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プラムの部屋♪

長い長い休暇中デス。(*_ _) ゴメンナサイ。

『小さな白い鳥』

2007-02-21 23:33:30 | 作家は行

 ジェイムズ・M・バリです。

 

誰もが知ってるネバーランドのピーター・パン

この永遠の少年は、実はジェイムズ・M・バリ作「小さな白い鳥」

の挿入話の中で初めて誕生したということ、ご存知ですか?

この小説の中で、ピーター・パンは、小説の語り手である「私」

―――キャプテンW―――が彼の小さな友達デイヴィッドと共に

創作した、という設定で登場します。

この小説の中では、人間の子供は生まれる前は小鳥だった!

ということになっていて、ピーター・パンは生まれて一週間後に

まだ小鳥のつもりで窓から飛び出し、

ケンジントン公園の中の小鳥の島に舞い戻ってしまいます。

完全な人間になれず・・・さりとて小鳥でもない・・・

中途半端な存在としてケンジントン公園で

妖精たちと暮らすことになります。

 

一度、家に帰りたいと願い、妖精たちの力を借りて家の窓まで

飛んでいき、自分がいなくなって悲しむ母親を見つけます。

でもその時はまだ決心がつかず・・・やがて「今度こそ」と

本当に人間に戻る決心をして二度目に家に飛んで行ったら

窓は閉ざされていて、母親には既に新しい男の子がいることを知り

失意のうちに公園に帰ることに・・・。

ピーター・パンは人間にもなれず、鳥にもなれず

成長することがないまま、公園にい続ける・・・。

 

「人生にチャンスは二度無い」

バリの少々厳しい人生哲学が描かれた作品ですネ。

でも心優しいピーター・パンは、同じようにして抜け出してきた女の子に

今ならまだ間に合う、戻れるよって助言してあげるのです。

ここでもさり気ない人生の大切な教訓が・・・。

切なくて、でもとっても素敵なお話なのですが・・・

これはあくまでも挿入話。

 

この作品自体はキャプテン・Wのちょっと捻くれた愛情表現の物語

・・・という感じでしょうか。。

このキャプテン・Wが実に魅力的なキャラなのですヨ~。

バリの最高傑作と言われるだけあって、本当に本当に素敵なお話・・・

ピーター・パンがお好きな方には絶対に読んで頂きたい名作です。

 

・・・というわけ・・・ではありませんが

「白い鳥」ならぬ「白い妖精」コマネチの動画を発見

なんて懐かしいのでしょ~と、感無量になりつつも

この人こそ永遠の美少女でいてほしかったな~と

少々複雑な心境のプラムさんでした・・・

 

素材提供:Pari’s Wind


『ベル・カント』

2007-01-30 12:34:37 | 作家は行

 アン・パチェットです。

 

南米のある小国の副大統領官邸で、日本最大のエレクトロニクス企業

「ナンセイ」の社長ホソカワ氏の誕生パーティが、盛大に開かれてます。

オペラの熱狂的ファンであるホソカワ氏の為に招かれた特別ゲストの

ロクサーヌ・コスは、世界的に有名なオペラ歌手

相手国の狙いは工場誘致です。先が見えないほど貧しいその国は、

大企業の力を借りて財政難を切り抜けようと必死だったのですね。

 

このパーティが終わりに近づいた時、いきなり邸中の電気が消えて

テロリスト集団が乱入・・・政治犯の釈放を要求する目的で大統領拉致を

目論んでいたのです。・・・が!肝心の大統領が欠席!

テロリスト達はこの番狂わせのおかげで、大勢の人質を抱え込み、

副大統領官邸に立てこもる事になってしまいました。

 

・・・とここまで読めば、どこかで聞いたような話だな~と

お気付きの方もいらっしゃるかと思います。

そう。1996年ペルーで起こった反政府ゲリラ組織による

日本大使公邸占拠事件が、この作品のモデルになっているのです。

作者はテレビのニュースで報道された事件を見て、

劇的な展開に「まるでオペラを観てるような気がした」そうです。

 

実際、この作中にオペラ作品が随分登場します。

ホソカワ氏が最初にオペラに夢中になったきっかけは「リゴレット」。

ロクサーヌ・コスを初めて知ったのは娘からのプレゼントのCD

「ランメルモールのルチア」。

拉致される直前に唄っていた曲は「ルサルカ」のアリア。

ロクサーヌが要求した楽譜をテロリストの指揮官が拒絶しようとした時

抗議して唄った「ジャンニ・スキッキ」から「私のお父さん」等々。。

 

この本の帯に書かれた言葉―――この世には、銃より強いものがある。

この言葉こそ、この作品の総てを表現してると思います。

この作品の主役は音楽なのです

 

どれ程凄惨な事態に陥ってしまうのだろう・・・と思いきや

この物語は思いがけない方向に進んでいきます。

想像を絶する貧困の中で生活してきたテロリスト達と

冨と名声は手に入れても、人間らしい安らぎを忘れて生きてきた人質達。

外部との交渉により、人質とテロリストを合わせて最終的に58人になり、

この閉ざされた空間は、いつしか楽園の様相を呈していく・・・。

 

沢山の部屋があり、大きな画面のテレビがあり、ジェットバスのお風呂があり

食べ物は豊富に運ばれてくる・・・。何しろ副大統領官邸ですからね。。

そして何より美しい音楽が生で聴けるのです

一人ひとりの登場人物も、それぞれ個性を発揮し始めます。

せっせと家事に勤しむルーベン副大統領を初め、今までの生活では

かえりみられることの無かった才能が芽吹き、生き生きと生活する彼ら。

その中に、まだ十代の若すぎるテロリスト達の抱える痛み、

失ってきた青春等も繊細に描かれていて、ヒューマニズムに溢れ、

読むほどに一人ひとりが愛おしくてたまらなくなります。

 

