Entrance for Studies in Finance

SNS; video hosting; virtual worlds


概論
 インターネットの登場と普及は私たちの日常生活を大きく変貌させた。証券市場の講義をするとき、触れる話題の一つは、個人の株式取引がネットを通じたものが主流になってきていることである。しかしネットの使い方はそれだけではない。幾つかの話題を考えてみよう。

social networking service:SNS
 2006年8月末にTom Cruiseのパラマウント映画との専属契約が、パラマウントの親会社Viacom会長で大株主のSummer Redstoneの意向で一方的に解除された一件は話題を呼んだ。Viacomはパラマウントのほか音楽専門放送有線放送網のMTVNを抱えるメディア資本として知られる。Redstoneは9月に入るとViacomのCEOであるTom Frestonを辞任に追い込んだ。背景には2006年1月にCBSを分離して以来、CBSの株価は上がったのにViacomの株がジリ貧になっていることへのRedstoneの苛立ちがあるとされる。Redstoneは83歳という高齢。多くの若い人たちがYouTubeで音楽や映像を共有し、MySpaceのsocial networking(その日本版が2004年2月に始まったミクシィ*である)での情報交換に時間を使うように変化していることを実感できず、次の戦略を描けないとの声も強い。二人のTomの解雇はその苛立ちの末の八つ当たりだとされた。
*ミクシィは日本のSNS最大手とされ、2006年9月には東証マザーズに上場している。社長は笠原健治氏。会員数が増えると閲覧数が増え、サイトに掲載する広告収入が増えるビジネスモデルである。
そのMySpaceを2005年9月に5億8000万ドルで買収したのはメデイア王Rupert Murdoch(1931-)が率いるNews Corp(英国のThe TimesとSunday Timesを81年 20世紀フォックスを84年 93年StarTVを買収。 The Independentのほか米国のFox Sky Televisionを支配。CNNも相当株を保有)。

video hosting service
 これに対抗するかのように2006年10月9日に2005年2月の設立後急成長したYouTube(Chad Hurley CEO;Steve Chen CTO)を16億5000万ドルで買収することを決定したのはEric Schmidtが率いるGoogle Inc.(founder Larry Page)であった。 YouTubeなどvideo hosting serviceに対して、既存メディアは対応を迫られている。ViacomやNewsは敵対的であるが、TimeWarner, Disney, BBCなどはむしろ活用の方向にある。
 しかし考えてみるとMySpaceにもvideo hosting機能はある。YouTubeはそれが中心の機能だが。ということは両者に大きな差はないようにも見える。SNSの提供するサービスや匿名性にはレベルがさまざまある。MySpaceは実名による会員登録を前提だが既存会員の紹介は不要である。ミクシィは会員の紹介が前提。制作した情報の公開範囲は、ミクシィは会員限定だがMySpaceは会員などに制限したり、ネットに広く公開する選択ができる。
 2006年11月 ソフトバンクは米ニューズと提携しMySpaceの日本語サービスを開始したことを発表した。このスピード感は自体はすばらしい。 
 2007年5月にカナダのトムソンがイギリスのロイターを事実上買収し、金融経済情報分野が、ロイタートムソン連合と米ブルームバーグの2強体制に変化した。これはブルームバーグの独走態勢への対抗と考えられた。
 折も折り、Murdockが今度は同じ2007年5月にダウジョーンズDJを実質支配するバンクロフト家に買収提案を行い、Murdockの保守性がメディアをゆがめる可能性が議論された。DJは有力経済紙WSJの親会社。Murdockの狙いはWSJの情報をほかの媒体で活用する点にある(マルチプラットフォーム戦略)。このDJをバンクロフト家は普通株の10倍の議決権をもつ特殊株の8割を保有して議決権の64%を支配している。同様の特殊株による支配は、NYTのサルツバーガー家、ワシントンポストのグラハム家などにもみられる。種類株のなかで拒否権をもつような株を黄金株という。このようにアメリカのマスコミは、オーナー家による種類株を駆使した支配という特殊な支配構造をもつ。他方でグローバル化の流れは情報コンテンツの統合が勢いを増している。
 Murdockの対抗馬として現れたのはフィナンシャルタイムズを傘下に収めるピアソンで、ピアソンは傘下に経済情報チャンネルCNBCを抱えるGEに呼びかけ共同してDJ買収提案を行おうとした。しかし高額の買取条件の提示で2007年7月17日DJの取締役会は買収提案受け入れを決め、決断はオーナー一族に委ねられた(その後2007年12月DJの株主総会で買収が最終的に認められている)。
 RedstoneやMurdock批判をみていると、強烈な個性を持つ人間が、情報産業買収に手を広げようとしたとき、警戒の声が上がるのは洋の東西を問わない現象だと思える。日本ではライブドアーフジテレビ、そして楽天ーTBSのケースが印象に新しい。

