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旧える天まるのブログ
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ニートクリスマス ナ・ナ・ナ

2017-11-18 19:09:17 | ニートクリスマス前編

前回
⑤ニートクリスマス スキック

ナ・ナ・ナ
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Sony Music Labels Inc.





 暫し、クドウと同棲生活を過ごした。その後、俺も工場の面接を受けて年内中に就職をして年を越そうと師走を走り出した。

 日曜の早朝に中卒野郎が週刊版の赤旗新聞を俺の家に届けにくる。
中卒野郎は、朝は赤旗の新聞配達をして。昼は町工場で働く生活を何年も続けていた。
俺は日曜版を読んでいた。赤旗は熱血新聞のイメージがあるが、意外と柔らかいタッチの記事も多い。
スポーツ記事もあり、世間が思ってることも書いてある。将棋では新人戦などが主催されてもいる。
漫画も載ってあり、過剰な感じというより男女とも見やすいタッチでお堅い内容の漫画でもない。

 中卒野郎は日々真面目に暮らしている。
「真面目に暮らしてなければ」という生活環境でのプレッシャーもあるんだろうな、と、俺は思って居たり、「警官より立場が低いのによくやってるな」と、この頃は思うようになった。
政府に物事を申してる分、下手なことをすればマイナスの反動も大きい。俺みたいな男と付き合っていたら、世間的に中卒野郎にはプラスにはならないのに俺は中卒野郎のイメージダウンの片棒を担いでるし、中卒野郎より上から目線の俺の癖が治らない。

「今度俺、結婚するんだよ」
「おまえのおふくろの親戚だ」
「おまえとは義理の親戚になるな」

 中卒野郎はどこで知り合ったのか?知らないが準看護師の娘と結婚するようだ。
聞くところ俺の親戚で中学を出て家族に心配をかけたりもしたが、中卒野郎と知り合って準看護師になり、今度結婚するらしい。容姿のいい娘だけあって、中卒野郎には勿体ない気もしたがチャラい男に捕まるよりかはマシなのかとも思った。

「これちょっと早いけど、記念にどっかに飾ってくれ」

「お、ありがと なんだこれ?」

「いわさきちひろの水彩画が書いてあるサイン入り色紙だ」

「いわさきちひろ?おい!こんな高価な物、受け取れないよ」

「よく見ろ複写だ」
「原画は本人のだけど、写真を色紙に印刷したものだ」
「赤旗配達してると、こういうこともあってな」

「ありがとな」
「おふくろが嫁を紹介したのをいいことに、偉そうな顔をするかもしれないけど」
「お幸せにな」

(中卒野郎も結婚か)
(中学の頃、学力テストであいつは誰から見てもビリだった)
(俺は下から二番目の成績のときもあって、あいつがいなければ俺がビリだった・・)
(あいつは社会人として俺より一人前だな)

(俺はカッコつけた見栄もあったけど、地味に工場で働くか)
(プロボクサーになることを考えたり)
(この頃じゃ道端に金でも落ちてねーかとか、FXで儲ける夢とか見てて)
(儲ける方法ばっか考えてて)

(気付いたら家でゴロゴロしててよ・・・)
(新聞の金だって親父が払ってるんだからな)
(俺)



(そんな中にクドウが俺の家に来て)
(風呂にも一緒に入って)
(目が覚めたっていうか)

(なんていうか・・・)

(考えちゃうとまた、デレデレしちゃうな・・・)

Perfumeメドレー
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 そんな慌ただしい師走の夕方。クドウから居酒屋で飲もうと誘いがあった。
そこにはカノが居て、どう見ても場違いな感じで3人で会った。俺は一瞬席をどこに座るか?迷った。



 けれど、クドウが俺に微笑みを浮かべ間近に座るよう俺を誘導した。カノは顔色を変えずに俺たちを見ていた。



(前に会った時は)
(クドウの方が遠慮した顔をしていたのに・・)



(クドウは俺が来た途端、俺に気を使いまくっている)
(カノにも甘ったるい声で会話をし)

