goo blog サービス終了のお知らせ 

プラムの部屋♪

長い長い休暇中デス。(*_ _) ゴメンナサイ。

『大統領の最後の恋』

2007-03-01 10:28:41 | 作家か行

 アンドレイ・クルコフです。

 

たまたまウクライナの大統領になってしまった、平凡な男の物語です。

若き日の過ちで出来ちゃった結婚に失敗。

様々な女性遍歴を経て、本当に愛する女性に巡り合えたと思いきや

悲しい運命の定めなのか。。どこまでも思うようにいかない人生・・・。

心を病んだ弟の存在や、若い時期に出会った一人の老人との心の交流等

青年期から壮年期に起こる出来事は結構切ないです。

そしてソ連崩壊より、成り行きから政界に足を踏み入れ、

副大臣を経ていつの間にか大統領へ・・・。

 

大統領時代は心臓移植手術後からスタートしており、

ここで登場する謎の女性マイヤとの関りや政敵との戦い等

結構めまぐるしくて、まさに政界の裏側を見るような思いにさせられます。

そして徐々に彼の過去と現在が交錯し合い、繋がっていく・・・。

 

この作品は、大統領セルゲイ・ブーニンの人生を、

青年と壮年と老年という三段階に分けて少しづつ同時進行に物語り、

段々現在の状況に繋げていくという、ちょっと変わった手法を用いてます。

総頁数631という分厚い本にも拘わらず、とても読みやすくて

独特のユーモアに満ちた世界に惹き込まれ、

あっという間に読めちゃいました。

 

個人的に最も好きなシーンとセリフのみ、ちょこっと引用・・・。

2016年月カルパチア山脈の章におけるスヴェトロフ将軍の言葉―――

「―――大統領閣下は何でも自分のしたいことをすればいいんだ。

この人は国のことなんて考えてない。もしも反対派が権力の座に

就いたら、大統領陣営の人間の多くは牢獄へぶちこまれ、

残りの人間は全財産を没収され、妻や子供や愛人たちともども、

着る物も履く物もなく国外に追い出されてしまうだろう・・・・・

なんてことは、この人の頭にはないんだ!

我々はあなた個人を守ってるんじゃない、

我々はこの国のシステムを守ろうとしてるんです!

より悪いシステムになるのを防ぐために!」

 

なんか・・・物凄く重い言葉ですね。

でもこういう思いって・・・政治家なら絶対持つべきだと思います。

スヴェトロフ将軍、素敵

 

この作品の舞台はキエフでして、街並みの描写が情緒豊かで素敵です。

アンドレイ坂の石畳、ウラジーミル丘、ドニエプル河中州のトゥルハノフ島

デシャチナ通りの大統領公邸、カフェやレストラン、美術館等。。

更に、近未来のキエフを描いている関係上、政党名やブランド名も

実在のパロディやフィクションで、そこここに遊び心が感じられて楽しい

でも登場する他国の大統領は本物だったりなんかして。。

 

後書きに興味深いことが沢山書いてありまして、中でも面白いのが、

210章で大統領がふらりと立ち寄る画廊も、

そこで一緒に酌み交わす四人の男達も、実在してるとのこと。

実は彼らはクルコフの旧友で、自分達が小説に登場することは

本が出るまで全く知らされていなかったそうです^^。

ウクライナ現在美術の拠点として知られるギャラリーは、

実際、ふらりと立ち寄った人間でも気さくに迎え、芸術や人生の話などを

飽きずに語り合ってる温かい雰囲気があるそうで・・・

う~ん。。行ってみたい

 

政界の闇を諧謔を込めて飄々と描いたこの作品。

国際的ベストセラーの素晴らしさを是非ご堪能あれ~。。

 

素材提供:AICHAN WEB


『ヒストリー・オブ・ラヴ』

2007-02-02 10:48:40 | 作家か行

 ニコール・クラウスです。

 

レオポルド・グルスキ――通称レオ――はニューヨークのアパートで

ひっそりと独り暮らしをする80歳の死にかけた老人。

家族を殺され、何もかも失ったユダヤ人のレオは、

ナチスに蹂躙されたポーランドを離れ、錠前屋として50年間働き・・・

必死で生き延びてきました。

 

もう一人の主人公、アルマ・シンガーは14歳。

7才で父を亡くし、翻訳家の母と自分を「隠れた義人」と信じる弟と暮らしてます。

ある日、母のもとに、世の中から忘れ去られてしまっている

1冊の本を翻訳してほしいと依頼がありました。

それはツヴィ・リトヴィノフ作『愛の歴史』。

実は”アルマ”という名前は、この本に登場する

「すべての少女」に因んでつけられた名前でした。―――

 

これはも~素晴らしい作品ですヨ~。

でも正直、読み始めは少々辛かったです。

老人の延々と続く独り言(?)は、感情移入して読書するタイプの私にとって

苦痛以外の何物でもなく(笑)、この先一体どういう展開になっていくのだろう?

という好奇心だけで、がんばって読んでたくらいですから・・・

 

だが、しかし。(この言葉、読んだ方ならお分かりでしょう?^^)

14歳の少女アルマの登場が、私にとって一種の救いとなりました

風変わりな家族を心から愛し、彼女なりに奮闘する姿がとても微笑ましく・・・

特に、まだ若くて美しい母親が素敵な男性と出会えるよう工作するあたり、

夢見がちな14歳らしい行動であり、また、ボーイ・フレンドとのやり取りも

稚拙でもどかしく、なんて愛らしい少女なのかしら・・・と思わずにいられません。

 

これら、一見何の繋がりも無さそうな彼らが、一冊の本を通し、

見事に合致、融合していく・・・。

レオが60年前に書いた小説が、人知れず海を渡って生き延び、

幾多の人生を塗り替えていたのです。


 

それにしてもラストの方でレオがさり気なく明かす一言の重み!!