Googleの一人勝ち
 なおコンテンツ産業の統合や、情報の無料化の流れの中での新たなビジネスモデルの開拓などが、背景にあり、この無料化の流れの中心にいるのがGoogle*である。Microsoftがソフトにより囲い込みを続けて嫌われたことに対抗して無料ソフトの提供に力を入れている。グーグルは2007年8月すでに提供している無料ソフト群グーグル・パックにサンマイクロシステムズ製作の業務用ソフトスターオフィスを加えると発表した。
*ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが共同創業者。2001年にCEOにエリック・シュミットが招かれた。
 Googleは検索サイトとしての優位性からYahooを米国ではすでに凌駕したことが知られる。これはYahooがポータルサイトのディレクトリ型スタイルにこだわりロボット型検索技術の開発で遅れたのに、Googleがロボット型検索技術で優位性を持ったことが関係している。Googleが実現している検索結果のスピードや客観性は利用者に支持されている。しかしGoogleの寡占は同業者から批判を受けている。
 Googleの収入源は検索結果にあわせた広告の表示(contents matching adコンテンツ連動型広告)である。さらにページ内容に合わせた広告affiliate(associate)*。自社サイト以外へのサイト内容に沿った広告AdSenseを展開して収入を伸ばしている。従来型のバナー広告に依存するYahooは出遅れ減収が目立っている。
*日本の関連上場各社を前期経常利益でみるとファンコミニケーションズ>バリューコマース>インタースペース>アドウエイズ(N7/04/04)
 他方でこのようにボータルサイトではなく検索サイトからネットに入る利用者の行動変化に合わせて、検索結果上位への表示する技術であるsearch engine optimization(SEO)の売り込みも盛んになっている。なおGoogleはデル、モトローラ、KDDIなどと、Yahooはインテル、ノキア、ソフトバンクなどと提携している。
Googleは検索に広告を連動することでコンテンツを無料提供するという新しいビジネスモデルを展開した。大学図書館と提携して蔵書をネットで読めるようにする図書館プロジェクトは話題を呼んでいる。これを実際に見るには日本語で「グーグル図書館プロジェクト」あるいは英語でGoogle Book Searchを検索すること(日本版は「グーグル・ブック検索」で2007年7月5日開始)。なお論文検索サイトGoogle Searchは自然科学論文検索には使える。2007年9月からはAP通信などメディア4社の配信ニュース全文を掲載するサービスも始まった。
 2007年8月にGoogleは携帯電話を無料で提供する構想を発表し社会に大きな衝撃を与えた。この衝撃は2007年4月13日に発表されたネット広告サービス大手Double Click買収の合意(現金で31億ドル 円換算3700億円)に続くものだった。Double Clickの買収がマイクロソフトと争った上での成果であり、ネット広告でGoogleの優位が不動になることを意味しており、意義が各方面から出されている。Googleは2006年秋には、映像配信サイトYouTubeを株式交換方式で16.5億ドルの買収を成立させており、Google一人勝ちの様相が強まっている。
このようなフリー化の流れは各種のフリーペーパーにも見られる。もちろんこれは従来型のメディア産業に大きな脅威となっている(参照 歌田明弘「メディア産業に走る亀裂」『エコノミスト』June 12 2007).
NewYorkTimesは2007年9月19日から、これまで有料だった電子版での過去記事検索や独自コラムの閲覧を無料化した。これは紙の定期購読者には無料で提供していたもので、検索エンジン経由の記事アクセスが実際には多く、有料化継続による収入(22万人年50ドル年1100万ドル12-13億円)よりは閲覧者数を増やし広告単価を増やすことにカジを切った判断とされる(なおDJを買収したMurdochもWSJ電子版の無料化を早速指示したといわれている)。

現実世界と仮想世界のニアミス
最近の問題として注目されるのは、ネット上のバーチャルな世界(virtual worlds)で稼いだお金(バーチャルなお金)が、現実のお金と交換されるRMT(real money trade)という仕組みである。この結果、仮想空間でのゲームや売買が経済活動として意味を持ち始めている。
 また仮想空間の中に現実の企業がお店を出したり、あるいは世界中の人々が集まって会話を楽しむといったことが起こっている。アメリカのリンデンラボが運営するSecond Lifeが有名だが、日本でも「スプリューム」が2007年3月にスタートしているほか2007年12月には「ミートミー」の試験サービスが始まっている。
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

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