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プラムの部屋♪

長い長い休暇中デス。(*_ _) ゴメンナサイ。

アリス・シリーズ

2006-01-09 19:37:52 | 作家か行

 ルイス・キャロル原作のアリス・シリーズは、子供はもちろん、

大人の為の童話でもありますよね。

『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』そして『地下の国のアリス』

最も有名なのは言うまでも無く『不思議の国のアリス』ですね

 

冒頭の、土手の上でお姉さんと一緒に座っていたシーンから

うさぎさんの登場により、極自然に不思議の世界へ誘う筆力。。

幼い頃にはなんの気無しに読んでましたが、

大人になって読み返すと改めて「凄いな~。。」と感嘆せずにいられません。

 

うさぎを追いかけて深い深い井戸の底に向かって落ちていく・・・。

落ちながら、あたりを見回したり通りすがりに棚からビンを取って眺め、

再び途中の棚に突っ込む・・・。

いかにも夢の中でやってそう。。

 

辿りついた広間から見える世にも美しい庭園。

なのに大きすぎて通り抜けられない・・・。

と、突然目の前に登場するのは「ワタシヲオノミ」と書いたレベル付の小さな壜

 

この冒頭のシーンは本当に素晴らしいですね。

小さくなってしまってテーブルの上の鍵がどうしても届かない。

再び大きくなり過ぎて、今度はドアがくぐれない。

もどかしさと切なさとで大粒の涙を流して、今度は自分の涙の河に流されて

アップアップするアリスの孤独な冒険の始まりはまさしくミステリーそのもの。。

 

そして、時計を持って大慌ての白うさぎ、ハンプティ・ダンプティ、チャシャ猫、

公爵夫人とブタの赤ちゃん、ウミガメモドキにグリフォン、

おかしな帽子屋とウカレウサギとのお茶会シーン、

トランプの兵隊達にスペードの女王様等、登場人物の多彩さも

他のどんな小説にも無い、まさにファンタジーの先駆者だと思います。

 

ラストのおかしな裁判シーンから一転、お姉さんに起されて現実の世界へ・・・。

アリスから夢の一部始終を聞いてお姉さんが想ったこと。。

 

―――アリスはそんな歳になっても、子供の頃のすなおでやさしい心を

ずうっと保ちつづけるだろう。そしておさない子供たちをあつめては、

いろいろとおもしろいお話をしてやって、子供たちは目をかがやかせて

ききいるだろう。―――

―――そうして話し手のアリス自身、子供たちといっしょになって、

そのたあいのない悲しみに胸いため、またむじゃきな喜びに胸ときめかせ、

そうやって自分自身の子供の頃や、たのしかった夏の日々のことを

なつかしく思いだすだろう―――

 

なんていうか・・・。深いですねぇ。。

 

素材提供:AICHAN WEB


『リオノーラの肖像』

2005-12-19 12:56:31 | 作家か行

 ロバート・ゴダードです。

 

リオノーラ・ギャロウェイという70歳の老婦人が、人生のほとんどを費やして

解き明かしたミアンゲイトの殺人事件の全貌を、

娘に語り聞かせる、という形式の小説で、

ミアンゲイト館を巡る一族の複雑な謎を描いたこの作品の雰囲気は、

かのダフネ・デュ・モーリアの「レベッカ」を彷彿とさせますね。

でもこの作品の方がはるかに複雑で、漸く全貌が見えたかと思うと

更に大きな謎が潜んでいた・・・というどんでん返しに次ぐどんでん返しの連続。。

ゴシック・ロマンがお好きな方なら間違いなく惹き込まれます・・・と思います。

 

プロローグからスタートし、第一部から第三部までの間に過去のいきさつが、

語り手が入れ替わりつつ披露され、最後にエピローグで締め括られる、

という手法で、長大なミステリー・ロマンにどっぷり浸った後、

現実に立ち返るのが難しいくらい、この作品に登場する人々の

哀しみや憤りが痛いくらいに伝わってきます。

 

この作品に登場するリオノーラは二人。

一人は語り手となる70歳の老婦人・・・もう一人はその母親です。

語り手リオノーラ・ギャロウェイは、幼い頃に両親を失った後、

祖父パワーストック卿とその後妻オリヴィアに引き取られますが

そこでの生活は下女同然の扱い・・・とても辛い少女時代を送るのです。

第一次世界大戦中の出来事により、一人の大尉と出会い、

思いがけず幸福な結婚へ・・・。

でもレオノーラには常に暗い過去がついて回り、

心からの安らぎを得た事がありません。

実際、完全に過去を葬り去るなんて事、出来るわけはありませんものね。

 