一瞬「えっ??」って頭の中がクエスチョンマークでいっぱいに。。

そして・・・衝撃の事実に気付くのです。

なんという孤独な人生だったのでしょう!!

ユダヤ人達が味わわされてきた辛酸、底知れない苦悩、孤独等を

無駄の無い文章で、ここまで見事に表現出来るとは・・・。

 

総てを知ったうえで読み返すと、も~切なくて切なくて・・・

あまりの切なさに心が痛みます。

でも、だからこそ、ラストの感動がひと際大きいのでしょう。

読後にじわじわ心に染み入るこの感動

世の中の、総ての本好きに読んで頂きたい、素晴らしい作品です。

 

素材提供:Pari’s Wind


『宮殿泥棒』

2007-01-15 16:39:48 | 作家か行

 イーサン・ケイニンです。

 

『会計士』『バートルシャーグとセレレム』『傷心の街』『宮殿泥棒』の全四編。

どれも普通の小説なら脇役で終わってしまうであろう優等生達が主人公。

彼らの心の葛藤を繊細に描きつつ、それでも自分なりに精一杯生き抜いている

―――自分らしくあり続けようとがんばる様は共感せずにいられません。

 

努力家タイプの謹厳実直な中年会計士、天才的な兄と比較される凡庸な弟、

かつては劣等生・・・いまや産業実業界の大立者になった元教え子に

翻弄される老いた高校教師etcetc・・・

優等生達の、枠からはみ出せない複雑な心情を

彼らの周りの、それと対比するような存在を描く事により、

より鮮明に際立たせている様は、とても味わい深いものがあります。

 

後書きに紹介されてる、批評家レスリー・フォードラーが書いた、

マーク・トウェインの小説を例に、アメリカ小説に出てくる少年を

分類した項目がとても面白いので、ここに引用させて頂きます。

 

 ①グッド・グッド・ボーイ。根っからのいい子。

  よく勉強するし、いたずらはしないし、親のいうこともきく。

  大人になっても、並外れた成功はしないかもしれないが、

  きっと手堅い地位につくであろう子供。

  トウェインの小説でいえばシド・ソーヤー(トム・ソーヤーの弟)。

 ②グッド・バッド・ボーイ。勉強はしない、いたずらはする、

  親のいうこともきかない。

  でも案外親思いのところもあったりして、根はいい子。

  子供のうちはワルでも、大人になったらチャッカリ出世して、

  ライオンズ・クラブ゛か何かに入って「わしも昔は悪さをしたもんです、

  わっはっは」とか言いそうなタイプ。トム・ソーヤー。

 ③バッド・バッド・ボーイ。勉強はしない、いたずらはする、

  親のいうこともきかない、案外親思いなんかでもないし、

  大人になっても社会に適応できそうにない(というか、

  大人になれそうもない)子供。ハックルベリー・フィン。

 

ここで書かれている中で、最もワルのハックこそ一番の人気者。

でも良い子ちゃんの優等生だって引け目を感じ、嫉妬に苦しむ普通の人間です。

これら、小説の題材にしても面白くなさそうな優等生達を軸に描かれる

様々な人間模様。。そしてささやかな抵抗。これが実に見事なのです。

殊に『会計士』のラストに主人公アバ・ロスが起こしたささやかな・・・

でも思いがけない反復行為は・・・思わず「君も中々やるじゃん 

な~んて心の中で拍手してしまいました^^;

 

四篇中最も切ない気持ちにさせられたのは『傷心の街』かな~。

よく出来た息子の素晴らしい姿を眼前にしつつ、

あ~でもない、こ~でもないと一人葛藤する父親の心情が見事です。

そうそう。

この作家さんはかなりの野球狂なのだろうかと思うくらい

野球のシーンが登場します。

ここでも野球場で知り合った一人の女性を巡って展開される

父子の行動、会話がとても味わい深くて・・・切ないのです。

 

表題作『宮殿泥棒』がマイケル・ホフマン監督、ケビン・クライン主演、

『卒業の朝』という題名で映画化されてます。

この作品で登場する「ミスター・ジュリアス・シーザー」コンテストって

なんとなく昔流行した「クイズ世界一周」(だったかな?)を

彷彿とさせるようで、ちょっとワクワクします。

本当にここでローマ史の勉強を教わってような錯覚を覚える程にリアルですヨ~。

ここでの登場人物の中では出番が非常に少ないうえ、かなり損な

役回りにも拘わらず・・・マーティン・ブライズが妙に印象的でしたっけ。

 

長くもなく短くもない、中篇小説ならではの面白さ。

適度な緊張感が全編に張り詰めていて、特別大きな事件が無いのにも拘わらず

次々ページを捲らずにいられない。。

この作品は、特に優等生というレッテルを貼られて苦しんでる方には

是非味わって頂きたい逸品です

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


金子 みすヾ

2006-10-05 21:43:49 | 作家か行

  明治生まれの薄幸の詩人です。

以前も雑記等の記事にみすヾさんの詩は何気に載せたりしてますが

なんとなく改めて書きたくなりまして。。

 

