goo blog サービス終了のお知らせ 

プラムの部屋♪

長い長い休暇中デス。(*_ _) ゴメンナサイ。

『モモ』

2006-09-22 14:03:58 | 作家あ行

 ミヒャエル・エンデです。

 

町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。

町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気持ちになります。

そこへ「時間どろぼう」の灰色の男たちの魔の手が・・・!!

 

有名な童話作家の代表作ですねぇ。

作中、こんななぞなぞが登場します。

 

   三人のきょうだいが、ひとつ家に住んでいる。

   ほんとはまるですがたがちがうのに、

   三人を見分けようとすると、

   それぞれたがいにうりふたつ。

   一番うえはいまいない、これからやっとあらわれる。

   二ばんめもいないが、こっちはもう出かけたあと。

   三ばんめのちびさんだけがここにいる、

   それというのも、三ばんめがここにいないと、

   あとの二人は、なくなってしまうから。

   でもそのだいじな三ばんめがいられるのは、

   一ばんめが二ばんめのきょうだいに変身してくれるため。

   おまえが三ばんめをよくながめようとしても、

   見えるのはいつもほかのきょうだいの一人だけ!

 

読んでない方、この答えが分かりますでしょうか?^^

この作品は、時間に追われて余裕のない現代人に対する

警告の書とも言えますね。

 

―――いまモモが身をもって知ったこと――それは、もしほかの

人びととわかちあえるのでなければ、それをもっているがために

破滅してしまうようなそういう冨があるということ―――

 

人の心にス~ッと入り込み、その人に本心を語らせる名人モモ。

灰色の男たちの中の一人、ナンバーBLW/553/c  は

モモを誑かそうと近寄りますが、気付いたらいつの間にか

自分達の計画をしゃべってしまいます。  

人間から貴重な時間をせっせと取り込んでいく灰色の男たちにとって

小さなモモの存在は許しがたい敵!

ここに、灰色の男たちは仲間を徴集し、邪魔者モモを

どうにかして追い払おうと重大な会議を開きます。

 

モモの二人の親友、道路掃除夫ベッポ、観光ガイドのジジをはじめ、

沢山のお友達に囲まれて幸せだったモモに突然降りかかった災難は

実は恐るべき時間泥棒「灰色の男たち」の仕業でした。

 

小さなカメ、カシオペイアに導かれ、灰色の男たちの尾行を見事に撒きながら

歩いた不思議な道中・・・特に逆さ小路と呼ばれる道は、

ちょっと「鏡の国のアリス」を彷彿とさせるかも。。

そしてモモは、不思議な家で出会ったマイスター・ホラにより、

詳しい事情を説明されて時間泥棒と闘う決意をするのです。

 

モモと一緒に戦ってくれる小さな亀さん、カシオペイアのなんて愛らしいこと^^

話をするのに声を出せない代わりになんと甲羅に文字が浮かぶのです!^^

はぐれたカシオペイアと漸く再会出来た件の描写はも~かわいいの

 

 「アエテウレシクナイノ?」

 「うれしいわよ。」モモは泣きそうになって言いました。

 「うれしいにきまってるじゃない、カシオペイア、すごく、すごくよ!」 

 そしてカメの鼻づらに、なんどもキスをあびせました。

 「コマルワ、ヤメテ!」

 カメの背の文字が、はっきりそれとわかるほど赤くなりました。

 

後書きにあるように、大人にも子どもにもかかわる現代社会の

大きな問題をとりあげその病根を痛烈に批判しながら、

たのしく、うつくしい幻想的な童話として読める素晴らしい作品・・・

子どもだけでなく、余裕の無い大人にこそ読んで頂きたい名作です。

 

素材提供:Pari’s Wind


『キャッツ』

2006-08-30 21:09:01 | 作家あ行

 T・S・エリオットです。

 

ノーベル賞受賞のちょっと堅物(?)な詩人エリオットが51歳の時に出版した

「ポッサムおじさんの猫とつき合う法」と副題が付いたこの作品。

あの超ロングラン・ミュージカル「キャッツ」の原作なのですヨ~。

ニコラス・ベントリーのカラー挿絵付きのとても楽しい作品です。

全部で15編の詩で成り立っていて、どの作品も猫の特徴、仕草、性格等が

表情豊かに生き生きと描かれた、猫好きには堪らない作品だと思います。

 

冒頭の「猫に名前をつけること」の一節―――

 

ほら、猫ってよくもの想いに耽っているだろう。

 そのわけは、いつも同じことさ。

猫は、自分の名前について、うっとりと瞑想に耽っているんだ、

 考えに考えて、考えに考えあぐねて、

 いわく言い難い、言えそで言えぬ、

深遠で謎めいた、たったひとつの名前はないものかと―――。

 

から始まって、おばさん猫ガンビー・キャット、親分猫グロウルタイガー、

あまのじゃく猫ラム・タム・タガー、おちゃめなジェリクル猫たち等々、

ミュージカルでもお馴染みのキャラが沢山登場し、ダンスを踊り、

歌を歌い、ヴァイオリンをかき鳴らし・・・縦横無尽に飛び回る・・・

作中、ディケンズやシェークスピア、ヘンリー・ウッド等

有名な作品の登場人物まで飛び出す豪華さ

 

「猫に話しかける法」なんて犬と猫それぞれの特徴を見事に表現していて

ちょっとニヤっとしちゃいます

 

この作品の訳者、池田雅之さんが後書に書かれた犬と猫の特徴・・・

犬は飼っていると、自分も人間になったつもりになる動物です。

―――猫は、むしろ、人間が猫のつもりになっているといって

にんまりしている動物のようです。あるいは、猫は、人間のことを

自分たちの仲間のように思うことも、時にはあるらしい―――

はまさに言い得て妙・・・ちょっと笑えませんか?^^

 

