アメリカで特定のイスラム教の国7カ国のビザ発給を中止して問題になっています。反対のデモが世界各地で起こっていると報じられるなか、アメリカ国内の世論調査では、この大統領令を支持する割合が多かったといわれています。調査をするまでもなく、トランプ大統領は選挙戦の公約を守ったわけですから、彼の支持者分はこの賛成に回らなければ筋が通りません。
このニュースはネットで見たのですが、それに対するコメントか何かに日本で韓国人の入国禁止の是非を世論調査したら、賛成が上回る可能性があるのではないかと書かれていました。確かに慰安婦像やその他諸問題でヒートアップしている最中に、万一そんな世論調査をすれば入国禁止を支持する人が多数を占める可能性はゼロではありません。でもそんなことはできない。日本に住む外国人のうち大多数を占める国の人たちを国籍だけの基準で、仮に外から来る人だけだとしても、一時的だとしても、入国禁止なんかにしたらどんな社会になるのか、どんな混乱を生むのか。戦争になるかどうかはわからないけれども、平和で秩序ある社会の実現から遠のくことだけは確かです。
多数決は民主主義の原点ですが、社会には多数決で決めてはいけないことの方が実はすごく多くて、為政者や企業のリーダーはみずからの哲学や良心、憲法、社会的常識(常識=数が多い方ではない)に照らし合わせて、政策や方針を意思決定しているのです。それができるからこそ、リーダーであって、できなければただの世論のあやつり人形でしかない。
たとえば、1億円を超える財産を持つ人から、超過分をすべて没収して、中間層を含めて全員に配分するといった「いきなり稚拙なレベルでの社会主義ですか」みたいな政策に対して多数決をとれば、もしかしたら賛成多数になる可能性もあります。総資産1億円以下の人の方がはるかに多いのですから。でもそんなバカなことは通らない。
ポピュリズムがなぜ危険なのかは、まさにそういうことです。当たり前や正しいことが賛成多数になるとは限らない。しかしその結果をかさに着て、社会を後戻りできない危険な水域まで落とすことができるのです。その先にある社会まで想像して世論調査で賛成としている人は少なく、彼らが気づいたときには遅いということです。
この政策に反発した(利用した?)イスラム過激派によるアメリカ国内でのテロを誘発し、その行為を大義名分にしてアメリカはまた戦争を仕掛けることもできます。第一に犠牲になるのは、対象国の市井の人かもしれませんが、アメリカ人もまた社会不安を抱えて生きなければならないし、自分やその身内からテロの犠牲者を出すかもしれない。米軍関係者や治安当局者はさらにリスクが大きいといえます。