レオノーラの母親のレオノーラ・ハロウズは、まるで荒野に咲く一輪の花のよう・・・。

その毅然とした美しさは、この物語の中でもひときわ光ってます。

でも・・・とても哀しい運命に翻弄されてしまう悲劇のヒロインでもあるのです。

そしてその夫、ジョン・ハロウズは更に過酷な人生でして・・・

第一次世界大戦を背景にしているだけに、何が起こっても不思議ではありません。

全くの別人に成りすます事も可能だったのですね。。

 

二代に渡るレオノーラを最も苦しめ、悩ます人物はオリヴィア・ハロウズ。

またの名をレディ・パワーストックです。

その妖艶な魅力で男達を狂わす悪女・・・。全身これ、悪意の塊。

常に憎悪と倦怠が見事に混じった表情だったという女性でして・・・

彼女の毒牙から逃れる事が出来たと思われるたった一人の人物は

レオノーラ・ギャロウェイの夫トニーでした。

 

このレオノーラの夫、トニー・ギャロウェイは、長大な物語の中の

ほんの僅かの間しか登場しませんが、かなり強烈な印象を受けました。

レオノーラがもっと早く過去を乗り越える事が出来ていたならば、

そしてもっと早く夫を信じて打ち明ける事が出来ていたならば、

もう少し幸せな人生を歩めたのではないかと思うとなんとも切ないです。

 

全体的に哀愁に満ちた暗いトーンのミステリー。。

たまに現在の喧騒から抜け出して、こんな中世のおどろおどろしい館を

彷彿とさせるようなミステリーの世界にどっぷりと浸るのも良いものですヨ

 

素材提供:AICHAN WEB


ハリスおばさん・シリーズ

2005-12-17 10:20:34 | 作家か行

 ポール・ギャリコです。

 

とても素晴らしい作品を多く残しているにも関わらず、日本での知名度はイマイチ。。

本当に残念な事です。

このブログを通して少しでも興味を持って頂けたら嬉しいな~と思ってます。

・・・といってもこのシリーズは現在手元になく・・・記憶も少々朧・・・

唯一鮮明に覚えているのが『ハリスおばさんパリへ行く』のみ・・・。

是非、既にアップしている『ジェニィ』も是非ご参考にして下さいマセ。。



このシリーズはハリスおばさん、という初老の女性が色々な地に赴き、

数々の冒険を繰り広げる、愛と夢に満ちたユーモアあふれる物語です。



『ハリスおばさんパリへ行く』

『ハリスおばさんニューヨークへ行く』

『ハリスおばさん国会へ行く』

『ハリスおばさんモスクワへ行く』



小学校時代だったかな。。挿絵もかわいくて夢中になって読みました。

シリーズ第一作目のパリ編のご紹介です。



勤め先のお屋敷でディオールのドレスを見て

たちまち夢中になってしまったハリスおばさん。

パリ・オートクチュールの華やかさとはおよそ無縁の野暮ったい庶民のおばさんが

パリのディオールだって~??

周囲の嘲笑や反対にもめげず、コツコツ貯めた貯金とクジで当てたお金を握りしめ

ロンドンから一路パリへ

 

ところがパリ・ディオールのお店でドレスを買うのは並大抵の事ではありませんでした。

既製品を買う、という場所ではないのですね。。

当然、ドレスが一日で出来るわけもなく・・・途方に暮れるハリスおばさん。

でもハリスおばさんの一生懸命さは多くの人の心を動かさずにはいられません。

パリで出会った沢山の人たちが、手を差し伸べてくれるのです。

そして、この手を貸してくれた人々にも素敵なことが待っています。

ハリスおばさんに関わる人達は、みんな幸せになる。。

人を助けることが、結局は自分に返ってくるものなのだと教えてくれているようです。

 

首尾よく手に入れたこのうえもなく美しいディオールのドレス。。

ところがこのドレスにはとても悲惨な結末が待っていたのです・・・。

無慚にも夢を絶たれ、悲嘆に暮れるハリスおばさん

でもそこからの展開が、流石ギャリコです

読み終わった時、なんとも優しい暖かい気持ちにしてくれるこのシリーズは

まさに知る人ぞ知る名作です。

お子様向けでしょ~?なんて馬鹿にしてたら間違いなく損します。

 

