ルイ・ド・ベルニエールです。
ペンギン・ブックスが「20世紀の100冊」に選出し、
英国では20人にひとりが読んだといわれ、また世界26か国で
ベストセラーという、まさに不朽の名作ですね。
映画『ノッティング・ヒルの恋人』のラスト・シーンで、公園のベンチで
ヒュー・グラントが一心に読んでた青と白の表紙の本がまさにこれ。
本作も映画化されて大きな話題を呼びましたっけ。
舞台は第2次世界大戦下のギリシャの小島、ケファロニア島。
イタリア占領下のケファロニア島を舞台に、イタリア軍大尉と島の娘との
運命的な恋と、2人をとりまく島の人々の喜びと哀しみが綴られていきます。
これはも~素晴らしい作品ですヨ~。
映画を観てイマイチと思った方、原作を是非読んで下さい!と言いたいです。
単純な恋愛小説なんかじゃなく、戦争を舞台にした、まさに人間ドラマ。
前半、この作品に登場する主要人物や出来事等が別々に各章で綴られる為
やや散漫な印象を受けますが、総頁数547の中、205頁目にして
いよいよコレリ大尉がケファロニア島に登場!ペラギアをめざとく見つけて
「九時の方向に美人(べラ・バンビーナ)発見、頭ぁ、左ぃ」
と全軍に指令を出したシーン。。
この辺りから今までの序章がすべて重なり、
一大交響曲が奏でられ始める様はも~お見事
美しい空と海に囲まれて長閑に暮らす島の人々の情緒豊かな生活の様子は
とても微笑ましく、美の化身のような青年マンドラスがイルカと戯れる様子や
幼い少女レモーニの無邪気な愛らしさ、彼女がその命を救った
ペットのマツテン、プシプシーナを巡る心暖まる経緯等、
何もかも素朴で美しいのです。
でも、村で唯一のドクター・イアンニスとその娘ペラギアの美しい家族愛を中心に
いかにケファロニア島が美しい島であるか、実感すればする程、
後半の、突然襲い掛かる悲劇が凄まじい。。
想像を絶する凄まじい残虐な行為はも~目を覆わしめるものがあります。
人はこんなにも・・・これ程まで残虐になれるのか?
本当に・・・何度胸をかきむしられ、憤り、涙したことか。
でも、そのようなおぞましい残虐行為の中にも、確かに育つ友情もあるのです。
例え、敵同士であったとしても。。
ドイツ軍による、イタリア兵処刑シーンとその後の展開は、涙なしで読めません。
大男カルロの心の傷や深い愛、ドイツの将校グンター・ウェーバーの友情、
ヴェリサリオス、ドクター・イアンニス、そしてペラギアの死闘・・・。
カルロには最も泣かされましたヨ~。。
戦争物というと、一方的にドイツ・ナチだけを悪者にする作品が多い気がしますが
この作品は、色々な意味で公平な書き方をしてるな~と感じ、とても新鮮でした。
そうそう。
コレリ大尉とウェーバー中尉の出会いの会話はとてもユニーク
「きみはかの偉大な作曲家のご子孫ではあるまいね?」
コレリがきくと、ドイツ人は、「私はウェーバーと言ったので、
ワーグナーとは言っていません」と答えた。
ここは、二人の名前の由来を考えると、作者の痛烈な意図が窺われますネ^^;
個人的に、最も大きな印象を受けた人物は、ペラギアが若さゆえ、
先走って婚約してしまったマンドラスの母親ドロスーラです。
姿こそ醜いけれど、その心の大きさ、深さには驚嘆せずにはいられません。
まさしく母は強し!です
そしてもちろんぺラギア
輝く美貌と火のように激しい性格
大切な人を思いやる心の強さ、大きさはまさに女の鑑。。
でも・・・大切な青春時代・・・最も輝くべき時期に、戦争によって踏みにじられ
いつの間にか年老いてしまうぺラギアの人生は本当に切ないです。
この作品の舞台となったケファロニア島に容赦なく襲い掛かる大災難の恐ろしさ。
イタリアに占領され、ドイツに蹂躙され、漸く終戦か、と思いきや
同国人同士の壮絶なる争い・・・そしてそれらをも凌ぐ大地震の恐怖。。
一体どこまで苦しめばいいのでしょう・・・!
読みながら、これでもか、これでもか!と襲い掛かる悲劇の連続には
文章ゆえの迫力に・・・も~圧倒されっぱなしでした。
なんていうか・・・
植民地争奪は、歴史上最も忌むべき行為の一つだと改めて実感ですヨ・・・。
さて。この作品のタイトルに登場するマンドリンですが、
コレリ大尉はアントニアと名付けて、それはそれは大切に扱います。
どれ程の苦境に陥ろうと、兵士達を勇気付け、笑わせる大尉の懐の大きさ
スカラ座と称してオペラ楽団を結成するのですが、
その実態を読んだら・・・思わず想像し、爆笑せずにいられないのでは?^^
全編通して美しい音楽が奏でられ、残虐なシーンも多い作品なのに、
読後のなんともいえない爽やかさは特筆物
最後の最後、コレリとぺラギアに訪れたこの上も無い幸福は・・・
今まで舐めてきた辛酸が、実はこの至福を味わう為の試練だったのかも・・・
と思わずにいられないくらい感動的でした。
読書好きで本当に良かったと実感せずにいられない素晴らしい作品です。
素材提供:AICHAN WEB