不幸な結婚生活は相当彼女の心を蝕んだ事でしょうね。

・・・20代の若さで自殺してしまいました。

でもその作風は繊細で優しくて、独特の感性に満ちていてとても素敵です。

 

世の中、何かというとお金、地位、名誉等、条件を追い求め過ぎて

何かもっと大切なことを忘れてしまいがち・・・

そしてその道から外れてしまうとついつい卑屈になりがち・・・

みんながみんなじゃないけど・・・人間の哀しい性ですね。。

 

みすヾさんの詩にはとても暖かい心が込められていて

中でもこの二つの詩を読むと、

「一人一人、違った個性があるから楽しいのヨ^^

例え未熟でも、優れたものを持ってなくても、

生まれて来た以上、必要の無い人なんていないハズ」

と優しくささやいてくれるようで大好きなのです

 

      私と小鳥と鈴と


     私が両手をひろげても、

     お空はちっとも飛べないが、

     飛べる小鳥は私のやうに、

     地面(じべた)を速くは走れない。



     私がからだをゆすっても、

     きれいな音は出ないけど、

     あの鳴る鈴は私のやうに、

     たくさんな唄は知らないよ。



     鈴と、小鳥と、それから私、

     みんなちがって、みんないい。

 

      土


     こッつん こッつん

     ぶたれる土は

     よいはたけになって

     よい麦生むよ。



     朝からばんまで

     ふまれる土は

     よいみちになって

     車を通すよ。



     ぶたれぬ土は

     ふまれぬ土は

     いらない土か。



     いえいえそれは

     名のない草の

     おやどをするよ。

 

素材提供:Pari’s Wind


プリンセス・ダイアリー・シリーズ

2006-08-24 13:13:11 | 作家か行

 メグ・キャボットです。

 

全米ミリオン・セラー、世界中でベストセラーという大人気のシリーズです。

「プリティ・プリンセス」という題名で映画化もされました。

ちょっとくだけ過ぎだろうか・・・と思いつつ・・・読み始めたらも~止まらないっ

これはホント、理屈抜きに面白いです^^。

随所で笑いのツボを刺激されるので、電車の中なんかで読んだ日にゃ~もう大変!

思わず「プッ」と吹き出しそうになり、慌てて咳払いしたり本で顔を隠したり

必死で笑いをこらえる為に顔を歪めてしまう・・・なんて人も多いハズ。

 

ヒロインはアメリカのハイスクール一年生のミア・サモパリス。

美人じゃない、自信もない、週末デートの予定もない^^。

そんなミアが、離れて暮らす父上からある日突然重大な事実を告げられます。

「おまえは、アメリア・ミニョネット・グリマールディ・サモパリス・レナルド。

ジェノヴィアのプリンセスだ」     

(・・・な、長い。。

さ~~ここからミアのプリンセス・レッスンの始まり始まり~~^^

いよいよ厳格な父方のおばあさまの登場です

 

とにかく登場人物総てが個性豊かで面白い。。

ミアのパパもミアのママも浮世離れしていて妙にかわいい

実は二人は結婚してない為、ミアは私生児なのです。

親友リリーも理屈っぽくて少々ウルサイけど、とっても素敵なお友達です。

そしてリリーの兄上マイケルがとってもとっても優しいのデス

ミアのボディ・ガード、ラーズも男前だし、飼い猫のデブ猫ルーイも

お嬢様ティナも本当にかわいい。。

個人的にはミアの厳格なおばあさまが最高に好き

ま~要するにみんな魅力的なのですね^^。

 

そしてなんてったってプリンセス・ミア

まさに等身大の高校生そのもの。

でもユーモアに溢れた、一見ハチャメチャな文章の中にも

繊細な心の機微が見事に表現されてて

突然プリンセスにされてしまった心の戸惑いや憤り、

両親に対する複雑な気持ちもストレートに伝わってきて

感情移入せずにいられない。。

今時の女の子らしく、言葉使いなんかも独特で・・・

ちょっぴり引っ込み思案なところもあったりするのですが

イザという時には思い切った行動に出て周囲を驚愕させたりして^^

 

折にふれ機にふれ開かれるダンス・パーティに胸をときめかせ、

素敵なドレス選びにワクワクし、

男の子との関係にドキドキするティーン・エイジャー達。。

も~ホント、かわいいのです

ラストは必ずハッピー・エンド

 

冒頭には「小公女」の中の一説が書かれていて

プリンセスたる者、こうあるべき!という作者の想いが伝わってくるようです。

シリーズが進むにつれ、その魅力もドンドン増していきます。

漫画みたいに読みやすくって、読後にほのぼのとした気持ちになれるこの作品。

機会があったら是非ご一読あれ~。。

 

素材提供:AICHAN WEB


『炎の眠り』

2006-07-25 15:16:52 | 作家か行

 ジョナサン・キャロルです。

 

前作『月の骨』に続くダーク・ファンタジー。

三十数年前に死んだ男の墓を前に呆然とするウォーカー。

そこに彫られた男の肖像は、まさしくウォーカーそのもの!!