ミュージカル・キャッツの演出家、浅利慶太さんは、人気の秘密について

「猫の姿を借りて、人間のだれもが輝いている瞬間を切り取ることだった」

と仰っていたそうです。

う~ん。。

原作の持つ個性豊かな猫達の輝きを見事に演出した方の名言ですねぇ。


『高慢と偏見』

2006-06-09 21:25:32 | 作家あ行

 ジェーン・オースティンです。

 


この作品を知らない人は『高慢と偏見』という題名だけ聞くと、

固い内容なのかな、なんて勘違いしそうですが、

実際は19世紀初頭、英国ののどかな田舎ハーフォードシアを舞台に、

両親と5人姉妹という家族構成のベネット家を中心に繰り広げられる、

御伽噺の要素を多分に含んだ、普通の人々の家庭小説です。

かのサマセット・モームが絶賛したオースティン女史

独特の皮肉と風刺がここでも美事に健在ですね~。。

 


5人姉妹といえど、主要人物は長女ジェーンと次女エリザベス。

この美人姉妹はとても仲が良く、何でも語り合える親友のような関係です。

ジェーンは素晴らしい美人で、誰に対しても優しい、顔だけでなく

心もとても美しい女性です。

そしてこの物語のヒロイン次女エリザベス―――

エリザベスは自分を嘲笑するような噂に対しても平然と笑い飛ばせるような

豪胆さを持ち、ちょっと勝気な、でも裏表の無い知的で明るく溌剌とした、

とても魅力的な女性なのです。

納得出来なければ毅然として跳ね除ける強さは素晴らしいですね~

 


更にこの二人を取り巻く人々もまた個性豊かでユーモラスな面々が揃っています。

とりわけ面白いのが父上。。

冗談とも本気とも取れるような話し方が妙に笑いを誘います。

 


例えば、次女エリザベスが少々鼻持ちならない従兄からの求婚に対し、

すげなく断った事を怒った母親ベネット夫人が父親ベネット氏に言いつけて

「あなたからリジー(エリザベス)に話してやってください。

どうしてもあの方と結婚しなけりゃいけない、とおっしゃってください。」

これに対し、まずエリザベスに求婚を断った事実を確認したうえで

「不幸な選択がお前の前におかれているわけだ、エリザベス。――――

お前がコリンズ氏と結婚しなければ、お前のお母さんは二度と

お前にはあわないつもりだし

僕はまた、お前が結婚すれば、二度とお前にはあわないつもりだ」―――

 


私はこの会話で一気にベネット氏の大ファンになっちゃいました

一方ベネット夫人・・・お母様は感情の起伏が激しくて考えなし。。

何度か大事な席で恥知らずな態度や言動をして、

家族にいたたまれない思いをさせてしまうのです。

ま~なんだかんだ言って憎めませんが。。

 


そしてこの美人姉妹二人に訪れる素敵な恋は、女性として生まれた以上、

一生に一度は夢見ずにはいられないようなお相手です。

特にエリザベスのお相手は、英国の美しい風景を背に聳え立つ美しいお屋敷の、

由緒正しい家柄の王子様・・・のような紳士なのです。

この二組のカップルが様々な紆余曲折を経て結ばれて、

万事めでたしめでたしで終わる物語。

 

でもこの物語が時代を超えて愛されている大きな理由は、

地位や財産といった事物が最も重宝されていた時代に

決して諂わず、自分の意思を貫き譲らない

エリザベスの毅然とした潔さにあると思います。

あのダ・バーグ夫人との一騎打ちの見事さは今読んでも胸がスッとする爽快さ

このどこまでも毅然と明るいエリザベスの心に触れて

かの高慢なミスター・ダーシーも、身分の差を越えて夢中になってしまうのですネ^^

 


主役二人がお互いの気持ちを語り合い、心を通わせていくシーンは大好きです。

―――もしエリザベスが、まともに彼の眼を見ることができたなら、

満面にあふれた心からの喜びの表情が、いかにも彼に

似つかわしいものであることを見たであろう。

けれども、見ることはできなくても、聴くことはできた。そして、彼は、

彼女が彼にとってなくてはならないものになっていると語った。―――


19世紀前半に出版されたこの作品を、当時の女性達がどれ程ワクワクドキドキ

胸をときめかせながら読んだんだろう、と想像するだけで楽しくなってしまうような

上質のラヴ・ロマンス・・・

私自身、読み返すたびに心ときめかせ、エリザベスに感情移入せずにいられない

大好きな作品です 

 

素材提供:AICHAN WEB


『エマ』

2006-06-07 22:29:42 | 作家あ行

 ジェーン・オースティンです。

 

『高慢と偏見』と並んで大好きなオースティン作品です。 

ヒロイン・エマの事を、作者オースティンは書き始めの頃

「作者の私以外は誰も好きになれないようなヒロインを書くつもりです。」

と語っていたそうで、実際少々我侭なお嬢様です。

思い込みが激しくて、お節介焼きで・・・

 

―――もうすぐ21歳になるが、人生の悲しみや苦しみを

ほとんど知らずに生きてきた―――

なんとも羨ましい限り。。でも、要するに深みがない、という事なのですね。

エマは他人の縁結びは大好きなのですが、

自分の結婚となると全くその気がありません。彼女曰く

「いまの私は、お金にも、仕事にも、社会的地位にも、

十分すぎるほど満足しているし、ハートフィールドの女主人として

自由に振る舞っているわ。結婚した女性で、私の半分でも

自由に振る舞っている人はいないと思う。」・・・のだそうです。

 