外部との交渉は難航・・・奇妙な共同生活は長引くばかり。

そしてなんと恋まで芽生え・・・本当にどこまでも美しい世界が繰り広げられ、

いつしかそれぞれの心の中に「この日々を終わらせたくない」という想いまで。

でもこの美しい楽園の日々は、あくまでも国際的テロ事件により

偶発した儚い幻に過ぎません。いつか必ず終わりが・・・。

 

この作品は出版された当時、各紙で絶賛され、オレンジ小説賞、

PEN/フォークナー賞を受賞大変な話題作でした。

掲載させて頂いた薔薇の名はオペラ作品に敬意を表してマリア・カラス

今読み返してもなんとも切ない余韻が残る、とても美しい作品です。

 

素材提供:AICHAN WEB


『コレリ大尉のマンドリン』

2006-11-01 16:28:26 | 作家は行

 ルイ・ド・ベルニエールです。

 

ペンギン・ブックスが「20世紀の100冊」に選出し、

英国では20人にひとりが読んだといわれ、また世界26か国で

ベストセラーという、まさに不朽の名作ですね。

映画『ノッティング・ヒルの恋人』のラスト・シーンで、公園のベンチで

ヒュー・グラントが一心に読んでた青と白の表紙の本がまさにこれ。

本作も映画化されて大きな話題を呼びましたっけ。

 

舞台は第2次世界大戦下のギリシャの小島、ケファロニア島。

イタリア占領下のケファロニア島を舞台に、イタリア軍大尉と島の娘との

運命的な恋と、2人をとりまく島の人々の喜びと哀しみが綴られていきます。

 

これはも~素晴らしい作品ですヨ~。

映画を観てイマイチと思った方、原作を是非読んで下さい!と言いたいです。

単純な恋愛小説なんかじゃなく、戦争を舞台にした、まさに人間ドラマ。

 

前半、この作品に登場する主要人物や出来事等が別々に各章で綴られる為

やや散漫な印象を受けますが、総頁数547の中、205頁目にして

いよいよコレリ大尉がケファロニア島に登場!ペラギアをめざとく見つけて

「九時の方向に美人(べラ・バンビーナ)発見、頭ぁ、左ぃ」

と全軍に指令を出したシーン。。

この辺りから今までの序章がすべて重なり、

一大交響曲が奏でられ始める様はも~お見事

 

美しい空と海に囲まれて長閑に暮らす島の人々の情緒豊かな生活の様子は

とても微笑ましく、美の化身のような青年マンドラスがイルカと戯れる様子や

幼い少女レモーニの無邪気な愛らしさ、彼女がその命を救った

ペットのマツテン、プシプシーナを巡る心暖まる経緯等、

何もかも素朴で美しいのです。

でも、村で唯一のドクター・イアンニスとその娘ペラギアの美しい家族愛を中心に

いかにケファロニア島が美しい島であるか、実感すればする程、

後半の、突然襲い掛かる悲劇が凄まじい。。

 

想像を絶する凄まじい残虐な行為はも~目を覆わしめるものがあります。

人はこんなにも・・・これ程まで残虐になれるのか?

本当に・・・何度胸をかきむしられ、憤り、涙したことか。

でも、そのようなおぞましい残虐行為の中にも、確かに育つ友情もあるのです。

例え、敵同士であったとしても。。

 

ドイツ軍による、イタリア兵処刑シーンとその後の展開は、涙なしで読めません。

大男カルロの心の傷や深い愛、ドイツの将校グンター・ウェーバーの友情、

ヴェリサリオス、ドクター・イアンニス、そしてペラギアの死闘・・・。

カルロには最も泣かされましたヨ~。。 

戦争物というと、一方的にドイツ・ナチだけを悪者にする作品が多い気がしますが

この作品は、色々な意味で公平な書き方をしてるな~と感じ、とても新鮮でした。

 

そうそう。

コレリ大尉とウェーバー中尉の出会いの会話はとてもユニーク

「きみはかの偉大な作曲家のご子孫ではあるまいね?」

コレリがきくと、ドイツ人は、「私はウェーバーと言ったので、

ワーグナーとは言っていません」と答えた。 

ここは、二人の名前の由来を考えると、作者の痛烈な意図が窺われますネ^^;

 

個人的に、最も大きな印象を受けた人物は、ペラギアが若さゆえ、

先走って婚約してしまったマンドラスの母親ドロスーラです。

姿こそ醜いけれど、その心の大きさ、深さには驚嘆せずにはいられません。

まさしく母は強し!です

 

そしてもちろんぺラギア

輝く美貌と火のように激しい性格

大切な人を思いやる心の強さ、大きさはまさに女の鑑。。

でも・・・大切な青春時代・・・最も輝くべき時期に、戦争によって踏みにじられ

いつの間にか年老いてしまうぺラギアの人生は本当に切ないです。

 

この作品の舞台となったケファロニア島に容赦なく襲い掛かる大災難の恐ろしさ。

イタリアに占領され、ドイツに蹂躙され、漸く終戦か、と思いきや

同国人同士の壮絶なる争い・・・そしてそれらをも凌ぐ大地震の恐怖。。

一体どこまで苦しめばいいのでしょう・・・!

