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プラムの部屋♪

長い長い休暇中デス。(*_ _) ゴメンナサイ。

『贖罪』

2007-02-07 11:40:51 | 作家ま行

 イアン・マキューアンです。

 

この小説は、1935年の夏のことを書いた第一部と、

第二次世界大戦中の1940年のことを書いた第二部と第三部、

それに1999年に書かれた・・・というエピローグの3つから構成されてます。

 

主人公は、現在77歳になる小説家のブライオニー。

彼女はまだ少女だった1935年の夏に、他人の人生を大きく変えてしまうほどの、

とりかえしのつかない過ちを犯してしまったのですが、

その罪をなんとしてでも贖うために、彼女は最後の小説を書こうとします。 

 

英国の田舎風景を背景に夏の数日を描いた第一部の舞台はタリス邸。

ヒロイン、ブライオニーは優れた文才を持つ17歳の多感な少女です。

家を出て自立している年の離れた兄のリーオンが久しぶりに帰ってくるという事で

その兄の気を惹く為に自作の劇「アラベラの試練」を上演しようと計画。

母親の妹・・・叔母が離婚に向けて準備中で、その間タリス邸に

滞在することになった従姉弟達を巻き込んで、

自分がヒロインになるつもりでいたのです。

ところが何もかも思惑通りに事は進まず前途多難。

 

一方、姉のセシーリアは幼馴染で同窓のロビーとの関係で苛立っており、

噴水の中に落ちた花瓶を巡ってロビーと争い、

事の成り行きからセシーリアは彼の前で白い裸身を晒してしまいます。

この一部始終をブライオニーは窓から目撃!

二人のただならない関係を知るのです。

 

これら、今後起こる重大な事件の伏線が、繊細に細やかに描かれ

それまでのマキューアンの作品からは考えられない―――

ある人が、ヴァージニア・ウルフを想わせるような―――と語ってますが、

―――私は寧ろマンスフィールドを思い出すのですが―――

とても味わい深い文章で、ブライオニーの心情を中心に

小さな出来事や誤解を積み重ねつつ、ゆっくりと物語は進行します。

 

そして一人一人の細やかな心理描写を通し、徐々に緊迫感が漂い始め・・・

もうこれ以上耐えられない、というくらいに緊張感が頂点に達したとき、

遂に恐ろしい事件が起こってしまいます。

この事件によってブライオニーは一生涯抱え込まなければならない

重大な罪を犯すことに・・・。

 

まだ無垢な少女だったブライオニーには男と女の生々しい感情が・・・

当然ながら理解出来なかったのですね。

激しい嫌悪感から目が眩んでしまったブライオニーは・・・

おぞましい事件が勃発した時、悪意でこそ無かったものの、

誤解から安易な発言をして一人の人間を無実の罪に陥れてしまい・・・

幸福になれたハズの二人を不幸のどん底に突き落とす

恐ろしい結果を迎えてしまったのです。

 

第二部、第三部の舞台は第二次世界大戦真っ只中の1940年。

第一部から5年、あの事件後、それに関った人々のそれぞれの生き様が、

第二次世界大戦を背景に繊細に描かれていて、まさに圧巻です。

パリ陥落直前、フランスからの脱出で苦闘するイギリス兵達の壮絶な姿や

戦時志願の見習い看護婦ブライオニーの厳しい日々etcetc。。

凶暴な暴徒と化した男達の残虐非道ぶりを描いたシーンなんて凄い迫力で・・・

でもある男が、群集心理を逆手に取って一人の男を救った機転には拍手喝采で・・・

とにかくマキューアンの素晴らしい筆致に圧倒されっぱなし

 

そしてエピローグ。。

小説家ブライオニーの77歳の誕生日を祝う盛大なパーティの席でのシーンは

この小説の書き出しと見事に呼応していてゾクゾクします。

そして最後の最後、『贖罪』という小説全体の大きな意味が

はっきりと浮かび上がってきます。

小説家のブライオニーは、過去の罪を贖おうと「小説」という嘘を書き・・・

それを私達は読んでブライオニーの罪と、贖う為に闘った(?)姿を知る・・・。

この小説の表裏二重のラスト、隠れた意図を知った時の衝撃!感動!!

これは・・・小説家なら、実感を持って味わえる感覚なのではないでしょうか。

本当に・・・なんて凄い作品なのでしょう・・・

 

マキューアンはあるインタヴューで

「『アムステルダム』は根をつめて『愛の続き』を書いたあとの

休日のようなもの、ある種の軽いしゃれだったんです。」

と語っておりますが、その軽いノリで書いた作品がブッカー賞を受賞・・・

渾身の思いで書いた『愛の続き』『贖罪』は候補止まりとは

なんとも皮肉で、いかにもマキューアンらしいですネ

 

それはともかく・・・ブッカー賞最終候補、全米批評家協会賞受賞!

更にW・H・スミス賞受賞!映画化も決定の―――

たしかジョー・ライト監督にキーラ・ナイトレイ出演でしたっけ―――

文学の王道をいく素晴らしい作品であることは間違いありません。

 

素材提供:Pari’s Wind


『柘榴のスープ』

2007-01-13 11:02:22 | 作家ま行

 マーシャ・メヘラーンです。

 

テヘラン生まれのイラン人作家のデビュー作で、見開きの写真で見る限り

とても美しい女性ですネ。

マルジャーン、バハール、レイラーの麗しの三姉妹が1970年代の終わり、

両親を失い、イラン・イスラム革命に揺れる祖国から逃れて英国へ・・・

やがてアイルランドの西にある小さな田舎バリナクロウで

ペルシャ料理店〈バビロン・カフェ〉を開店し、辛い過去を乗り越えて

成長していく過程を描いた作品です。

 

