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自己流経済学再入門、その他もろもろ

経済成長とモラルに関するメモ

2013-12-30 | Weblog

Benjamin M. Friedmanの著書The Moral Consequences of Economic Growth(2005)は、「経済成長と社会のモラルとは正の相関がある」という仮説を、米国史などの事例をもとに論証した浩瀚な書物である(『経済成長とモラル』という邦題で訳本が出ているが、訳本は未読。ただし、原著も斜め読み程度です)。Amazonの紹介文によれば、「本書は...アメリカを中心とした世界各国の事例をもとに、経済成長と人々の社会のモラルとの関係を詳細に分析したものである。著者によればこの2つには正の相関関係 があり、経済成長が国民の生活水準の向上をもたらすと、多様性の許容、階層間の流動性の上昇、公平性への指向、デモクラシーの重視といった社会的道徳心の向上がみられる」、とされる。

同書によれば、1865年以降の米国史は以下のように区分される。

1.ホレイショ・アルジャー時代(1865-80)

2.ポピュリスト時代(1880-95)

3. 革新主義時代(1895-1919)

4.クラン時代(1920-29)

5.ニューディール時代(1929-39)

6.公民権時代(1945-73)

7.反動時代(1973-93)

8.それ以降(1993-)

このうち、1、3、6、8は順調に経済が成長した時代(同書が2005年に発売されたことに注意)、2、4、5、7は経済が停滞した時代であり、前者においては社会の開放性、寛容性、流動性、公正性が拡大し、後者においては、ニューディール時代を除き、社会がより閉鎖的、非寛容、停滞的、非公正になったとするのが、同書の中心的な主張である。また、同書ではこの後、英国、フランス、ドイツについても同様の傾向が観察されるとしている。「経済成長は格差を拡大させる」という議論はしばしば主張されるところであるが、おそらく事態はそう単純ではない。

しかし、同書はマクロかつ通史的な視点から議論を進めているため、反証を探すことはそれほど困難ではない。例えば、上杉忍著『アメリカ黒人の歴史 奴隷貿易からオバマ大統領まで』(2013)では、1874年頃から革新主義の時代にかけてを黒人にとっての「どん底の時代」として描いている。革新主義の時代は黒人排除を前提としていたのであり、「革新主義的改革は黒人にほとんど何の利益ももたらすことはなかった」。

経済の動向と社会の寛容性・公正性の相関は、極めて興味深いテーマである。ここではこれ以上、論を進める用意はないが、未読ながら、思想史的側面からこの分野に深く関わっているのではないかと思われる作品として、マイケル・サンデルの『民主政の不満』が挙げられる。同書は経済史、経済学史の分野で取り上げられることはほとんどないようだが、米国の経済思想発展史ともいえる内容を含んでいる。ケインズ経済学以前の米国経済学の伝統として共和主義的な発想が重んじられている(「公民性の政治経済」)が、その中心的主張のようである。


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