2018/11/8
・大正時代、盲目の春燕に仕える手曳きが、ある事件をきっかけに大きな決断をする話。
・一応、ぼんやりめに粗筋を書いたけど、原作は谷崎潤一郎の『春琴抄』なのでわかる人にはわかる展開。
・舞台は春燕の自宅。三味線の師匠として自立しているので立派な造り。重厚さが作品の雰囲気にも見合っている。
・正面奥の木調の曲線部分が好き。正式名称があるなら知りたい。
・そんな舞台装置も、登場人物の見た目も衣裳も美しいし、余計な茶化しも最低限に留めているので、耽美な空気に安心して身をゆだねることができる。
・タイトルの「手曳き」も介護人って言っちゃうと台無しだし、意味の通る範囲で、うまく聞き慣れない、味のある言葉を挟みながら話を進めている。
・各登場人物の演技も、台詞に声色や抑揚をつけたり、構図に気を使ったり、やや様式的な方向に寄せている。
・小劇場系の演劇はどうしても笑いを求めがちだけど、別の価値基準があることを実感できる。
・そういう耽美な世界なので、人の見た目の美しさも大事。
・そのど真ん中にいる春燕が実際美しい。
・今は美しさにも多様性が求められる時代で、そのあたりの正解は未だによくわからないんだけど、とりあえずありがたいありがたいと拝むようにして見る。演じているのは飛世早哉香さん。
・温水元さん演じる旦那の、お金持ちなのに軽んじられているところがかわいい。
・今で言うところの共依存の話だし、「お前がそうしちゃったら、誰が彼女の面倒を見るんだよ!」というツッコミは、野暮過ぎて絶対しちゃいけないんだけど、個人的にはどうしても言いたくなってしまう。
・それこそ、谷崎と同時代の小生意気な若手作家だったら「現実逃避した芸術のお遊びだ!」と言うと思う。
・そんな好みが語れる段階まで、ちゃんと巧拙の部分はクリアしていると思う。谷崎潤一郎の世界で、ここまで造りこむのはかなり大変そう。
・場転の見せ方楽しい。演出さんも楽しんでたと思う。
・事後の二次創作がはかどりそうな感じもするので、誰か「その後の春燕さんと佐助さん」というタイトルでかわいいタッチのマンガを描いてほしい。