そしてエマは、戯れの恋が大好きです。

この様々な恋模様も、エマの余計なお節介によってぶち壊したり

考えられない展開になって密かに傷つく人物が現れたり・・・。

実際、エマは数々の失敗を繰り返し、何の気無しに

人の心を踏みにじるような言動や行動をしてしまいます。

でも・・・なぜか憎めないのですヨ。。

なぜなら、その行為をたしなめてくれる素晴らしい男性がいるのですが

その徹底的な攻撃・・・をしっかり受け止めて、猛反省をするのです。

その、反省ぶりが本当にかわいい。。

そして反省した事を肝に命じて、傷つけてしまった人への思いやりを忘れない・・・。

少々甘やかされ過ぎただけで、本当は心の優しい、とても素敵な女性なのです。

誰がエマを嫌いになれるものですかって言いたくなっちゃいます

 

それにしてもオースティンは最高に面白いですね~。。

ホント、大好きです

どの作品もロマンティックそしてコメディータッチだったり

しっとりと静かだったりと、その雰囲気は様々ですが

当時の風習や考え方、様々な人間模様が克明に描かれていて

19世紀イングランドの優雅でのんびりとした家庭生活を思う存分楽しめます。

人間関係の微妙な心の機微を見事に描き、その行動や言動、

考え方の違いがもたらす誤解やすれ違いをここまで楽しく描いて

笑わせてくれる作家って他にあまりいないと思います。

 

描かれる人物も個性豊か。。

沢山の登場人物が似たような名前で関わっていますが、

相互関係を把握して読めば混乱する事は全くありません。

作品によって・・・ではありますが、妙に笑いを誘う可笑しな人物が登場し

独特の個性で楽しませてくれます。

この作品の中ではなんてったってミス・ベイツでしょうね。。

あの猛烈なおしゃべりに付きあわされたら、と思うと・・・

でも実に気のいい、優しい人物だったりするのです。

エマに良い意味でも悪い意味でも振り回されるハリエットも良い味出してます

色々な意味でライバルとなるジェインも侮れない魅力があります

 

でもやっぱりヒロイン・エマ

どれほど我侭勝手なお嬢様であっても、そのキラキラ眩いばかりの輝きに

思わず知らず惹き付けられ、彼女の幸せを願わずにいられないのです。

そしてエマのお相手となる人物の、なんと崇高でカッコイイことか・・・。

オースティンの作品の中に出てくる男性の中ではダントツ好きだな。。

 

初めて読んだ時・・・特に第四十九章は本当にワクワクドキドキしながら読み進め、

思った通りの・・・とゆーか、絶対こうなって~って望んでいた通りの展開に

思わず涙ぐみあ~なんて素敵なロマンスなのかしらと感激して読んだこと

今回改めて読み返し、鮮やかに蘇ってきて、懐かしいような切ないような、

なんともいえない郷愁を味わってしまいました。。

 

それにしても19世紀の英国の身分の高い人々の暮らしは

とても優雅だったのですね。

それぞれの家庭を訪問し合い、お茶やディナーを楽しみ

時には華やかな舞踏会やピクニック、音楽会等で楽しい夕べを分かち合う。。

レースや沢山の襞がついたドレス、美しい花、優雅な物腰等

オースティンの描く世界は本当に素敵です

せわしない世の中の、慌しい毎日の中のほんの一時・・・

こんな夢のような世界に浸るのも楽しいですヨ

 

素材提供:AICHAN WEB


『説得』

2006-06-06 13:44:08 | 作家あ行

 ジェーン・オースティンです。

 

オースティン晩年の作品だけあって、『高慢と偏見』『エマ』のような

華やかさは影を潜めています。

でもしっとりと叙情性に満ち、長い時間を経て再び出会う

男女の心の機微が繊細に綴られていて、とても美しい作品です。

 

ヒロイン、アン・エリオットは19歳の時にウェントワース大佐と恋に落ち、

結婚を決意しますが、周囲から説得されてやむなく別れてしまいます。

この二人が出会ってから別れるまで僅か2、3ヶ月。。

でもアンの苦しみはそこから長年続くのですネ・・・。

そして再び出会った時は28歳。当時としては、もういわゆるオールド・ミス。

でもアンには卑屈なところは微塵もなく、心優しく暖かく、

周りを包み込んでしまえる包容力があるのです。

 

二人を取り巻く人間模様は相変わらず風刺が利いて少々辛らつ。。

でも人間の持つ様々な癖や習性を、こうも見事に表現出来るオースティンって

やっぱり凄いと思います。

良い面もあれば悪い面も持ち合わせ、ちょっとした誤解や行き違いから

すれ違ってしまう人間関係。。

あるいは反対に、思いがけない出来事で、その人の持つ優れた人間性を見出し

改めて見つめ直すきっかけになる事もあったりで

読んでいて、なんだか身につまされる事もしばしばです。

 

この作品のメインはなんと言ってもラストのウェントワース大佐の手紙でしょう

僅かの時間に走り書きした、でも万感の想いを込めたラブレター

愛する男性からこんな手紙をもらって平静でいられる女性がいたら

お目にかかりたい・・・いや、寧ろお会いしたくないかも~・・・

 

この作品が晴れて出版された時にはオースティンはもう、

この世の人ではありませんでした。

全六冊の長編は、どの作品も本当に素晴らしい。。

でも晩年に書かれたこの『説得』と『マンスフィールド・パーク』は

若い頃のキラキラした輝きとは違う趣があります。

しっとりと心に沁み入り、いつまでも残る幸せな余韻・・・。

なんて美しい名作なのでしょう。

あ~やっぱりオースティンって大好き

 

素材提供:AICHAN WEB


『エバ・ルーナ』

2006-05-20 23:58:04 | 作家あ行

 イサベル・アジェンデです。

 

この作品は世界的ベストセラーです。

でも日本ではどーゆーわけか絶版です。

もっと沢山の人が気軽に読めたら良いのに・・・

 

イサベル・アジェンデ。

ペルーの首都リマに生れた南米の女流作家です。

知る人ぞ知る『精霊たちの家』で衝撃的デビューを飾った

<現在のシェヘラザード>と言われるストーリーテラーです。

 