そして突然話しかけてきた見知らぬ老婆の言葉・・・。

「ここにたどりつくまで、ずいぶん長いことかかったね!」

捨て子だったウォーカーは、自分が何者なのかを知りません。

自分探しを始めたその時から抜け出せない悪夢もまた始まったのです。

 

この作品は、ジョナサン・キャロルの中ではダントツ好きな作品

前半の、身も心も蕩けそうな、なんとも甘いラヴ・ストーリィから

恐るべき後半のダーク・ファンタジーに至るまで、も~最高に面白い

現実と空想、御伽噺が見事に絡み合い、

世にも不可思議な世界が展開されます。

 

マリスに出会った瞬間恋に落ちたウォーカーの心境の、

なんと切ないこと、いじらしいこと。。

そして二人の交わす会話がなんとも味わい深く・・・

時にはちょっぴりくすぐったい気持ちにさせられるくらい素朴で純

散々な目に合ったばかりのマリスの為にウォーカーが演出したデート・コースは

ウィーンの中で、幸せな気持ちにさせてくれる三ヶ所に連れて行く事でした^^

ここからして既に非凡

 

彼らを取り巻く友人達も個性豊かで魅力的です。

特に好きなのは遊び心満載の女好き^^映画監督のニコラス  

マリスとは恋仲ではありませんが、深く暖かい友情で結ばれていて

二人の会話にウォーカーも思わず嫉妬心を燃やしてしまうくらいです。

彼が演出したストーカー男への報復は最高でした

でもその後の展開は・・・あ~やっぱりジョナサン・キャロルだぁ。。

 

そして、グリム童話の登場人物、自転車に乗った「がたがたの竹馬小僧」

そっくりな男の登場によりウォーカーの過去への探求が始まる恐るべき後半。

ヴェナスクとの出会いから、物語は段々御伽噺のような様相を呈してきます。

御伽噺、と言っても決してかわいいものではありませぬ・・・

更に色々調べるうち、次々と明かされる実の両親に纏わる

恐ろしい過去の出来事はなんとも不気味で・・・

 

この結末はどういう方向に行くんだろう。。

キャロルの作品がまともに終わるわけないよな~、なんて思いつつ、

無我夢中で読み進め、一件落着か・・・と思わせといて

最後の最後になって・・・あ~やっぱり

 

どこまでも抜け出せない永遠に続く闇の世界・・・。

ジョナサン・キャロルの世界はとても独特だと思いますが・・・

でもたまにどっぷりと浸りたくなってしまう不思議な魅力に溢れています。

こんなどんよりとした梅雨の時期にはもってこいかも。。 

 

素材提供:AICHAN WEB


『パンドラの箱』

2006-07-20 13:40:12 | 作家か行

 エリザベス・ゲイジです。

 

ローラとエリザベス。同じ日に生まれた二人の女性がヒロインです。

でも誕生した場所も状況も全く違い、その人格も正反対と言って

過言ではありません。

なのに、不思議な運命の力で二人の人生が交錯し、影響し合わずにいられない。。

 

ローラは髪も目も黒い、少々おとなしめの女性。

ローラ自ら「雨の日の物想い」と称した不思議な第六感を持ち、

この不思議な感覚ゆえに人との間に薄いヴェールが常に付き纏う。。

そして物語全体に、なんとも不吉な暗いトーンを醸し出すのです。

大変な才能を持ち、ファッション・デザイナーとして大成功し、

確かな地位を確立したにも拘らず、自らの心の叫びに身を委ね

写真家として全く違う道を選ぶ、という非凡な生き方がなんとも魅力的で

その暖かい性格といい、普通なら有り得ないくらい素晴らしい女性です。

ローラがファッション・デザイナーとして成功していく過程は最高に好き 

 

「こんな服が着られたらいいのに!」

女なら、一生に一度はこんな気持ちにさせられること、あると思うのですが・・・

自分の体型を考えたら絶対無理、とあきらめてしまう類の素晴らしいドレスを

ほんのちょっと手を加えただけで見事にマッチさせてしまう天才デザイナー・ローラ。

 

「私、この服のためだったら、有り金全部、いえ、借金したって

お払いしたいわ。あなたのお陰で本当に女になった気がするの。

それも美しい女に。最初の子供が生まれて以来、

こんな気持ちになったのは初めて」

 

派手な宣伝等しなくても、口コミで次々と顧客が増えていき・・・

最後には超有名なゲストによる力強いバックアップで

有数のデザイナーとして見事に花開いていくサクセス・ストーリーは

も~最高にワクワクします。

 

一方、エリザベスは自分の欲しいものを手に入れる為には手段を選ばず、

あらゆる障害物を押しのけていくなんとも強かな女性。。

女性実業家として大成しますが、更に次々と野望を実現させていく・・・。

エリザベス、という名前を段階ごとにリズ、リサ、テスとコロコロ変え

変幻自在に別の人格に変わってしまうのです。

官能的で狡猾な彼女も、非常に魅力的です。

後書にあるように、物語後半の迫力はまるでマクベス夫人のよう。。

 

そして二人の女性が関わる夢のプリンス・ハル。

ハンサムで頭が良く、心優しいプリンス・ハルはとても魅力的です。

上院議員として大衆にも人望厚く、将来の大統領候補として

確かな足場を確立している大変なヒーロー。。

でも、もともと抱えている弱さゆえに周りの人々を不幸にせずにいられない

悲しい宿命の持ち主なのです。

 

この三人の主要人物に加えて、ローラの夫ティム、ハルの妹シビル等

個性豊かな面々が絡み合い、波乱に富んだ人生を歩んでいく・・・。

ローラがギリシャ神話「パンドラの箱」と題した写真展の名称は、

そのまま彼らの人生を物語っています。

そう。。開けてはいけない箱を開けてしまった時、悲劇は起きるのです・・・

 

愛と野望、成功と挫折、とても長い物語ではありますが、

スピーディな展開は息を呑む面白さ 次々と頁を捲らずにはいられません。

梅雨に逆戻りしてしまったジメジメしたこの時期。

たまにはアメリカの超人気作家エリザベス・ゲイジの

魔力に酔ってみるのも楽しいですヨ^^

 