 クドウは居酒屋で合流した3人の中で、一番幼稚な声を出していた。



カノは俺と目が合うと

「そうだったのかー」

と、会話の相槌の中で出てくるセリフで、俺の顔を見ながら

「そうだったのかー」
「アララギくんってそうだったのかー」

終始おれに「くん」をつけ「そうだったのかー」をループしていた。

 俺とクドウとカノの場違いと思えるような居酒屋での飲み会。
俺とクドウの立場を考えクリスマス間近だということを感じさせないように。
感じてるけど「平常心です」見え見えの忖度な飲み会だった。

「ニート中の俺たちに、クリスマスも正月もへったくれもない」

という表向きな顔が、俺たちから見え隠れしていたのだった。



 俺がクドウとこうしていられるのも、カノとの間で何もなかったからなのだ。



もし、あの時クドウ経由で俺がカノのところへ行っていたら、今のクドウとの状況はなかった。
クドウで止まり、俺はカノに対する異性への気持ちは消滅した。

 俺とクドウがここの居酒屋でイチャイチャしたあと、カノとイチャイチャする関係は二度と来ないと感じた。俺はカノに下心を抱くことは二度とないと、そう感じたのだ。



 カノとクドウと俺と居酒屋で飲んだ夜、3人とも満遍なくほろ酔いだった。
カノはあの時ヤケ酒でも飲んで来たかのような素振りでムラがあった。今宵のカノは最後まで酔った素振りを見せなかった。

 

ラスト・クリスマス (シングル・ヴァージョン)
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カノはクドウと俺を家の側にある公園に置いて、夜の暗闇へタクシーで消えて行った。



 カノとはこの夜がラスト・クリスマス。カノがクドウに渡したクリスマスプレゼントの中身は、クドウにしか知りえないこととなっていた。



その夜からクドウは



俺に愛情があるかを確かめるかのように



俺に耳を傾ける。

これまでよりクドウは話を聞いてくる。



その表情はふたりだけの時に見せ、その先に何かを求めていた。

キャント・スリープ・ラブ (ダニー・L・ハール・リミックス)
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次回
⑦ニートクリスマス マスト・ビー

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ニートクリスマス スキック

2017-11-14 02:43:24 | ニートクリスマス前編

前回
④ニートクリスマス燃える欲望

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リアリ・スティック
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ポニーキャニオン




 クドウは監獄のお姫さまで出てくるような俺の家服に着替え、俺の家で24時間過ごすことになった。海外ではトゥエンティフォーだ。



 俺の家が監獄=プリズンなら、男性目線の少年漫画。プリズンスクールのような万人ウケするような男性の心をえぐる方向でもいいのだろうけど。



 プリズンプリンセス。少女漫画のような、女性の心をえぐってしまうとなれば好き嫌いがあっても不思議ではない。だってクドウは女なのだから、女は好き嫌いを主張してもいいはずだ。
男はピーマンが嫌いでも、大人になるまでに食べられるように克服しようとする。女は嫌いなものは大人になっても「嫌い」と主張し、それがある意味女性的なスタイル。

「あたしピーマン嫌い」

そこにケチをつけた男は嫌われる。食物連鎖どころか嫌われ連鎖になる。

 少女漫画のプリンセスの前では「好き嫌い」がハッキリと浮かび上がる万人ウケしない方向が正解なんだろうか?

「そうよ男子」「クドウを女として扱うべきよ」

(なんか耳鳴りがした)



 俺の家ではあるが、俺の家でも主役はクドウなのだ。クドウが俺を「嫌い」と言わずに俺の家で24時間過ごすことになった。



 俺とクドウは体育で知り合った、いわいるアスリートな関係。ふたりとも恋人のような恋愛表現の言葉を交わしたことはまだなかった。



それが「休もうか」のあとに



まるで解放された時間を過ごすように、ふたりは大人の気分になっていた。

 これからが、俺はクドウに恋愛関係である言葉を交わさないといけない。
その先にある世界と向かい合わなければならない。トゥエンティフォーラブ。



 クドウが俺の家服を着て過ごした翌日の夕方に俺のおふくろが俺の家に訪ねてきた。
俺の両親は、個人経営者。おふくろと親父で合資的経営で生活をしている。俺の食事も用意し、俺のおなかが空いた頃に、総菜弁当などを持ってくる。おふくろは専業主婦。家事が苦手でおふくろの居場所になるために親父が経営者になった。親父は夜のバイトをし、おふくろと事業資金の穴埋めをしていた。
俺も就職中。俺の給料の一部をおふくろの事業資金に補っていたが、今は俺は無職中でおふくろとの仲は最悪だった。

