを導入した直後に低迷。しかし2010年春ごろから急速に回復した。少しでも有利な価格で取引しようと、取引所とPTSの株価を比較する投資手法が広がったこと。とくに2010年7月からは日本証券クリアリング機構が決済を保証するようになり、機関投資家の利用がしやすくなったこと。この結果、大手証券や外資系証券も投資家の注文をPTSにとりつぐようになり取引が拡大した。2010年7月2日 クリアリング機構が7月23日決済分からカブコム SBIジャパンネクスト証券を加えた
 事態を加速したのは2010年7月29日の野村證券孫会社(チャイエックス・ジャパン)によるPTSへの参入である。このシステムはアローヘッドより高速で機関投資家好み(注文応答速度が0.5ミリ秒(1000分の5秒)でアローヘッドの4倍早いとのこと なおアローヘッドは注文応答速度5ミリ秒 情報配信速度3ミリ秒と喧伝された)。チャイエックスは野村が2007年に買収した米インスティネットの子会社で、欧州で実績があるとのこと。チャイエックスは市場の支持を集め2010年12月にはPTS市場の3分の1を占めた(sankeibiz110108)。
2010年7月7日 クリアリング機構 チャイエックスジャパンを対象に加える追加決定の公表
PTSのクリアリング機構決済参加の意義 7月2日(カブコム証券)
2010年7月29日 チャイエックスが日本市場に参入した
2010年8月5日からチャイエックスが取り扱い銘柄数を大幅に拡大する(5銘柄から234銘柄に)

夜間取引の比較
 先行するのはマネックスナイター(2001年1月開始)。取引所終値を基準値とする1本値方式。2007年9月段階で取引は1日200銘柄前後。午後5時半から11時59分。1約定につき500円。マネックスと丸三証券。
 2番手はカブコム(2006年9月15日開始)。東証と同じオークション方式。これは2005年4月の改正証券取引法施行で認められたもの。指値注文だけで成り行きもできる競売買方式。午後6時半から11時59分(取引開始時間は当初午後7時半からだったが、07年3月23日から午後6時半からに変更された)。取引銘柄は当初は300銘柄。その後拡大され2007年9月現在は約2000銘柄。手数料は約定1000万まで378円、以降100万ごとに42円。2007年9月段階で取引は1日100から150銘柄程度にとどまる。
 カブコムの夜間市場は開設時点ではオークション方式の初めてのPTSとして注目された。しかしネット証券大手のイートレードや楽天とは離れていることで、取引量が確保できていない印象が強い。1日あたりの取引金額は1億円前後である。
 このほか松井証券の夜市があるが、これは予定の株数の範囲で当日の終値から数%割り引いた値段で投資家からの買い注文に応ずるもので売り注文には応じないというもの。

ジャパンネクストPTSの参入(2007/08)
 SBIホールディングと米ゴールドマンサックスが組んで07年8月27日にSBIジャパンネクスト証券として株式の夜間市場に参入した(06/27金融庁から認可)。機関投資家と個人投資家の双方が売買でき指値注文だけで成り行きはできないというもの。イートレード証券やなどネット証券4社も出資。
 イートレードのほか2007年内に楽天なども接続。取り扱うのは国内の取引所に上場する4000銘柄で日本のPTSとしては当初から最大規模となる。8月27日に参加するのはSBIイードレード証券とゴールドマン・サックス証券。9月7日からGMOインターネット証券が参加。楽天とオリックスはシステムが整い次第参加。
 特徴はゴールドマンサックスが当初から入っていることからも推測がつくが、個人のほか機関投資家を参加できるように設計していること。
 運営時間は平日の午後7時から午後11時50分。売買対象は整理ポスト銘柄や外国銘柄を除く全上場銘柄。信用取引はできない。イートレードの場合、11月30日まで1取引367円の手数料、12月以降昼取引と同じ料金体系に。しかし27日初日取引(売買成立)は128銘柄1億円強。その後も2007年9月段階で1日300銘柄程度の売買。しかし1ヶ月間では90億円に達し1日平均5億円とまずまずの滑り出しとなった。