素材提供:Pari’s Wind


『ペルシャの彼方へ』

2006-05-30 11:45:44 | 作家か行

 ノア・ゴードン・・・千年医師物語三部作の第一作目です。

 

このシリーズは、千年にも及ぶ医者一族の、壮大な大河物で、

各時代の風習や宗教、冒険、恋愛、別離、愛憎、友情、壮絶な戦い等

あらゆる要素を備えている上、各国の歴史や文化に触れる事も出来、

作者が、元新聞記者というだけあって、その博学ぶりにはも~圧倒されっぱなし。。

とにかくスピーディな展開が最高に面白いです。

 

第一作目の舞台は11世紀ロンドン。

ロブ・Jは、12歳にして両親を立て続けに亡くし、兄弟達と別れて

床屋さん、というおじさんにもらわれ、外科医兼理髪師として

放浪の旅に出かけます。

この道中に外科医としてあらゆる知識を学び、投物師として腕を上げ、

一人前の人間に成長していく上で、とても貴重な時期を過ごすのです。

 

この床屋さん。。とても良いです^^

大変なグルメでして、彼の作る料理の描写の素晴らしいこと、素晴らしいこと。

この時代は本当に楽しかったですヨ~。

このまま床屋さんの後を継いで医者として成長していく、というスト-リーなのか?

と思いきや・・・下巻ではがらりと雰囲気が変ってしまうのですね~。

 

千年前のヨーロッパでは外科医の地位は非常に低く、

医療技術も稚拙そのもの・・・。

ある日、床屋さんが匙を投げた白内障を、ユダヤ人医師が手術して

成功させた事を知り、誰に教われば良いのか迫ります。

遥か遠く、ペルシャにマリスタンという医学校があり、

ユダヤ人であれば受け入れてくれること、

そしてそこには「大師」と称され、尊敬されるイブン・シーナという

名医が存在している事を聞き出し・・・なんとなんとロブ・Jは

ユダヤ人ベン・ベンジャミンに成りすまして一路、ペルシャへ向うのです。

ちなみにこのイブン・シーナ医師は実在した名医です。

 

ここからの展開はも~めまぐるしいです。

非常に印象的だったのが、疫病が発生した地域に派遣された医師団の

それぞれの葛藤、そしてそこから生まれた真の友情。。

ミルディンとカリムという素晴らしい友人達に恵まれますが

この二人の壮絶な人生は、やはりその時代ならでは、なのでしょうね。。

 

エキゾチックで絢爛豪華なペルシャにて、古代の王様アラーが登場、

一応ベンジャミンはお気に入りとして庇護されていますが

それゆえ、面倒な立場にも幾度と無く立たされてしまうのです。

その最たる出来事が戦争に同行したこと。。

―――「我ら四人は友人ぞ」―――

凄まじい殺戮の嵐・・・。この辺の描写はまさに圧巻です。

そして更に、最愛の妻メアリーに魔の手が・・・。

この辺は人間としてどうなの??って問いかけたくなる問題ですが

かなり危険な領域なので・・・^^;グッとこらえて胸にしまっておきます。

読んだ人のみ知る・・・であろうこの憤り・・・推して量るべし・・・。

 

とにかく語れば限が無いくらい、ぎっしり詰まった歴史絵巻に

終始圧倒されつつ、次つぎと頁を捲らずにいられない面白さ。。

更に、遅れていた当時の医学について克明に描写されているのですが

そこから危険を侵してまで、真の医療を目指し、解明していくロブ・Jの

凄まじいまでの執念は、選ばれた者としての自覚と誇りに満ち、

暖かいヒューマニズムを感じるのです。

 

ロブ・Jが、命尽きようとするイブン・シーナに語った言葉・・・

「僕は素性を偽ったりせずに、他の場所へ行くこともできたんです」

「―――でもある男のことを聞いてしまった。

―――彼のアラブ名が呪文のように僕をとらえ、悪寒のように

震わせたんです。―――イブン・シーナ―――」

「世界で一番偉大な内科医の、あなたの服の縁にでも良いから触りたいと」

 

グッと胸に突き刺さる名セリフですね。。

文句なしに面白くって読みやすい・・・古代ペルシャの物語だけあって

想像を絶する残虐シーンや理不尽な状況も数々ありながら

不思議なくらい明るく希望に満ちた清清しい読後感。

数々の賞を受賞した世界的ベストセラー作品です。

 

素材提供:AICHAN WEB


『謎のクィン氏』

2006-04-03 11:18:47 | 作家か行

  アガサ・クリスティの短編集です。



クリスティ作品の探偵といえば、ポアロ、マープル、パインが有名ですが

私はこのクィン氏がお気に入りです。

ここに収録されている作品のテーマは総て「愛」

それもどちらかというと重く、苦しい愛だったりしてます。



このハーリィ・クイン氏。。

どこからともなく現れて、いつの間にか去っている・・・

常に黒い服を着て、まるでゆらゆらと影のような雰囲気なのです。。



他人の人生の傍観者・・・と言ったら失礼だけど、平凡な人物サタースウェイト氏が

一応探偵役として登場してますが、クィン氏との絶妙なコンビネーションが

物語をとても味わい深いものにしています。



ラストに掲載された、クイン氏自身の悲しい愛の物語は、

なんともやるせない不思議な余韻が残り、

クインのような生き方とサタースウェイト氏のような生き方と

見事にまで対極にある二人の姿をはっきりと浮き彫りにしてみせるのです。

 