 高校を卒業し、就職した頃から俺はおふくろに家事や会社で食べる弁当の事で文句を言うと決まって

「嫁をもらえだっち」

嫁をもらえばすむことだと、俺の勤めてた会社にまでカップ麺を平気で持ってくるようなおふくろだ。
遊行費と私服代を省いたあとの給料は家に収めていた。給料日前の何日かは親をあてにお金を貰っていて、そのため俺はおふくろに頭が上がらなかった。

 最初に勤めた2社は俺がだんだん会社に居られなくなって転職したのだった。
俺の給料日になると、おふくろはカレーライスを作って俺の帰りを待っていて、俺はそれがストレスだった。カレーライスを食べながら、俺は給料の一部をおふくろに世話をしてもらった分より足りないと文句を言われ。

「先月これだけ出して、タダで食べさせてあげたのに」
「今月これだけしか持ってこないだっちか?」

「うるせー こんな金いらねーくそ!!」

「食べ物を粗末にしてだっち 感謝しないからだっち!」

俺も仕事の疲れもありイライラし、給料で貰った札束と食べかけのカレーライスを部屋中にぶちまけ大暴れするので俺の給料日の日はいつも修羅場となり近所迷惑だった。

 興奮した俺はいつも、ぶちまけた札束を拾うおふくろの姿を見ては、哀れに思い後悔をしていた。
俺は中卒野郎におふくろの話しをしていたが、中卒野郎もさすがにこう続くとなんと言っていいのか?わからない顔をしていた。そして3度目のニートになった俺の両親は一緒に住むのが心苦しく感じ、両親は別な場所で寝泊りをしていた。

 クドウは俺のおふくろが訪ねて来た時、緊張した様子だった。
食事を用意している最中だったがおふくろに挨拶した後、キッチンを向いたまま目を合わさなかった。

「お茶美味しいだっちな」

「職場でよく お茶をお出ししていたので」

「ほお」

俺もおふくろの機嫌をとるために履歴書を書いてたことを話した。おふくろもさすがにクドウの前では、俺がカレーライスの日に札束を叩きつけ大暴れしたことは話さなかった。

 クドウが俺に食事を作り、久しぶりにおふくろと手料理を食べた。大学で独り暮らしの経験もあり、料理もちゃんと出来ていた。親父にも食べさせたかったが、その日の親父は夜勤工場でバイト中だった。



翌日の午前。今度は親父が訪ねてきた。夜勤明けで疲れているのに、わざわざクドウの顔を見に来たようだ。

 クドウはおふくろと同様、深々と親父にもお辞儀をした。俺の親父は昔、クドウの両親とPTAの役員を一緒にやっていたこともあって、クドウも親父とは顔見知りだった。

「ご両親お元気か?」

「はい」

俺の親父は軽い会釈をし、戻って行ったが、クドウは俺の親父のこともよく覚えていた。

「アララギのお父さん人当りいいし、優しいもんね」

「うん 家でも真面目であんな調子だ」





 クドウが俺の家に来てから、まず、関心をもったのは本棚に置いてあった実務本だ。俺が買って置いてたギャグ漫画には一切触れず、親父が持っていた古い実務本を手にして読んでいたのだ。クドウは大学を出たあと実業家になりたかったんだろうか?前に勤務してた仕事のことを熱心に俺によく話した。

 俺はその側に置いてあったスキー入門について話をした。

「俺、スキーのインストラクターにでもなろうと思ってさ」
「前の会社に居た時、よく練習で滑ってたんだよ」
「ほぼ、ひとりで暇があれば山に行って滑ってて」
「いずれ級をとって資格をとって、冬はスキー場で働こうと思っててさ」