読みながら、これでもか、これでもか!と襲い掛かる悲劇の連続には

文章ゆえの迫力に・・・も~圧倒されっぱなしでした。

なんていうか・・・

植民地争奪は、歴史上最も忌むべき行為の一つだと改めて実感ですヨ・・・。

 

さて。この作品のタイトルに登場するマンドリンですが、

コレリ大尉はアントニアと名付けて、それはそれは大切に扱います。

どれ程の苦境に陥ろうと、兵士達を勇気付け、笑わせる大尉の懐の大きさ

スカラ座と称してオペラ楽団を結成するのですが、

その実態を読んだら・・・思わず想像し、爆笑せずにいられないのでは?^^

 

全編通して美しい音楽が奏でられ、残虐なシーンも多い作品なのに、

読後のなんともいえない爽やかさは特筆物

最後の最後、コレリとぺラギアに訪れたこの上も無い幸福は・・・

今まで舐めてきた辛酸が、実はこの至福を味わう為の試練だったのかも・・・

と思わずにいられないくらい感動的でした。

読書好きで本当に良かったと実感せずにいられない素晴らしい作品です。

 

素材提供:AICHAN WEB


『奇術師』

2006-10-24 10:41:39 | 作家は行

 クリストファー・プリーストです。

 

超常現象の特集記事を担当することになったジャーナリストのアンドルーは

キャサリン・エンジャという女性からの情報提供で北イングランドに赴きます。

実はこの女性、アルフレッド・ボーデンという著者の「奇術の秘法」という

本を送りつけた張本人でした。

お互いの祖先は、それぞれに“瞬間移動”を得意演目としていた、

二十世紀初頭の天才奇術師。

生涯ライバル関係にあった二人の確執は子孫のアンドルーにまで

影響を与えているというキャサリン(ケイト)の驚くべき話でしたが

「あなたには一卵性双生児の兄弟がいますか?」

というケイトの言葉はアンドルーに衝撃をもたらします。

戸籍上に存在しない双子の兄弟・・・それこそ長年アンドルーが感じていたこと。

何よりも真実を知りたいと熱願する疑問そのものだったからです。

二人の奇術師が残した手記によって、衝撃の事実が明らかとなる!

 

・・・とま~ちょこっとアマゾンからの紹介文も含めて

あらすじをご紹介させて頂きましたが、

これは「このミステリーがすごい!」で見事一位に輝き、

世界幻想文学大賞受賞という栄冠にも輝き、

更に最近「プレステージ」という題名で映画化されたので、

まさに知る人ぞ知る!有名な作品ではありますね。

でもミステリーと思って読むとちょっとどうかな~?

前半は良いけど後半は「それはいくらなんでも無いでしょ~??」

ってな感じで思いっきり引いちゃうかも。。

 

全部で5部に分かれていて、それぞれ語り手が変わります。

二人の奇術師は、当時人気も実力も分け合った究極のライバル。

ところがある事件をきっかけに、二人の間には修復しようのない

どうしようもない確執が生まれてしまうのですね。

それが、それぞれの立場から語られ、当時の状況が明かされるから

本当は無二の親友にも成り得る仲だったのに・・・

と驚くくらいお互いを認め合い、尊敬し合い、

仲良くしたいと思っていたことが痛いほどに伝わってくるのです・・・。

が!も~~~どうしようもない行き違いが。。

この辺の心理描写は流石ですね。

 

アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャ。

それぞれが奇術を行なう時に、お互いある程度のトリックは分かるので

観客が分かるように種明かしめいた事をして嫌がらせし合います。。

ま~なんて醜い子どもじみたことを・・・と思いますが

そもそもの経緯を考えればさにあらず。。

 

そんな二人の共通の演目「瞬間移動人間」。

これ読んで、初代引田天功を思い出した方もいらっしゃるのでは?^^

中でもルパート・エンジャの「閃光の中で」と題するイリュージョンは

実在した科学者ニコラ・テスラまで登場

電気の放つ閃光の凄まじさ

人間の身体を舐め回すように巻きつき、とぐろを巻いて自在に動き回る

色鮮やかな閃光の恐ろしい破壊力に恐れ慄きつつ

舞台上で行なわれるイリュージョンの衝撃

 

さ~ここで好みがはっきり分かれてしまうのですね~。。

私はここで、有り得ないよ~と思いつつも妙に惹き込まれ・・・

ラストの章は怪奇めいたおどろおどろしい雰囲気に鳥肌状態で読み進め、

最後の最後に味わう衝撃は・・・実に恐ろしかったです

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『悲しみにさようなら』

2006-09-19 11:46:32 | 作家は行

 リンダ・ハワードです。

 

―――行方不明者を捜索するボランティア〈ファインダーズ〉を率い、

これまで数々の子供を救ってきたミラ。

彼女には、かつてメキシコで生後まもないわが子を誘拐され、

瀕死の重傷を負った痛ましい過去があった。

白昼の悲劇は10年たったいまも未解決のまま―――

 

全米で圧倒的な人気を誇る作家リンダ・ハワードの作品の中でも

幼児誘拐、臓器売買等、この作品で取り上げてるテーマはかなり深刻で、

母親ミラに感情移入して読むと、も~まさに涙涙涙・・・

 

素晴らしい名医である父親デイヴィッドは、

愛妻ミラが遂に誕生した息子を大切に慈しむ姿を眼前に

まさに至福の喜びに溢れています。

この、世にも麗しい光景がほんの数時間後には一転!

暗黒へと突き落とされてしまうのです・・・。

 

産まれたばかりの大切な赤ちゃんを、市場で二人の男に襲われ

目の前で誘拐されてしまったミラ。

赤ちゃんを取り返そうと必死の抵抗をし、ナイフで刺されて瀕死の重傷!