わたしの名はエバ。生命を意味している。―――

独裁政権下の南米のとある国、密林の捨て子だった母と

インディオの父との間に生れた娘エバは、

人間の剥製方法を研究する博士の家で育てられた。

幼くして母を亡くし、やがて博士の死とともに屋敷は処分され、

わずか七歳にして彼女の流浪の人生が始まった。

 

舞台は、独裁政権が崩壊し、民主主義の時代が到来しようとするベネズエラ。

この作品のヒロイン、エバはお話を創って語る事の出来る少女です。

このエバの数奇な運命と同時進行で、地球の反対側に住む少年、

ロルフの人生について描かれ、やがて二人の宿命の出会いへと繋がります。

 

この作品はとてもストレートです。

複雑な構造は一切なく、淡々と語られていくだけなのですが、も~本当に面白い

なんてったって登場人物が個性的

 

まずはエバの母親コンスエロ。。

エバの特殊な才能は間違いなくコンスエロの影響です。

コンスエロがお話しを始めると―――

 

―――壁が消えて、信じられないような光景の中に踏みこんで

行くことができた。見たこともない宝物がいっぱい詰まった宮殿や、

彼女が作り出したり、博士の図書室のある部屋に載っていた

遙か遠くの国がわたしの目の前に現われた。

足もとには東洋や月、それよりももっと遠くからもたらされた、

ありとあらゆる財宝が並べられた。

小さな生きものの目から見た宇宙を知るように蟻に変えられたかと思うと、

次は翼を羽ばたかせて空高く舞いあがり、そこからも眺めた。

また魚になって海の底をのぞいたこともある。

 

まだ幼い頃、お話を聞かせて~ってせがみ、本を読んでもらった時の

ワクワクドキドキした気持ち・・・。

この想いを自分の中の宇宙に保ち続けたゆえなのでしょうか。

エバの語るお話しは人々の心に深く浸透し、

大切な出会いにも繋がっていくのです。

 

エバの人生はとにかく波乱万丈です。

生まれからしてちょっと怪しい。。

他人の家で女中勤めをする事で生計を立てるのですが、

最初が人間の剥製を作る博士の屋敷、政府の高官の家、売春宿、

年金生活者の家等々、あらゆる家を転々とし、

その都度新しい出会いや様々な出来事を経験していきます。

 

ストリート・ボーイのウベルト・ナランホ・・・

彼は後に革命家リーダーとして生きることになる少年です。

「おれはウベルト・ナランホっていうんだ。お前は?」

「エバ・ルーナよ。お友だちになってくれる?」

「おれは女とはつきあわない」

友情と愛情に彩られた二人の関係は、

ここから紆余曲折を経てとても長く続くのです。

エバが語った物語を、宝物のように大切に想う気持ちが随所に表現され

とても心暖まるシーンがいくつも出てきます。

「お話しをしてくれたあの子か?」

―――このシーン。。大好きです

 

メレシオ・・・またの名をミミー。

性同一障害を持ち、さんざん酷い目に合いながらも力強く切り抜け

最後には絶世の美女になり、女優として大成していく人物。

エバとの美しい友情は何度も涙し、感動しました。

 

ある屋敷でやっと安住の地を得たかと思いきや、殺人罪の濡れ衣を着せられ、

凄まじい拷問を受け、半死半生の恐ろしい目に合ったとき、

助けてくれたリアド・アラビーとの敵わぬ恋に胸を焦がしたエバ。

この辺はとても切なかったです。

 

物語が佳境に入って漸く出会う運命の人、ロルフ・カルレ。

彼もまた波乱万丈です。

ロルフの父親は暴力教師で、周りの人皆に怯えられ、

最後には殺されてしまいます。

家族はそれぞれバラバラになり、引き取られた叔父の家で従姉妹達と

少々エロティックな関係になり想像を絶する恐ろしい経験を経て

ジャーナリストとして、革命家達の味方となって真実を報道する

立派な青年になるのです。

 

ロルフは、それまで誰にも自分の家族の事を話した事はありませんでしたが

エバに出会い、お互いの人生を語り合ううち、自然に話し始めます。

「自分の過去のもっとも暗い部分なんだ」

―――「カタリーナはどうなったの」

「病院でひとり寂しく死んでいったんだ」

「そう、亡くなったの。でもあなたが言うような死に方をしたんじゃないわ」

 

こう言って、彼の精神薄弱だった妹カタリーナの最後を

美しく創作して語るエバ。。思わず聞くロルフ。。

「おふくろは?おふくろにも幸せな運命が待っているのかい?」

「ええ、―――――――――――」

 

登場人物それぞれの波乱に満ちた人生や、当時の国家の情勢、

様々な慟哭や懊悩、革命に至る人々の苦難、そして美しい友情や愛情等、

本当に奥深く濃い内容でありながら、美事なまでに淡々と語られていく・・・。

想像を絶する苦難の中を、雄雄しく逞しく生き抜いていく

エネルギッシュな人々の生き様には、幾度となく涙し、感動したものです。

文学の楽しさを思う存分味わえる素晴らしい一冊。。

是非是非復刊してくれ~~~

 