作者の幼い頃の経験がベースになっているようで、中東の悲惨さが

とりわけ女性達の受ける非情な運命が克明に描写されていて

読みながら色々考えさせられた作品でもあります。

でも作者の「人々がイランという国を思い浮かべるときにイメージする

暗く暴力的な印象とは相容れない、自分の知っている美しい祖国の姿を

本書で表現したかった」

の言葉通り、全体的にはとても楽しい作品に仕上がってます。

 

各章に一つづつお料理のレシピが付いていて、ペルシャの癒し系

郷土料理の素晴らしさに思わず生唾ゴックン状態に・・・

特に個人的に″アーブグーシュト″と″ゾウの耳″に関しては

夢にまで出てきそうな勢いですヨ~(笑)

長女マルジャーンの作るお料理には特別な何かがあり、

ハーブの芳醇な香りや味わいに酔い痴れると、

人々はなぜか忘れかけていた夢を取り戻し、俄然やる気を起すのです。

う~ん。。食べてみたい(笑)

 

初めは警戒していた村人達も、口コミで徐々にカフェに集まってくるようになり

地元の常連客のおかげでとても商売繁盛します。

でも必ずしも歓待してくれる人ばかりではありません。

小さな村特有の派閥があり、何より中近東から来た異邦人、

という嫌なレッテルを貼る人も・・・。

そんな人々との関わり合いを通して徐々に明らかになる三人の過去。

祖国を出た理由は、革命を逃れる為だけでなかったのですね。。

 

三姉妹も個性豊かなら、それぞれに関わる人間模様もとても個性豊かです。

三人の中では二女のバハールが最も暗い、大きな傷を抱えてます。

末っ子のレイリーは長女とは10歳以上年が離れていて、まだ学生です。

すんなり学校生活に馴染んで、良い友達やボーイ・フレンドに恵まれますが

彼女もまた、過去の傷を引きずっているのです。

ある事件に巻き込まれた時レイリーが言い放った言葉

―――「歴史はくり返す、だわ」―――は、とても重い言葉です。

 

ところでこの作品のラストですが、感動の結末へ、という歌い文句なのですが、

なんとなく煙に巻かれたというか、無理やり終わらせたというか、

ちょっと釈然としない気がしないでもないのですが・・・

読まれた方、感動しました??

・・・それはともかく^^;

 

作者の言葉―――料理を通して相手に自分を与えているとき、

それは、相手の空腹を満たしてあげているだけではなく、

気兼ねなくくつろげる場所を求める気持ちに応え、自分がここに

属しているという感覚を与えているということなのです―――

が、この作品の底を流れる精神だと思われます。

 

現地の人でなければ到底知り得ないイランに住む人々の苦悩を

克明に描いている為、想像してた以上に重い内容にも拘らず

心温まる人間模様にホロッとしつつ、素晴らしいお料理の数々に酔い痴れる

ちょっと不思議な作品・・・一応ベストセラーだったりしてます^^

 

素材提供:Pari’s Wind


『イラクサ』

2006-12-16 10:59:10 | 作家ま行

  アリス・マンローです。

 

この作家さんも日本ではあまり馴染みない方ですね。

でも本国カナダでは「短編の女王」と呼び名も高い、大変な人気作家でして、

カナダの一地方を「アリス・マンロー・カントリー」と呼ぶくらいなのです。

数々の有名な賞を立て続けに受賞し、2005年にはタイム誌上で

「世界で最も影響力のある百人」の一人に選ばれるという快挙も

 

その作風は、70歳という年齢に相応しく、繊細で優しく、

でも実生活に基づいた人間の微妙な機微、様々な感情や出来事を

真正面から捉えて書き上げる為、少々辛辣だったりしてます。

短編の名手で、一編一編は短くても、その読後感は

まるで長編小説を読み終わった後のよう。。

短い文章の中に、とても重要なメッセージが込められてたりして

うっかり読み落すと非常にもったいない・・・と言えますね。

でも登場する人物は主に中高年なので、若い世代が読むには少々早いかも。

年齢を重ねる程に、その味わい深さも実感出来るように思います。          

全部で九編の作品が収録されていて、どの作品も珠玉の一品です。

 

    『恋占い』                    『浮橋』        

    『家に伝わる家具』               『なぐさめ』   

   『イラクサ』                                     『ポスト・アンド・ビーム』

   『記憶に残っていること』                    『クィーニー』

    『クマが山を超えてきた』      

  

『恋占い』では、少女の残酷な面と、それを見事に逆手に取った中年女性の

逆転劇の痛快さが味わえますし、

『浮橋』は、人前では良い顔をしても自分の妻に対しての配慮が微塵も無い

ちょっと哀しい・・・おそらく倦怠期の夫婦のお話ですが、

結局受け入れて生きるしかない、とあきらめの境地の女性に訪れた

ちょっとした出来事が綴られています。

この作品のラスト・シーンの情景の美しさはまさに特筆物

『クマが山を越えてきた』は、この作品中、唯一男性が語り手です。

今までの不実のしっぺ返しを食う初老の男性の人生のほろ苦さ、

切なさが見事に描かれていて、老いという事への恐怖を否応無く味わわされます。

でもラスト・シーンの夫婦愛の真髄は、ジンと心に沁み入る美しさで・・・

とにかく細かい文章の節々まで味わい尽くしたい作品なのです。

 

ところで。。

本年も瞬く間に過ぎ去り、現実でもネット上でも新しい出会いに恵まれました。

本当に有難うございます

そして本年は何かと慌しく・・・ひょっとしたら・・・いえ、多分・・・

これが本年最後のレヴュー記事になると思われます。

年末にかけてのちょっとしたお出かけに、この本を持って行こうかと思案中。。

ということで、ラスト・レヴュー(予定)の出血大サービス(笑)に、

表題作『イラクサ』のみ、かなり細かく書いてみました。

マンローの雰囲気が少しでも伝われば幸いです。

ただし、真白な状態でこの本を読みたい方はここで終わりにした方が賢明です。

ま~私としては読んで頂きたい気持ちの方が大きいですが・・・

・・・という事で。。

どうぞ今後とも細々と末永く、よろしくお願い申し上げます

 