こんな悲劇、あって良いのだろうか。。

衝撃的な出だしですが、読み進むうち、段々明るみなる更に衝撃の真実。

ある女性の裏切りは、物語とわかっていても・・・悔しさのあまり泣きました。

 

途中から登場する無法者ディアスとの微妙な関係がドキドキで・・・^^;

これでもか、これでもか!これでもかぁ!!というほど濃厚なラブ・シーン

相変わらず健在で・・・たまに読むから良いのであって、

しょっちゅうだと流石に食傷気味になります。。(あくまでも私的感想・・・

でも正直・・・個人的には元夫のデイヴィッドの方が好きだったりしてます^^

 

決してあきらめず、どんな危険な場所へも飛び込んでいく勇ましいミラ。

いつも思うのですが、この辺の描写も妙にリアルです。

まるで経験者みたい。。

そして、遂に真実を探り当てたミラの母親としての決断は・・・??

 

このシーンを読んで平静でいられる女性がいるとしたら・・・

う~~~考えたくないっ

そして大感動のラスト・シーン

あ~やっぱリンダって大好きっ

 

―――冒頭の作者の言葉――――

一生分の食器を投げつけ、割ってしまった友人のべヴァリー・バートンと、

リンダ・ジョーンズへ。

ふたりとも、わたしがこの物語を語ったとき泣いてくれました。―――

 

実は私。読後に気付いたのです、この文章。

リンダ・ハワードの身近に、似たような経験をされた女性が

実際にいたのかと、とても衝撃でした。

なぜなら作中ミラが悲しみのあまり取った行動と全く同じだから。。

 

親子関係の悪化が深刻化している昨今。

こんな素敵な作品を書いて下さったリンダに乾杯・・・なのデス^^

 

素材提供:Pari’s Wind


『キル・ジョイ』

2006-07-04 22:52:40 | 作家は行

 アン・ファインです。

 

夕方のセミナーで私を笑いものにしたのは、美しい女子大生だった。

私は中年の大学教授で、片頬に醜悪な傷があった。

その傷を女子学生の目の前につきつけると、笑い声はやんだが、

私の頬は思いきりたたかれた。

この時から、彼女への異常なまでの愛情が湧き起こったのだ。

期待の英国女流新人が放つ各書評子絶賛の"美女と野獣"の物語。

 

教授の一人称で進行していく作品で、典型的な異常心理小説です。

この教授、女子大生を軟禁状態にしてしまいます。

性的な描写も出てきますが、もしこれが別の作家の手による作品になったら

アブノーマルになり得る内容なのになぜか嫌悪感が無いです。

むしろ哀れ・・・というと言い過ぎですが、そういう行動に走ってしまった

教授の心理状態が理解出来る内容です。。

(理解出来るって・・・やばいじゃん

 

それにしても「美女と野獣」の物語、というコピーはかなり抵抗ありますね~。。

確かに美人女子大生と醜い傷跡を持つ男のお話ですが・・・。

 

そう。。この教授ですが、冷静な自己分析や理性が光り、

今までの人生の中で、顔の醜悪な傷が原因で味わった思い等から

なんとなく感情移入出来てしまうキャラなのです。

非常に頭が良い・・・けど明らかに異常です^^;

 

対する女子大生は、この教授の相手になるには少々足りない。。

もし最初の衝撃的な出会い(?)さえなければ、

教授が執着する程の女性では断じてありません。

そこに・・・運命のいたずら、というかなんというか。。

タイミング・・・なのでしょうね。

 

後半、恐ろしい破滅に向かって突き進んでいく教授の心理描写が圧巻で・・・

この辺の息もつかせぬスピーディな展開は衝撃的でした。

特にラストの告白シーンは・・・う~ん。。凄いです。

 

本来アン・ファインは、童話作家として有名なのではないかと思われます。

なので、いきなりこの手の作品、というのは少々驚きではあります。

でも内容の割には生々しい描写が少なくて、

寧ろ教授の冷静で知的な心理描写が妙に面白く・・・

グイグイ惹き込まれてしまいました

こういう異常心理作品は正直あまり好きではありませんが

たまに読むのは面白いかもです~^^;

 

素材提供:AICHAN WEB 


『ある人生の門出』

2006-06-15 20:25:19 | 作家は行

 アニータ・ブルックナーです。

 

『秋のホテル』でブッカー賞を受賞したブルックナーのデビュー作・・・

自叙伝的な要素を多分に含んだ作品です。

 

ワイス博士は四十歳になった今、自分の人生は文学のおかげで

廃墟と化したと思った。

―――こんな、ちょっと衝撃的な文章から始まるこの作品。

バルザック研究者のルース(ワイス博士)が四〇歳になって、

過去をふり返るところから小説は始まります。

 

元女優の放恣な母、この母をいたわりながら愛人をもつ父。

それぞれの生活に忙しく、子供にかまけていられない両親に代わり、

ルースは、一緒に生活していた祖母に育てられました。

その為もあってか、ルースはかなり古風な女性に成長します。

「シンデレラだって舞踏会に行くのよ」

この祖母の言葉を夢見つつ・・・。

 

もちろん現実は全く違い―――一言で言ってしまえば、

自分勝手な親の犠牲となって青春時代を失ってしまった女の半生記―――

がこの小説なのです。

こう書くと、いかにも救いようが無いみたいですが、

実際に読んだ方なら、おそらくお分かり頂けるように、とにかく素晴らしい。。

 

―――自分はアンリエット・ド・モルソフ伯爵夫人(『谷間の百合』

『従兄ポンス』『幻滅』などに登場)やウジェニー・グランデのような

貞節な人生は送りたくはない、ということだった。―――

むしろウジェニー・グランデのさまざまな希望に死をもたらす夫人、

パリの舞踏会にちらりと姿を見せる、髪に羽飾りをつけた美人に

なりたかった。善良な敗者よりは、悪者の勝者になるほうがいい。

バルザックは彼女に、それも教えてくれたのだった。―――

 

親元を離れてパリに留学し、学者としてひとり立ちしつつ、

様々な恋愛に身をやつし・・・結婚と同時に漸く手に入れたかに見えた

つかの間の幸せもあっけなく・・・。

 