素材提供:AICHAN WEB


『アスタの日記』

2006-05-17 22:01:09 | 作家あ行

 バーバラ・ヴァイン・・・ルース・レンデルの別名義です。



1905年から始まる、アスタの残した膨大な日記―――

それはデンマークからイギリスに移住してきた彼女が、

24歳の時から数十年にわたって書き記したものです。

アスタの死後、日記は娘のスワニーによって順次翻訳刊行され、

ベストセラーとなります。

そしてスワニーも世を去ると、姪のアンが祖母の日記をはじめ、

すべてを受け継ぐことに・・・。



このアスタの書いた日記と、現在の出来事が交互に記されているのですが

北欧を舞台に繰り広げられた愛憎劇、様々な人間模様が克明に

赤裸々に描かれていて、も~圧巻です。

一応カテゴリーは文学的な要素が多分に含まれたミステリー。。

複雑に絡み合う、全く違うタイプの人間達がそれぞれの立場から行動し、発言し、

誤解が誤解を招き、恐ろしい悲劇を生んでいく・・・。



―――過去の出来事のおおまかな土台だけ説明しますと―――――



アスタの娘スワニーは、父親にはなぜか冷たくされたものの、

母アスタの愛情を一身に受け、類まれなる美貌により、沢山の人に愛され、

非常に幸福な子供時代を過ごします。

ところがある日「お前は両親の実子ではない。」と書かれた一通の匿名の手紙が

スワニーを襲うのです。

アスタはスワニーが養女である事を認めたうえで、

「私は惜しみない愛を注いであんたを育てた。今も心から愛している。

本当の親が誰かなんてどうでもいいじゃないか。」

と言って、実の親については教えてくれません。

そして遂になんら回答を示さないまま、アスタは世を去ってしまうのです。

自身の出生の秘密をどうしても知りたいスワニーが、

その抑えがたい思いから遂に発見したのが「アスタの日記」でした。



スワニーは非常に繊細な神経の持ち主なのですね。

普通はここまで執着しないゾ!ってくらいに自分の出生の秘密に

のめり込んでしまいます。

その為に、晩年はとても痛ましい姿になってしまうのです。

スワニーが独自に調査し掴んだと思われる事の真相は、

彼女にとって耐え難い内容でした。



この物語の語り手は、スワニーの姉であるマリーの娘、アンです。

スワニーから見ると姪にあたります。

子供のいなかったスワニーにとってアンは娘同然の存在だったのですね。

そして総ての遺産をアンに託します。



アンに託された「アスタの日記」には、過去に起きた迷宮入りの殺人事件の

答えが必ずある!と信じて新たに調査を開始する様々な人間達。。

物語は前半の緩やかな流れから、後半は一転して緊迫感を増していきます。

このレンデル特有の構成は、凄いとしか言いようがありません。

前半に周到に張り巡らされていた伏線が、後半に見事に炸裂するのです。



レンデル作品の特徴の一つだと思うのですが、最初は深い深い霧の中を

彷徨っている感じなのですね。

で、徐々に霧が晴れてきて、朧な輪郭が浮き出て、

最後にサ~ッと一気に退いて全貌が、いきなりその姿を現します。

ホント、物凄いです。初めて読んだ時はも~鳥肌物でした。

でも、どんな恐ろしい真相が待っているのだろう・・・、

と慄きつつ読み進めると、思いがけない優しさに出会い、

ふわぁ~っと包み込まれるような不思議な感覚を覚えたりもする・・・

いつ読んでも捉えがたい魅力に雁字搦めになってしまう作家さんなのです。

 

素材提供:Pari’s Wind


『青ひげ』

2006-05-11 14:09:09 | 作家あ行

 カート・ヴォネガットです。

 

語り手は、亡き妻の大邸宅に孤独に暮らすラボー・カラベキアン老人。

かつては画家として名を馳せたこともあったのですが

戦争で片目を失い、思わぬ失敗から画壇を去り、まさに生ける屍同然。

同じように戦争で大きな傷を負う作家ポール・スラジンジャーと共に

日々を虚しく浪費していく毎日でした。

そんな彼らの前に突然エネルギッシュな女性サーシ・バーマン夫人が登場!

カラベキアンに自伝を書くことを強力に勧めます。

その自伝が本書なのです。

 

過去と現在を行き来しつつ、ユーモアや皮肉を交えながら

テンポ良く物語は展開していきます。

惨殺されたアルメニア人一族の中の、たった二人の生き残りの

男女から生まれたのがカラベキアンで・・・その人生はとても数奇です。

関る人々がそれぞれとても印象的で、画家ダン・グレゴリーに憧れて

彼の弟子になるのですが、その愛人マリリーは中でも極めて魅力的

何かと意地悪なダン・グレゴリーから身体を張って守ってくれる

母性愛に満ちた素晴らしい女性で、

後々にはかの悪徳政治家ムッソリーニまで登場し、

その家臣と懇意になった事から大出世してしまう大器なのですね。。

 

そして現在。。

サーシ・バーマン夫人を最初こそ疎ましく思っていたものの

その精力的な魅力に圧倒され、徐々に心を開いていく過程がなんとも面白い。。

必死で抵抗しつつ・・・抗えない男のやるせなさ。。^^

常に魂の篭った絵が描けない事を指摘され続けてきたカラベキアンですが

様々な苦難を経て、遂に彼にとっての最高峰を見出していく・・・。

芸術家の苦悩を描いた作品としてもとても素晴らしいです。

 

後書に掲載されたジョン・クルート氏の書評から―――

「―――やるせないスラップスティック調のおしゃべりがはじめて

途絶えるのは、物語の結末でラボーがついに開かずの間の鍵をはずし、

甲羅を生やしたハートの中に脈打つ涙もろさをさらけだす場面である。

これは後始末に骨の折れる、ばつの悪い瞬間だ。

そして、誇らしい勝利の瞬間でもある。―――」

 

この『青ひげ』という題名は、まさしくあの『青髭 』から取ったものですが

開かずの間に死体がぶら下がっているわけではありません。

誰も立ち入らせなかった納屋に隠されていた物は??