 

 

          要注意

 

 

 

少年は9歳、少女は8歳、という年頃に、お互いに抱く感情って・・・

まだ淡いけどとても繊細で美しいものです。

戦争ごっこという遊びを通して、異性に感じる想いを見事に表現していて、

ここはなんとも懐かしい、郷愁を呼び覚まされる場面です。

 

私事ですが、このシーンを読んだ時、かつて小学生の頃に夢中になって遊んだ

ドロジュン(地域によって微妙に呼び名は変ります)を思い出しちゃいました。 

これは、泥棒と巡査のグループに別れて追いかけっこをする遊びでして・・・

好きな男の子に追いかけられたくてワクワクドキドキしていた、

かわいらしい^^・・・そしてとっても大切な思い出だったりしてます

 

ところが!ある日突然、男の子はいなくなってしまいます。

この時の気持ちの表現も素晴らしい。。

 

―――どういうことになるか、なぜわたしにはわかっていなかったのだろう?

あの最後の日の午後、マイクがトラックに乗りこんだとき、さよならは

言わなかったのだろうか、マイクはもうもどってこないのだと

気がつかなかったのだろうか?―――

 

―――マイクが行ってしまうことをわたしは、わかっていたにちがいない。

レインジャーがもう歳で、すぐに死ぬだろうとわかっていたのと同じように。

将来いなくなることを、わたしは受け入れていた――ただ、マイクが

姿を消すまでまったくわかっていなかっただけなのだ、―――

 

混乱しつつ、段々受け入れざるを得ない少女の心の動き。。

まるで手に取るように分かりませんか?

で。。結局はっきりした答えがないまま、お互い全く違う人生を歩み、

それぞれ家庭を持ち、落ち着いた頃・・・

今度は馴れが生じたせいか、薄っすらと影がさし始め、なんだかんだで

うまくいかなくなり、ついに孤独を噛み締める日々に・・・。

 

―――朝飯を作るのをやめ、毎朝イタリアン・デリでコーヒーを飲み、

焼きたてのパンを食べた。ここまで家事と無縁になれるんだと思うと、

ひどく嬉しかった。だが、まえには気づかなかったことに気づくようにもなった。

毎朝ウィンドウに面したスツールや歩道のテーブルに座っている人々の

幾人かが浮かべる表情に―――こうしているのがぜんぜんすばらしい

ことでなく、孤独な生活のありふれた習慣でしかない人たちの。―――

 

この、なんともいえない侘しさ。ホント、見事な描写ですねぇ。。

そして、そんな侘しい毎日を送っていた人妻が、運命のいたずらで

かつての想い人と偶然再会し・・・昔の懐かしい面影を残した容姿を前にし・・・

更にその相手も何か重大な問題を抱えて孤独だとしたら・・・? 

ありきたりのお話だと、ここで不倫の恋に突っ走る・・・のかな。

マンローはそこが素敵なのですが、一歩間違えるととんでもない愁嘆場になる

その直前で、見事に抑えてくれるのです。

 

―――ジョンストンのおどけた表情、サニーの朗らかなおせっかい。

もしわたしたちが本物の悪行の証拠を持ち帰っていたとしたら―――

臀部のみみず腫れ、腿や腹に走る赤い筋―――もちろん彼らは、

こうまで大喜びして寛大な顔はしてくれなかっただろう。―――

 

ま~要するにイラクサのいたずらデス

 

―――危険はひとつも冒さないけれど、それでも甘い滴りとして、

地下資源として生き続ける。その上に、この新たな沈黙の

重みを乗せて。この封印を。―――

 

う~ん・・・このなんともいえない妙なる文章。流石ですネ

アリス・マンロー

是非とも多くの妙齢の方々に読んで頂きたい素晴らしい作家です。

 

素材提供:Pari’s Wind


『閉ざされた記憶』

2006-07-08 20:43:46 | 作家ま行

 ファーン・マイケルズです。


本国アメリカではベストセラーの常連で、その著作数も70冊以上は

あるはずなのですが、日本で翻訳されているのはほんの2,3冊程度なので、

あまり知名度は高くないと思います。

でも、登場人物の魅力や暖かい雰囲気等、結構好みなんですよね。。

是非今後、沢山翻訳して頂きたいと熱願している作家です。



で・・・この作品。

幼少の頃、事故で記憶を失って以来、総てに消極的になってしまった

ヒロイン・キャディが故郷に帰り、真実を探り出す事により、

失った記憶だけでなく、自分自身をも取り戻すという一人の女性の成長物語です。



ヒロインを取り巻く三人の老人―――

ローラ、マンディ、アンソニー―――のトリオが本当に可愛い。。

キャディが初デートでトラブルに遭い・・・犬に襲われてドレスを破られ・・・

開き直って、素敵な下着姿を晒した時も、

「まあ!さすが私の孫!」なんて大笑いして喜んじゃう気風の良さなのです。

立ち入り禁止区域に平気で入り込み、三人でピクニックしてしまったり・・・。

会話も粋なんですヨ^^

 

「さてお二人さん、お楽しみいただけましたか?」――とアンソニー――

「六番めの夫との初夜より興奮したと思うわ」

「その人、何やってた人?」マンディが小声で訊く。

「知らないほうがいいわ。あなた、とまどうでしょうから」

ローラも小声で切り返す。―――

 

飼い犬も人間味溢れてなんともユニーク

こんな素敵な環境にいたら、どんなに心が閉ざされていても・・・・

いつまでも塞いでいられなくなっちゃいます。

 

この作品はキャディの素敵なファッションも沢山楽しめます。

個人的には犬に破られちゃったシフトドレスがお気に入りだったのですが・・・

ポケットに大きな黄色のひまわりのアップリケがあしらわれている、 

ミスティ・グリーンの七分袖のシフトドレス。かわいいですよね~。。

 

この作品の魅力は、「自分探し」という少々難しいテーマを掲げつつ

程よいユーモアと微妙なエロス、という素敵なエッセンスを交えていて、

息苦しく感じさせないところだと思います。

そして、年老いて元気のなくなっていた往年の女優でもある

心優しい祖母ローラが、キャディの自分探しの手助け、という生きがいを見出し、

元気を取り戻していく過程を描いた作品でもあり、

ロマンス、友情、サスペンスと盛りだくさんの内容なので、

ミステリー・ロマンス、という分野がお好きな方なら絶対読んで!