―――「でもわたしは見ましたよ。どうしてなんですか?」

「たぶん、あなたがその代償としてなさった苦労の結果でしょう。あなたには

いろんなものが見えるんです―――ほかの人には見えないものがね」―――

 

「ここはいったいどういうところなんです?」と彼はささやいた。―――

「今日昼間に申し上げましたでしょう。ここはわたしの小径なんですよ」

「恋人の小径」とサタースウェイト氏はつぶやいた。

「そして人々が通っていく」「遅かれ早かれ、たいていの人がね」―――

 

「しかしわたしは」―――彼の声は震えた―――「わたしは、まだ一度も

あなたの小径を通ったことはありませんよ・・・・・」

「で、それを後悔なさいますか?」

 

サタースウェイト氏の前には、何か脅迫的な、また恐ろしいものが、

ずうっと遠くまで、伸びていた・・・喜び、悲しみ、そして、絶望が。―――

 

どれほど苦しい想いをしても、恋人の小径を通る人生に踏み込むか・・・

あるいは無難に人生の傍観者でい続けるか・・・

う~む。。まるでハムレット状態ですね~。。

でももちろん、そこに縁というものが絡んでくるので、

自分で選びたくても選べなかったりしますけどネ^^;



セイヤーズ派の私ではあるけれど、こんな作品に出会ってしまうと

アガサ・クリスティの優れた文学性に驚嘆せずにはいられないのです。

 

素材提供:AICHAN WEB


『白い犬とワルツを』

2006-03-25 23:32:23 | 作家か行

 テリー・ケイです。

 

妻を亡くした81歳の老人が不思議な「白い犬」を相手に余生を生き抜き、

最後に癌で倒れるまでの心意気を描いた大人の童話です。

米国では、真実の愛の姿を美しく描いた作品としてTVドラマ化され

大変な人気を博した作品でもあるのですヨ。

 

登場人物皆が、それぞれに欠点はあっても善意の人々で

老人サムの心の呟きと、サムの家族達の心の葛藤が交互に書かれ

その微妙な食い違いや、老人の茶目っ気たっぷりの意地悪が

小説全体の緊張感を和らげ、特別なストーリーは無いのに

グイグイ惹き付けられ・・・最後まで一息に読んでしまいます。

 

サムは片足が不自由な為、歩行器を頼りに歩くのですが

ある日突然登場した真っ白い犬は、後ろ足で立ち上がり、

前足を歩行器の半円の輪にかけてサムをジッと見上げます。

サムが歩行器を後ろに下げると、犬も一緒に前に出る。。

そう。。まるでワルツを踊っているかのよう・・・。

 

でも最初、この不思議な真っ白い犬を、誰も見る事が出来ませんでした。

お父さんだけにしか見れない!?

もちろん、家族は皆、サムの気がとうとう・・・と嘆き悲しみます。。

でもある日突然、皆も白い犬を見るのです。

 

作者は小説の最後に「この小説を読んでくださった読者へ」と題して

次のようなメッセージを添えてます。

 

―――わたしはこの『白い犬とワルツを』の材料を、

わたしの目にわたしの両親の真実と映るものから得た。

ふたりのあいだには生涯をかけてのすばらしいロマンスがあり、

母に死なれた後の孤独は父にとって身を切るように辛い経験だった。

そして「白い犬」にあたるものもいたのである。その「白い犬」は

ただの迷子の犬ではないと父は信じて疑わなかった。―――

 

この小説を通して読者に「あなたにはこの『白い犬』が見えますか?」

と語りかけているのです・・・。

 

普通に生きる、という事。命を全うする、という事の尊さを考えさせられます。

そして深く静かな愛情の素晴らしさも。。

全編通して不思議な雰囲気の・・・悲しい内容なのに

なぜか後味爽やかな作品です。

 

素材提供:AICHAN WEB


『クイーニー』

2006-03-23 20:54:39 | 作家か行

 マイケル・コルダ・・・20年前に全米英ベストセラーになった作品です。

 

残念な事に絶版です。

とても良い作品なのに絶版だったなんて事、よくあるのですヨ。

ピーター・ディッキンソンあたり、復刊してほしい作品があるのですが。。



舞台は酷暑と雑踏の街、カルカッタ。

インドがまだイギリスの植民地だった時代です。

英印混血の美少女クイーニーが数奇な運命に翻弄されながらも、

しがないストリッパーを経てハリウッドの伝説的スターになるまでの

半生を描いた大作で、近親相姦、殺人、ギャング、陰謀、恋愛、同性愛等、

様々な問題を盛り込んだ超娯楽作品なのです。



最初にストリッパーとして舞台に立った時、

観客席にいたカメラマンとの出会いこそが

クイーニーの人生の大きな転機だったのではないかと思います。

そこから新しい恋、新たなる挑戦と、凄い勢いで人生の階段を昇っていくのですが、

同時に恐ろしい事件にも巻き込まれていきます。



このカメラマン・ルシアンは、クイーニーの良さを最も理解していた一人です。

ルシアン自らが、誰も期待していなかったクイーニーの成功を信じて

カメラテストに挑むくだりは最高に好きです。



自らメーキャップを施し、

「ここで創りだそうとしているのは幻影なんだ―――

美しい鼻だがカメラではそれをとらえられない。

だから強調するために陰影をつけた」

から始まって、衣装、目線まで一つ一つ指示を出し、いよいよ本番!という時に、

カメラの向こう側からある言葉をささやきます。

その言葉に物凄い衝撃を受けたクイー二ーの、ハッと振り向いた恐怖の表情を

見事に捕え、スクリーンに映し出す――

その場にいた全員が――本人のクイーニーですら――スクリーン上の

あまりの美しさ、妖艶さに圧倒されるのです。



誰も何も言わず、シーンと静まり返った中、監督がおもむろに立ち上がり、

クイーニーに「あなたにあげる物があった。」と言って、

その劇の原作本を渡し、去っていく――ヒロイン誕生の瞬間です

 