推理小説でもミステリーでもないので、

謎解きという事を期待して読んだら思いっ切り裏切られます^^。

でも上記の書評にあるように、一人の男の赤裸々な魂が

曝け出されるこのシーン。。

少年のような老人の行動、言動はとても心を打ち・・・

思わず抱きしめてあげたくなるくらいかわいくて^^

でも本当に感動的でした

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『昏き目の暗殺者』

2006-05-06 15:09:26 | 作家あ行

 マーガレット・アトウッドです。

 

「車が橋から飛び出したとき彼女は何を思ったのだろう。

午後の陽光の中で、トンボのような輝きを放ち宙を舞った、

落下まぎわのその瞬間に。アレックスかリチャードのことだろうか。

裏切りのことだろうか。あるいは父さんのことだろうか、

父さんが事業に失敗したことだろうか。それとも神のことか。

あるいは破滅へとつながる三角関係のことだったか」

 

語り手はアイリスという82歳の老女。。

冒頭から三人の主だった人物達の死を報じた新聞記事が掲載されていて

これから語られていく物語が、実に謎に満ちたものである事を予感させます。

このうねるような文章・・・。本当に凄いです。

 

この作品。。

表面上は、ブルジョワ一家の没落を身をもって経験したアイリスの追想記です。

そこにアイリスの妹の書いた『昏き目の暗殺者』という本が並走していきます。

 

複雑なことに、この作中作『昏き目の暗殺者』自体、二重構造になっていて、

一つは、一目を偲んで逢瀬を繰り返す男女の様子。

そしてもう一つは、この謎の男女が語るザイクロン星のSFファンタジー・・・

遠い星を舞台に、邪神の生贄として舌を抜かれた少女と、

盲目の暗殺者の少年の逃走劇が語られていきます。

 

そして過去の新聞記事が随所に織り込まれ、

アイリスの語りだけでは理解出来ない部分を補っていて、

後書にありますが、「入れ子状のドームにこだまが響くような」

多重構造の作品に仕上がっているのです

 

という事で、一見没落華族の様子を描いた大河物のようですが、

ミステリー、SF、ハードボイルド、ゴシック、愛憎劇と

あらゆる分野が織り込まれた、本当に複雑な作品・・・

読むのに多大なる時間を費やした、読み応えたっぷりの作品です。

 

それにしてもブルジョワ一家の没落していく様は本当に凄まじいですね。

フランスの革命の炎が燃え上がった時、人々の憎しみの矛先は

それまで羽振りを利かせていた王侯貴族達に向けられ、

それはそれは恐ろしい光景だったとあらゆる歴史書で語ってますが

それに匹敵するくらい、凄まじいと思われます。

まだ幼い少女だったアイリスとローラもまともに外を歩けないくらいで・・・

貧困に喘ぐ人々の怒りは凄まじいものがあったのでしょうね。。

 

この作品の語り手アイリスは、落ちぶれていく家庭を救う為、

父親に請われるまま、18歳の時に16歳も年の離れた裕福な男性

リチャードの元に嫁いでいきます。

この年の離れた夫リチャードとの間に愛はかけらもなく、

リチャードの妹ウィニフレッドとは生涯諍いをする仲になっていくのです。

 

アイリスの妹ローラはかなりカリスマ的な要素を持つ女性だったと思われますが

アイリスとローラの関係もアイリスの結婚を機に微妙に行き違いが生じはじめ

壊れていく姉妹の関係がなんとも哀しく凄まじく・・・。

言葉、という凶器の恐ろしさを見事に描いている作品でもあり、

はっきり言って後味は悪いです。。

 

ただ、表現力の豊かさ、美しい文脈等、アトウッドの類稀なる才能が

遺憾なく発揮された作品、といえるのでしょうね。

事実、この本を読んだ人達による絶賛の言葉があらゆる場所で見られます。

 

でもとても残念な事ですが・・・全編悪意の塊のような内容は・・・

今まで読んだブッカー賞受賞作の中ではあまり好きになれない作品でした。

 

素材提供:Pari’s Wind


『人形の家』

2006-05-03 06:53:59 | 作家あ行

 劇作家イプセンの有名な戯曲作品です。

 

堅気な弁護士ヘルメルとその妻ノーラは、一見仲睦まじい夫婦。

でもノーラが、夫に内緒で借用書に偽りのサインをしていた事が

発覚した事から総てが一変します。



オープニングの、小鳥のように囀りながら、

嬉しそうに買い物を披露するノーラの様子。

まさに愛されている事を微塵も疑っていない、

幸せそのものの可愛らしい人妻である事が伝わってきます。



でも実は夫が愛していたのは人形のように可愛らしい妻であって、

人間としては愛されていなかった・・・・。

 

「あたしは、何よりもまず人間よ。」

 

「あたしたち結婚して八年になるわね。変じゃない、これが最初だなんて、

あたしたち二人、あなたとあたし、夫と妻が、ともに真面目に話し合うのは?」

 

「八年間、――いいえ、もっとよ、――知り合ってからあたしたち、

真面目なことについて、真面目な言葉を交わしたことは、

一度だってなかったわ。」

 

「――あたしたちの家は、ただの遊び場だっただけよ。あたしは、あなたの

人形妻だったのよ、実家で、パパの人形っ子だったように。――」



ノーラのこれらのセリフはとても重いですね。。

「イプセンがこの戯曲で示したのは、何よりも自分自身が何者なのか

まずそれを確かめるのが人間の義務であり、そういう人間になるべきだ、

ということだと言ってよかろう」―――翻訳者の後書の言葉です。

 

内容の重さと共に、とにかく台詞回しが素晴らしいです。

スイスイ読めてしまう独特のリズム感がなんとも心地良い・・・

時代が移り変ろうと不変の課題を扱った作品として

イプセンに世界的な名声をもたらしました。

 