見事なまでに思い通りにいかない人生にも拘らず、

自分勝手で病弱な両親の世話を決して放棄せず、

人として精一杯誠実に生きるルース。

でも決して肩に力が入っているわけでなく、寧ろサラッと爽やかに

そこはかとないユーモアまでも感じさせる硬質な文体が

作者自身の考え方、生き方を感じさせてくれます。

 

理想は実現しなくても孤独でも、爽やかに再び人生の門出に立つ・・・。

読後に味わうなんともいえない心地よさはブルックナーならでは。

時々フッと読みたくなるとても好きな作家です。

 

素材提供:AICHAN WEB


『ボッコちゃん』

2006-05-01 23:38:26 | 作家は行

 星 新一・・・文句なし!ショートショートの王様ですね。

 

 この方の作品を読んだのはも~ホントに大昔・・・。

自薦版が発刊された、との事で改めて読んでみました~。

やっぱ・・・素晴らしいですね!

なんてったって表題作『ボッコちゃん』ですヨ。

 

 そのロボットは、うまくできていた。女のロボットだった。

人工的なものだから、いくらでも美人につくれた。あらゆる美人の要素を

とり入れたので、完全な美人ができあがった。もっとも、少しつんと

していた。だが、つんとしていることは、美人の条件なのだった。

 

 この出だしからラストまで僅か5ページ。

なのに驚くべきオチが待っているのですよね~。。

初めて読んだ時の衝撃!今も忘れられません・・・。

そして更に印象的なのが『おーい でてこーい』かな。。

 

 「おい、この穴は、いったいなんだい」

 みんなが集まってきたところには、直径一メートルくらいの穴があった。

のぞき込んでみたが、なかは暗くてなにも見えない。なにか、地球の

中心までつき抜けているように深い感じがした。

 

 これまたラストまで僅か5ページ。

この作品は・・・実に現在の日本の状況を物語っているようです・・・。

想像するだに・・・恐ろしい。。

 

 とにかく一つ一つの作品が異常なくらいに短い。

短いけど、その限りなく短い文章の中に

無限の言葉を凝縮してしまえるとてつもない筆力、アイデア。。

改めて、星 新一は日本の宝だな~と実感しました。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『ジェイン・エア』

2006-04-18 12:10:52 | 作家は行

 シャーロット・ブロンテ・・・有名なブロンテ三姉妹の長女です~。

 

なんとなく久しぶりに再読したくなり・・・読み始めたらも~~

たちまち惹き込まれて最後まで一気でした

改めて・・・名作だな~と思います。。

かなり宗教色が強いのは、正直ちょっと辟易しないでもありませんでしたが・・・

 

伯母であるリード夫人の下で生活した悲惨な少女時代から始まって

孤児院での8年間の出来事が語られる最初のエピソード。。

孤児院で出会ったヘレンとのかけがえの無い友情と

テンプル先生との心の交流を通して、人間的に大きく成長する様は

その後のジェインの人生に多大なる影響を及ぼした事を物語ってますね。

 

テンプル先生の結婚を機に、家庭教師として新たなる人生に踏み出すジェイン。

そこで運命の人、館の主人・ロチェスター氏と出会うのです。

それまで虚飾に満ちた世界で生きてきたロチェスター氏にとって

飾らない率直な言葉でストレートに対応するジェインは

とても新鮮で爽やかで・・・可憐な花のような存在で・・・

またジェインにとってもロチェスター氏とのやり取りは刺激的で・・・

要は、身分の違いを超えて、お互い惹かれ合ってしまうのですね。

 

この二人のやり取りはとても面白いです^^。

特に、危篤状態のリード夫人に会いに行く為、

館を長く留守にする事を告げたジェインとロチェスター氏との会話は大好き

ここでのジェインは本当に幸せだったのですね。。

あの恐ろしい事件が起こるまでは・・・

 

深く悲しい、傷ついた心を抱えたまま真夜中に館を出、

無一文の状態で野原を一人彷徨い、餓死寸前で辿りついたムア・ハウス。

ここで命を救われたジェインは新たな生活を始めます。

シン・ジン、ダイアナ、メリーの三兄妹と家政婦ハナーとの出会いは

天涯孤独だと思っていたジェインにとって、何よりのプレゼントでした。

改めて読み返すとシン・ジンのような・・・冷たい人間も珍しいように思うのですが

初めて読んだ少女の頃は、とても魅力的に感じましたっけ。。

 

そしてラストの・・・ある意味大どんでん返し

分かってはいても・・・やっぱ・・・泣けるのですヨ~。。

ジェインの生き方は終始一貫。

感情に溺れそうになりながらもギリギリのところで自分を保ち

あるいは理性で・・・あるいは道徳で感情を押さえ込み

毅然と誇り高く生き抜く様は、共感せずにはいられません。

 

人間、時には感情のままに突っ走る事も必要だと思いますが・・・

でもやっぱり理性を持った人間でありたいなと、改めて感じた一冊でした。

 

素材提供:Pari’s Wind


『もうひとつの景色』

2006-04-08 13:02:20 | 作家は行

 ロザムンド・ピルチャーです。

 

   季節はずれの小さなビーチ。

   忘れられたボートが風に揺れ、

   白いスケッチブックがぱらぱらとページをめくる。

   海辺のアトリエでひとり暮らすエマに訪れる

   出会いと別れ―。

   誰だって、心から愛したいそして愛されたい…。

 

本の表紙を捲ると最初に飛び込んでくる素敵な言葉。。

大自然を背景に、平凡な人々の、平凡な日常生活を

限りない優しい眼差しで描き切るピルチャーの世界は

どんな本よりも心が安らぎ、心地良い余韻に浸れます。

この作品も、そんな心安らぐ素敵なお話です。

 

