Entrance for Studies in Finance

楽天によるTBS敵対的買収事件(2005-2009)

IT企業としてもっとも革新的なブランドイメージを保っているのはグーグルではないか。ではそのイメージはどこからきているのだろうか。またIT企業としてもっともイメージで問題を抱えているのは楽天ではないか。楽天の強引なイメージを決定づけたはTBSに対する敵対的企業買収事件(2005-2009)だったのではないか。敵対的企業買収とは、経営者に敵対するものによる買収を意味している。日本では敵対的企業買収はイメージがよくない。敵対的企業買収をした企業は企業イメージの低下に悩まされる。北越製紙に買収をしかけた王子製紙(2006年7月)は、回復不能ともいえる社会的イメージの悪化を被った(この買収を助けた野村証券の責任は重い)。TBSに買収をしかけた楽天も同じである。敵対的企業買収をする側は、社会に対して自分の行動の合理性を説明する十分な備えが必要である。それができないなら日本では敵対的買収は避けるべきだ。

TBSへの敵対的企業買収の強行でイメージを落とした楽天
 楽天の強引なイメージを自ら強めたのが、TBSに対する敵対的企業買収事件(2005-2009)である。
 楽天は企業イメージを、2005年10月のTBS株大量取得とその後のTBSへの経営統合申し入れで、自ら悪化させた。
 放送局を私企業や個人が支配することに伝統的に批判が強い日本社会で、TBSという全国放送局の買収をTBSサイドの合意がないまま楽天は強行した。
 2005年2月から4月にかけてニッポン放送株をめぐるライブドアとフジテレビとの騒動で、ライブドアが批判を受けた記憶が残るなかでの買収劇だった。社会的批判が高まることを覚悟して行ったとしか思えない展開に唖然とせざるを得ない。しかもTBS側との十分な意思疎通を欠いた敵対的企業買収には、正直驚かざるを得ない。楽天という企業の傲慢な印象を社会に流布させたことはことは失態といえる。楽天は地上波のTV局にこだわらなくても、IPTV(Internet Protcol Television)を展開できるはずとの指摘もある。
 楽天がTBS株取得に要した1000億円以上の金で時間は、コストに見合わないとの指摘は多い。2005年11月末に両者の間で休戦協定が結ばれたが、三木谷社長がTBS側の議決権凍結という交渉延長条件に応じなかったことからこの休戦は2007年2月末に失効した。そこで休戦の失効に合わせてTBS側は買収防衛策を導入発効させた。
 これに対して楽天は4月に入ると20%超まで買い増す意向を表明し両者の緊張は再び高まった。2007年6月の株主総会での多数を占めるべく楽天側はプロキシ-ファイト(委任状争奪戦)を展開。対してTBS側は質問状を繰り返し楽天に出し、企業防衛策発動に向けて楽天が濫用的買収者であることを証明しようとした。07年6月28日の株主総会で、楽天側が出した楽天の三木谷社長ら2名を取締役に選任する案と買収防衛策を特別決議で導入する会社側の案は共に否決された。他方、会社側による普通決議での買収防衛策は88%の圧倒的賛成票で可決された。この間、TBSは持合い関係の強化に努めてきた。それが功を奏したといえるが、一般株主も楽天側につかなかったといえる。楽天は社会という目に見えない存在を敵に回したといえる。
 他方、楽天側はこの持合いの強化に会社資金が使われたことを問題にして、帳簿閲覧権を行使してこれを実証しようとした。これに対してTBS側は閲覧の目的が明確でないとして閲覧を拒否。これを不満とする楽天の申し立てについて、東京地裁は、3月現在の株主名簿の謄写本も交付されていることから著しい損害が生ずる緊急性はないとして、6月15日にこれを却下した。楽天は即時抗告したが、6月27日に東京高裁は、両者は実質的に競争関係にあるとして、TBS側の閲覧拒否を正当とした。
 理解できないのは、この対応に突き進んだ楽天の企業統治のあり方である。どうもこの買収の判断が、トップの三木谷氏の意向だったために止まることができなかったことが感じられるのである。
 楽天の株価は、この問題での展開が膠着していることと、連結子会社楽天証券の業績悪化などのため、下落した。
 楽天の後ろにいるのはゴールドマン・サックスと大和証券SMBC。TBSの後ろには当初は日興プンリンシパルインベストメント(NPI)と野村證券がアドバイザーとして名前があがる。
 08年12月16日の臨時株主総会でTBSは、放送法上の認定放送持ち株会社への移行について株主の承認を得た。同持ち株会社では、一つの株主は33%までしか保有できない。三木谷―楽天―ゴールドマンサックスの買収戦略は行き詰まったとみていい。他方、TBS側はこの間、楽天への対応で経営陣が本来の経営に集中できなかったとされている。