ポール・ギャリコ。。

現実の厳しさの中に潜む、本当に価値あるものを教えてくれる素晴らしい作家です

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『愛しいひとの眠る間に』

2005-11-29 22:45:39 | 作家か行

 メアリ・H・クラーク・・・ひょっとして絶版の可能性あり・・・。



真冬のニューヨークのある日、エキセントリックな記事を

書くことで有名なライター、エセルがコートも持たずに失踪。

ファッション・デザイナーのニーヴは不審を抱き、

元市警本部長の父親に事件捜査を以来します。

エセルの死体は発見され、本格的な調査が行われるうち、

元夫との諍いを初めとした様々な人間関係が浮き彫りになり、

容疑者が逮捕されますが・・・。



メアリ・H・クラークは一時期異常に嵌ったミステリー作家です。

DVDのチャプターを重ねていくような独特の手法が見事に生かされ、

特に後半のスピーディな展開は凄い迫力があって、も~ワクワクドキドキ

どの作品のヒロインも自立した、とても魅力的な女性達で

必ず・・・といって過言でないくらいカッコイイヒーローも登場します

なので、ロマンティック・ミステリーがお好きな方なら間違いなく嵌ります。

・・・と思います^^

特にこの作品は、ファッション業界の裏側を暴いたドラマチックな展開に加えて

親子の情愛やシニアの恋も描かれていて、全体的に華やか

なんてったって舞台はマンハッタンですもの。

 

ヒロイン、ニーヴは幼い頃に母親を惨殺され、元市警本部長の父親と二人、

お互いをいたわりあい、二人仲良く暮らしています。

ファッション業界ではかなりの成功を収めて活躍中のキャリア・ウーマン

しかも周囲に対する思いやりを忘れない心優しい女性です。

 

この平和な二人の生活に不安の影がさしたきっかけ。。

ニーヴの母親の死に絡むマフィアの存在が、父親マイルズの不安を煽ります。

「ニーヴまで殺されたら・・・」

こんな不安な想いから、常に警官のさり気ない護衛を置き

ニーヴの周辺を護ってくれていて、実は全く関係の無いところで、

ニーヴが命を落とさずに済んでいたこと、読者にしか分からないのですね。。

この辺の描き方もサスペンスフルで面白い。大好きです~

 

そしてエセルの死体発見から調査が本格的に開始され

次々と浮き彫りにされるファッション業界の醜い裏側・・・。

劣悪な労働条件で移民を縫製労働者として酷使する搾取工場の存在や

組織犯罪集団の資金がファッション業界を通じて”洗濯”されている事実等々

社会問題にも大胆にメスを入れるクラークは、相変わらず凄いです。

 

そして数々のファッション関係の美しい描写。

《太平洋の珊瑚礁》からヒントを得た、という設定で描かれる美しいスカーフ・・・。

―――そこでは、まばゆくも美しい海の生物が、目もあやな水中の植物と、

群生する珊瑚の林と、幾百、幾千ものこよなく繊細な色を持った貝殻と

妍を競っていた。彼はそれらの色彩をスケッチした。それら海洋の

住人たちの動きを観察し、彼らの生得のものであるその浮きあがるような

優雅さ、それを鋏と布地とで再現しようとした。―――

う~ん。。見てみたい・・・。

 

でもはっきり言ってミステリーとしては物足りない作品です。

おそらく大抵の方は、途中で犯人が分かっちゃうと思われます。

それでも、それらマイナス面を差っ引いたとしても、

補って余りある魅力に溢れた、大好きなクラーク作品です

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『ティファニーで朝食を』

2005-10-28 09:52:03 | 作家か行

 トルーマン・カポーティです。



カポーティの作品はどちらかというと幻想的過ぎて、続けて読むには辛いかな

なんて思ってますが、この作品は少々趣が変っている気がします。

そもそも大人に近い女性をヒロインにしたのは確かこれが初めてです。

それと舞台がニューヨーク、というのも珍しい。。



この題名を見ると、どうしてもオードリー・ヘップバーンを思い起こしますが

映画と原作は別物、と思ったほうが良いです。

カポーティがホリーをイメージしてたのは実はマリリン・モンローだったと

どこかに書いてありましたが、なるほど・・・となんとなく納得でした。

映画は映画でヘップバーンの魅力満載でお洒落ですけどネ。



原作のホリーは本当の風来坊です。名刺の住所は「旅行中」。

この題名はあくまでも比喩です。

映画では冒頭に、ティファニーの前でパンを齧るホリーの様子を映してますが

小説では「たとえティファニーで朝食をとるような身分になっても、

自我だけは捨てたくないわ。」というセリフのみ。

 