って言いたくなっちゃうくらい好き

 

ラストに衝撃の真実が暴露されますが、立派に乗り越え

前向きに生きていくキャディや愉快な仲間達にエールを送りたい気持ちになる、

読後爽やかな、とっても素敵な作品なのです。

 

素材提供:Pari’s Wind


『ノルウェイの森』

2006-04-30 23:47:39 | 作家ま行

 村上春樹です。



この方の作品を読んだのはこれが初めてで・・・実はこれ以外読んでません。

まだうら若き二十歳の頃^^ビートルズの曲名と同じ題名に釣られて

手に取ってしまったのが読んだきっかけです。

なんとも独特の世界で・・・でも妙にはまってしまった記憶があります。

好きな人は本当に好きな作品なのでしょうね。

全体的に暗いトーンで・・・直子に引きずられそうな危うさを感じさせつつ

不安定な均衡を保っていたワタナベの心情が

切ないくらいに心に響いた記憶があります。

そう。。当時は、大学生ならではの感性を描いた作品として、

思った以上に心が揺さぶられたようです。

 

そして最近ふと思い立ち、再読してみました。

で。。正直な感想ですが、

「叙情性は感じられるけど・・・なんて暗い作品なんだ!」でした。。

第一に、こんなにも多くの登場人物が自殺してしまっていたのか・・・という衝撃。

第二に、当時は共感するところが多かったワタナベに対して、

若さというのはこんなにも不安定なものなのか?という、もどかしさ。

何より緑に対する態度。。

今勉強する事の意義について無邪気に質問する緑に対し

丁寧に淡々と説明するところは、緑が好きになるのも無理ないな~

と思えるくらい魅力的だと思うし、

緑の病気の父親を一緒に見舞い、代わりにお世話してあげたシーンなんて

「なんて良い奴なんだ!!」ってシミジミ思いましたが・・・

直子が絡んでくるとどうしても不安定になり、平気で放置出来る

ある意味残酷なくらいの・・・自己中心的な性格は、

緑の立場に立って考えた時、ジョーダンじゃないわっ!くらいに憤りが・・・

大学生ならではの・・・という一言で片付けられるかな~。。



主人公ワタナベが直子に会いに旅するシーン。

食堂での緑との出会い。

ワタナベが緑の家に初めて訪問した時の情景。

レイコさんと行なった二人だけのお葬式。

情緒不安定な僕に、緑が語りかける言葉。

等々、印象的なシーンがそこここに鏤められ、

叙情性豊かな文章についつい惹き込まれ、夢中にさせてくれる筆力は

流石人気作家!と敬服新たではありますが・・・

なんとなく・・・もう村上作品はいいかな・・・

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


おいしいコーヒーのいれ方・シリーズ

2006-04-11 11:39:47 | 作家ま行

 村山由佳です。

 

数年前・・・作家志望の男性に「村山由佳は絶対プラムさん向きだよ!」

なんて太鼓判おされまして・・・

「あ、あら、そう?^^」なんて感じでついつい調子に乗ってしまい・・・

最初に手にした村山作品がこれ。。

意外と単細胞のプラムさん・・・妙にハマってしまいました

このシリーズはちょっと(かなり?)軽めかな・・・と思わないでもないけど・・・。



高校3年生の勝利と5歳年上の従姉かれんの恋物語です。

勝利の父親の転勤を機に、一つ屋根の下で暮らす事になった二人。

久しぶりの再会で、かれんの美事な変貌ぶりに驚き、戸惑う勝利。。

そしてかれんは、なんと勝利の高校の新任美術教師だったりして・・・

 

かれんには実は小さな秘密があります。

そして勝利は、かれんの哀しい想いに気付いてしまうのですね。。

思春期まっさかりの男の子としては、やはり守ってあげたい!

なんて気持ちに自然になっちゃうものなのでしょうねぇ。。

恋愛小説の約束事(笑)ともいうべきか・・・

それぞれに別の異性が登場し、事態は更に複雑に・・・


 

それぞれの感情表現がとても繊細に描かれていて

特に複雑なかれんの心情がとてもリアルに伝わってきます。

なんていうか・・・ちょっぴり切なくて・・・かわいいのデス

セリフが多く、さり気なくBGMも聴こえてきそうな文章は

まるで情景が目に浮かぶよう。。

 

感情表現が妙に新鮮で瑞々しく、ゆったりと進んでいく作品なので、

4巻辺りまでは気軽に楽しく読めましたが・・・

途中から段々リアルになってきて・・・アッサリ挫折してしまいました・・・

 

でも柔らかい雰囲気のこのシリーズは、相当人気があるようで・・・

確か現在は9巻まで出てますね。

後に直木賞まで受賞した、心に残る素敵なセリフが印象的な作家と

定評のある村山由佳さんの、初期の青春物語。。

ちょっとした息抜きに サラッと読むには最高のシリーズだと思います。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『アムステルダム』

2006-01-12 16:50:15 | 作家ま行

 イアン・マキューアンです。

 