「ふーん」
「カノも時々行ってたみたいだけど」

「カノ?」
「あー以前、大学生の連中らと飲んだときにスキーの話題にもなったな」
「カノはゴルフとかにも行ってたみたいだけど、俺はゴルフはまだ行けないわ」

「あたしの前の上司もゴルフには行ってたけど、スキーは聞いたことないな」

「今年中に季節社員の工場に面接してさ、お金出来たら春スキーにでも行こうよ」

「えー」
「スキー滑ったことないよ」

「俺ちゃんと滑れるから大丈夫だよ」
「働いたお金でスキーウエア買ってやるよ」



俺はようやく恋人気分になった。これまでグラビアやAVの女性しか見たことがなかったが、俺の前で解放感溢れるクドウの姿は、これまで会ったことのない女性の姿だった。




その無防備なまでの魅力は、俺にも平等に届いた。



(夢のリフトを繋いで、やがてその頂上にクドウがいること)



(そして夢が現実になることを信じ)



(隙間を埋めるように)



クドウをまるごと好きになっていたのだった。

promise
クリエーター情報なし
Victor


次回
⑥ニートクリスマス ナ・ナ・ナ


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ニートクリスマス 燃える欲望

2017-11-12 10:47:46 | ニートクリスマス前編

前回
③ニートクリスマスハートビート

燃える欲望
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Elektra Records




 クドウが俺の部屋に泊まってからの数日後の夜。また前ぶれもなく、いや今度は泣きべそをかいて俺の家にやって来た!。

どうやら、家族と揉めたらしい。俺が察するにクドウのお父さんと喧嘩したようだ。細かいことは、俺もクドウも聞きも話もしないが、少なくとも俺の家からクドウは朝帰りを二回している。
12月といっても、クリスマスの日にはまだ早い。



 (まだ早いのに)
(そんな姿で家の中をウロウロしたら、両親は黙ってないだろ!)
(たぶん試着していたのだと察したが!)
(気が早いっつうんだよクドウ・・)

「何日か泊めてくれる?」

「何日かって心配するんじゃないのか?」

「心配しないよ、近くだし」

 (俺がクドウの家に連絡してからのこと)
(家電で家族からクドウに繋げてもらってからのこと)
(クドウの両親もどこに飛び出して行ったのかは?わかっているだろう・・)

「寒い」

 肩を震えさせ首を短くして入ってくるクドウ。

「俺の服でいいなら着ろよ」
「たいして着れるような家服持ってないけど」
「お風呂も沸いてるから暖まれよ」

「うん」




 あの日会ったクドウと泣きべそかいてるクドウ。意外と思える部分もあるが、クドウらしいと思える部分もあるのだ。少しひねくれた部分、それは高校に入ったぐらいから感じていた。




 (クドウの学生時代は学力は優秀)
(俺が思うかぎり、通信簿はオール5だ)



(しかも小学生の頃から健康優良児)
(健康優良児で小学生の代表にもなっている)
(俺とクドウが卒業アルバムに一緒に写っているのは小学5年,6年)
(それ以前の事は曖昧)
(とにかく5年、6年が強烈に残っている)

「5,6年以外に同じクラスになったことあったかな?」

「アララギは3,4年はあの先生でしょ 1.2年はあの先生」
「あの先生はさー・・・」

(クドウはその頃から記憶力がよかった)
(そして運動神経もいい・・)



(俺とクドウが話すときは体育の授業の時ぐらい)

(ガリ勉タイプなら、可憐なクドウになっていたのかもしれないが)
(クドウは運動が出来て男勝り)
(運動がそれほどでもなかったら、俺を相手にはしなかっただろう)



(俺の想い出にあるクドウは校庭の日差しと体操服)

(そこから見える白い肌と二の腕)
(そして太もものイメージが強烈に残っている)
(年に一度の運動会と5,6年生から参加する陸上競技会)



