Entrance for Studies in Finance

東証と大証が統合で合意(2011年11月22日) など取引所再編進む

取引所再編の背景
 金融取引のグローバル化
 国際的に展開するATSと取引所の競争 取引所の株式会社化 株式公開
 金融の電子化 取引所はシステム産業になり規模の経済性が働くようになる 更新投資も必要
  →物理的な場所は必要なくなる 私設取引と取引所が競合
 従来の取引所の機能(①取引の場の提供 ②自主規制 ③上場会社に対するガバナンスなどのルール提供 ④企業への評判の付与)が分解(アンバンドリング)(→神田秀樹氏の指摘)
 デリバティブ取引強化の要請

東証と大証 2013年1月に経営統合で合意(2011年11月22日) 統合協議入り合意(2011年3月11日)
 日本国内では大証(1949年設立 2004年に上場を達成 デリバの取引規模は東証の9倍 2010年にジャスダック証券取引所を統合 世界取引所時価総額ランキングで28位 純利益では東証と互角 株主は4338人 筆頭は米フィデリティ 海外投資家が66%を保有)はデリバへの注力 ジャスダックの統合などの動きを行っているが、国際的な動きからは孤立。機関投資家ですら運用の主体を国内債券にして、国内株式の比重を減らしている。個人投資家もまた株価指数先物や外為証拠金取引などを売買の場所とする傾向。PBRが1倍を割っても買いが入らず1日あたりの東証1部の売買代金1兆円割れが増えている。
 東証(1949年設立 2001年株式会社化 上場はまだ 現物株の取引規模は大証の22倍 世界取引所時価総額ランキングで3位 営業収益で大証の2倍 純資産で大証の2.3倍 株主は2001年当時の取引参加社107社)は、システムを更新したが、再編についてはこれまで目立った動きを見せていなかった。東証は 株式取引の90%以上を集中 PTSシェアも2%に届く程度 欧米ほどの危機感がないと指摘される。しかし以下にみるような国際的な再編の流れからの孤立が指摘されるなか、3月2日にNYSEユーロネクストと取引ネットワークの相互接続検討を発表。続いて3月10日には大証と経営統合に向けた協議入りを発表した。月内に基本合意、2012年秋にも統合の実現を目指すとした。
その後の2011年11月22日の発表(両トップによる基本合意は11月18日)によれば、2012年夏ころに東証グループにより大証への公開買付(1株あたり48万円 買い取り株数を66.6%とした上限付きTOB)を実施して、大証を子会社化。その後、大証を存続会社、東証グループを消滅会社とする吸収合併(逆さ合併)を行って2013年1月に経営統合する(公正取引委員会の審査に要する時間に配慮して当初予定の2012年夏を変更)。統合比率は大証1に対して東証グループが1.701とのこと。新社名は日本取引所グループ(すなわち2013年1月1日に日本取引所グループが発足する)。 取引所の合併により重複するシステム関連経費の節約を見込めるほか、両取引所をまたぐ新商品の開発なども見込めるとのこと(「金融財政事情」2011年12月5日, 8)。システム統合により開発経費の削減などの効果、投資家にとっては証拠金一本化による節約が見込める、証券会社にとってもシステム対応負担の軽減につながるとのこと(「エコノミスト」2011年12月6日, 14)
 取引所の合併は、規模の拡大により、価格の安定、スプレッドの減少、ボラテリティの低下により、価格発見機能の効率化に役立つことが期待されるが、東証と大証の場合、現物株ではすでに売買の東証への集中が見られる。東証の現物株のシェアは95%(現物株で圧倒的シェア)。東証一部上場1670社にかつて多かった重複上場は減少して657社(39%)となっている。機関投資家の売買の中心は東証にある。しかしそれでも市場が分散している状態に比べて市場の統合は証券会社にとって、コスト軽減になるであろう。また東証は現物株中心の市場である。欧米では、指数先物、指数オプション、ETFなどが伸びている(これらの市場は上場管理がシンプルで収益率が高い)。東証にとってデリバテヴに傾斜している大証との経営統合は、収益力を改善することにつながるかもしれない。
 2012年1月4日 両社は公正取引委員会に合併審査を申請した。審査には半年程度かかる見込み。両取引所でほぼ100%のシェアといった合併がそもそも認められるのか。(⇒潜在的競争や国際的競争の論理などで説得できるか 産業活力再生法の適用を金融庁に申請 金融庁が国内外の競争環境を説明する意見書を提出 統合審査を後押しする見通しとのこと)
 参照 宇野淳「東証・大証統合に向けた課題」『金融財政事情』2011年12月12日, 38-41
 しかしシステム統合は難事業であり、円滑に進むかはについては、私自身は早くも不安を感じる(システム統合には合併後なお1ないし2年かけるとのこと)。競争がなくなり統合後に利用料を引き上げるのではとの懸念もみられる(N20111123)。取引所が信頼されていないのだ。主張されているコスト削減効果が実現するか、しっかり見届けたいところだ。また市場の国際化をにらんで、日本株の現物株市場が低迷している状況で、日本の市場同士が統合しても、どのように国際的プレゼンスを改善できるかは不明だ。国際戦略を描く上で、このような国内の取引所同士の統合は力不足かもしれない。(なお残る札幌、名古屋、福岡の証券取引所は地元経済界の意向で日本取引所に合流しない可能性があるとのこと。参照「エコノミスト」2011年12月20日, 23)
 
