タンザニア、ムワンザ
ナイルの源川、ビクトリア湖沿いにある小さな村。
人間発祥の地といわれているビクトリア湖周辺の村人は湖の恵みにより生計を立てる。
だが、ヨーロッパ向けに輸出されるようになった「ナイルパーチ」によってビクトリア湖の生態系が180度変わった。
村人の生活はさらに540度変わった・・・
「ナイルパーチ」はビクトリア湖の在来魚ではない。
誰かが放流し、今では世界の養殖場と化している。
仕事と言う名の外来魚がビクトリア湖周辺の村に何を与え、何を奪ったのか・・・
「ダーウィンの悪夢」はそんなドキュメンタリー映画だ。
「生きるのは難しい。俺たちは文無しだ。ろくな教育も受けていない」
魚を研究する施設の夜警をしているラファエルは、言う。
夜警の仕事は前任者が勤務中に鉈により切り刻まれ死んだために回ってきたという。
泥棒には毒を塗った矢を放って殺傷する。
闇に浮かぶ、ラファエルの充血した目と黄ばんだ歯が不気味に笑っているように見える。
ビクトリア湖の漁は夜明けとともに始まる。
漁で採れた魚は、加工工場に運ばれロシア人が運営する飛行機によって日に2便、運ばれる。
毎日、200万人のヨーロッパ人がここの魚を食べている。
専用の滑走路脇には、墜落したと思われる飛行機の機体が2つに割れたまま放置されている。
積載オーバー、管制塔の無線が壊れたまま、などが原因だろう、離着陸の事故が多発する。
工場主は「ナイルパーチ加工工場は順調だ」という。
だが「今は景気が悪い」ともいう。
採算を合わせるには、安い賃金で村人を雇い、安い賃金で漁師から魚を買う。
ロシア人の飛行機は最も安いという。「1回で55トン運べるなんてすごい」
そうして利益を上げている。
レポーターが必用に質問する「飛行機がやってくるときは何を積んでるんだ?」
返答は必ず「空っぽ」 誰に聞いてもそうだ。
ロシア人と聞いて、やはり武器の輸送を想像するのは苦じゃないのかもしれない。
昔はここの周辺アフリカ諸国への武器輸送中継地だったともいわれている。
だが、確証はなし、確証を掴んでもこの事情では、解決することはかなり難しいだろう。
ある人は「武器が積んであるのを見た。飛行機はアンゴラに向かった」と言っていた。
アンゴラと言えば今夜、U23サッカー日本代表が親善試合で戦った相手だ。
やってくるパイロットは決まったレストランへ行く。
そこではウェイターがいて生バンドが演奏し、声をかけてくるのを待つ女性たちがいる。
女性ボーカルのエリザが、インタビューに答えている。
そのエリザは後にホテルで殺された・・・
エリザの写真を見ながら「ここに来るお客さんは冷酷だ」と語る女性たち。
不の温床はこういう場所からも生まれている・・・
ムワンザには教会がある。
村人はゴスペルを歌うことで神の存在を確かめ、歌っている時間、現実から逃避している。
唯一、このシーンだけが幸せの欠片が伺える。その他全部、全てのシーンは悲惨だ・・・
牧師が言う、「この村では毎月10~15人の人が死ぬ」
エイズ、DV、虐待、アルコール中毒、ドラッグ、略奪、無学、無職・・・・・
あらゆる原因が死を招く村。
片足のストリートチルドレンがインタビューに答えている。
親はエイズ、事故、病気などあらゆる原因で死んでいる。
ストリートチルドレンのほとんどの家が漁師という現実。
仕事にありつけても食べてはゆけない現実。
加工した魚を包装する発砲スチロールを火に入れる子供たち。
立ち上がる煙に顔を入れている。
村の青年が言う「ドラックの代わりに煙を吸ってるんだよ」
この村を蝕んでいる原因は1つ。
「貧困」
貧困は売春を生み、売春はエイズを蔓延させる。
エイズにより親を亡くした子供はストリートチルドレンとなる。
体力のあるストリートチルドレンは略奪や喧嘩に明け暮れる。
だが、やがて、体力を失うと、生きる力もなくしてゆく・・・
貧困により人は無気力になり、様々な行動へと駆り立てる。
DV、虐待、アルコール、ドラッグ・・・
貧困と言う名の病原菌が蔓延しているこの村に進むべき道があるのか・・・
「神の教えではコンドームを使うことは罪」だという。
牧師でもこの村を救うことは難しい・・・
何の気なしに口にする輸入食品。
最近の日本では、冷凍輸入食品に話題が集中しがちだが、そのほかの食品にも生産から食卓に並ぶまでの歴史が存在する。
その歴史の裏では、このような事態が起きていることを忘れてはならない。
「人はパンのみに生きるにあらず」
「貧困」から人を救う鍵は、いったいどこにあるのだろうか・・・
内戦を繰り返しているアフリカの国々はまだ良いほうだろう。
貧困と戦っている国は、力なく衰退の一途を辿っている・・・
どちらの国も、生きるために戦っているのだろうが、他人の命には、いとも簡単に鉈を振う。
教育という名の武器を持ち、貧困から脱出できる日が来ることを、ただただ願う。
「貧困」という現実に直面している国の現状を伝えてくれる、貴重な映画でした。