 俺とクドウは走り幅跳びに参加していた。クドウは足も早くトラック競技にも向いていたが、陸上競技会ではクドウは走り幅跳びを選んだ。俺はトラック競技よりフィールド競技の方が上位を狙えると思い、走り幅跳びを選んだ。

 陸上競技会はまずは学校内で行われ、上位者は学校代表として他の学校の生徒たちとの陸上大会に出場する。勝ち進めば全国大会。もっと先にはオリンピックも夢ではない世界だ。

 しかし、俺の小学生時代予選会の走り幅跳びでは6位入賞がやっとだった。俺は校内6位入賞では学校の代表どころではなかった。クドウは校内で優勝。学校代表で陸上大会にも参加していた。



 俺がクドウを意識したのは、運動会や陸上大会などの体育イベントがあるときだった。運動会の男女混合リレーでクドウと組んだことがあり、俺はクドウとバトンの受け渡しの間に体育ロマンスを感じた。

 俺は競技中、とにかくクドウを意識していた。何より、大会数日前の練習期間と競技期間中は俺とクドウとの会話が弾んだ。



走り幅跳びとなると男子選手が行ってる間は女子選手はそれを側で見ていた。幅跳びのクラス代表の俺にクドウは話しかけニッコリしていた。フィールド内にいるのは俺とクドウだけ。最も近い男女の仲が2シーズン続いた。




 クドウと気が合ったのは体育と陸上競技でのことだった。体育以外ではクドウの相手にならなかった俺は、中学で陸上部に入り、走り幅跳びより走り高跳びを選んだ。その時、なぜかクドウも陸上部に入部したのだ。

 クドウが入部した当初、誰もが健康優良児のクドウを大歓迎していた。だが、その半年後ぐらいにクドウは退部した。



 そのわけを大人になってからクドウからそのことを聞いた。

「あの頃 ピアノもやってたから」

「あー合唱部とかにも入ったんだよな」

間近に見てもクドウの指は長く声質もいいのだ。歌声になると更にいい。



「そういえばピアノコンクールがあって」
「俺知らずに会場覗いたらクドウが弾いてて」
「それも関係者以外立ち入り禁止のところで見ちゃってさ」

「いつよ?」



「んー小5?んー小6ぐらいかな」
「雪降ってた頃だ 休日外で遊んでて寒くなって」
「あそこのホールに入ったんだよ」

「そこってどこよ?指で示さなくてもさー」

クドウは俺の示した指を叩いた。

「俺んちからあっちの方向にあった場所の」
「名前出てこないんだよ」



「あの時ピアノコンクール、クドウが弾いてたのを俺観てたから」

「あの頃からピアノも習ってて」
「陸上部に入ったけど、親が厳しかったからさ」

「勿体ないな、あれだけ運動も出来たのに」



「アララギ中学の時、高跳びの成績良かったじゃん」

「地元でよくても他じゃ全然さ」
「三年の時2位だったろ?」
「勝ったのは部員不足で出られなくなったあいつが高跳びに来て」
「優勝してさ、運動神経はあいつの方がよかったからな」
「あとは飛び方、俺は幅跳びの癖があって踏切が斜め上に飛ぶんだよ」
「だから触れるとバーが落ちやすい」
「あいつは、踏切もバーから真上に飛んでさ」
「触れてもバーが跳ねても落ちずに残れた」
「飛び方さえちゃんとできれば、運動神経の良い方がより成績がいいんだよ」

「カノは凄い凄い言ってたじゃん」

「女子は凄い言うけど、男連中は現実わかってるから」
「誰も凄いと思ってないよ」

「あたしは、アララギのその足凄いと後から思ったけど」
「あたしを蹴った時、瞬時に力抜いたでしょ?」

「蹴ったこと覚えてたか、俺も覚えてる」
「クドウが生理用品のこと、日記に書いて先生に提出してたのを俺が見ちゃってさ」
「男連中でからかってたら怒ってきて」
「クドウが俺の前まで走って向かって来たときに足上げてさ」
「上げた足が胸にあたって泣いたもんな」
「あの後俺すげー先生に怒られたけど」