映画の撮影風景もリアリティに溢れ、とても興味深いものがあります。

ヒロインの演技を見つめつつ・・・

「何かおかしい。もっと幸せそうに見えてもいいはずだ」

と呟く映画監督。。

「ネックレスだ!これは衣装部の模造品じゃないか」

「もちろんですよ。でも本物のように映るんですから」とデザイナー。

「そうかもしれない。だが本物の感触はない。

まがいものの宝石じゃ女は本当に幸せな気持ちにはなれないんだ」

偉大なる映画監督の細部への拘り・・・。

実際にカルチェの美しい本物のネックレスを着けた女優の、

かつてない輝きを描写するシーンは読んでいてワクワクします。

あ~。こうやって歴史に残る素晴らしい映画は撮影されたんだな~なんて

感慨に耽りつつ・・・

しがないストリッパーだった少女が、押しも押されぬ大女優に成長していく過程は

ハリウッドに実在したあらゆる有名女優を思い浮かべてしまうくらい

リアルで楽しいです。

・・・というか実在したマール・オベロンという女優さんをモデルにしてます。

ご存知の方、いらっしゃいますでしょうか。。

 

でもこうした華やかさと対照的に、醜い裏側も克明に描き出し、

いかにおぞましい裏取引が日夜行われているか・・・

まさに現在のハリウッドそのもの・・・だと思われます^^。

 


今読んでも全く色褪せない、不思議な魅力に溢れたスケールの大きなこの作品。

是非是非復刊してほしいです~

 

素材提供:AICHAN WEB


『林檎の樹』

2006-03-17 12:54:20 | 作家か行

 ジョン・ゴールズワージーです。

 

H・G・ウェルズやアーノルド・ベネット等と並び称される

英国文学界の重鎮の一人ですね。

 

銀婚式を迎える初老の夫婦が旅に出て・・・夫が過去の回想をします。

大学生の頃に出会った二人の少女との様々ないきさつが

とても美しい文体で綴られていく・・・。

初めて人を恋し、世界が見違えるように生き生きと色づいていく様子が

あまりにも素晴らしくて・・・口づけ、という行為をここまで繊細に柔らかに

激しく描ける作家は、そうそういないのではないかと思えてしまうくらい。。

思わずため息が出てしまう美しさです。でも・・・

 

    黄金なる林檎の樹、美しく流るる歌姫のこえ

   

上記は、マーレイの意訳によるギリシャ悲劇『ヒッポリュトス』の中で、

悲恋の王妃フェードラが絶望の果てに自殺しようとして

退場した後に歌われるコーラスの一節で、

この作品の冒頭に掲載されています。

この事からなんとなく結末を予感させます・・・。

実際、初めて読んだ時のなんともいえない後味の悪さ。。

ひょっとしてこういう事って、本人が知らないだけで、

意外とよくある事かもな~なんて思うと空恐ろしくなります・・・。

そして最後に再び登場するギリシャ悲劇の一節。。

 

水彩画のような淡さで、美しく花開いた林檎の樹の眩さを描き、

花々の影のような哀愁を漂わして、その奥に悲しみの深さを

垣間見せているように思われる

 

後書で解説者がこう語っていますが、まさしく言い得て妙・・・だと思います。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『殺したのは私』

2006-03-07 12:35:15 | 作家か行

メアリ・H・クラーク・・・アメリカではかなり人気の高いベストセラー作家です。

この人の作品は結構読みましたが、ちょっとワンパターン気味かな、

と思いつつ・・・でもついつい惹き込まれてしまうんですね~。。

どの作品もヒロインがとても魅力的なのです



この作品では二人の対照的なヒロインが登場します。

一人は、何不自由ない生活をしてきたモリー・・・。

ある日突然夫殺しの罪で起訴され、5年の服役期間を終えて漸く我が家へ・・・。

一人は、闘うヒロイン・フラン・・・。

レポーターとして活躍するフランは、私のとても好きなタイプです。

 

この二人のヒロインは元同級生。

モリーは、弁護士の勧めでいったん罪を認め、司法取引に応じての入獄でしたが

出所のおり、冤罪を晴らすべく、犯人究明に意欲を燃やす旨

マスコミに表明します。

ところがモリーの無実を誰も・・・両親や夫ですら信じようとしない・・・

それよりも、一日も早く嫌な事は忘れ、新しく人生をやり直すよう諭す始末。

 

そのような状況の中、唯一人モリーの無実を信じてくれたのがフランです。

果敢なる調査の結果、ドンドン真相に迫るフラン。。

ところがそんな中、またしても新たなる殺人が・・・!

再び殺人の罪に問われて逮捕されるモリー。。

フランは果たしてモリーの無実を表明出来るのか!?