ホリーが自宅であるマンションの部屋に入るのに、

必ず住民の誰かに迷惑をかけるのですがこの小説の語り手は

なんとなくそれを歓迎するのですね。

「わたしは映画スターになんか絶対なれっこないってこと、

知りすぎるほど知ってたわ。―――

あたしにはそれにがまんできるだけの劣等感がない―――」

数々の名セリフを吐き出す彼女の独特の魅力。。

そう。。ホリーに魅了されてしまうのです。



捨て猫と一緒に住んでますが、彼女いわく

「私達はある日、河のほとりで偶然出くわしたの。」

ラスト近くで、この猫を置き去りにして一度去ろうとし、

感極まってもう一度拾いに戻りますが、既にその姿は

どこにも無かったシーンは、なんとも薄ら寒い気持ちでした。

まるで一陣の風が吹き抜けていったかのような・・・。

この猫が何気に象徴的な意味を持っていた気がします。

映画ではとてもロマンティックな結末でしたけど、小説は結構シビア。。



映画では味わえないホリーの魅力・・・是非原作で味わって頂きたいです。

そうそう。。表題作だけでなく、短編もいくつか掲載されてますが

カポーティの繊細な優しさ満載なのでちょっとお勧めです

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『スクープルズ』

2005-09-17 18:44:49 | 作家か行

 ジュディス・クランツ・・・ロマンス作家の王道をいく作家の処女作です。


随分昔に読んだ作品ですが、本棚の整理をしていて発見

あ~この人にも夢中になったな~、なんて深い感慨にふけってしまいました。。

『ミストラルの娘』『また会う日まで』等々ありますが、『スクープルズ』が一番好き

あ。。でもこれも絶版だったりして。。



スクープルズとはビヴァリー・ヒルズにあるブティックの名称です。

初めは全く接点のなかった三人の主要人物が様々ないきさつを経て出会います。

そして共にスクープルズの経営・発展に協力し合い、

ファッション・映画業界を舞台に大活躍・・・

ビヴァリー・ヒルズでも有数の人気ブティックとして大成功していくという

華麗なるサクセス・ストーリーなのです。

 

ヒロインはビリー・アイクホーン。スクープルズの経営者です。

初めは肥って醜いあひるの子だったビリーですが、パリの水により

世にも美しい白鳥に大変身・・・この変化していく過程もワクワクします

パリを舞台にしているだけあって、ファッションも色合い豊かで美しく

まるで眼前にしているかのよう。。

その彼女が様々ないきさつからブティック経営に乗り出すのですが、

はっきり言って経営者能力ゼロ

ビヴァリー・ヒルズにディオールのお店のコピーを造ったところで

一体誰が喜んで通うでしょう・・・?

そこで登場のピーター・エリオット&ヴァレンタイン・オニールの二人組。。

 

この二人の出会いも中々ユニークです。

同じアパートの別々の部屋で生活する二人の男女はひょんな事から出会いますが

それぞれに恋人がいて生活があり、ただの友人・隣人といった関係でした。

ちなみにピーター・エリオットはカメラマン、ヴァレンタイン・オニールは

ファッション・デザイナーとして、一応成功してました。

ところがこれまた様々ないきさつから、それぞれ仕事を失い、恋を失い、

失意の二人は、お互いの持つ才能を生かせる仕事を見つけようと決意、

当時は経営困難な状況だったスクープルズへと乗り込んでいくのです。

 

この時の売り込みは素晴らしいです

本当に物凄い説得力で・・・ほんの一例ですが・・・

 

「―――この土地の客かサンタ・バーバラ、あるいは外国からの客は

スクープルズと向こう側にあるジョルジョのどっちを選ぶと思うかい?

スクープルズに足を踏み入れれば二十五種類の濃淡のあるシックな

グレーに彩られたお上品な空間に迎えられる。金箔の椅子があちこちに

置いてあって、英語よりもフランス語で話しかけそうないかめしい年配の

店員が近づいてくる――ところが、ジョルジョに行けば陽気な人々が

群れていて、バーで一杯やったり玉突きしたりしているんだ。

おどけた帽子をかぶった売子が親しげに迎えてくれ、くったくのない

気分にさせてくれる」

「たまたまジョルジョはスクープルズが切り捨てたもので商売してる

だけの話しよ」ビリーの声は氷のように冷たかった。

「そのジョルジョが、ニューヨークを含めて全国一の売り上げを誇る

専門店になった」

「なんですって?まさか!」

「一平方フィートあたり年間千ドルの売り上げだ。―――」

 