ヒロイン・エマにとって、唯一の家族は有名な画家の父親ベンだけ。。

エマが6歳の時に父親は再婚しましたが、見事に失敗・・・。

幸せとは言えない結婚生活は僅か1年半で破綻を迎えます。

でも義理の母親の息子クリストファーとの出会いは、

エマにとってとても大切なものになるのです。

 

天才的な画家として、あらゆるチャンスが巡ってきたベンは

エマの面倒を見るにはちょっと・・・無粋なのですね。。

13歳のエマをスイスの学校に預け、一人アメリカへ飛び立ってしまいます。

更に全国を飛び回り、駆け巡り・・・エマに父親の所在を教えてくれるのは

新聞や雑誌等の記事だったりしているのです。。

エマが家族の愛情に飢えて彷徨う気持ちもとてもよく分かりますね・・・。

 

19歳の時、エマは今度こそ父親と共に暮らす事を決意し、

一人ポースケリスへ向かいます。

でも道中、本当に沢山の人々の優しい手が差し伸べられるのです。。

あるいは義理の兄クリストファー、あるいは画商マーカス、

あるいは画廊の共同経営者ロバート等々・・・。

 

思いがけず、駅に迎えに来てくれた父親と、

今度こそゆっくり生活出来ると期待していたエマでしたが・・・。

自分は誰にも必要とされてないのかも。。

誰にも愛されてないんだわ・・・。

打ちひしがれ、思い悩みつつ、ひた向きに生き抜いて、ふと気がついてみると

実はエマの求めていた愛情は、すぐそこに・・・

 

目先のことにとらわれくよくよ悩んでしまいそうなとき、

ほんの少し心を広くもつことで本当のことが見えてくる。

 

後書に記されているように、この作品はとても大切な何かを教えてくれます。

豊かな大自然の描写が相変わらず素晴らしいピルシャーの世界

ちょっと疲れたな、なんて思った時、ふと手にして読んでみると

ひょっとしたら違う世界が広がるかも・・・。

 

素材提供:AICHAN WEB


樋口 一葉

2006-03-31 13:24:36 | 作家は行

 25歳の若さで亡くなってるのですよね。

この方の作品群・・・小学校時代に半強制的に読まされました。(笑)

当時から外国物に心が限りなく惹かれていたので、

一般的に言われる程には夢中になれませんでした。

でも改めて思い起こすと、やっぱり名作なんだな~と思います。



一番印象的だったのはなんてったって『たけくらべ』

大黒屋の美登利を中心に、龍華寺の信如,正太郎,長吉等、

東京の下町で暮らす少年・少女達の繊細な心の機微を見事に描いたこの作品。

よく劇でも上演されますね。



勝気でおきゃんな美登利ですが、本当に好きな人の前では素直になれない。。

この二人の切ない心情を見事に描いた数々の名シーンは

何度思い出しても胸がキュンと締め付けられそうな、

懐かしい想いに駆られてしまうのです。

その最も素晴らしい特筆すべき名シーンが秋の夕暮れのひとコマですね。

 

ある雨の日の夕暮れ。。

大黒屋(美登利の家)の前で草履の鼻緒が切れてしまい、戸惑う信如。。

格子戸からその様子を見た美登利が、布切れを持って雨の中に・・・。

勝気な美登利と、顔を真っ赤にして体を硬くしたまま俯く信如の

言葉を交わすことなく、二人の想いがすれ違っていく悲哀を

雨の中、置き去りにされたままの紅い友禅の布切れが物語る・・・。

う~ん。。ワンダフル

 

最後の最後まで、想いを寄せ合う二人が結ばれる事なく、

それぞれの人生に別れていく・・・。

ラストの、大黒屋の格子門に飾られていた水仙の花。。

本当にどこからどこまで情緒豊かな筆でしょう。

日本が誇る名作ですね。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


アニーとマックス・シリーズ

2006-02-11 19:13:56 | 作家は行

 キャロリン・G・ハートです。


私が読んだのは『舞台裏の殺人』『ハネムーンの殺人』の二作止まりです~。

第一作目『舞台裏の殺人』・・・

ミステリ専門書店を経営するアニーは、地元劇団のリハーサル中に起きた

本物の殺人事件に巻き込まれてしまいます。

しかも第一容疑者は愛しい恋人のマックス。

アニーはミステリから得た知識を頼りに、事件の謎に挑戦しますが…。



ミステリ専門書店を経営しているアニーがとっても可愛い。。

珈琲のマグカップに有名なミステリーのタイトルや作家名が入っていたり、

有名なミステリーを題材にした絵が展示され、その作品名を当てると

ちょっとしたお楽しみがアニーからプレゼントされる、というおまけ付き・・・。

ま~ミステリー好きにはちょっと嬉しい作品です。



登場人物のキャラクターの個性も生きていて、

特にマックスのお母様ローレルが良いっ!

上品で美しく・・・でもちょっぴり(かなり?)困らせてくれるキャラなのです。

劇団仲間でミステリ好きのヘニーなんて、ミセス・ポリファックスや

キンジー・ミルホーンになりきって事件を追いかけるんですヨ~。



とにかく作者が大のミステリーが好き

ヒロイン・アニーが経営してるミステリ専門書店<デス・オン・ディマンド>のような

素敵な書店がどこかにないかしら。。



アンソニー賞、アガサ賞ダブル受賞に輝くとっても楽しいシリーズ物、第一弾です。

 

素材提供:Pari’s Wind


『白夜行』

2006-01-25 21:06:04 | 作家は行

 東野圭吾です。

 

どういうわけか国内ミステリーはほとんど読む気になれない私でありますが

この方の作品だけは一時期異常にはまりまして・・・

そのきっかけとなった作品がこれ。

今ドラマ化されて放映中ということもあり、

遂に直木賞受賞という栄誉も与えられ、まさに今を時めく作家さん

最近はご無沙汰でしたが、やっと受賞したか~という妙に嬉しい気持ちから

改めてこの作品について書いてみようと思います。

 

大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺され、事件は迷宮入りに。。

その事件の被害者の息子・桐原と容疑者の娘・雪穂。

全く別々の人生を歩む二人の姿・・・

20年に渡るそれぞれの人生を、幼少時代から順を追って綴られていきます。

それぞれの周りで起こる不可思議な事件の数々。

読み進めていくうちに、読者は嫌でも事実に気が付きます・・・多分

そして、なんて酷い事を・・・!