買い取り価格で粘る楽天(2009-2010)
 2009年3月31日 楽天は保有するTBS株の買取をTBSの請求したことを発表した。4月1日にTBSは特別株主による株式大量保有(33%超)を制限する認定持ち株会社に移行する。ここでようやく楽天は引き下がった。問題はこの間にTBS株が大幅に下落したことである。購入の平均単価は約3100円、投資額は約1200億円で19.8%取得。しかし30日の終値は1361円。評価損約650億円の計上を2008年12月期決算ですでに計上済みである。
 その後、楽天とTBSはこの買い取り価格について争いを続ける。
 TBSとの話し合いが不調だったため楽天は東京地裁に買い取り価格の決定を求めた(2009年5月1日)。そこで審理ののち、2010年3月5日東京地裁は1294円、買い取り価格489億円という数値を出した(楽天の評価損失は投資額を1200億円とすれば711億円)。ところが楽天側が控訴。2010年7月7日に東京高裁が再び1294円を示した。しかし楽天側は特別抗告(7月9日)。これが認められ(8月16日)、問題は最高裁にまであがることになった。楽天側は1800円程度を主張しているようだ(なおこの間にTBS側の申し出により、裁判の審理とは切り離して買い取り価格の一部400億円がTBS側から楽天に支払われている)。

革新企業としてのグーグル
 米グーグルはネット検索では世界的には6割以上のシェアを持ち急速に成長している。PCのネット利用者に検索やメールを提供。さらに無料ソフトの提供拡大で顧客を増やしている。その革新性はネットの無料サービスを拡大していることで強まっている。批判があるとすればその結果としての独占状態についてである。
 独占に対する批判への配慮があるからだろう。無料ソフトやコンテンツ拡大によって支持を増やしている。この戦略は成功している。Googleは独占者としてより革新者として記憶されている。ネット広告収入が順調に拡大。支持者を増やすための各種費用を吸収している。2007/7-9 Sales 4.231 billion $前年同期比較57%増.net profit 1.07 billion $。前年同期比46%増。07/9末の従業員1万5916人。
 検索の世界シェアで6割以上とほかを圧倒。米だけでは5割超。2004年8月上場。
動画共有サイトvideo hosting serviceのユーチューブ買収16.5億ドルなど買収戦略も活発だが敵対的買収がみられないことも特徴だ。
 世界の主要大学図書館や出版社と提携して「電子図書館」サービスを始めており最大1000万冊を電子化する。2004年にすでにスタート。2007年7月アジアの大学としては初めて慶應義塾と提携している。
 2007年4月 ネット広告大手のダブルクリックの買収発表31億ドル。またラジオ最大手のクリアチャンネルコミュニケーションズと広告仲介で提携。
 2007年8月 サンマイクロシステムズの業務用ソフト「スターオフィス」の無償開始。
 2007年11月携帯ソフトの無償で無償ソフト「アンドロイド」提供。2008年後半以降、無償ソフトを搭載した携帯出る。従来より1割安くなる。これまでのソフト業者はノキア:高機能機OSでは7割以上。英のシンビリアン社など。

なぜ楽天のイメージは悪いのか
 グーグルと違って楽天のイメージはよくない。なぜだろうか。 
 2006年末に公正取引委員会が、ネット上の仮想商店街を運営する楽天、ヤフー、DeNAの3社に対して、出店社に対して優越的地位の乱用など独占禁止法違反にあたる行為をしている可能性を指摘する報告書を公表した。
 ネット取引では取引が特定のサイトに集中することが起こりやすいが、そのサイトを運営する側がその有利な立場を利用して、出店者に法外な手数料や手数料の値上げなどを要求することは十分考えられる。
 ネット取引市場は順調に拡大している。2006年度に3兆8200億円の個人向けネット通販市場は、2011年度末には6兆4300億円に拡大する見通しである。PCの普及に加え、携帯電話を通じた取引の拡大が予想されている。すでにケータイを通じた音楽配信の急拡大がこの拡大の十分な予兆となっている。また個人間の競売市場であるネットオークション市場も2005年度ですでに1兆円を超える規模に成長しており、2010年度には2兆8000億円にまで拡大するとされている(2008年当時の予測)。その中で楽天は出店料の値上げを繰り返した。楽天の前身であるエム・ディー・エムの創業は1997年2月。楽天のサービス開始は同年5月でまさにこの事業の草分け的存在である。ところが楽天は2002年3月に出店料について一律5万円の定額制をやめ(この定額手数料も高すぎるとの批判があったが)、売上高100万円を超える部分について2-3%の従量制に変更した(売上高100万円未満の無料化)。その後、2004年12月には2005年から2006年にかけて、売上高100万以下について無料の方針をやめて4%を取るように変更した。また2005年7月には宿泊予約サイトについて、手数料を従来の宿泊料の6%から7-9%に同年9月から引き上げるとした。これらの値上げは、値上げについて話し合いや交渉の余地はなく一方的な通知だったとされている。楽天については、このような強気のビジネススタイルへの不満が、その評価を下げる面があったのではないか。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
0riginally appeared in Mar.7, 2010.
Corrected and reposted in October 8, 2010.
鈴木謙也 株式取得価格申立事件の審理についての一考察 東京大学法科大学院ローレビューVol.9 2014年10月
大崎貞和 日本企業の買収防衛策における独立委員会の機能 資本市場ウィークリー2008年winter
現代の証券市場 証券市場論 企業戦略例 経営学 現代の金融システム

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