ロンドン社交界の花形モリーが悲劇的な死を迎え、

その葬儀のシーンからスタートするこの作品。

なんていうか・・・イアン・マキューアンの文章はとても鋭利ですね。

科学的で計算され尽くした、ちょっと冷たい印象を受けます。

ブッカー賞受賞作ではありますが、実はその前の作品『愛の続き』こそ

その資格があったのに受けられなかった埋め合わせでの受賞だった・・・

との声も聞こえるくらい、前作の方が評価は高いです。

実際、この作品も斬新で面白かったけど、

『愛の続き』には負けるかな~と思います。

 

人間の持つ醜さを余すところなく描き出した作品です。。

モリーという女性を中心に、その愛人だった者同士が絡み合う。

偽りの友情を築き上げてきた危うい均衡が、モリーの死を迎える事により

一気に崩壊していく様は本当に凄まじいです。

 

有名な作曲家のクライヴ、有名な新聞社の編集長ヴァーノン、

政治家のガーモニー、モリーの夫ジョージ、という主要人物達が

見事なまでに自分勝手。。

このモリーとの情事をそれぞれが楽しんでいたのですが

後で発見されたスキャンダラスな写真を通して展開された醜い人間模様が

なんとも痛烈で皮肉な描写で・・・。

マキューアンはわれわれ半善人が逃れることのできない

平凡な俗世間のプロットの残酷さと意識的にエレガントに

戯れてみせているのだ。

との後書が、この作品の持つ独特の雰囲気を見事に言い当てていると思います。

 

一応の理性と良識を備えた社会的地位もある男達が、

自己保身ゆえに、もしくは相手への嫌悪の情を募らせた結果として

その良心が堕落・崩壊していく様は、

現在もどこかで行われているであろう事を容易に想像させますね。。

理性の仮面が剥がれた時、牙を剥き出す人間の本能・・・。

恐ろしいです~

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


デボラ・ノット・シリーズ

2005-12-28 10:51:43 | 作家ま行

 マーガレット・マロンです。



その中の1作目『密造人の娘』は、独特の情緒あふれる文体に惹かれて

暫くマロンにはまるきっかけとなった作品です。



理想の裁判官を目指し、弁護士デボラは地方裁判所の判事に立候補します。

この激しい選挙戦の真っ最中に迷宮入りの殺人事件を依頼されるのです。

アメリカ南部を舞台に、選挙活動・弁護士の仕事を精力的にこなしつつ、

事件究明を通して様々な人間関係が情緒豊かに描かれていきます。

特に父親との関係の描かれ方がなんとも良いのです。

ラストの、選挙戦の結果・・・その後の思いがけない展開・・・

思わず涙しそうでした。



このシリーズの魅力はなんといってもヒロイン・デボラ。

二つの人格を併せ持ち、心の中で二人が会話するのです^^

一人は善人そのもののデボラ。もう一人は皮肉屋で冷静なデボラ。

この心の中の会話が本当に面白い。。大好きです

 

シリーズが進むにつれてデボラの名裁判官ぶりが描かれますが、

その判決の公正さ、度量の深さは小気味良く、とってもカッコイイ。

シリーズ何作目だったか忘れてしまいましたが、

デボラの判決が気に入らない被告(原告?)が

分厚い本を渾身の力を込めてデボラ目掛けて投げつけ、

間一髪!ヒュッと頭を引っ込めた為

その本は後ろの壁に激突!大きな穴が空いた!

なんていう世にも恐ろしい・・・でも妙に笑えるシーンがあり、

その後、噂を聞きつけた仲良しの警察官達にからかわれる等

仕事柄緊迫感に満ちていても、なんとものどかで微笑ましい雰囲気なのです。




このシリーズは、第一作目でアメリカ探偵作家クラブ賞、アンソニー賞、アガサ賞、

マカヴィティ賞の最優秀長篇賞と沢山の賞を総なめにしました。

未訳本もあるとの事、刊行が楽しみです。

 

素材提供:AICHAN WEB


アリステア・マクラウド

2005-11-26 12:40:49 | 作家ま行

 アリステア・マクラウド。。

 

1968年に最初の短編を発表してから1999年までの間に

短編十六編と長編一遍のみ、という大変寡作な作家さんです。

「赤毛のアン」で有名なプリンス・エドワード島の東側に位置する

ケープ・プレトン島を舞台にした作品がほとんどで

読んでいて、まさに厳寒のカナダにいるような思いにさせられます。

でも「世界一眺めの美しい島」と絶賛されているそうで、

是非一度行ってみたいですね。。

・・・でも多分無理だろうな

 

で、この作家さん。。

おそらく一遍一遍に込める思いが並じゃないのでしょうね。

とても深くて重厚です。

冬の厳しいカナダで毎日を必死に生きる人々の生活が、

そのまま小説に反映されているようで

原始的でありながら、不思議な透明感があります。



 

『彼方なる歌に耳を澄ませよ』

唯一の長編です。

この作品を読み終わって最初に感じたのはとにかく「血は水より濃い」でした。

13年という長年月をかけただけあって、とても奥深いです。

でも最初は結構こんがらがっちゃいました。。

何しろ、陽気なおじいちゃんと真面目なおじいさん。

三人のアレグザンダー・マクドナルドに二人のキャラム・ルーアですもの。

時間をかけてじっくり読めばなんら問題はありませんでしたけど。。



ハイランドからカナダのケープ・ブレトン島に渡った一族の歴史に

スコットランドとカナダの歴史を組み込みながら、

現在と過去を行きつ戻りつ物語は進行していきます。

同じ兄弟なのに、全く違う人生を歩むそれぞれの生き様を、

様々なエピソードを織り交ぜながら静かに語られるこの作品。

読み込むほどにずっしりと心に刻み込まれます。

一生懸命がんばる犬のエピソードはちょっと泣けるかも。。

まるでフィクションのように重くて・・・でも本当に味わい深い作品です。

 

