スカートをほとんど着ない私にとって、パンツのすその長さは服を選ぶときには重要なポイントなのですが、このところ、とくに夏場はフルレングス(要するに10分丈、足首が隠れる長さ)をあまり見かけなくなりました。いわゆるミセスブランドは別として、カジュアルウェアの場合は、デニムなどのスタンダードなアイテムを除いては、本当に少ない。実際、街を歩く若いママや女性を見ても、たいていくるぶしが出る7分から9分丈くらいのパンツスタイルです。
私も仕事で着る服でも結構持っているのですが、やっぱりカジュアル感は否めません。年齢的なものも意識を始めているのかもしれません。
でも本当に売り場にフルレングスのパンツは少なくなっているのです。
なぜなのか。想像ですが、流行というだけでは片づけられない部分に理由があると思います。すそ上げが面倒なのですよ、売る方も買う方も。
以前はすそ上げはすること前提で、切りっぱなしで売っているパンツも結構ありました。試着室で採寸をして、1000円くらいで預け、その日中にできるだの、明日になるから取りに来るだの、送ってくれだの、いろいろそのときの都合に応じて、やりとりをしたものです。ところが最近は、フルレングスのパンツを買ったところで、なかなか話がすそ上げまでたどり着きません。
「少し長めですけど、ヒールを履かれたらぴったりです」「すそを折り上げてもおしゃれです」
その点、最初から短い9分丈未満なら、余程のこだわりがなければすそ上げの手間はないです。服を買う方にも売る方にも、心の余裕がなくなったということでしょう。
それでも私の場合は、身長が女性平均よりやや高いので、実際にすそ上げなしで着られるものも多いのですが、そうでない人はどうしているのでしょうか。そこは9分丈デザインが活躍……なのでしょうか。
心の余裕だけの問題ではないかもしれません。すそ上げをする人材不足という可能性もあります。マジックミシンという服のリフォームのチェーン店にコートを持っていったとき、働いていたのはアジア系の外国人の方です。別に構わないのですが、日本人でいわゆる洋裁ができる人(ミシンをちゃんと使える人)が減っているのだと思います。
自分がいわゆるこういうところでパートをする女性たちと同年代になりつつあって思うのですが、私が高校を出る頃ですでに大学や短大の家政学科に進む女性は減っていましたし、行っても保育か栄養学などの食関連を学ぶためでした。高校を卒業して縫製工場などに就職した女性も私の周りには1人もいませんでした。着物の町・京都ですらそうです。行った高校が共学の普通科だったからかもしれませんが、同世代で自分や子どもの服を自分で作っている人が周りにはいないし、いてもそれは職業にするというより、優雅な趣味の感覚です。
今では京都でも和服の縫製すら、一定の量の生産品ならベトナムの工場に発注している場合が多いそうです。このことからも縫製分野の人手不足は勘違いではないでしょう。人手不足になりつつある仕事は、意外と身近にあるものです。メンズファッションには不可欠な仕事なので、今すぐ絶滅危惧というほどではないかもしれませんが。