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グリッロ、イタリア総選挙、デジタル・ポピュリズム

2013-02-26 | Weblog

2月25日に開票が行われたイタリア総選挙は、モンティ政権の改革路線を継承する中道左派が下院の過半数を確保したものの安定多数には至らず、今後の政局運営に暗雲をもたらす結果となった。ロイターは「市場の見地で想定しうる最悪の結果」(同国金融関係者)とのコメントを引き、欧州債務危機再燃への懸念を伝えている。

今回の総選挙で耳目を引いたのは、何よりも元コメディアンのベッペ・グリッロ氏率いる「五つ星運動」Movimento 5 Stelle (M5S) が大躍進を果たしたことだ。M5Sは下院で25%の支持を得るとともに、上院でも54議席を獲得した。Bloombergの記事によれば、M5Sは「反緊縮的なアジェンダでユーロに関する国民投票と公的な政党助成の廃止を掲げ、イタリアのユーロ圏離脱はタブーではない」という立場をとっているとのこと。

かくいう私もグリッロ氏という人物については、つい先日までほとんど何も知らない状態だったが、英国のシンクタンクであるデモスが公表したNew Political Actors in Europe: Beppe Grillo and the M5Sというレポートにより、若干の知識を得た次第である(なお、デモスは欧州のデジタル・ポピュリズムに関するレポートを積極的に発表している。例えば、こちら)。

デモスによれば、グリッロ率いるM5Sはソーシャル・メディアの活用によって、この3年の間にゼロから主要な政治勢力になるまでに成長した。イタリアの既成政党がソーシャル・メディアに乗り遅れる中で、Web世界でのグリッロの存在は傑出している(2012年11月時点でフェイスブックのフォロワーは70万人を超えている。これに対し、例えば中道左派のベルサニ氏のフォロワーは14万6千人余り)。デモスはフェイスブックを使用し、グリッロの支持者に対しサーベイを行い(有効なサンプル数は1,865人)、彼の支持層の特色を炙り出している。

サーベイのファインディングスを幾つか挙げてみると、

1.グリッロのフェイスブック・ファンのうち、63%が男性、37%が女性。30歳以上が64%。イタリアのフェイスブック・ユーザー全体では30歳以上が51%なので、「M5Sの支持者は若者が多い」という印象とはやや違っている。

2.グリッロのフェイスブック・ファンのうち、54%は最終学歴が高校で、イタリア全体の34.8%を上回っている。大卒の比率もイタリア全体よりも多く、レポートでは「イタリアのデジタル・ディバイドを反映している」と評価している。しかし、グリッロのファンの19%が失業中であり、イタリア平均の7.9%を大きく上回っている。学生は18%に過ぎず、ドイツ海賊党のフェイスブック・ファンのうち36.3%を学生が占めるのとは対照的である。レポートでも、「M5Sの支持者は、若くて高学歴」というイメージとは些か異なっていることに驚きを隠していない。

3.「過去6か月の間にボイコットやストライキに参加したか(参加する意思があったか)」という質問にイエスと答える層は、イタリア全体の平均より明らかに高く、グリッロのファン層の政治的アクティビズムは顕著である。

4.18項目の社会・政治的関心事のうち何を重視するか、という問いに対しては、第1位が「経済状態」、第2位が「失業」で、経済への関心の高さが際立っている。右寄りのポピュリスト政党に顕著な移民への関心は、グリッロのファンの間では決して高くない。面白いのは、「移民はイタリアにとって、より問題だ」とする者が39%なのに対し、「移民はイタリアにとって、よりチャンスをもたらす」とする者が56%を占めている点である。イタリア全体では、前者が48%、後者が28%に逆転する。

5.総じて、グリッロのファンはイタリアの未来に対して悲観的である。イタリア全体の統計数値よりも悲観的な回答をしており、30歳以上の層に特に顕著である。

6.グリッロのフェイスブック・ファンは、自らを概ね中道左派と見なしている。また、EU、政府、政党等に対する信頼感は、イタリア全体の平均よりも低い。逆にインターネットや中小企業に対する信頼感は高い。

レポートでは、フェイスブック・ファン層の回答はM5Sの反エスタブリッシュメント的な立ち位置と整合的と評価している。欧州では政府や議会に対する信頼感は低下の一途を辿っているが、グリッロはソーシャル・メディアを使い、反既存政党のスタンスを明確にし、一気に躍進を果たした。その一方で、Meet-ups(オフ会)のようなオフライン・アクティビズムも効果的に活用している。

M5Sは既成の政治システムに風穴を開けた。しかし、同時にそれがイタリア、引いては欧州の経済危機の再燃を招く危険性も孕んでいる。しばらく欧州情勢は目が離せない。それが日本にどう波及するかも含めて。

(デモスは今後、ドイツの海賊党や、ギリシアのシリザに関するレポートの公表も予定している由。)