『灰色の輝ける贈り物』『冬の犬』

八編づつ収容された全十六編の、まさに宝物のような作品群です。

ある方の書評・・・

「―――今の僕達の日々はアルミとプラスティックだが、彼の世界では

人と鉄と針葉樹と岩に囲まれて生きている。

風が騒ぎ、死とセックスと労働は強い匂いを放ち、家畜の吐息が

耳にかかる。氷雪に閉ざされた冬のゆっくりと過ぎる時間―――

つい20年前まで、人はこんな風に生きることができたのだ。」

 

はっきり言って地味です。

派手などんでん返しやロマンティックな恋もありません。

でも例えばある短編の一節・・・

二度と戻ってくる事はないと思っていた人が突然姿を現したシーン。。

―――二人は互いに歩み寄った。

「ああ」と彼女は、彼の濡れた首筋に指の爪を食いこませながら言った。

「戻ってくるって言ったよね」と彼が言った。

「ああ」と彼女は言った。「ええ、そうね。言ったわね」―――

 

また、ある短編のラストの言葉。。

「俺たち、わかってるから。わかってる。みんな、ちゃんとわかってるから」

 

・・・思いがけない優しい暖かいシーンに思わず涙が込み上げるのです。

その日その日を精一杯生き抜く人々の吐く息まで聞こえてきそうな臨場感。

別れや死、語り継がれていく様々な逸話。。

しみじみと心に染み入るこの感動。。

この感覚――原始的だけど透明――はも~味わってみなければ分かりません。

本当に素晴らしい作家さんです~。。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『エドウィン・マルハウス』

2005-10-18 11:02:37 | 作家ま行

 スティーブン・ミルハウザー・・・

副題に「あるアメリカ作家の生と死」が付いてます。

 

この作品の凄さは―――どんな小説もそうですけど―――

読まなければ分かりません。^^

実はこの作品、一度絶版になってます。

でも沢山の本好きの熱烈な指示で復刊された、という曰く付き。

最初っから不思議世界に惹き込まれましたよ~。。

 

そもそも設定から変わっていて、“子供によって書かれた子供の伝記”という

伝記の形をした小説なのです。

主人公のエドウィン・マルハウスは十歳でアメリカ文学史上に残る傑作

『まんが』を書き、十一歳で夭折。。

そしてこの作家の伝記を書いたのは、エドウィンの隣に住む

幼馴染で同い年のジェフリー・カートライト。

細部にわたって凝っていて、一人前の大人のように、エドウィンの短い生涯を

幼年期(0~5歳)壮年期(6~8歳)晩年期(9~11歳)と分けているのです。

そして、それぞれの時代を一部、二部、三部と克明に記しています。

 

翻訳者の岸本佐知子さんが後書で語っている言葉をそのまま引用しますと、

「この作品の最大の魅力は、何と言っても子供の世界の描写の

圧倒的なリアリティにある。

子供が未知の世界に接した時の新鮮な驚きや興奮が、

この小説には満ち溢れている。―――」

そして、その描写がまた素晴らしい!の一言に尽きます。

まるでアニメーションを観ているかのように視覚的で色彩感覚に満ち、

子供の感性そのままに美しく描写されているのです。

今まで沢山の本を読んできましたが、ここまで美しい描写は

出会った事がありません、

と断言してしまえるくらい、眩いくらいにキラキラしているのです。

 

エドウィンが初めてつららと遭遇した時の描写なんてホント、素晴らしい。

文章を切り取って掲載しても決して伝わらないであろう、この感覚。。

美しい絵画と音楽、それに詩を混ぜ合わせたような表現・・・

 

―――エドウィンは、つららのオーボエが、つららのヴァイオリンが、

つららのファゴットが、「ペーターと狼」の調べを奏でるのを聞いた。

もろく、まばゆく、透明なつららの世界―――

 

これなんぞほんの一例・・・。

是非読んで、美しい芸術を感じ取って頂きたいです。

 

でも、作品の内容は衝撃的です。

一部の少々緩慢な流れが、二部で一気に加速し、

三部の破局に向かって驀進していく感じ。。

子供の持つ感性の美しさと同時に、子供の持つ特有の残酷さ、恐怖、

不安等が見事なまでに克明に描かれていて

先程も引用させて頂いた、圧倒的なリアリティ・・・なのです。

特に二部で登場する同世代の子供達が凄いです。

ローズ・ドーンとの淫靡なくらいの色恋沙汰。

といっても肉体関係は一切ないですヨ、念のため。。

アーノルド・ハセルストロームとの奇妙な友情。

これまた友情と呼んで良いのだとしたら・・・ですが。。

一人一人が個性豊かで不気味で暗いのです。

 

そして後半、エドウィンの天才ゆえの精神的な脆さが際立ち始め・・・

そのエドウィンにまるで獲りつかれたように・・・というより

既に獲りつかれているジェフリーの研ぎ澄まされた筆捌きは火花を散らし・・・

予告されていたエドウィンの死に向かって・・・破局に向かってまっしぐら・・・

本当にゾクゾクするほど凄いです。

 

人によっては絶対に好きになれない類の作品だと思いますが、

もし文学の高みを味わいたい、最近の小説は物足りない、

なんて思ってらっしゃる方にはかなり強力にお勧めしちゃいます。

 

スティーブン・ミルハウザー。どなたかも言ってましたが、怪物です。。 

 

素材提供:Pari’s Wind


宮沢 賢治

2005-10-06 13:39:58 | 作家ま行

 岩手県出身の、まさに日本の宝の一人・・・だと思います。

自然や動物との関わり合いをリアルに表現した独特の雰囲気を持つ作風は

ちょっと他では見られません・・・よね。

私が初めて触れた宮沢賢治作品はこれ。。

 