「あれもっと足伸ばしてたらあたしひっくり返ってたよ」
「あれ、胸にあたる手前で足引いたでしょ?」

「あの勢いで向かって来て、あの勢いで足で蹴ったら」
「胸にあたってラリアート状態になってたからな」
「でも、あのときは悪かったな」

「胸にあたって痛かったけど、忘れてなかった」
「今日もここに来たら生理来ちゃってさ」
「あんたそれでもやるんだ!って思った」

「どういう訳か生理には縁があったみたいだよな」



 クドウは俺の運動神経のセンスに気が合ったようだが、普段着は制服以外の私服をさほど持ってはいなかったようだった。

「これさ、監獄のお姫さまに出てくるのみたいじゃん」

「今ある家服これしかないんだよ」
「しまむらには女子用でもっとちゃんとしたのが売ってるけど」



12月に入りクドウと俺は二世帯住宅というか、半同棲状態になった。

次回
⑤ニートクリスマス スキック



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ニートクリスマス ハートビート

2017-11-10 11:09:57 | ニートクリスマス前編

前回
②ニートクリスマス誕生前夜

Heartbeat City
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Elektra Records




 12月に入り、ハローワークに行った。そこにクドウがついて来た。





俺の家の側には、わけのわからない公園があり



その先にクドウの家がある。

 高校を卒業した後に俺が引っ越して来て、その後、しばらくはクドウとは会ったことがなかった。
クドウは多分、引っ越していたことを知らないでいる。と、俺は思っていたが、どうやら俺が引っ越してここに居たことは知っていたようだ。俺は甘かった。この石畳の向こうの家に住むクドウが知らないはずがなかったのだ。



「なんで前の会社辞めたの?」
「カノが会社に連絡したら、もう辞めてて驚いてたよ」

「なんか眠れなくなってさ、わけわかんなくなったんだよ」
「何日かズル休みして」 
「そのあと精神的におかしくなったから病院行きます。って一身上の都合で辞めたんだよ」
「あの会社人事移動激しくなってさ」
「ギスギスしてて、俺もついてけなくなって」
「前は職場内で仲良くしてて、楽しい時もあったけどさ」
「もうなんだか辞める口実で精神的におかしくなったとしか言えなかったよ」
「世間の笑いものだなー俺」
「もう少しで3年目だったけどな、3年経ってないから退職金出ないって言われてさ」
「なんか損だったなー」
「ボーナスもカノがノルマ製品買ってくれたりしたから、基本給が安い分」
「まあまあ、あった」

「失業保険もらってないの?」

「自己都合退社だからもらえないよ」

「そんなことないでしょ」
「あんたバカなんじゃないの?」
「病院行った?」

「行ったことないし、もう社会保険じゃないし」

「あんたほんとにバカなところあるよ」

 俺をほんとにバカだと言ってくるクドウ。クドウとは、中学時代から高校時代もあまり落ち着いて話したことはなかった。
ハローワークの行き帰り。クドウは軽快な語り口で俺と話していたが、懐かしそうにしていたのは俺のほうだった。

 クドウはこの日はタイトスカートを履いていた。この辺に両親の知り合いがけっこういるようで、それでタイトスカートを履いていたのかは?謎だが。俺のほうは、今日からカノの事は忘れることにしたのだ。

 クドウは昔から冷静というかクール。
時々コミカルな話をしたかと思えば、真面目に熱のこもった話しもする。とりわけ前の仕事の時の話となると熱がこもるというか、クールに熱いのだ。

 タイトスカートもそのイメージで履いているのかと思うほど。とりわけ、今は俺と同じニート無職中だった事には驚いた。



「俺が前の職場で会ったときは、35億のオーラで会社内を俺の前で素通りしてさ」

「あの時、営業で来てて、アララギが居たのは気付いてたよ」

「全然気付いてなさそうだったからさ、スルーするのも勿体ないから声かけたんだよ」
「クドウに知らんふりされるかと思ったけど」



「それがこないだの夜、ブルゾンどころか!あらくれ姿で部屋に入ってくるんだもんなー」

「アララギに知らないふりしたことないでしょ」



 ハローワークデートの後、再就職するまでは断られると思いつつ、「家に寄っていかないか?」と、クドウに言ったらすんなり入って来た!。

「あれ!」

(あれあれの連続なんだよな)
(カノとクドウと会ってから・・)

