
アガサ・クリスティの短編集です。
クリスティ作品の探偵といえば、ポアロ、マープル、パインが有名ですが
私はこのクィン氏がお気に入りです。
ここに収録されている作品のテーマは総て「愛」
それもどちらかというと重く、苦しい愛だったりしてます。
このハーリィ・クイン氏。。
どこからともなく現れて、いつの間にか去っている・・・
常に黒い服を着て、まるでゆらゆらと影のような雰囲気なのです。。
他人の人生の傍観者・・・と言ったら失礼だけど、平凡な人物サタースウェイト氏が
一応探偵役として登場してますが、クィン氏との絶妙なコンビネーションが
物語をとても味わい深いものにしています。
ラストに掲載された、クイン氏自身の悲しい愛の物語は、
なんともやるせない不思議な余韻が残り、
クインのような生き方とサタースウェイト氏のような生き方と
見事にまで対極にある二人の姿をはっきりと浮き彫りにしてみせるのです。
―――「でもわたしは見ましたよ。どうしてなんですか?」
「たぶん、あなたがその代償としてなさった苦労の結果でしょう。あなたには
いろんなものが見えるんです―――ほかの人には見えないものがね」―――
「ここはいったいどういうところなんです?」と彼はささやいた。―――
「今日昼間に申し上げましたでしょう。ここはわたしの小径なんですよ」
「恋人の小径」とサタースウェイト氏はつぶやいた。
「そして人々が通っていく」「遅かれ早かれ、たいていの人がね」―――
「しかしわたしは」―――彼の声は震えた―――「わたしは、まだ一度も
あなたの小径を通ったことはありませんよ・・・・・」
「で、それを後悔なさいますか?」
サタースウェイト氏の前には、何か脅迫的な、また恐ろしいものが、
ずうっと遠くまで、伸びていた・・・喜び、悲しみ、そして、絶望が。―――
どれほど苦しい想いをしても、恋人の小径を通る人生に踏み込むか・・・
あるいは無難に人生の傍観者でい続けるか・・・
う~む。。まるでハムレット状態ですね~。。
でももちろん、そこに縁というものが絡んでくるので、
自分で選びたくても選べなかったりしますけどネ^^;
セイヤーズ派の私ではあるけれど、こんな作品に出会ってしまうと
アガサ・クリスティの優れた文学性に驚嘆せずにはいられないのです。
素材提供:AICHAN WEB