素材提供:AICHAN WEB


『ヒヤシンス・ブルーの少女』

2006-04-12 00:29:03 | 作家あ行

  スーザン・ヴリーランドです。


『真珠の耳飾の少女』もそうでしたが、フェルメールの絵にまつわるお話です。

でも『ヒヤシンス・ブルーの少女』という絵は存在してません。

存在してないにもかかわらず、とてもリアルです。



フェルメールの絵。。

「赤茶色のスカートに少しかぶさる短いスモックを着た少女が開いた

窓のそばのテーブルで横向きに座っているすばらしい絵だった」

「見ろよ、彼女の目を。真珠のような目を。真珠はフェルメールが

好んで描いたモチーフだ。彼女の表情にある憧れ、

それに窓から射しこむデルフトの光が額にこぼれるさまを見てくれ」

「筆遣いの方向を見てくれ、絵筆の毛のごく薄い筋を。

光が反射する部分と影になっている部分がある。

絵具が重なって絹よりも薄い層になり、影の部分にごくわずかな違いを

生み出している。まさにフェルメールの作品に間違いない」


こんな克明な描写がそこここに散りばめられていて、

作者のフェルメールに対する思い入れの深さが

痛いくらいに伝わってくる・・・この作品全体がフェルメールの絵

そのものの美しさなのです。



さて、この作品は8篇の連作短編集で、1章が現在と想定して、

少しづつ過去に遡っていきながら『ヒヤシンス・ブルーの少女』の絵を通して、

その絵に関わった人々の出来事を描いていく手法です。



フェルメール。。今でこそ人気がありますが、

当時はあまり評価されず、作品数も少なくて、まさに不遇の境涯だったのです。

そして、そのフェルメールの絵を所有した人々も富裕階級の人は全くいません。

皆それぞれに抱えている生活があり、貧困にあえいでいます。

でも必ず『ヒヤシンス・ブルーの少女』に対する深い愛情を持つ人が

それぞれの章に登場し、それぞれがやむを得ない事情で手放していくのです。



一章一章が、それぞれに素晴らしいです。

実生活に基づいた、人間の持つ苦しみ、煩悩、欲望、悲しみ等が見事に描かれていて、

胸が締め付けられそうなシーンも沢山出てきます。

特に極めつけがラストの章・・・。



過去に遡って遂に17世紀のデルフトに至り、なぜフェルメールがこの絵を描いたのか、

描かれた少女は誰なのか、最後に謎が解かれるのです。

そのモデルとなった少女の心の葛藤は、読んでいてちょっと心が痛かったな。。



フェルメールの印象的なブルーと輝く光が全体を覆っているかのような作品。

素晴らしかったです。

 

素材提供:Pari’s Wind


『暁の死線』

2006-03-05 22:30:34 | 作家あ行

 ウィリアム・アイリッシュです。

 

故郷に背を向け、大都会ニューヨークに、成功を夢見て出てきたブリッキー。

ブロードウェイの大劇場に華々しく出演!・・・のハズが

現実は、小さなお店で夜毎男達の相手をするしがない職業ダンサーです。

大見得を切って飛び出してきた手前、田舎の両親や友人達に本当の事が言えず

孤独な大都会で一人闘うブリッキー。。

そんな彼女の唯一の友達はパラマウント塔の大時計・・・。

本当は・・・帰りたいのです。

 

そんなブリッキーの前に突然姿を現した風来坊青年、クィン。

奇しくも同じ故郷の隣の男の子だったのです。

そして彼もまた、故郷に・・・帰りたいのです。

ブリッキーは、一人ではどうしても乗れなかった夜明けに出発するバスに

クインと二人なら乗れる!と大きな希望を持ちます。

ところがこの出会いの段階で、男は殺人の嫌疑をかけられており、

潔白を証明する時間は夜明けまでの僅か五時間しかありません。

 

かくして、二人の人生を賭けた孤独な捜査が始まります。

この、タイムリミットの迫る様子を、章ごとにニューヨークの時計の針で現していて、

まるでチクタクチクタク時間を刻んでいる様子が目に浮かぶような凄まじい緊迫感!

僅かな手がかりを頼りに、大都会をあてもなく駆けずり回り、

最後に再び元の場所に・・・。

ラストに向けて一気呵成に畳み込むように繰り広げられる真相究明への情熱!

 

この、緊迫した状況下に置かれた二人の男女の心理状態と、

彼らを取り巻く情景が見事に一体化され、

独特の甘美な雰囲気が醸し出された素晴らしい作品で

ラストの清々しさは、彼の作品の中でもダントツです。

夜明けのニューヨークが目に浮かぶよう。。

 

華麗で甘美な雰囲気から、文学の詩人とも言われるウィリアム・アイリッシュ。

コーネル・ウールリッチ名義の作品と共に、何度でも読み返したくなる作家です。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『ダロウェイ夫人』

2006-02-14 15:01:14 | 作家あ行

 ヴァージニア・ウルフです。

 

20世紀英文学を代表する作家の一人ですね~。

この作品は、ある一日の出来事を描いているだけなのですが、

30年の歳月を行き来する、という意識の流れを見事に描写した作品で、

20世紀文学の最高傑作とも言われてます。

でも・・・。私はあまり好きじゃなかったりして・・・

 

この「ある一日」は、ダロウェイ夫人がその晩開く夜会の為に

「花を買ってくるわ」というシーンから始まります。

この作品のヒロイン、クラリッサ(ダロウェイ夫人)は現在51歳。

セント・ジェームズ公園を気分もさわやかに歩きながら、

フッとかつての恋人ピーターを思い出します。

 

ここで、クラリッサの意識は、彼女が18歳の夏の出来事に・・・。

この頃、恋人ピーターと、奔放な女友達サリーのそれぞれと

ほぼ同時期に愛し合い、仲たがいをしているのですね。

性急な恋人ピーターと口論の末喧嘩別れし、堅実なダロウェイ氏と結婚・・・

現在に至るのです。

この現在の生活に満足しつつ、本当にこれで良かったのだろうかと

フト疑問を感じるダロウェイ夫人。。

 

そして更に、クラリッサとはほとんど関係の無いセプティマスという青年の物語も

平行して語られていきます。

第一次世界大戦に従軍し、身近で戦友の死を見てきたセプティマスは

いつしか感情を失い、神経症を患い・・・その精神は取り返しのつかない

ところまで狂気に陥っていたのですね。

その晩の夜会に出席した医師からセプティマスとレイツィアの悲劇を聞かされ

クラリッサ自身の死への意識にも多大なる影響が・・・。

 

この作品は、ウルフ自身の入水自殺に至る意識も投影されているのではないか?