国内株PTS 
カブコム 2006/09SBIジャパンネクストPTS 2007/08マネックスナイター 2001/01大和証券 2008/08
取引時間8:20-23:5917:30-23:5917:30-23:5918:00-23:59
銘柄数約2000約4000約3700約2000銘柄r
売買方式指値+成り行き 競売買指値のみ 競売買当日終値を基準値とする一本値マーケットメイク方式
接続証券三菱UFJ BNPパリバ GSイートレード CMOインターネット GSマネックス 丸三


PTSの日中開設
 PTSの狙いは個人のほか機関投資家にも置かれるようになった。当然、ネット証券の在り方にもかかわる(カブコムは顧客に機関投資家がなれるように社内規定を改定する方針06/08)。ただ売買量が小さいことが機関投資家にとってはネック。PTS各社も取引量を増やすため一方では参加する(接続する)証券会社を増やそうとしている。
 カブコム(06年9月開始)の場合は、2007年9月27日から三菱UFJ証券、BNPパリバ証券、ゴールドマンサックス証券と接続。2007年10月からはクレディスイス証券も参加。これら証券会社は自己売買でも参加するとみられるため、カブコムは売買プログラム(API)を公開してアルゴリズム取引に対応可能とした。
 そして取引を取引所がオープンしている昼間に行うことで、投資家を引き込むことも課題とした。2008年1月の報道によれば2008年3月中にもカブコムは、日中取引を開始する(開始時間を午前8時20分から)としていたがカブコムは2008年3月21日か取引開始時間を午後6時半から午前8時20分に早めた。初めて昼間に個人向けのPTS取引を設けた。
 同じ様な動きはSBIジャパンネクスト証券(07年8月開始)にもある。2008年3月31日から取引時間を延長。午後11時59分までだったのを30分中断の上1時間半のバス(午前2時まで NY取引所の相場をみながら取引できる)。ジャパンネクストは国内上場4000銘柄を扱い、国内最大のPTSとなった。個人投資家だけだと注文が偏りやすい。08年4月楽天証券が接続。2008年夏、オリックス証券が参加するとも。クレデスイス、メリルリンチ日本、リーマンBの3社各2億3000万円出資(各3.3%)。このほかと合わせて30億円の第三者割当増資。2008年内にも昼間取引を開始(午後7時から午前2時まで。午前8時半から午後4時半を始める予定)。昼間取引開始に合わせて3社も参加。これら外資はまずは自己売買。その後は顧客の機関投資家の売買をつなぐ予定。
 2010年に取引が拡大するまえのPTSは売買参加者少ないため流動性にとぼしかった。値動きが荒く、取引成立しないことが多いと批判された。そして2011年後半。PTS取引が拡大するなかで、これらのネット証券によるPTSは相次いで閉鎖された。松井證券は2011年8月中旬。カブコムは2011年10月末。マネックスは2011年12月上旬にサービスを終えた。

大手証券が参入
 2008年8月8日から大和証券が個人向けPTSに参入した。取引時間は午後6時から11時59分。東京、大阪、名古屋、ジャスダックの各証券取引所に上場する株式、上場投資信託ETF、不動産投資信託REITなど約2000銘柄。取引手数料は無料。大和が売買価格を提示するマーケットメーク方式。
 