こんな風に人の心を弄んで操って許されるものなのか!?

と憤ってしまうと思います。。

最後まで読んだ時、どんな気持ちになるかは人それぞれですが・・・ね

 

この二人が言葉を交わすシーンは皆無であり、

その生き方も全く違います。

凄いのは、この二人の心のうちを一切書かず、

二人の周囲の人々の視点を通してのみ、様々な出来事が綴られていくだけなのに

物語が進むにつれて薄暗い白い闇をゆらゆらと肩を並べて歩いていく

哀愁に満ちた二人の姿が見えてくるような不思議な叙情性を感じさせるところ。。

 

白夜行・・・。

どこまで行っても薄暗い夜。歩いても歩いても太陽に出会えない。

この作品のヒロイン雪穂は作中、こんなセリフを語っています。

 

「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。

でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。

太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。

あたしはその光の中によって、夜を昼と思って生きてくることができたの。」

 

文章にはっきりと綴られていない、行間から滲み出る何かから

想像力で補う作品・・・。

まさに、心を失った人間の悲劇を描いた長大な抒情詩・・・。

長い長い作品ですが、長さを全く感じることなく一気に読めます・・・多分

ドラマで興味を持たれた方、是非ご一読を~

 

素材提供:AICHAN WEB


『私でない私』

2006-01-18 20:45:35 | 作家は行

 サンドラ・ブラウンです。



ロマンチック・ミステリーという分野はたまに現実逃避するのにうってつけ

最近はめっきり遠のいてしまってますが・・・

この種の作品で、この作者の中では一番好きです。



飛行機事故が起こり、TVリポーターのエイブリーは現場から救出されますが、

顔に重傷を負い、まさに瀕死の重態。。

ここで、とんでもない間違いが起こります。

背格好が似ていた事や年齢が近い事、夫人の子供を守った事等から

死亡した上院議員候補夫人と間違えられてしまうのです。

 

そして集中治療室で「夫を殺す。計画に変更は無い。」と耳元で囁かれ・・・

その後、口が利けない為誤解されている事を誰にも伝えられないまま、

整形手術をされてしまいます。

その顔はもちろん、上院議員夫人キャロル・・・

でもそこはそれ、記者魂の塊エイブリー

初めこそ戸惑っていたエイブリーですが、レポーターとして刺激を受けた彼女は、

この家族に渦巻く悪意、陰謀を突き止めたい、と強く願うようになり、

上院議員夫人に成りすます決意を固めます。

 

でも何より上院議員候補テートの暖かい素敵な人柄に触れ、

にわかに湧き上がった愛情からの、なんとしても命を守らなければ

という使命感の方が大きいようですネ~



かなり熱いラブシーンも随所で展開され、少々辟易としないでもありませんが

上院議員候補夫人の酷い仕打ちにより、冷え切っていた関係だった夫婦が、

幼い二人の子供マンディの心の病を通して、偽りの関係とはいえ、

心を通わせていく二人の複雑な心情が細やかに描かれていて素敵です。

このマンディのなんとも愛らしいこと。。

二人のたゆまぬ協力により、情緒障害を克服して

元気に立ち直っていく様はとても感動的です。

 

それにしてもこの一族に渦巻く愛憎劇・・・。

テートの亡き妻キャロルは相当な悪妻だったのですね。。

この一族をめちゃめちゃに引っかき回したと見えます・・・。

テートの兄ジャックは実はテートに対して少々卑屈。。

キャロルに誘惑されてその気に??

この二人の関係を疑うテートと、ジャックの妻ドロシー・レイ。

ジャックとドロシーの娘ファンシーの常軌を逸した態度や言動、

常に傍でサポートしてくれる親友兼選挙参謀エディ・パスカルの妙な行動、

テート達兄弟の父母ネルソンとジーの、それぞれの持つ悩み等

かなり複雑な人間関係で、ドロドログジャグジャ・・・

 

ところがそこに颯爽と登場のエイブリー

春風のような彼女の存在によって、それぞれが少なからず影響を受け

大切な家族の絆を取り戻していくのです。

 

更にエイブリーの育ての親アイリッシュとの関係も泣かせますね。。

なにしろ死んだことになっていて、事実、死んだと思い込み、

エイブリーの死を受け入れられず、めっきり老けてしまったくだりの描写は

物語とはいえ、とても複雑な心境でした。

そして二人が再会するシーン。。

 

家に向かいながらエイブリーは心臓が飛び出しそうだった。

ブラインドの陰に人影が映ったときは一層それがひどくなった。

彼女が正面玄関につく前に、ドアがぱっと内側から開いた。

そして中からアイリッシュが、手足を素手でもぎ取らんばかりの勢いで

出てきてこう叫んだ。「貴様、どこのどいつだ。いったい何を企んでるんだ?」

 だがその獰猛なようすを見てもエイブリーは怯まなかった。

アイリッシュの目前まで突き進んでいく。

 