  雨ニモマケズ

  風ニモマケズ

  雲ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

  丈夫ナカラダヲモチ

  欲ハナク

  決シテ瞋ラズ

  イツモシズカニワラッテヰル・・・

 

長いので、途中で端折っちゃいます。

以来、膨大な著書を片っ端から読破した・・・ハズなのですが

まともに覚えている作品は極僅か。。駄目ですネ~

最も強烈だったのは『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』辺り。

 

―――そのきれいな水は、ガラスよりも水素よりもすきとおって、

ときどき眼の加減か、ちらちら紫いろのこまかな波をたてたり、

虹のようにぎらっと光ったりしながら、声もなくどんどん流れて行き、

野原にはあっちにもこっちにも、燐光の三角標がうつくしく立っていたのです。

遠いものは小さく、近いものは大きく、遠いものは橙や黄いろではっきりし、

近いものは青白く少しかすんで、或いは三角形、或いは四辺形、

あるいは電や鎖の形、さまざまにならんで、野原いっぱい

光っているのでした。―――

 

『銀河鉄道の夜』のこんな神秘的な美しい描写にうっとりし・・・

明治生まれの、どちらかといえば狭い社会だったであろう時代に

こんなにも広い、宇宙的規模で物事を捉えていた作家がいた、

という事に、本当に衝撃を覚えたものでした。

 

あのイーハトーヴォのすきとほった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、

うつくしい森で飾られたモーリオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波

 

そこではあらゆる事が可能である。

人は一瞬にして氷雲の上に飛躍し大循環の風を従へて北に旅する

事もあれば、赤い花杯の下を行く蟻と語ることもできる。

 

例を挙げれば限が無いであろう美しい文章の数々・・・。

改めて日本語の持つ美しさを堪能する想いです。

 

素材提供:Pari’s Wind


『天国に一番近い島』

2005-09-21 21:48:02 | 作家ま行

 森村桂です。


この方の作品は、何やら最近は本屋さんから消えてるみたいですね。

おそらく絶版なのでしょうねぇ。。



この作品は、作者がニューカレドニアに行った時の冒険談なのですが、

他にもアメリカ編、パリ編等、色々あって、どの作品も味わい深く

そこで出会った人々の暖かさや生活の厳しさ等、生き生きと描かれていて

読んでいて本当にワクワクドキドキ楽しい旅行記なのです。



個人的にはパリ編が一番好きかな。

パリ、といってもエッフェル塔のような名所に行くわけでなく、

そこに住む人々の台所に潜り込むのが目的なのです。


美味しそうなお料理、お菓子が沢山出てきてホント、羨ましい限り。。

お菓子の本も出してるくらい、大のケーキ好きなのですよね。



異国の人々の生活の中心地、台所に入り込むなんて技を持ち合わせている人・・・

そうそういないと思うのですが、桂さんは凄いですヨ。

文字通り、飛び込んでいくのです。

この辺の描写は素晴らしいですね~。

何しろ言葉は通じないので、まさにハートで勝負!

もちろん失敗もします。必ずしも歓迎されるとは限りません。

 

断られて落ち込んで、「へんっ!何サ!」なんて思っちゃったりして・・・

その辺の赤裸々な気持ちも素直に、飾ることなく表現し、

でもその後の思いがけない展開で和解(?)したりして

本当に人間ドラマそのもの。。

誰もが恐れる黒人街・・・

絶対まともに帰って来れないと思われるような場所に一人で飛び込んでいき、

信頼を勝ち取ってしまうシーンなんて、も~脱帽。。



こんな素敵な旅行記が本屋さんから消えてしまってるなんて寂しい限りです。。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


エアリアル・シリーズ

2005-09-01 12:21:19 | 作家ま行

 ジュディ・マーサーです。



不安な夢から覚めると、そこは見た事もない部屋だった・・・。

ちょっとミステリアスな出だしから始まるこのシリーズは、

記憶喪失の女性、エアリアルの自分探し物語です。



ふと目を覚ますと、全然見覚えの無い部屋にいて、服は血だらけ・・・

ふっと鏡を見ると、まるで見覚えの無い顔が自分を見返しているのです。

それも思いっきり太った醜い女が・・・。え?私?これが??

なんかちょっとコメディっぽいけど、コメディじゃありません^^

よく冗談で「ここはどこ?私は誰?」・・・って言いますが、

この作品はまさにそういう設定です。

 


どうやら殺されかけたようなのですが、身に覚えが全く無いのです。

そして隣の部屋からガリガリウ~ウ~引っかき、唸る声が!!

あ。。いえいえオカルトなんかじゃありません。可愛い(けどでかい!)犬です。

というわけで、これからどうなってしまうんだろう?って感じで

自然と物語に惹き込まれてしまうのです。



『喪失』『偽装』『猜疑』と出ている三冊とも読んでみましたが、

レポーターとして段々自信をつけ、美しく輝き始めるエアリアルの、

常に影になり、日向になって勇気づけてくれる上司の暖かい眼差しが

微笑ましい第一弾はとても好感が持てました。



でもシリーズが進むにつれて、エアリアルはある事件を担当する事により、

失われた過去の自分を深く知る男性との関わりから

何やら不穏な空気になっていく第三弾・・・

私の中では、なんとなくシリーズ最初に感じた印象と違って、

どんどんシリアスなドラマになってしまい・・・『猜疑』では上司が可哀相でした。

正直言ってなんだかエアリアルに好感が持てなくなってしまったかも。。



でも今までに無いタイプのヒロイン・エアリアルに

魅了される人は少なくないと思います。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『七人のおば』

2005-08-29 11:00:02 | 作家ま行

 パット・マガーの代表作です。



設定がユニークですね。

遠く海を隔てたアメリカで起きた殺人事件を、

イギリスに住む姪が夫と一緒に過去を回想しながら

七人いるおばの誰が、自分の夫を殺したのかを推理する、

という安楽椅子探偵物です。



この七人のおば達がとても個性豊かです。

一番印象的なのは、かなり自由奔放なドリスで、

姉妹達の相手を奪うような事も平気です。

その最も被害を被ったのが、堅物テッシー。

教師という職業柄、髪もひっつめにしてたりして

色気もへったくりもありません・・・でした。

 