大証OSE 国内株式売買代金シェア 1990年には20%台 2009年3%台まで低下 2010年の上場企業数減少は50社以上
   生き残りへデリバに注力
  2011年2月14日朝より最新のデリバテイブシステム(ナスダックOMXグループ)を導入稼働
  注文処理速度平均5ミリ秒 従来の20分の1まで短縮
(2011年3月15日日経平均は一時8227円まで下げた。日経平均先物は一時7800円をつけた。当日昼間、菅直人首相の記者会見での発言。に加え2月14日に大証派信システム

  2010年末ナスダックOMXグループは大証に対して日本での新市場設立を打診

  2000年にナスダックジャパンを開設するも2年後にナスダックが撤退した
  2008年12月 ジャスダック買収 2010年10月 ジャスダックを傘下ノヘラクレスと統合
  2009年に業務提携覚書締結
  2010年12月 東京工業品取引所とシステムバックアップセンター共同化発表

東証TSE 2007年1月にすでにNYSEと業務提携で合意
2008年の東証 システム問題を多発 投資家の信頼低下 2010年1月 新システムに切り替え
 国際的提携を大きく制約している要因の一つに東証自身の株式の上場延期問題がある。東証は2001年に株式会社化。その株式の上場を計画したもののたびたび延期。
2009年3月の発表では2010年度以降に延期。
 LSEと共同でプロ向け市場TOKYO AIMを創設
 NYSEユーロネクストとネットワークの相互接続の検討を開始している。

金融商品取引法 東証など金融商品取引所の株式を単独で20%以上保有することを原則禁止 外国の取引所については認可を受けた場合も単独保有を50%以下に制限 海外の取引所を傘下にする場合は取引所市場の開設とそれに付帯する業務に限定する現行の専業義務が制約になる(大崎氏の指摘)

BATSによるChi-X Europeの買収発表(2011年2月18日)
このNYSEユーロネクストとドイツ取引所の経営統合報道直後に、Bats agrees to buy Chi-X Europe, Bloomberg BusinessWeek, Feb.18, 2011米の私設取引システム(PTS)大手のBATS Global Marketsグローバルマーケッツ(米国で株式売買シェア 10%強3位 2005年設立 高速システム 割安手数料で台頭)が同業のチャイエックスヨーロッパChi-X Europe(PTS欧州最大手 野村HDが34%出資)と買収すると発表した(2011月2月18日) 2011年4-6月期までに買収完了を目指す。BATSはこのほかブラジルで私設取引所開設の意向がある。
Bloomberg BusinessWeekによれば直近の1週間のヨーロッパでの株式取引のシェアは以下のとおり。
 ロンドン証券取引所 21% NYSEユーロネクスト 17% Chi-X 16% BATS 5.7%
つまりBATSとChi-Xが合併すると、ヨーロッパでの株式売買シェアはロンドンを抜いて最大(22-23%)になる。このように首位を譲り渡すことはロンドン証券取引所の歴史からみて画期的な出来事かもしれない。その後 この話(BATS Global Markets and Chi-X Europe)は買収の合意として2011年2月21日に正式に発表された。
 また欧州証券取引所連盟がまとめた1月の欧州の株式市場出来高(金額ベース)では
 ロンドン証券取引所が21%, Chi-X(チャイエックス)が16%、NYSEユーロネクストが15%、BATSが6%、ターコイズが3%
電子取引所の6社計は25%

NYSEユーロネクストがドイツ取引所と合併に向けた協議入りを発表(2011年2月9日) その後 年内の合併で合意(2月15日)
 年内の合併で合意 2011年2月15日正式発表。金融危機後 現物株取引が低迷 買収金額95億3000万ドル(約8000億円)統合後の新会社はオランダに登記 ニューヨークとフランクフルトに本社機能
 NYSEはすでにNYSE Liffe(旧ロンドン国際金融先物取引所)を傘下 今回の併合の狙いはドイツ取引所傘下の世界最大級のデリバテブ取引所であるユーレックスの取り込み
 NYSE(2010年末の上場会社数2300社あまり 時価総額13兆ドル強)
 ドイツ取引所(同上760社強 時価総額1兆4000億ドル)
 NYSEユーロネクストの2010年の純収入は25億ドル EBITDAは11億ドル
 ドイツ取引所は28億ドル 16億ドル(先物オプションなどデリバに強く収入と利益でNYSEユーロネクストを上回る)
 さらにこのドイツ取引所を上回る存在がCME(シカゴマーカンタイル取引所)
 ドイツ取引所側約6割NYSE側約4割で最終調整 合併すると上場時価総額は約18兆ドル(世界全体の3割)
 2010年の現物株売買の世界順位 1位 NYSEユーロネクスト 2位 ナスダックOMX 3位 上海 4位 東京 5位 深曙V 6位 ロンドン 7位 ドイツ 8位 韓国 9位 香港 10位 トロント 
1月末の両市場の上場企業合計時価総額は約18兆5900億ドル    
 2007年4月 NYSEユーロネクスト発足に続く大きな国際再編になる可能性がある。しかし後述するようにこの動きより早くBATSとチャイエックスヨーロッパの買収も動き始めており、市場の支配者がだれになるのか事態は混とんとしている。
 なおユーロネクストは2002年にパリ、アムステルダム、ブリュッセルの証券取引所が合併したもの(2000年9月 フランスなど欧州3ケ国の取引所を統合するユーロネクストの発足)

