Entrance for Studies in Finance

東アジアのトライアングル

中国と韓国との関係が在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備問題などで冷却化すると、中国は日本との関係を修復し始めた。他方、中国は台湾の蔡政権(2016年5月発足)に対する圧力を強めているが(象徴的であるのは台湾を外交承認する国の減少で、2018年5月1日にドミニカ共和国が台湾と断交し中国と国交を樹立。台湾を外交承認する国は19か国となった)、結果として韓国と台湾が結ぶ着く可能性もあり、そのことは韓国から台湾への観光客増加に現われている。台湾は中国との経済交流が深まるなかで、台湾系企業が中国本土で活動することを阻止できなくなっており、経済的側面から台湾が中国本土(大陸)から離れなくなる可能性は高い。人とカネの両面で台湾から大陸への流出は始まっており、経済規模の格差からこれを阻止するのは容易でないだろう。だとすれば、その状況を前提にして(敵対的にではなく友好的に中国との交流を図りつつ)、なお政治的な自立性をどのように維持するかという困難な課題に台湾は取り組まざるをえない。この問題の構図は日本も無関係ではないのでないか。

さらに根底にある問題は、日本、韓国、台湾のいずれもが、高齢化、人口の縮小、低成長への移行という問題を抱えていることではないだろうか。それゆえにこうした地域にある企業は、より高い成長率を維持している国や市場に業務範囲を広げる必要性に迫られている。しかし国によって、微妙な課題の違いが浮かび上がる。

まず日本の中国依存度は、韓国や台湾ほどではない。この点で日本は相対的に余裕がある。確かに日本では生産年齢人口が減少に転じ(1995年)、労働人口が減少に転じ(1999年)、ついには総人口が減少に転じている(2005年)。高齢人口は人口の7%を超え(1970年)、14%を超え(1995年)、ついには20%を超えている(2007年)。日本の失業率(2018年6月)は2.4%。若年失業率が3.8%。消費者物価指数(全国 総合)の伸びは0.7%(2015年基準 前年同月比)。2017年年平均では0.5%。失業率の低さと物価の上がり方が低いこと、これが日本社会の安定を支えている。社会経済問題としては、このような人口の減少が始まっているなかで、空き家の増加が日本全国で目立つようになっている。住宅建設を抑制するべきだという声がありながら、デフレ脱却を掲げる政府は新規住宅建設抑制に踏み切れていない(野澤千絵「住宅過剰社会」)。住宅についてはっきりしている論点は、耐震性や耐火性の低い住宅については防災のためにも除却を進める必要があるということ。また税制の在り方を、新規住宅建設から既存住宅改修など既存住宅活用にシフトさせることだろう。また高齢化社会における介護や福祉問題も避けて通れない問題になっており、その持続性や財源について国民の間に不安や疑問が生じているのは事実である

台湾は、中国への依存度は高い。またこれを下げるのは容易でないだろう。ただ民主化が進んだほか、内政がうまく回っている。台湾の失業率(2018年3月)は3.66%で過去18年で最低とのこと(2018年5月の失業率は3.69% 6月が3.68%。消費者物価指数の伸びは2018年5月が1.64% 6月が1.31%)。台湾の景気は悪くないわけだ。失業率の低さは日本に近く、物価上昇率は韓国に近い。ただ台湾も日本と同様に高齢化と人口の増加率の減少に悩んでいる。国際的にみて出生率が極めてひくく、生産年齢人口の減少が2015年をピークに始まっている。企業は海外展開を図ることで生き残りを図っている問題は日本と全く同様である(台湾で発達した形態としてEMSがある)。ただその依存の程度は、日本とは大きく異なり、かなり深くなっている。当然であるが、中国への依存・一体化を主張したり支持する人たちも少なからずいる。高齢化の問題については、儒教倫理が大きくは崩れていないなかで、家族・社会の助け合いにより深刻化を免れるのではないかとされている。道徳的な価値観を壊さないことが、社会の安定装置になることをこのことは証明しているように思える。台湾社会の安定を支えているものとして、民主化の成功とともに、健康保険制度の普及を挙げることができる。現在のところ、全民健康保険制度と呼ばれる制度の維持について台湾政府は自信をもっているようだ。これは社会福祉制度の維持について、不安が高まっている日本の状況と大きく異なる点である。日本との関係では、台湾は日本の友好国である。日本社会はこの台湾の信頼にこたえる必要があるのではないか。

