相台万朗波瀾バンジョー 不思議な話
不思議な話
近所の爺さんが死んだんだって。そうそう、山火事にあって焼け死んだのよ。今、会ってきた。おふくろが話してくれた。
かわいそうに、もう炭になって顔もわからんで布団に寝かしていたという。爺さんは足が不自由で段々畑の畔の草に火をつけ、その火が山に移ったようで爺さんは無我夢中で火を消そうと足の不自由を忘れて山に入った。
当然火の周りも早く、爺さんは木の二股に足を取られ焼け死んだということだ。
おふくろは婦人会の人たちと忙しく葬式のお手伝いに奔走していた。
ところが、お葬式の二つ日後、ある方が車のバックミラーに真っ黒い人が写るという噂がひろまった。話題の少ない小さな村にあっと、ひろまった。私も私もカブ(50ccのバイク)に乗りふと振りかえるとうしろに真っ黒い人が乗っていたと。また新しい噂がひろまった。
そこは「かまきり峠」と言って爺さんが死んだ山だ。峠には隣の村とつなくトンネルがあった。
山水が天上から滴り岩むきだしのトンネルがあった。当然、トンネルには灯りもなく暗かった。「出べそ」のようなバスの女車掌が「オライ・オーライ」と誘導しなければ通れない狭いトンネルだった。
山の上からオーイ・おーいと誰かが呼ぶ声が聞こえる。登ってみると誰も人らしい気配も感じないという。
きっと、焼け死んだ爺さんではないかと噂だ。
どこも噂で話題は尽きない。仕方く近所の人が寄合のように集まり、真剣に話し合っていた。
神主様にお願いして一度、お祓いした方がええな。と大人たちの話がやっとまとまった。それまでおばけの怖い話を聞かされていた私は寝るに寝られない。
テレビもなく大きな真空管のラジオがわが家にドゼンと座っていた。思い出した、アメリカのケネディー大統領がダラスで暗殺されたニュースを深夜に聞いたあの時代だ。
結局、15キロ離れた町の神主様に来ていただき、また大人たちの宴会がはじまった。
神主様の話に障子を挟んで、となりの部屋で聞いていた私はこの世におばけが出ても不思議でない。とにかく怖かった。
村の人たち数人と神主様は爺さんが死んだ現場に行きお清めしたらしい。不思議と以来から不思議な現象な無くなった。
14年前に帰ったらトンネルは広くなり道も舗装され昔の思い出はなかった。今は両親もおばあちゃんなく、みんな死んじまった。
見上げれば雲の流れはそのままだった。あしたは晴れそうだ。
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