ピーター・エリオットはGパンにTシャツが似合う、さわやかで魅力的な青年・・・。

カメラマン当時も、モデル達はさり気ないおしゃべりについ乗せられ、

一時的に恋に落ち、どんな不機嫌なモデルも見事になだめられ、

なんとも魅力的な表情を見せるので大変な人気だったのです。

心から人間が好きで、女が好きで^^・・・

その手腕を発揮してこんな貴重な情報を聞き出してしまう・・・。

確かな情報の上に、夢のような計画を弁舌さわやかに披露するのです。

そりゃ~も~ビリーじゃなくても落ちますよね~。。

 

「つまり、こう考えていいかしら―――あなたが考えるスクープルズは、

ピンボール・マシンやペニー・キャンディがおいてある娯楽アーケードで、

無料のランチも出ればセクシーな試着室もあって、モデルの一団が

行進してまわり、マッサージ師もいるし、ギャンブルやダンス・パーティも

開かれる―――それとも誇張しすぎてる?」―――

「基本的にはそのとおりだ」―――

「気に入ったわ!」ビリーは、はじかれたように椅子から飛びあがると、

一言も口をきかずにぼうっとしているヴァレンタインに、

いきなりキスを浴びせた。―――

 

こうやって新しく生まれ変わったスクープルズの大成功は言うまでもありません。

沢山の有名人、映画スターが脇を飾り、恋に仕事に生き生きと飛び回る・・・。

トコトン娯楽色の強い作品ですが、ファッション面における彼らの忠告や意見等

とても貴重なことまでも含まれた、意外と為になるシーンも・・・。

 

読んでる間中、まさに夢の世界に没頭し、ワクワクドキドキ心ときめかせ

思う存分楽しめる大好きな作品です

 

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『変身』

2005-09-17 11:52:15 | 作家か行

 フランツ・カフカです。


ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、

自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。

こんな衝撃的な出だしから始まるカフカのこの有名な作品は

読んだのは随分昔であるにもかかわらず、強烈に覚えています。

 

外交販売員として家族を養い、嫌な仕事を必死でこなしてきた彼が毒虫に・・・。

彼が初めて家族と支配人の前にその醜い姿を現した時の描写は圧巻でしたね。。

ザムザにしてみれば、心は人間のままですから、みんなをなだめようと必死です。

でも足掻けば足掻くほど、周囲の人々にしてみれば恐怖でしかない・・・。

そのうえ彼には人間の言葉がはっきり分かりますが、

みんなは彼の言葉が分からないのですね。

要は、意志が全く伝わらないのです。とにかくなんていうか・・・凄いです。。

 

救われないのは、両親の・・・ことに父親のザムザに対する非情なまでの態度。。

それまで年老いた両親とまだ16歳の妹を養うために必死で働いてきたので、

「自分が働かなくなったら一体この家族はどうなってしまうのか?」

という懸念がザムザにはあったのですが・・・

父親は少しづつ貯蓄をしており、そのうえ元気に働き始めたのです。

そしてザムザに対し、家族を害する存在として抹殺しようと林檎を投げつけ・・・

これが致命傷になってしまうのですね。。

唯一ザムザに対して情愛らしきものを見せてくれたのは妹グレーテのみ。

 

最後の最後まで何の説明も無いまま、無情に時は過ぎ・・・

ザムザのいなくなった生活を楽しむ一家の姿をラストに終わってしまうこの作品。。

悪夢としか言いようのない内容に震撼としつつ惹き付けられてしまう・・・。

どれくらいの年月が経とうと色褪せない、

文学の最高傑作の一つと評されるに値する、素晴らしい作品だと思います。


『月の骨』

2005-09-09 23:18:25 | 作家か行

 ジョナサン・キャロルです。

 

この作家さんは凄いです~。。

ジャンルは一応ホラーかブラック系のファンタジーか・・・ま~そんなところです。

かのスティーブン・キング氏がファン・レターを出した事でも有名で・・・

でも正直言いましてホラー系は苦手です。。

なので、あまり好んで読みたい、と思うわけではありません。

でもこれは凄かった

 

前半はとことん甘~い恋愛小説。。

ヒロインの美女カレンと素敵な旦那様のダニーの恋愛時代から結婚・出産まで

延々オノロケを聞かされます・・・。

でも一つだけ気になること。。

それは同じアパートに住む少年が、自分の母親と姉をまさかりで殺害する

という事件を起し、逮捕されます。

そしてなんと、この少年とカレンは文通をする事になるのです。

この、少年の手紙は怖いです~。。

そしてカレンはメイを妊娠した辺りから、おかしな夢を見るようになります。

 

