Entrance for Studies in Finance

増資インサイダー事件で野村証券に行政処分(2012年8月3日)

増資インサイダー事件と引受主幹事証券のモラル
増資インサイダー事件:2008年から2010年 メガバンク 国際石油開発 日本板硝子 東京電力などの大型増資に際して問題になった。これらの増資は新株の発行規模が発行済み株数の2-5割以上 海外依存度高い 増資発表前後から売買高急増 株価が急落したところで発行価格が決まるなどの共通した特徴があり、増資を情報を得たインサイダーが売り浴びせをして巨額の利益を得たことが疑われていた。空売りの決済に増資新株を充てることを禁じたのは2011年末。
 これらの問題になった複数のケースで、情報元として引受主幹事の野村の名前が浮かんだ。2011年6月29日に野村は記者会見を開き、同社の内部調査の結果として、情報の漏えいを認めた。
 もちろん、インサイダー取引をして不正な利益を得たファンドも厳しく処断されるべきだが(たとえば米ヘッジファンド「ホイットニー」系の金融商品取引業者「ジャパン・アドバイザリー」が摘発を受けたが、ジャパンアドバイザリーでは増資情報など未公表情報の提供を証券会社側に求めて、その情報の価値で証券売買手数料の配分:発注数量を決めていたとされる。証券会社を処分するだけでなく、このように証券会社に対して違法行為を競わせる悪質なファンドの息の根を止めることも大事だろう。なお裏の事情として国内投資家に消化力が十分でないために空売りすることを承知でヘッジファンドに割り当てているとも議論されている)、引受主幹事として情報漏れを防ぎ、高い発行価格を目指すべき引受主幹事証券が裏では、情報を内部で流し売り方に回っていたのは、道義的(モラル的)にも問題があると考えられる(同様の問題はSMBC日興証券、そして大和証券でも発覚した)。
 このような同一の会社がやっている、引受という別の営業行為での顧客の信頼を裏切って売り方に回る、儲かればいいといった考え方は、問題が多い。こうした違法行為あるい反モラル行為が「業界の常識」、問題でない営業行為となっている、世間からはずれた証券会社の道徳的感覚(引受主幹事証券としての責任とブローカー行為は無関係、銘柄名を明示しなければいい、周辺情報からの推測はいい、といった甘い考え)には多くの問題があるといえよう。
 この問題をめぐってはインサイダー取引とは別に、増資手続きを厳格にする問題がある。増資は株式の希薄化であるから、本来は株主の権利を保護する観点からさまざまに規制されるべきだが、日本の場合、法律上も慣行上も緩やかになっている。ただし摘発を強化し、規制を強めれば円滑な増資には支障が出てくる面もあるので、両者の間でバランスは必要である。しかし、発行済み株式数との比較で一定比率以上の増資について株主総会での承認を義務付けること、あるいは増資は株主割当方式を原則とすること、などの規制強化は十分議論されてよい。法制化が困難であれば取引所のルールとしておいてもいい。

 証券取引等監視委員会の調査で2010年に野村が引受主幹事を務めた3件(国際石油開発、みずほフィナンシャルグループ、東京電力)の公募増資で情報を外部に伝えた問題が発覚
 6月29日 野村 営業社員らの増資インサイダーへの関与を認めた調査報告発表
野村H/野村証券「調査委員会の報告および当社としての改善策について」2012年6月29日
     外部の弁護士による調査で、公表前の公募増資情報の取得(正確には公募関連情報の推定)が半ば恒常的に行われていたことを認定
      当該職員4人 解雇もしくは自主退職
      関連部署担当役員2人を退任
      機関投資家向け営業の5日間自粛 新規引受に関する営業を3日間自粛
      機関投資家向け営業部署の廃止、渡部CEOの報酬カット(5割6ケ月)など社内処分
      なお渡部CEO(営業の現場経験が浅いとの指摘がある 2008年4月にトップ リーマンブラザースの欧州アジア事業買収 野村をグローバル化させた ただし野村の海外事業はその後赤字続き)「辞任する気はない」と明言した

 この渡部CEOの対応の結果 引受で野村を外す動き広がる
 政府関係機関 主幹事選定後変更
    日本政策投資銀行の財投機関債
    住宅金融支援機構の財投機関債や資産担保証券 
 社債 関西電力の社債 主幹事選定外す
    新日本製鉄の社債 主幹事選定外す
    りそな銀行 劣後債
    日本生命など生保3社の基金債  
 株式 日本たばこ産業の政府保有株売却で主幹事選定から漏れる
    日本航空の再上場 すでに準備を行っていた統括主幹事GCから除外(7月23日までに日航が野村に通告 大和がGCを単独で行うことに)

 7月26日 渡部賢一CEOがようやく辞任会見。
 野村H/野村証券「改善策の進捗状況および追加調査について」2012年7月26日

 背景には、証券取引等監視委員会が8月上旬にも野村証券を行政処分するように金融庁に勧告。金融庁が行政処分をする方針が明らかになっていたことも大きい。この間の不正に対して、不正行為期間に野村のトップとして在職していてまさに責任のある渡部氏が、留任を続けることは許されない事態だったといえる。トップの辞任により行政処分の内容は、業務停止命令でなく業務改善命令にとどまったとされる(8月3日)。
 証券取引等監視委員会「野村証券株式会社に対する検査結果に基ずく勧告について」2012年7月31日
 金融庁「野村証券株式会社に対する行政処分について」2012年8月3日
 後任の永井浩二氏は4月に野村証券の副社長から社長に昇任していた人物。近年の野村のトップに比べて営業の経験が長いとされる。野村の営業の体質の改革のかじ取りがうまくとれるかは未知数だ。

金融商品取引法改正 2013年通常国会にて
 これまで規制対象に含まれていなかった情報漏えい者も処分対象とする。
 事業会社やその株主など インサイダー取引が成立した場合に限り処分対象
 証券会社の場合     インサイダー取引の有無にかかわらず対象
 課徴金は増資やM&Aなどの引受手数料全額

必要なこと → 上場会社は役職員の株式取引の全面禁止をするべき


 資料:「増資インサイダーの摘発 金融庁の意図」『金融財政事情』2012年7月23日, 6-7.

インサイダー取引の禁止(2010年12月)
金融機関からみのインサイダー取引事件摘発続く(2012年)
増資インサイダー事件と引受主幹事証券のモラル
 
  

 
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