この作品は社会的な様々な問題も扱っており、

中でも患者を利用して利益を図る、恐ろしい病院の病んだ姿を描いているあたり、

物語全体に厚みをもたせています。

 

DVDのチャプターのように、くるくるスピーディーに展開する独特の手法、

主に都会を舞台に繰り広げられる魅力的な男女の愛憎劇。。

途中の展開が独特の緊迫感に満ち、グイグイ引っ張られつつ・・・

温かいヒューマニズムに溢れているので、とても読みやすいです。

時々読みたくなる、とても好きな作家です。

 

素材提供:AICHAN WEB


『ワイズ・チルドレン』

2006-02-17 14:00:48 | 作家か行

 アンジェラ・カーターです。

 

かのカズオ・イシグロの師匠でもあり、ブッカー賞の審査員を務めたり

サマセット・モーム賞受賞経験もありで、文学好きにとっては結構気になる存在。。

でもこの作品は、これらの経歴から期待しがちな美しい描写とはかけ離れてます。

 

ノーラとドーラは元気な双子の老姉妹。

作品の冒頭からいきなり

おはよう!自己紹介するわね。ドーラ・チャンスです。こんな場末へようこそ!

なんて軽い語り口調で物語は始まります。

 

チャンス・シスターズとして当時は大変な人気だった元双子のショウ・ガール

現在75歳!・・・が、過去の様々な出来事や、関わった人々の事を

延々と語っていく口語体の小説なのですが、これが結構面白い。。

粋のいい、饒舌な語りっぷりで、少々お下品なのですがネ

複雑な縁故関係が把握出来るまでは、正直言って読みづらかったけど

そこさえクリア出来れば、後はグイグイ惹き込まれてあっという間に読めました。

なんてったって五組の双子が登場するのですヨ~

 

かなりハチャメチャなようで、実は一本筋が通っている作品で、

その筋とは、父親を慕い続ける、痛々しいまでの双子の想いです。

舞台俳優であり、自分の子供を認知しようとしないハンサムな父親。。

13歳の姉妹が初めて父親と対面するシーンはとても切ないです。

 

「なかなか可愛いおじょうさんたちじゃないか!」

私の記憶によれば、あまりあてにならない記憶にせよ、ぺリグリンは

両腕を広げて私たちを抱きよせた。われらの父が私たちの存在を

否定したとき、ぺリグリンは翼のように広げた腕に二人の孤児を

強く抱きしめ、その結果、彼のチョッキの胸についている真鍮のボタンが

私たちの頬っぺたに食いこんで、すごく痛かった。―――

 

孤児として生まれ、戦時下のロンドンで生き残る為に始めたショウ・ガール。

場末のミュージカル・ホールからスタートしてハリウッド映画にまで出演

後年、あのフレッド・アステアと「ハ~イ、フレッド」「ハ~イ、ガールズ」

なんて呼び合う関係になってしまうなんて凄すぎ・・・

どの頁にも夢と音楽が溢れ、生きることに一生懸命な人々の生き様は

なんだかホロッとさせられます。

 

この作品のテーマソングの一つとも言われる 

「It’s Onry a Paper Moon」

紙でできた月がボール紙でつくった海の上に浮かんでいるけれど

ぼくを信じてくれるなら、あれは本当の月になるんだ、

布でつくった空の下に、布でつくった木が一本立っている、

でもそれだってぼくを信じれば、本物の木になるんだ、

まるで仮装行列か、ジュークボックスのメロディーか、

サーカスの見世物のような、いんちきのかたまりみたいなこの世の中も、

きみがぼくを愛してくれるなら、すべてが本物になるんだよ

と歌われるこの歌詞の中に、この物語の総てが凝縮されているような、

ちょっと素敵なお話です。。

 

素材提供:AICHAN WEB


『伊豆の踊り子』

2006-01-14 21:13:48 | 作家か行

 川端康成です。

 

この手の有名な作品についてはあまり書きたくないのですが

あいさんの薔薇の写真館に「伊豆の踊り子」という薔薇を発見

とても可憐で美しいイエローを見つめるうちに

思わず懐かしいなぁ~という気持ちが込み上げてきたので

ちょこっとだけ書いてみようと思います。

 

道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、

雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい速さでふもとから

私を追って来た。私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり

紺がすりの着物にはかまをはき、学生カ バンを肩にかけていた。

一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。

 

伊豆に一人旅に出た二十歳の旧制高校の学生である「私」が主人公。

改めて、あ~二十歳の学生さんだったのね~なんて感慨に耽ってしまいました。

そうそう。。つい最近、成人式が行われましたね。

改めて二十歳の皆様、おめでとうございます

 

旅の途中で旅芸人の一行と出会い、一人の踊り子に心惹かれていく「私」。

若さゆえに潔癖で、様々な感傷を抱えつつ、

少々ひねた気持ちの持ち主だった「私」が、純粋無垢な踊り子への慕情を通して

人間的に大きく成長を遂げる過程が情緒溢れて素敵ですね。。

露天風呂のシーンは本当にかわいい

そういえば百恵ちゃん・・・かなり遠方からのショットではありましたが

間違いなく原作に忠実でしたよね?^^

 

旅芸人達が差別されるシーンが何度か登場しますが、

「私」の見た彼らは、そんな世間の逆風も撥ね退け健気に生きています。

寧ろ明るく生き生きと見えるのですね。

この辺の描き方は、とても清々しい印象を受けました。

 

最後に訪れる別れのシーンも哀愁よりも、清々しさを感じます。

出会いと別れ、青春時代の感傷等、短い作品の中に見事に凝縮され

読み返すほどに、美しい風景と共に心に蘇る懐かしい感覚。。

やはり名作は名作です。。

 

素材提供:AICHAN WEB