「あれ!カーペット引いたの?布団は?」

「さすがにあれから布団は二階の部屋に上げたよ」

「文房具屋で履歴書も買ったし、履歴書書こうか?」
「ちょっとテーブルとかないの?」


「テーブル?」
「あー今もってくるから」

 電気コタツを後で置こうとして、テーブルは置いてなかった。

「どこ?」

「そこにちょっとしまってある」

・・・・

「けっこう大きくて重たそうじゃん」
「持てる?」

「中身空洞で、見た目だけで重たくないよ」

クドウは何も言わずに俺とテーブルを運んだ。

「あいやいや! ごめん あーありがとう」



(俺とクドウで履歴書を書き。夕食は出前を頼み、あとは帰るかと思いきや・・・)



 あれよあれよという間にクドウと俺は二階の部屋で一夜を過ごした。
クドウと俺が気が合うまでのことは、関係を持ってから語り合うことになった。

次回
④ニートクリスマス 燃える欲望

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ニートクリスマス 誕生前夜

2017-11-08 20:47:00 | ニートクリスマス前編

前回
①一雑記の宿<ニートクリスマス>

THE BIRTHDAY EVE ~誕生前夜~
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DENON




 11月も終わろうとする頃。なんの前ぶれもなく女二人組が俺の家にやって来た。
「前ぶれ?」「前触れ?」 「触れ?」こいつらには触れたことないよな。
だから、前触れもなくカノとクドウがやってきたんだよな。
二人そろって見ると、ふたりとも髪伸びたなー
 



 カノの学歴は高卒。卒業後は街でちょくちょく出会った。
カノは高校時代から人気があったわけではないが、俺の好みだった。
なんでこいつが人気にならないんだろ?と思ったほどだ。

 クラスに一緒になったことはないが、卒業してからはよく挨拶したり話しもよくした。
買い物中に偶然に会い俺が行った先でなぜかちょくちょく顔を合わせていた。家庭的な面もあり、「嫁にいいかなー」と、俺は思ったりもした。

気が合ったのは・・・



 そうそう、走り高跳びだ。俺は中学の陸上大会でカノを初めて見たんだ。
カノの中学は陸上で目立つ選手が多く。その頃は会話をすることもなかったが、陸上大会で走り高跳びに出場していて、それで気が合ったんだ。

「アララギって中学の時、凄かったよねー」

「またその話か」

 俺の自己紹介は中学時代。地区予選の陸上大会走り高跳び部門を二年生で大会新記録で優勝し、三年生でも大会新記録で二位になった。結果的には負け組なんだけど・・・

「そうそう」
「アララギと言えば高跳びだよねー」

「はいはい」

 カノは俺の前じゃホステス並みに煽て。それで俺も気分を良くしてカノにちょくちょく連絡をして。
俺の会社のノルマ製品を買ってもらったり、そのあとにはリピートの連絡も来て。

その勢いでキメてやろうと思ったら・・・



「はい こないだのシャンプーとリンス」

「こんなところまでわざわざ届けに来るなんて、アララギらしい」

「いよいよ、時間あったから来れただけで」
「それでさ今度時間あったら・・」

「構えられるのダメなんだよねー」

「え!?・・」

 (カノに会うために、服装もいいのを着て来て)
(シャレこんだ俺は駄目ってことか?)
(でも、普段の俺はだらしないのに・・) 
(カノくらいしか俺をおだてる人他にあと居ないのによー)
(妙に俺の性格をわかってるところもあって)
(そういうところが気が楽で、好きだったんだけどなー)

(今日の俺の下心とかバレちゃったか・・・)

(俺より大人の男と付き合ったりもしてるんだろうな・・・)
(ここは引き下がるか「構えられるのがダメ」か・・・)

(そうか、難しいな男は・・)

