みぃちゃんの頭の中はおもちゃ箱

略してみちゃばこ。泣いたり笑ったり

突然のことでした

2008年09月16日 23時08分50秒 | 日常のあれこれ
突然のことでした。

仲よしの女友達の家に着き、ドアをノックすると、しばらく時間を置いてドアが開きました。

初めて友達の家を訪ねるわくわく気分は、一瞬で吹き飛びました。

玄関に現れた友達は、口にタオルを当て、うつろな目で、生気が完全にうせていました。先週、終電になるまで盛り上がった元気は見る影もありません。

柱や家具に手をついて、かろうじて立っていました。

部屋に戻ろうと一歩を踏み出しても、かかとが親指の前に出るか出ないかといった程度です。静止した水面に何とか浮かび、さざ波に揺られるのさえ はばかるような足取りでした。

1週間ほど前に体調を崩して救急外来の世話になったと聞いていました。それ以来、メールには抜け殻のような状態だとも書かれていましたが、メール本文はしっかりしており、私への気遣いにもあふれた文面でした。

その友達がフラフラになっています。私に心配をかけまいと気を張っていたのでしょう。

部屋に戻ると、友達は横になりました。

「頭を動かすと気持ち悪いの」

横になったままタオルで口を押さえ、吐き気を催しにくい頭の位置を求めて、ずるりずるりと体をずらしていく友達。

ときどき、ウッとうめいては、苦しそうに吐きます。

出てくるのは黄色い胃液だけ。

「引き出しの2段目にタオルがあるから……取ってきて……」

新しいタオルを手渡し、汚れたタオルを引き取りました。

どうしたらいいんだろう。

どうしていいか分かりません。

突然のことでした。

その日は、友達の家を訪ねて、実際にパソコンを使って仕事の手順を説明することになっていました。ふたりで作り上げた企画がようやく動きだそうとしていた矢先のことでした。

私の目の前で、大切な友達が、頭痛と吐き気で苦しんでいます。

テーブルの上には、水の入ったコップがありました。

友達は、すするように水を飲みました。

「ごめんね。今日はお仕事するはずだったのに」

「そんなことは どうでもいいよ。私ひとりでも できるから。今日は遊びに来るつもりだったし。ゆっくり休もうよ」

下降線をたどっていた体調が、悪い出来事が引き金となって一気に崩れたようです。

友達は、ウッとうめき、また黄色い液体を吐き出しました。

何も吐くものがないのに、まだ吐くなんて。

私は胃腸が弱く、吐き気を催したことも何度もありますが、ここまでひどい吐き気に襲われたことはありません。ましてや、胃液ばかりを吐き続けたこともありません。こんな状態で看護されたこともなければ、こんな状態の人を看護したこともなく、どう処置していいかまったく分かりません。

目の前には、私の想像を超えた苦痛にあえぐ友達が横たわっています。

どうしたらいいの?

私にできることは何?

とりあえず、流しに行って、汚れたタオルを洗いました。念入りに洗うと、タオルは水浸しになりました。

冷たいタオルを頭に載せたら多少は気が紛れるかも。

友達の頭にタオルを載せました。
「気持ちいい」

これくらいしかできない私って何? 私が何とかしないといけないのに。

「今日、みぃちゃんが来るから、頑張ってお部屋を片付けたんだよ」

私のお部屋よりずっとスッキリしてるよ。具合が悪いなら、そんなに無理しなくていいのに。

友達は、またウッとうめくと、立て続けに3回吐きました。生々しい黄色の液体はタオルからあふれ、クッションに染みを作り、ワンピースに落ち、畳の上を流れました。

こんなに吐くなら、タオルが何枚あっても足りません。洗面器、洗面器……。

友達は、その後も断続的に吐き続けました。

食べるどころか、水さえ飲めずに吐き続けるなら、衰弱するのは時間の問題です。

「救急車を呼ぼうよ」

救急車を呼ぶのには少しためらいがありました。最近、救急車の安易な利用が社会問題になっています。今回のケースはコンビニ受診に該当するのか、しないのか。でも、私ひとりでは友達をタクシーに乗せることができません。救急車を呼ばなきゃ。

住所が分かるものは?

部屋の中を見回すと、封筒が目に留まりました。

「これ、借りるよ」

救急車を呼ぶのは初めてです。どういう展開になるのかドキドキします。意を決して119番にダイヤルしました。

「今、来るからね」

救急車を待つ間も、友達は断続的に吐き続けました。

やがてサイレンが近づいてきました。

「来たよ。呼んでくるから待っててね」

玄関から飛び出し、道路に向かって大きく手を振りました。

3人の救急隊が部屋に入ってきました。

私は、救急隊の指示に従って毛布を用意したり、靴を用意したり。戸締まりも忘れちゃいけない。あ、さっき吐いて服が汚れちゃったんだっけ。たんすを引っかき回して着替えを用意します。どこに何があるか分かんないよー。コーディネートなんか気にしてらんない。トップスとスカート、インナーだけ、とにかく引っ張り出してバッグに押し込みました。

あとは救急隊にお任せ。キンキンに冷房の効いた救急車の中では、隊員が手際よく友達の体に電極を取り付け、機器につないでいきます。

救急車に同乗して、救急外来へ。友達は脈拍も心電図も安定しているようで、一安心。

この日、友達の家に来ることになっていたのは、不幸中の幸いでした。友達はひとり暮らしをしています。私が来なければ、友達は誰にも助けてもらえずに、ずっとひとりで苦しみ続けたはずです。

ここまで来れば大丈夫。すぐに楽になれるよ。あと少しだけ、頑張ってね。



付き添い日誌の目次は → こちら

オールナイト覚悟」 ← 付き添い日誌の前の記事はこちら。
付き添い日誌の次の記事はこちら → 「たったひとりで


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。