とも言われていてますね。。

死への共感、という意味でこの作品を私の心は受け付けなかったようです。

 

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『分別と多感』

2006-02-04 21:51:14 | 作家あ行

 ジェイン・オースティンです。

 

初期の作品らしい、若さ溢れる素敵なお話です。

思慮深く、常に周囲の状況を冷静に見据えて判断し、行動するエリナは

自分が苦しんでいる時も表面に現さない為、とても損な役回りです。

一方、ロマンティストで情緒豊かなマリアンは、

自分の感情の赴くままに傍若無人に振る舞う事も多い為

知らず知らず周囲の人を傷つけてしまい・・・

結果的には我が身に降りかかってしまうという事もシバシバ。。

 

この好対照の二人の姉妹が、同じような境遇のもと、似たような恋をします。

で。。その結果は大いなる相違があったりするのですが・・・

その過程がサスペンスフルで・・・とても面白いのです。

相変わらずオースティン特有の辛らつな風刺がここでも生きていて

時代は変っても、人間の本質は変らないんだな~と実感させられます。

 

それにしても、当時の社会状況は、生活の為に働かなくてはならない事が恥、

くらいに思われていた事・・・。

裕福な家庭の長男に生まれる・・・もしくは裕福な家庭の長男と結婚する事が

将来の安泰に繋がる、という時代だった事が如実に伺われます。

一見優雅で上品な時代ですが、内情は結構シビアなのですね~。。

 

もちろん、少しでも楽な生活をしたい、と思わない人はなく、

愛情よりも高額の持参金こそが結婚の条件として重きを置かれていた訳で・・・

この辺の実情を見事に描いているからこそ200年経った今でも、

オースティンの作品は、あらゆる意味で堪らない魅力があるのだと思います

 

この対照的な二人の姉妹に加えて、義理の兄ジョン・ダッシュウッド夫妻、

スティール姉妹、ブランドン大佐やエドワード・フェラーズ、ウィロビー等

個性豊かな登場人物達が、所狭しと飛び回る。。

いつも思う事ですが・・・人間の多面性を描かせたら

右に出る者はいないに違いない!なんて思えてしまうくらい

一人一人が魅力的なのですヨ^^

 

マリアンとウィロビーの出会いは、情熱的な二人にピッタリで

なんともロマンティックです

かたやエリナは激しい熱い恋とは無縁な印象を受けます・・・が

静かな情熱で相手を思いやる真心は、寧ろキラキラ輝いて見えます。

そしてラストに用意されていた衝撃のどんでん返し

 

最初、マリアンは感情的で我侭なだけの女性に感じられて

他のオースティンの作品に登場するヒロイン達に比べると

正直、あまり好感を持てませんでした。。

でも苦しい恋を経験し、大きな病に倒れ、自分を見つめ直す時間を持てた事が

大いに幸いし、グンと大人の素敵な女性に成長するあたり・・・流石です。

 

「高慢と偏見」に比べるとどうしても見劣りしてしまいますが・・・

でもやっぱりオースティン 大好きな作品なのです

 

素材提供:AICHAN WEB


ジェイン・オースティン

2006-02-01 16:53:37 | 作家あ行
 本日はシトシト雨。。

このような憂鬱な日は空想の世界へ飛んじゃいましょう

・・・というよりも。。

BBC版「高慢と偏見」を観て以来、完璧に飛んでます~

そして・・・それ以外の記事を書く気にどうしてもなれないので

この際、どっぷりと浸っちゃうことに決めました

 

かの偉大な作家サマセット・モーム曰く・・・ 

「私はジェイン・オースティンが英国の最も偉大な小説家であると

主張しようとは思わない。・・・彼女は完璧な作家なのである。

確かに彼女の世界は限られており、彼女が取扱うのは地方紳士、

牧師、中産階級の人達の狭い世界である。しかし彼女ほど

鋭い人間洞察力を持った者が、彼女以上に精妙かつ適切に

人間の心の奥底に探りを入れた者が、あったろうか。・・・

彼女の物語には大した事が起る訳でなく、おおかた劇的な事件は

避けられているにもかかわらず、どうしてそうなるのかは私にも

判らないのだが、次には何が起るのだろうと知りたい気持ちに促されて、

次つぎと頁を繰らずにはいられない。これは小説家に欠くことの

出来ない才能である。」

 

オースティンの主要作品は全部で六編。

『高慢と偏見』

『分別と多感』

『ノーサンガー・アベイ』

『マンスフィールド・パーク』

『エマ』

『説得』

 

どの作品も独特の風刺と皮肉が光り、あまりの面白さに

時間の経つのも忘れてしまいます。。

やはり一番人気は『高慢と偏見』でしょう

でも『エマ』の方が良かった、という声も結構多いですネ

ちなみにサマセット・モームは、「世界十大小説」の中で

『マンスフィールド・パーク』が一番良かった、と語っています。

私は・・・どうかな~。。その日の気分次第で微妙に変りますね~。

今は断然『高慢と偏見』ですが、『説得』の持つしっとりとした雰囲気は捨て難い。。

『エマ』の華やかでかわいい作風も結構お気に入り

・・・つまるところ・・・全部好きなのですネ

そのうち残る二作もアップ予定・・・ではあります・・・いつになるかは不明ですが

 

写真提供:KUSU様 (パット・オースティン)