2011年8月現在の状況
 すでに述べたように2010年7月からの日本証券クリアリング機構による、主要PTSへの売買決済保証開始。そして野村系チャイエックスジャパンの登場。などを契機に日本のPTSの売買規模の拡大が始まった。2011年8月には上場株式売買代金に占める比率は5%弱(1年前には1%弱)。これはジャスダックを含む大証の現物株売買を上回るもの。
 PTSの利点としては証取経由より手数料が安いこと、細かな値幅の注文を受け付けるので有利な条件で取引が成立するとも。
 反面 売買はチャイエックスジャパンとSBIジャパンネクストの2社に95%集中している(2011年8月現在)。とはいえシステム投資負担は大きく、ようやくPTS取引の拡大が始まったことと矛盾しているが、ネット證券は相次いでPTSからの撤退を決断している。松井證券は2011年8月中旬。カブコムは2011年10月末。マネックスは2011年12月上旬にサービスを終えた。PTSでは信用取引が禁止されているので個人投資家の利用が進まなかったとのことも背景。

プロ向け証券市場についてのメモ
 2007年5月にゴールドマンサックスが、取引資格を年金資産など金融資産1億ドル超の機関投資家に限定した市場「GS TRuE」を創設した。この市場に上場する企業は、証券取引法などの規制の対象にならない株主数が500人未満のものに限られ、金融派生商品取引も想定されている。規制対象外のものを上場し、取引することで情報開示コストや法令順守コストを節約できるという。2007年8月にはシティグループや、リーマンブラザースなどが同様に参加資格を機関投資家に限定した市場「オーパス・ファイブ」を共同設立した。
 日本では東証がLSEのAIMをお手本にして、ベンチャー企業の国際市場をプロ向け市場という名前で立ち上げようとしている。そこで問題にしているのはアジアの新興企業であるようだ。それは機関投資家が投資対象とする大企業とは異なったもの。詰めていえばマザーズの国際版である。

相対取引と市場取引についてのメモ
ところで市場といっても、このように取引参加者が集って<市場取引>という形をとるもののほか、あくまで<相対取引>が取り引きの形が中心になるものとがある。後者の代表として貸付取引と為替取引を上げておく。
 貸付取引はシンジケートローン方式が増えているが、その選択を入札方式で行ったり、あるいは幹事行がローンに参加する金融機関をオープンに公募したりといった、これまでの閉鎖的・系列的な取引が、競争的・開放的な取引関係に変化する兆しがみられる。また為替取引で今、電子取引の増加という形が拡大している。大きくとらえると市場化といえる流れがあるようだ。
 金融取引は、個別性が強いので本来は相対取引なのだろう。それがリスク分散などの投資家のニーズから小口化され、さらには流動化される。為替市場は、個々の取引は個別性が強いが、扱っているものが同質的であるので市場が成立する例になる。電子債権は同様に、大きな金額のものでも分割されることで、市場が成立するという例である。 

 (為替市場)
 為替市場は株式市場とは異なり取引が行われている場所がすべて市場とされる。銀行間、あるいは銀行と顧客間の電話・端末を通じた取引を合わせて為替市場という。考え方によっては、銀行そのものが市場になっているともいえよう。
 以前から言われているのは電子取引への移行である(2007年4月の調査では全体の37%とされる。1日の取引2430億ドルに対して881億ドル)。
 個人の外国為替証拠金取引はネットを通じて24時間取引可能になっている。ネットバンキングによる外貨預金も24時間可能なものもある。
 07/01/09 みずほ銀行は法人向けに国内為替業務のインターネットバンキングサービスを始める。中堅・中小企業の利用を見込む。すでに大企業向けにはみずほコポレート銀行が同様のサービスを提供している。 
 07/06/07 ロイターとCMEが日本で外国為替取引サービスを始めた。「FXマーケットスペース」。

 (電子債権市場)
 手形を電子化したものを電子債権と呼ぶ。2007年6月に電子記録債権法が成立。2008年12月までに施行される。
 手形流通量は年々減少。交換高は1990年の4800兆円をピークに減少を続け、2006年にはその10分の1程度。
 電子債権は小口分割して譲渡することができるので、企業にとって新たな支払手段(資金調達手段になると期待される)。

参照
証券市場論講義目次

Written by Hiroshi Fukumistu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally written in Aug.12, 2008
corrected and reposted in Dec.21, 2011
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