「アイリッシュ、私よ」エイブリーはやさしく微笑んだ。

「中に入りましょうよ」

腕に手を触れたとたん、アイリッシュの戦意は消滅した。

 

冷たく相手を拒絶していたブルーの目が、突然、疑惑と狼狽と

歓喜の涙でくもったのだ。

 

本当に・・・どんな気持ちだったでしょうね。。 

それはともかく・・・テートの大統領戦出馬の為、

一族総動員の遊説ツァーに出向いていく様子も克明に描写されていて、

実際の大統領戦も、水面下での戦いは相当凄まじいんだろうな~(日本も・・・

なんて想像しつつ、とても興味深く、単なるミステリー・ロマンスに止まらない

非常に濃い~~人間ドラマです

 

アメリカで一時期大ヒットしたドラマ「ダラス」にも通じるものを感じなくもなく・・・

この分野の作品がお好きな方なら楽しめること請け合いです。

ご存知ない方は是非是非ご堪能あれ~~~

 

素材提供:AICHAN WEB


『小公女』

2005-12-30 12:58:12 | 作家は行
 フランシス・エリザ・ホジスン・バーネットです。

 

 もう今年も後僅か。。

ブログを始めて本当に沢山の出会いがありまして、総てが私の宝物

感謝の気持ちで溢れてます。有難うございます。

 

ところで日本も・・・今年も色々と大変なことが重なった一年でしたね。

長い人生・・・色々ありますが、

この小公女セーラのように、逆境に立った時こそ、力強く乗り越えていきたいな・・・

という想いを込めて、本年最後のレヴューです~。

 

 

さて。。このバーネット女史。

『小公子』『小公女』『秘密の花園』等、少女達の永遠の友達を

沢山生み出して下さいましたね~。

どの作品も愛しくて愛しくて・・・

中でも極めて好きな作品が『秘密の花園』とこれ。。

 


セーラは大金持ちゆえ、ロンドンの寄宿舎付の名門校で、

特別な、まるでお姫様のような待遇を受けます。

でも決してその事を自慢したり傲慢にならず、年下のお友達や下働きの少女に

暖かく接する等、心優しいプリンセスなのです。 

セーラの大きな魅力の一つがお話上手な事。

そして実際にお話をするのが大好きです。

 

「わたし、お話ししていると、それが作りことだって思えないの。

あなたたちよりも、教室でなんかよりも、もっとほんとうのことのような

気がしてくるの。わたし、お話のなかに出てくる人たちみんなに、

つぎつぎに、自分がなるように思うの。おかしいわね!」

 

なんとなく・・・エバ・ルーナを思い出します。それと、ちょっと違うけど赤毛のアンも。。

想像力豊かな少女達は、苦境に立った時は強いですよね~。。

もちろん、想像力だけの問題じゃありませんけど・・・。

 

初めて読んだ時、印象的だったシーンの一つは、下働きの少女ベッキーが、

セーラ愛用の椅子に座ったままあまりの気持ちよさに眠り込んでしまい

そこにダンスの授業から帰って来たセーラが思わず同情するシーン。。

ばら色の素敵なドレスを着てヒラヒラ舞うセーラは

まさしく妖精そのものの美しさだったでしょうね~。

 

ところが何不自由ない幸せな生活は、ある日突然失われてしまいます。 

お誕生日の盛大なパーティの真っ最中に舞い込んだ愛する父親の死・・・。

この時のミンチン先生の手の平を返すような冷たい態度は、

幼心に本気で憤ったものです。

大切な親友になるベッキーの心からの悲しみの涙に打たれたセーラが

 

「ああ、ベッキー。わたし言ったでしょう。わたしたちはおんなじなんだって

―――ふたりともおんなじ女の子だってね。わかって。いまは、ちっとも

ちがうところがないわ。わたし、もう公女さまなんかじゃないのよ」

 

それに対してのベッキーの返事。。大好きです

 

「お嬢さまには、どんなことが起っても――どんなことだって――

お嬢さまは、いつも公女さまです――どんなものだって、

それを変えることはできないんです」

 

事実・・・セーラの態度の立派な事、健気な事。。

屋根裏でメイドとして働く身分になっても誇り高く優しい心は決して失わず

スズメやネズミ達、そしてベッキーやロッティ、アーメンガード等、

心の友を大切にするのです。

人は逆境に立った時、初めてその真価が問われるものですが、

小公女セーラが、何年経とうと永遠の名作として愛され続けている理由が

本当に良く分かりますね。

 

忘れられないシーンの一つに、甘パン6個のうち、5つまでを

もっとひもじい女の子にあげてしまった事。

で、出来ないかも・・・

 

 

こんなセーラが遂に逆境を乗り越えるきっかけになったのは、

お隣に住むインド人ラム・ダスと、そのペットのお猿さんと仲良くなった事。

ラム・ダスは、心優しいセーラの事をなんとかして助けてあげたい、との一心で

自分の主人に事の次第を伝え、二人は密かに計画を立てるのです。

初めは薄汚い屋根裏部屋を綺麗な物で一杯にし

暖かい美味しい食べ物や、綺麗なドレスをそっと置き・・・。

 

「夢なら覚めないで・・・夢じゃないんだわ・・・」

 

ここからの展開は、出来すぎと言えば出来すぎですが

でもやっぱり感動的で・・・人一倍健気で、人一倍辛い思いを味わったセーラが

以前よりもっと大金持ちになり・・・痛みを知った分、美しい人間性を更に増し

暖かい心を振りまく小公女セーラの振る舞いは・・・やっぱり泣けるのです。

正直・・・ここまで良い人、悪い人の差がはっきり分かれている作品も

珍しい気はしますけど・・・

でも、あ~。。本当に・・・大好きな大好きな作品です

 

素材提供:AICHAN WEB