 NYSE 上場されている銘柄が同取引所で売買されるシェア2004-2005年には8割超えていたが、38%(2011年1月)にまで低下。 
 背景には私設の電子取引システム(国境を越えていつでも注文を出せ、売買機会を失わなうことが少ない)の台頭がある。デリバテイブ強化が課題になっている(現物株の売買高では首位のNYSEユーロネクストは、デリバの売買では世界で4番目になっている。2010年のデリバ出来高順位 1位 韓国 2位 CME 3位ユーレックス(ドイツ取引所傘下)。電子取引所の台頭 米国内で株式売買シェア低下。業績も低迷。先物デリバに強いドイツ取引所との合併で収益源を多様化、ハイテク株のナスダック デリバのシカゴマーカンタイルと対抗する狙いがあるとされる。すでに
 2007年7月 シカゴマーカンタイル取引所CMEとシカゴ商品取引所CBOTが統合 CMEグループが発足 
 2008年2月 米ナスダックがOMX(スウェーデン)を買収 ナスダックOMXグループが発足
 2008年9月 リーマンショック

 ドイツ取引所も電子取引所の台頭 とくにチャイエックスが急速に台頭していることを念頭に欧州株で3位の取引高のNYSEユーロネクスト取り込みで銘柄数増やして利便性を向上させること 合併によるコスト削減効果などの狙いがあるとされる。またすでに2007年12月 米国のインターナショナルセキュリティーズ取引所ISEを買収

 ドイツ取引所とNYSEユーロネクストが合併で正式合意 ロイター2011年2月16日 文書は2月15日付け 統合後の出資割合はドイツ側が60% 全17人の取引所取締役のうち10人がドイツ側。NYSEユーロネクストの1株に対して新株は0.47株。ドイツの1株に対して新株は1株。なお合併後、ロンドン国際金融先物取引所が加わることでヨーロッパの先物取引のシェアが90%以上になることが懸念材料として浮上している。

LSEGとTMXGが経営統合で合意(2011年2月9日) 
 なおロンドン取引所(2007年夏、イタリア取引所を買収)とカナダのトロント取引所を持つTMXグループが合併する合意の発表が、この間に行われている(2011年2月9日)こちらの両取引所の上場企業の合計時価総額は約5兆8800億ドル(1月末現在)
 2011年2月17日 サンパウロ証券取引所を運営するBM&Fボベスパ 中国の上海証券取引所との間で21日に提携に向けた覚書締結を発表

アジアでも香港・シンガポールで動きは急速
 2009年2010年ともアジアの株式売買首位は上海証券取引所
 シンガポール取引所(SGX シンガポール航空 不動産のキャピタルランドなどが上場 2010年9月末時価総額5973億ドル 世界順位22位)はオ-ストラリア証券取引所(ASX 資源大手のBHPビリトン、リオ・テイントが上場 2010年末の時価総額1兆3186億ドル 世界順位12位)買収で合意 2010年10月25日 TOB実施を発表している(2011年末までにASX-SGX発足) 全株取得で約84億豪ドル(約6630億円) 実現すれば上場銘柄2700以上 時価総額で1兆9159億ドル 世界8位の取引所誕生 2011年前半に両国政府の承認を得て2011年中の買収を完了してASX-SGXを年内に発足させる計画
2011年4月8日 SGXとASXの統合が豪政府の反対により破談した
 韓国取引所(KPX) ラオス政府と合弁でラオス証券取引所を設立(2011年1月11日取引開始 上場は2社)
 ラオス証券取引所(LSX) 2010年10月 ラオス中央銀行が51% 韓国取引所が49%出資して設立 資本金2000万ドル 午前10時と同11時半の1日2回売買注文ヲシステムで一括処理。今後注文量屋上場銘柄が増えた段階で連続的な約定への移行を検討 ラオス国内で設立され政府から認可を受けた証券会社に口座を持つ投資家が参加できる
 韓国取引所 2011年7月取引開始のカンボジア証券取引所の運営にも参画 ベトナムでは次世代システムを受注

「電子取引所の台頭に危機感」『エコノミスト』2011年3月1日, pp.17-18
 神田秀樹「進む取引所再編 金融技術と自由化が背景」『日本経済新聞』2011年3月10日
大崎貞和「第二幕が始まった国際的な取引所再編」『金融財政事情』2011年3月14日, pp.32-36.
 大崎貞和「取引所再編と日本 規制の壁 戦略の壁に」『日本経済新聞』2011年3月15日 

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. Corrected and reposted in Dec.20, 2011.

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