ロンデュアという架空の街で、ペプシというカレンの息子と共に

五つの骨を探す旅をする夢。。

「骨がなければ、ペプシは永遠にこの都を出られない。

骨があればロンデュアの支配者に・・・。」

お供に集うはおかしな怪獣達。。

黒い帽子を被った犬ミスター・トレイシー、優しい狼フェリーナ、駱駝のマーシオ、

彼らの助けを借りて次々と骨を見つけますが、最後五本目の骨を手に入れるには

現在の支配者ジャック・チリと戦わなければなりません。

これはも~命懸けの戦いなのです。

夢なのに妙に現実味を帯びていて、連続して見るのですね。

 

現実の生活の中では、同じアパートの友人、ゲイのエリオットが

カレンの良き友人として常に支えてくれていて、非常に大きな存在です。

映画監督のウェーバー・グレグストンとの出会いにも関係し、

その時起こった不思議な出来事もロンデュアの夢も、

総てを理解してくれる素晴らしい友人なのです。

作中、彼についてカレンはこう語っています。

人が時々悪いことをする理由を理解し、同情的な耳と未知のものを

信ずる心の具わったエリオットこそが、あたしが人生のあの奇妙な

時期に必要としていた相談相手だった。

 

この現実の生活とロンデュアの夢が交互に語られ、

いつしか夢が現実の世界に・・・。

そう。。それまで積み重ねてきた一つ一つの出来事が総て一つに重なった時

ドッカ~~~ンと恐怖の斧は振り下ろさるのです・・・。

 

それにしても後半の描写の凄まじさ・・・

活字でありながら耳を覆いたくなる・・・目を閉じたくなる凄惨さです。

そして衝撃のラスト。。

初めてジョナサン・キャロルを読む人は充分覚悟して下さい・・・。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


キンジー・ミルホーン・シリーズ

2005-08-24 12:44:58 | 作家か行

 スー・グラフトンです。



アルファベット順に作品のタイトルが付けられているこのシリーズは、

根強い人気がありますね。

今は『縛り首のN』まで・・・かな?



でも私は『アリバイのA』『泥棒のB』の二冊のみで止まっちゃってます~。。

決して面白くないわけじゃないけど、やっぱハードボイルドって

基本的に好きじゃないみたいでス。



キンジー・ミルホーン。。

カリフォルニアを舞台に、一人で探偵事務所を営んでいます。

30代の独身。2回の離婚暦を持っています。

でも決して男に対して対立しよう、なんて気はさらさら無く、

肩肘張らない自然な姿勢は好感持てます。



一つ一つの捜査が緻密で丁寧。

でもその分、全体的におとなしい印象を受けますが・・・。

作品のラストで、依頼人に報告書を書くかのように

「以上報告します。」の〆の言葉は中々粋ですネ^^



『アリバイのA』で見せた女性としての弱さも、ちょっぴり切なくて・・・。

真犯人を知り、なんとゴミ箱に追い詰められた時の

キンジーの心中の描写は見事です。



いずれは続きを読もうかな~なんて思いつつ・・・

その気になれないまま今に至ってます~。。


『子供たちはどこにいる』

2005-08-15 16:04:59 | 作家か行

 メアリ・H・クラークです。

 

この作品のヒロイン・ナンシーは、自分の子供を殺した、という容疑をかけられ、

殺人容疑で七年前、逮捕されましたが、証拠不充分で釈放されたという

暗い過去を持っています。

 

その事件の後、一目を避けてケープ・コッドという田舎町に移り住み

ひっそりと暮らしていましたが、心暖かい男性レイとの出会いにより

再度結婚、出産、二人の子供にも恵まれ、幸せを取り戻したかのようでした。

ところが七年後のナンシーの誕生日・・・再び悪夢は起こります。

 

彼女の過去を掲載した新聞が大々的に報道され、衝撃を受けたナンシーに

更に恐ろしい事件が襲い掛かるのです。

二人の大切な子供たちが再びナンシーの前から姿を消してしまいます。

 

この作品の題名「子供たちはどこにいる」は

警察官の尋問の際、投げかけられた言葉・・・

「すっかり吐いてしまうんだ。ほんとうのことを言いなさい。―――

さあ、ナンシー、言うんだ―――子供たちはどこにいる?」

また、子供たちを捜しに湖に来て呆然と佇むナンシーに向かって

夫レイが問いただした言葉―――「子供たちはどこにいる?」 

 

この作品は異常心理&冤罪物です。

本来、あまり好きでない類の分野なのですが、この作品は素晴らしいです。

七年前に湖で溺死死体となって発見された二人の子供の事もあり、

警察は頭からナンシーを凶悪殺人犯と決め付けてます。

でも、ナンシーの夫レイや、レイの秘書ドロシー等の存在により、

前回の事件からして間違いがあったに違いないと、味方になってくれ、

驚愕の真実が徐々に明らかにされるのです。

このラストに向けての緊迫感!素晴らしいです~。。

 

―――車回しへのアプローチで、彼女は足をすべらせてころんだ。

だが、膝に鋭い痛みが走るのも意に介さず、

ひたすら観望荘に向かって走った。

ああ、どうか手遅れでありませんように。

お願いです、どうかまにあいますように。

さながら目の前で雲が切れるように、まざまざとある情景がよみがえった。

―――水につかっていたために、白茶けて、ふくれあがった二人の顔

―――どうか、どうかまにあいますように!

