Good Life, Good Economy

自己流経済学再入門、その他もろもろ

The New Middle Class

2009-02-15 | Weblog
The Economistが新興経済諸国の中間層について特集記事を組んでいます。全体的なトーンは、中間層の台頭が経済発展と政治的安定に果たすポジティブな効果を強調しており、MITのBanerjee, Duflo, Acemogluらのアカデミックな貢献がその理論的バックボーンとなっています。

中間層の増大と経済発展のリンクは、(1)消費、(2)人的資本形成、(3)企業家精神などのエートス、(4)所得分配と民主主義等々、多面的です。記事では、中間層の消費行動が新種のイノベーションを誘発する、としてタタ・モーターズが2,500ドル程度の価格帯で売り出した自動車ナノなどを例として挙げています。途上国の貧困層が肥沃なBOP市場(Bottom of the Pyramid)を潜在させていることは夙に知られるようになっていますが、経済発展による中間層の増大がビジネスチャンスの拡大を意味することは想像に難くありません。ナノとともに引き合いに出されているのが、同じインドの銀行であるICICIのモバイル・バンキングですが、これもdemand-drivenなイノベーションの例だといえます。

さらに中間層の特徴として、教育投資に熱心であること、エリート層に比べ企業家精神に富んでいることなどが指摘されます。これらが経済成長の駆動力であることは論を俟ちません。

しかし、中間層の台頭と民主主義の関係については一筋縄ではいかない、としているのは意味深長です。中間層の多様性は政治的分裂を招く危険性を孕んでおり、最近のタイの政治的混乱やスリランカの国内紛争などは、比較的広範な中間層を有する国であっても、あるいは、あるがゆえに生じている事象だといえます。

にも関わらず、中間層の台頭は政治的安定に資する、という結論は動かしがたいようです。中間層の増大による所得分配の平等化はエリートと貧困層の政治的対立を緩和し、社会の安定に寄与すると期待されます。事実、NYUのEasterlyは中間層が大きくなればなるほど、革命やクーデタといった社会的混乱を示す指標は低くなるという関係を見出しています。

以上のように、この特集記事は新興経済諸国における中間層の勃興がもつ意味を、極めて簡潔・明瞭に描いて見せます。とすれば、さらに先進国-とりわけ日本における中間層の位置づけについて思いを馳せてしまうのは必定でしょう。個人の振舞い方としては、例えばダニエル・ピンクが「ハイ・コンセプト」The Whole New Mindで描いてみせた「6つの感性」-デザイン、物語、全体の調和、共感、遊び心、生きがい-がとても魅力的な導きの糸になってくれそうに感じています。

では、社会デザインとしてはどうか?うーん、と考えていたところ、たまたま今日読んだ今北純一著「マイ・ビジネス・ノート」(文春文庫)にベーシック・インカムならぬ「ベーシック・キャピタル」というコンセプトが紹介されていました。ベーシック・キャピタルとは、国がすべての国民に最低限の資本を貸与する、という考え方です。今北氏の議論のミソは、ライフサイクルの終期に偏ったセーフティネットである年金制度に対し、20-30代の人生のディベロップメント・ステージに資金を貸与する社会制度を導入することにより経済を活性化しよう、という狙いにあります。もちろん、このアイディアそのままで実現可能かどうかは議論の余地があると思いますが、成熟社会が活力を維持していくための思考実験として、興味深いものがあります。