「いや 今から他の用事もあるからさ」
「それで時間があったらって聞いただけ」
「リピートありがとな」
「また何かあったらよろしく」
「じゃねー」
「ああ、お会計お預かりしましたーありがとうございます」
「失礼します」

(はああ)
(何日も前からこの日のために気合入れてたんだけどなー)
(ここ数年絞り込んでた女だったんだけど)
(同級生恋人にするとか難しいな)
(上から下から大卒とかも合流して、ちらほら役職付いてるも出て来てるし)

(ハードルが高くなるよな)

(はあ・・)
(帰るか・・)
 
(仕事にも疲れてきたし女にも疲れてきた)
(そろそろ性風俗でも行こうかな・・)
(でも給料全然足りないな・・・)

(はあ・・)

(ため息がでる・・)



(それにしてもこの女二人でよくしゃべるな)
(今日会った事なのか?昨日会った事なのか?)

(よくペラペラしゃべるな)

(カノってこんなに活舌よかったっけ?)
(クドウは酒強そうだな)

(カノのほうは目がトローンってしてて、今にでも俺の前でその太ももから股間広げそうな勢いなんだけど)
(俺が見たいところでクドウがツッコミ入れてさ)

「ほーらカノ」「見えちゃうよ」

「あー」「だいじょぶだいじょぶ」
「アララギくんって、社交ダンスやるんだ? DVD入門とか見てるんだ?」
「あとスキーとかもやるんだ」
「へー」

「カノ?そこの本棚?」

(カノが嫌なとこついてきやがって、そういったとこあるんだよな)
(ここ何年か見ててさー)
(あなどれないというか、なんていうか、そういう気持ちになるんだよ)

(カノが居なければ、ここで「社交ダンスの練習しようか」とか、言えたシチュエーションじゃねーかよ)
(そういったつもりで本棚に置いてたわけでもないけど)

(おまえたちじゃなきゃ、社交ダンスやれる棚からぼた餅だったのに!)

(なんだよ!この悔しさわよ)
(それにカノ「アララギくん」って、さっきまでアララギって通常通り言ってたのによ!)

(今は子供扱いかよ)

(なおかつ、こいつらの会話の中に入っていけないのが・・)
(なんか悔しいな)
(ふたりでペラペラとしゃべってて、なにかテレパシーでも送り合ってるのか?)
(ツーカーの中っていうのか?なんだこのリズミカルな空気はよ!)

(そもそもこの二人がそんなに仲良しだったとは知らなかったよ)

(俺まったく入り込めねー)
(タクシー呼ぶか呼ばないかの位置取りすらできねーよ)

(クドウは頭の回転速いからなー)
(あれ!)
(クドウは頭の回転速いとか思ったことなかったな)
(今日初めて感じたよ)
(そんなことを・・・)

(あああ1周遅れで思い出した「構えられるのがダメ」ってよ)

(だからと言って俺が無防備なときに来るんじゃねーよ)
(ニート無職) 
(24歳ニート無職のこんな無防備な俺の家の中に入るんじゃねーよ)
(と、否定する前にもうすでに好みの女の前に晒されてる俺・・)

(どうしたらいいんだ?)



「タクシー来たら起こして」

「あーあ」
「もうこんな時間か」

 クドウが突然俺の部屋に来たことを申し訳なさげに言いかけたけど、黙った。そしてようやく静けさが戻り。俺はクドウに前の会社を辞めて、今こうしてたんだと話した。

 前の会社で勤務中にクドウとは久しぶりの再会をした。カノと今でも仲良かったんだと改めて話し、そのあとのことはどうしたらいいのか?なんとなく向こうから伝わった。

社交辞令なそぶりをして・・・

「再就職したら今度飲み行こう」

「うん」
「いいよ」

「またなにかあったら連絡するから」

「家近いしわかるでしょ?」

「う、うん」

クドウから送られたテレパシー・・・

 カノとクドウがタクシーで帰って行ったあとに、俺は翌朝から二つにひとつのことを考えることになった。

次回
②ニートクリスマス ハートビート

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