 

この作品はアメリカのベストセラー作家、メアリ・H・クラークの二作目です。

初めてこの人の作品を読んだ時は、独特の手法に完全にやられちゃいました。

DVDのチャプターを重ねていくように、同じ状況をあらゆる視点から語る事によって

映像的な効果を表し、物凄くスピーディな展開を見せるのです。

ヒロインに感情移入してしまって読んだら、最後はも~涙涙です。

もちろん、私はその口でございます。。

そして・・・実はこれ、絶版です~

 

素材提供:Flower mau


『ペリカン文書』

2005-08-13 22:45:32 | 作家か行

 ジョン・グリシャムです。


この作品は映画化されたので、ご存知の方も多いかと思います。

ロースクールで学ぶ、美しく聡明な女子大生ダービーが、

FBIも解決できない最高裁判事二人の殺人事件を法律の方向から独自に推理し、

一冊のレポートにまとめて、恋人の教授に見せた所から恐ろしい

悪夢が始まります。



この事件の背後に巨大な国家的陰謀があるのではないかと推理したレポートは、

ずばり真実そのものでした。

そのレポート『ペリカン文書』の存在を知った闇の組織は、

秘密保持の為にダービーの生命を狙います。

『ペリカン文書』に記した真実を証明するために新聞記者の助けを借りて

戦いを挑むダービーの運命やいかに!?

 

巨大な組織から逃亡する様子は迫力満点!

綺麗な長い髪を、これ以上短く出来ないくらいに短く刈って染め・・・

洋服を使い捨てのように、一度着た服は捨ててしまう・・・。

ニューオーリンズのバーボン・ストリートでずんぐり男に追いかけられ

三人のセインツ(アメフト?)ファンに助けられたシーンは妙におかしかったです。

空港では行き先を混乱させるために何箇所かのキップを購入・・・。

 

でもどんなに巧みに身を隠し、逃亡生活を続けていても、

所詮、素人。いつかは見つかって殺される運命です。

が!そこに登場したのが新聞記者グランサム。



この作品で、改めてマスコミの力を実感したと同時に、

どんな分野でもプロって凄いな、とゾクゾクするほど興奮した事、

鮮明に覚えています。

一つの事件を追い続け、裏を取り、原稿を書いて修正を加え、

記事になるまでの長い長い道程、

そして新聞という形になって、初めて大衆の目に触れ、

全貌が明かされた時の充足感。。

この辺のプロセスは凄い迫力でリアリティに溢れていて素晴らしかったです。



この『ペリカン文書』は私にとって、アメリカでもかなり人気の高い作家、

ジョン・グリシャムの存在を知ったきっかけの作品です。

スピーディーな展開で、ハラハラドキドキ最高にスリリングなこの作品

リーガルサスペンスがお好きな方なら楽しめること、請け合いです

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『草の竪琴』

2005-08-11 13:25:34 | 作家か行

 トルーマン・カポーティです。



非常に幻想的で、叙情性豊かな作品です。

ある夏の終わり・・・老婦人ドリーと友人のキャサリン、

16歳の少年コリンが家出をしムクロジの樹の上の家に逃げ込みます。

そこに加わった二人の男性・・・。

彼らの奇妙な共同生活が始まります。そしてそこに訪れる多種多様な人々。。

警察官まで登場して・・・いずれも彼らの生活を脅かします。



この老婦人ドリーは、まるで少女のように可愛らしく、

語る言葉は繊細で優しいのです。

 


「聞こえる?あれは草の竪琴よ。いつもお話を聞かせてるの。

丘に眠るすべての人たち、この世に生きたすべての人たちの

物語をみんな知っているのよ。

わたしたちが死んだら、やっぱり同じようにわたしたちのことを

話してくれるのよ、あの草の竪琴は。」



少年時代から青年時代へ向かう多感な時期の心の機微を、

少年コリーが語るこの作品。。

二度と戻れない少年時代への憧憬に満ちていて、なんとも切ないです。

 

