ラーメン食べに行かない?

都心の繁華街はまだ行き交う人も多く、ときどき甲高い笑い声が響いていました。

私は仕事を終え、家路を急いでいました。

カツ、カツ、カツ……

突き立てたヒールが固い歩道に跳ね返され、それにあらがうように、もう片方のヒールを一歩先の歩道に突き立て、また跳ね返されることの繰り返し。

信号を渡ると、飲み屋から出てきたとおぼしき十数名の男女が固まりになって歩道を占拠していました。タバコのにおいもします。タバコから顔を背けて息を止め、人間と人間の間にできたわずかな割れ目を探しては、こじ開けるように集団を抜けます。何とかタバコの煙をやり過ごすと、集団から少し離れて男性がふたり立っていました。まあまあのイケメンです。先ほどのグループとは別のようです。

「お姉さん」
ひとりが近づいてきました。
「ラーメン食べに行かない? ラーメン」

ラーメン? もう10時を回ってるよ。こんな時間に脂たっぷりのラーメンなんて、ありえない。それに、声をかけてきたのは男ひとりだけど、連れの男がもうひとりいる。対してこっちは私ひとり。男ふたりに囲まれて質問攻めに遭っても嫌だなぁ。パス。目も合わせずに無言で通り過ぎることに決め。

すれ違い際にも耳元で
「ねぇ、ラーメン」

イケメンだったので完全無視もかわいそうだと思い、片手だけ上げてパスのサイン。こんな時間にラーメンで釣れる女なんかいないって。

ところで、前にもラーメンでナンパされたことがあるのですが、「ラーメンを食べる」というのは何かの隠語でしょうか。額面どおり解釈してよいのでしょうか。