中国への依存度が高いうえに、内政の課題を多く抱えるのが韓国である。韓国の失業率(2018年5月)は平均で4.0%とされるが、若年失業率(15-29歳)が10.9%と高い(2018年5月の失業率は4.0%  若年失業率が10.4%。6月は3.7%と9.0%。つまり5月に18年ぶりという高い若年失業率が記録されたが、翌月に劇的に低下している。)消費者物価上昇率は5月1.5%, 6月も1.5%。日本から見て韓国の政治が不安定にみえる背景には、若者の就職不安(に示される社会の不安定さ)が背景にある。また創業家支配が続く韓国の財閥が主導する経済システムへの国民の不満も鬱積している。企業グループ内の循環出資は日本の持合いと同様に支配構造を不明確にしている。人口の高齢化が韓国で急速に起きることや、人口の減少が起きることなど、日本と類似した問題を韓国が抱えることも時々指摘される。高齢化が急速に進展する背景に、先ほど述べた若年層における失業の高さが指摘されることがある。また高齢層の貧困の割合が韓国では突出して高いという指摘がある。若年層の失業と高齢層の貧困、この2つに挟まれた形の韓国の社会は、日本と台湾に比較して社会の不安定度は大きい。自殺率の極端な高さ(競争社会で社会的格差が大きいことが背景)をみても、韓国は根本的な社会経済システムの改革を必要としているようにみえる。ただその改革の選択肢がそれほど多くないことも事実で、それが韓国社会の逼塞につながっている。日本と関係ではやはり反日感情(韓国の反日感情)を無視できない。

中国は朝鮮半島の現状を変更しようとする韓国の動きを警戒しており、また台湾が独立志向を強めることを警戒している。対中依存度の髙い両国に対して圧力を強めている。台湾に対しては、外交的な包囲網で孤立化を図る政策を強めている。他方、中国は日本が、韓国や台湾と連携する構図は避けたいと考えていることも明らかだ。三国は互いの立場の違いを理解し、この情況を互いに利用することで、それぞれの政治的自立性という目標を確保するべきではないか。

参考文献

 許粹烈「日帝下朝鮮経済の発展と朝鮮人経済」

 陳振雄「戦後の台湾の経済発展における農地改革の役割について」『地域政策研究』5巻1号、2002, 59-79

 福地亜希「中国経済の減速 アジア経済への影響」東京三菱経済レポート2015/03/30

   陆生麻辣问马 2015/12/18

 安倍誠編『低成長時代を迎えた韓国の社会経済的課題』IDE-JETRO, 2016年3月

 鈴木透「東アジアの低出産・高齢化とその影響」『人口問題研究』72巻3号、2016年9月, 167-184

 村上和也「変化するアジア経済の対米・対中依存度」三井住友信託銀行調査月報2016年9月号

   核心となった習近平 2016/12/22

 武藤正敏「韓国人に生まれなくてよかった」ダイヤモンドオンライン 2017/02/14  格差社会 受験競争 教育費 就職競争 結婚における新郎側の負担 徴兵制

   马英九谈台独:没有国家宣布独立两次  2017/03/02

   香港青年渴望移民台湾 2017/03/07

   南韩贫富差距大 2017/05/05

 韓国の自殺率はEU平均の2倍以上 2017/05/28

   蔡英文総統への支持率の急落 2017/07/15

 真壁昭夫「韓国経済は財閥依存」ダイヤモンドオンライン 2017/08/15

   马英九回应 台湾人为什么不愿意与大陆统一  2017/11/22

   悪化する韓国の対中関係 2017/12/16

 金明中「なぜ韓国の高齢者貧困率は高いのか」ニッセイ基礎研  2018/01/16  公的年金制度が未成熟なのに韓国政府は制度の持続性を優先して高齢者を切りすてた。・・・安倍政権がやろうとしている制度の持続性を優先する政策が高齢者の貧困につながることがここから想像される。

 韓国 大学生 史上最悪の就職難 2018/02/05

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 世界幸福度報告書における順位 2018/03/15 156ケ国のなかで台湾26位 日本54位 韓国57位 幸福度ランキング詳細

 平塚宏和(みずほ総合研究所)「台湾経済の現状と展望」2018年6月
蔡英文 面对中国打压 2018/08/17

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