素材提供:Pari’s Wind


弁護士ペリー・メイスン・シリーズ

2005-08-07 06:20:54 | 作家か行

 E・S・ガードナーです。

このシリーズは物凄く長いです。でもホント、面白い。。

まず、なんといっても主人公メイスンが本当に魅力的です。

弁護士、というと真っ先に浮かぶのは法廷でふんぞり返って

弁舌を揮うイメージが強いと思いますが彼は全く違います。

この点に関しては、作中に彼の有能な美人秘書デラ・ストリートの

こんなセリフがあります。



「あなたはなぜ他の弁護士のように事務所に座って

事件がやってくるのを待たないの?警察に任せて事件を調査させて、

それからあなたが法廷に出て、それをぶち壊してやれば良いんだわ。

どうしてあなたは、いつも最前線に飛び出して、事件そのものの中に

巻き込まれるようなまねをなさるの?」



それに対するメイスンの返事はいたってシンプルです。

 

「それが自分で分かったら首をくれてもいい。

僕がそんな風に生まれ付いてるというだけの事さ。」



法律すれすれ・・・いやちょっとやばいかも!?なんて行動もなきにしもあらず。。 

でもそんじょそこらの素人探偵とは格が違います。

大胆だけど、法律に基づき、充分に計算されつくした戦法が本当に小気味良い。

常に彼を補佐してくれる探偵ポール・ドレイクの存在も素敵です。



そしてなんと言っても本領発揮は法廷です。

その機知に富んだ素晴らしい知性、駆け引き。最後の論証のなんとかっこいい事♪



作者E・S・ガードナーは享年80歳でした。

 

素材提供:Flower mau


ミス・マープル・シリーズ

2005-08-06 01:20:39 | 作家か行

 ミス・マープル。。

アガサ・クリスティの生み出した名探偵の一人で、

ロンドン郊外の架空の村セント・メアリ・ミードに住む老嬢です。



物静かで編み物が得意な心優しいお婆さん。

なんとなくピンクのフワフワ~ってイメージがあります。^^

そしてその推理方法は、近所の噂話を聞きだし、

今までの友人・知人の性格、人間性等と当てはめて推理する、

という人間観察が得意なミス・マープルならでは・・・です。



数あるミス・マープルものの中で、私は「パディントン発4時50分」が

最もお気に入りです。

やはりルーシー・アイレスバロウの存在が大きいですね。

 

ルーシー・アイレスバロウは、オックスフォードの数学部を

主席で卒業したにも拘らず、各家庭の家事をしながら生計を立てている、

という変わった経歴の持ち主なのです。

でもたかが家政婦と馬鹿に出来ません。

その腕前の素晴らしさは、ひとたび彼女が来てくれる、となったら

何一つ心配いらず、いつまでもいてほしいと思われるほどなのです。



で、このルーシーが、疑惑の家にミス・マープルに代わって送り込まれるのです。

この家でのルーシーの活躍ぶりがとても微笑ましい。。

美味しそうなお料理が盛りだくさんで、ロマンスらしき気配もあり、

特別なトリックがあるわけではありませんが、気軽に楽しめる素敵な内容です。

 

そして、どうやら二人の男性に想いを寄せられるルーシーが

最後に選んだお相手は・・・?^^

ラストのミス・マープルの思わせぶりなセリフも中々粋でした


エルキュール・ポアロ・シリーズ

2005-08-06 01:05:24 | 作家か行

 アガサ・クリスティの生んだ最も有名な探偵ですね。


身長162.5センチの小柄な体に卵型の頭と

ワックスで固めた八の字型の口ひげがトレードマークの

「灰色の脳細胞」の持ち主、ベルギー人探偵。。



クリスティかセイヤーズか、なら断然セイヤーズ派の私ですが、

クリスティの作品も一応ほとんど読んでます。

そして、その作品群の豊富さ、設定のユニークさはやはり脱帽してます。

 

スタイルズ事件から始まって、『アクロイド殺人事件』『オリエント急行殺人事件』

ABC・・・ナイルに死す・・・等々、数え上げれば限がありません。。

で・・・私がその中で最も好きなのが『杉の柩』です。



「彼女さえいなければ……」

ヒロイン・エリノアが激しい憎悪に支配された直後、

彼女の作ったサンドイッチを食べたメアリが毒殺されます。

状況や動機から誰もがエリノアが犯人と決めつける中、

彼女に心を寄せる青年医師だけは

エリノアの無実を信じ、ポアロに真犯人究明を託すのです。



嫉妬で複雑にゆれる女性の繊細な心理状態を見事に表現した文学的な作品で、

ラストのなんともいえない優しさは、ポアロの作品では結構珍しい気がします。