ところが同じ教師仲間の恋人が出現し、生活も華やぎます。

そこにそう。。ご想像通り、ドリスが・・・。。。

そして更にアル中イーディス、男性恐怖症のモリー等が微妙に絡みます。

てんでんばらばらな彼女達を取り仕切る役は

長姉クララなのですが、無理やり型にはめ込もうとして、

かえって取り返しのつかない悲劇を呼ぶのです。



おば達のそれぞれの人生を一晩かけて語り合う中に、

おのずと様々な状況が浮き彫りになり極めて納得のいく答えを

最後に引き出す・・・。

ミステリー、というカテゴリーではありますが、

文学としても充分通る作品だと思います。


『レベッカ』

2005-08-27 21:14:08 | 作家ま行
 ダフネ・デュ・モーリア作の神秘的なこの作品は、

映画化されたヒッチコックの代表作としても有名ですね。

 

この作品について、アメリカの作家クリストファー・モーリーが

「じかに皮膚に迫ってくるぞくぞくする戦慄感と、

繊細微妙な女性の愛の心理と、ぴんとはりつめた緊張感とによって、

あらゆる読者を一晩中眠らせぬ小説」

と絶賛したそうですが、本当にスリルとサスペンス、それに切迫感に満ち、

何度再読を重ねても、この独特の世界に惹きこまれてしまいます。



 この作品は女性の一人称作品です。始まりは原作も映画も同じ・・・。

昨夜、わたしはまたマンダレイへ行った夢を見た。

最初の回想シーンで、マンダレイに何かが起こり、無くなってしまった事を

明かしてしまうのですね。。

一体何が起こったのか?ここから「私」の回想が延々と語られていきます。

 

この小説のヒロインには名前がありません。どこまでも「私」の一人称・・・。

そしてこの女性を名前で呼んでくれる人もいないのです。

この独特の手法により、先妻レベッカの大きな存在感に「私」が圧倒され、

孤立無援のヒロインの心理状態がより切迫して感じられます。



ヒロインはかつての自分を、

縮らしてない断髪、おしろいけのない幼稚な顔つき、お手製の不恰好な上着と

スカートとジャンパーを着て、まるで内気な子馬のように、おどおどと

ヴァン・ホッパー夫人の背後にくっついて歩いていたわたし自身を

はっきりと思いうかべることができる。―――と描写していますが、

外見も野暮ったく、自信が全くと言って過言でないくらい無い・・・、

また周りの人々も、ヒロインのおずおずとした態度を

侮蔑に近い目で見ていた様子が伺えます。

 

そんな彼女が、ヴァン・ホッパー夫人のほとんど偏執狂とも言うべき病癖ゆえに

マキシム・デ・ウィンターと知り合い、いつの間にか交際が始まるのです。

この辺の描写に関して映画はとても忠実ですね。。

でもウェイター達の態度に関しては、小説の中ではもっと赤裸々だし、

デ・ウィンター卿との会話を通して、なぜここまで急展開に

二人が心を通わせたかが理解できるので、感情移入しやすかったです。

 

映画の中では、こんな会話をするシーンがあります。

「本当は花や音楽があるプロポーズを夢見ていたんだろう?申し訳ない・・・」

「いえ、そんなことありません。充分ですわ。」

原作では、ヒロインが美しい結婚式を描いてみせ、デ・ウィンター卿がにべもなく

かつて一度、そういう結婚式を挙げた事を告げ、話はそこでおしまい・・・。

どちらかというと、原作のデ・ウィンター卿の方が現実的で

冷たい印象が強かったかも・・・。

とにかくこの辺の女性心理の描き方は素晴らしいです。

 

そして、急展開で結婚、マンダレイの女主人として嫁いでいく事に・・・。

こんな野暮ったい小娘に、大きなお屋敷の女主人が務まるもんですか!

要約すればこんな内容の意地悪なヴァン・ホッパー夫人の言葉を背に

夫を信じて一路マンダレイへ向かいます。

 

このマンダレイを舞台に、物語は本格的にスタートするのですが

マンダレイに、先妻レベッカに、そして不気味な家政婦・ダンバース夫人に圧倒され

マキシムの存在すら安らぎにならず、自分の居場所が感じられない

ヒロインの様子が淡々と、繊細に語られていく・・・。

このミステリアスな切迫した雰囲気・・・。静かな中に緊迫した文章・・・。

素晴らしいです~。

そしてそんなある日、仮装舞踏会が行われ、肖像画の衣装を真似た事から

マンダレイに起こった過去の事件が明るみに出て、

夫マキシムの、時折見せる偏屈な態度の理由も明らかになるのです。

 

前半の、幼稚でおどおどしたヒロインの、マンダレイに圧倒されている様子から一転

後半の、逞しく夫マキシムを支える妻として堂々と立ち向かっていく様子・・・。

全編通して、神秘的な、深い霧の中に聳え立つ美しい屋敷マンダレイを中心に

人々の心の葛藤が絶妙に描写され、サスペンスフルに展開されるこの物語は

本当に素晴らしい作品だと思います。

 

映画ではラストを微妙に変えていますね。。

きっと夫マキシムが、この事件を通してヒロインを想う気持ち―――愛情、感謝

―――そういった感情をもっと分かりやすく表現したかったのかな~と

勝手に解釈してますが・・・いかがでしょうね。。

それはともかく・・・この作品は私にとって大切な愛読書の一つなのです。

 

素材提供:AICHAN WEB