アンドレイ・クルコフです。
たまたまウクライナの大統領になってしまった、平凡な男の物語です。
若き日の過ちで出来ちゃった結婚に失敗。
様々な女性遍歴を経て、本当に愛する女性に巡り合えたと思いきや
悲しい運命の定めなのか。。どこまでも思うようにいかない人生・・・。
心を病んだ弟の存在や、若い時期に出会った一人の老人との心の交流等
青年期から壮年期に起こる出来事は結構切ないです。
そしてソ連崩壊より、成り行きから政界に足を踏み入れ、
副大臣を経ていつの間にか大統領へ・・・。
大統領時代は心臓移植手術後からスタートしており、
ここで登場する謎の女性マイヤとの関りや政敵との戦い等
結構めまぐるしくて、まさに政界の裏側を見るような思いにさせられます。
そして徐々に彼の過去と現在が交錯し合い、繋がっていく・・・。
この作品は、大統領セルゲイ・ブーニンの人生を、
青年と壮年と老年という三段階に分けて少しづつ同時進行に物語り、
段々現在の状況に繋げていくという、ちょっと変わった手法を用いてます。
総頁数631という分厚い本にも拘わらず、とても読みやすくて
独特のユーモアに満ちた世界に惹き込まれ、
あっという間に読めちゃいました。
個人的に最も好きなシーンとセリフのみ、ちょこっと引用・・・。
2016年月カルパチア山脈の章におけるスヴェトロフ将軍の言葉―――
「―――大統領閣下は何でも自分のしたいことをすればいいんだ。
この人は国のことなんて考えてない。もしも反対派が権力の座に
就いたら、大統領陣営の人間の多くは牢獄へぶちこまれ、
残りの人間は全財産を没収され、妻や子供や愛人たちともども、
着る物も履く物もなく国外に追い出されてしまうだろう・・・・・
なんてことは、この人の頭にはないんだ!
我々はあなた個人を守ってるんじゃない、
我々はこの国のシステムを守ろうとしてるんです!
より悪いシステムになるのを防ぐために!」
なんか・・・物凄く重い言葉ですね。
でもこういう思いって・・・政治家なら絶対持つべきだと思います。
スヴェトロフ将軍、素敵
この作品の舞台はキエフでして、街並みの描写が情緒豊かで素敵です。
アンドレイ坂の石畳、ウラジーミル丘、ドニエプル河中州のトゥルハノフ島
デシャチナ通りの大統領公邸、カフェやレストラン、美術館等。。
更に、近未来のキエフを描いている関係上、政党名やブランド名も
実在のパロディやフィクションで、そこここに遊び心が感じられて楽しい
でも登場する他国の大統領は本物だったりなんかして。。
後書きに興味深いことが沢山書いてありまして、中でも面白いのが、
210章で大統領がふらりと立ち寄る画廊も、
そこで一緒に酌み交わす四人の男達も、実在してるとのこと。
実は彼らはクルコフの旧友で、自分達が小説に登場することは
本が出るまで全く知らされていなかったそうです^^。
ウクライナ現在美術の拠点として知られるギャラリーは、
実際、ふらりと立ち寄った人間でも気さくに迎え、芸術や人生の話などを
飽きずに語り合ってる温かい雰囲気があるそうで・・・
う~ん。。行ってみたい
政界の闇を諧謔を込めて飄々と描いたこの作品。
国際的ベストセラーの素晴らしさを是非ご堪能あれ~。。
素材提供:AICHAN WEB