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プラムの部屋♪

長い長い休暇中デス。(*_ _) ゴメンナサイ。

『フリアとシナリオライター』

2007-03-20 11:24:46 | 作家や・ら・わ行

 マリオ・バルガス=リョサです。

 

知る人ぞ知る

ガルシア=マルケスと共にラテン・アメリカ文学を代表する作家です。

特にこの作品は、彼の自伝的要素がたっぷり詰まってまして・・・

血の繋がりこそ無いものの、年の離れた叔母と―――

彼は18歳、叔母は32歳のバツ一!―――恋におち、

親戚中の大反対の中、その恋を遂に貫き結婚

これが実話だったりしてるのですヨ~。。

ちょっと凄いでしょ?(笑)

でも読んでみると決して不自然じゃないのです。

やはりそこはそれ・・・ラテン系の情熱が為せる技

 

それはともかく・・・彼らの出会いから結婚に至る困難な道のりを

瑞々しく爽やかに描く合間合間に、ペドロ・カマーチョという

シナリオライターが書く奇想天外なラジオドラマの台本を挿入していく・・・

というちょっと変った趣向の作品がこれ。。

 

TVが無い時代のペルーではラジオドラマが大人気だったのですね。

実物を見たらがっかりするような俳優達が、

声だけで素晴らしいドラマを展開!この様子をこっそり見るのが楽しみ、

という僕(主人公マリオ)も人が悪いです

でもそれに輪をかけて人が悪いのがその上司!

「ペルーにテレビが普及したら、連中は自殺するしかないだろうよ」。

 

このラジオドラマのシナリオライター兼声優として登場した

ペドロ・カマーチョはまさに天才

結婚式当日に突然昏倒した若く美しき花嫁。泥酔して花婿を

殺そうとする花嫁の兄。一体ふたりの間に何があったのか!?

巡回中のリトゥーマ軍曹が見つけた正体不明の黒人。

彼の殺害を命じられた軍曹は

果して任務を遂行することができるのか!?

ネズミ駆除に執念を燃やす男と彼を憎む妻子たち。

愛する家族に襲撃された男は

果たして生き延びることができるのか!?

 

小説の中で、これら破天荒なストーリーと迫真の演出で瞬く間に

聴取者の心を掴んだペドロ・カマーチョ、という設定ですが、

実際、こんな面白いストーリーが放送されたら夢中になってしまいそう^^

 

僕(マリオ)は、 このラジオドラマを放送する局でアルバイトをしており、

輝くようなペドロ・カマーチョの才能に敬意を表するようになります。

小説家志望の彼にとって、羨望の的なのです。

実際、彼が書く短編のプロットが紹介されてますが、

ペドロ・カマーチョの書くラジオの台本の方が遙かに面白い・・・。

 

そんな日々を送っている頃に出会ったのが離婚して実家に戻ってきた

フリア叔母さんでして・・・この二人の関係の進展が奇数の章に、

放送されるシナリオが偶数の章に、交互に話しが展開します。

 

初めは大人気のラジオドラマでしたが、あまりの忙しさからか、

ドラマの登場人物達が交錯し、混沌とした様相を呈し始め、

更に次々と凄まじい災難が襲い掛かり、登場人物が相次いで死亡 

有り得ないことの連続に抗議の電話が殺到

僕(マリオ)はバルザックを例にとって必死で擁護しますが・・・

一方、僕と叔母さんの恋の行方も徐々に熱く、深刻に・・・

殊に17章の結婚を受理されるまでの奔走シーンは素晴らしいです。

彼らを取り巻く友人達の暖かい友情が涙もの。。

 

このふたりの恋は・・・良いですヨ~。

まさに青春真っ盛りの青年ならでは、の熱さ直向さ

こんな風に若い青年に迫られたら、

妙齢の(爆)プラムさんもイチコロかも

 

この作品は『ラジオタウンで恋をして』という邦題で映画化もされてます。

『緑の家』『世界終末戦争』等、数々の重厚な作品を手がけて

世界的に人気を博したバルガス=リョサが、コラージュやパロディ等の

手法を駆使してコミカルに・・・かつシリアスに描いた半自伝的作品なので

面白くないわけはありませんネ

 

素材提供:AICHAN WEB


『ボトムズ』

2006-12-13 19:47:45 | 作家や・ら・わ行

 ジョー・R・ランズデールです。

 

日本ではあまり馴染みが薄い作家さんかも知れませんね。

でもちょっと卑猥(笑)で破天荒なハード・ボイルド・シリーズ、

ハップ・コリンズ&レナード・パイン・シリーズを読まれた方ならピンとくるでしょ~?^^

ミステリー好きなら絶対抑えておきたい凄い作家さんです。

 

テキサス東部、ルイジアナとの州境に流れるサビーン川沿いの低湿地

「ボトムズ」に拡がる森林地帯を背景に描いたホラー・タッチのサイコ・ミステリー

・・・それも時代は大恐慌まもない1930年代初頭なので、

貧困や暴力がはびこる頃の出来事が主流になる、時代小説とも言えます。

本作は世界でも最高と言われるミステリー賞「MWA最優秀長編賞」を

受賞してますので、まさに知る人ぞ知るミステリーの名作。。

でもこれはも~ミステリーというカテゴリーを完全に超えてます。

純文学と言っても充分通用する驚異的な作品なのです。

 

冒頭、老人ホームで死を迎えんとしている「私」・・・ハリー・コリンズが

11歳の少年の頃に起こった事件の追想に耽るところから始まります。

11歳のハリーと9歳の妹トムが、重症を負った愛犬トビーを処分する為

深い森の中に入り、道に迷ったあげく、川の土手で黒人女性の惨殺死体を発見!

更に、半身ヤギ半身人間という伝説の魔物ゴート・マンに追われるという、

散々な目に遭って漸く我が家へ帰り付きます。

普段理髪店を経営しつつ、治安官を勤める父ジェイコブは話を聞くや

直ちに死体を回収して近くの黒人町パール・クリークで解剖し、

そこで恐ろしい事実を知るのです。

過去一年半の間に起きた黒人の売春婦殺しの三件目の事件・・・

これは紛れもない、連続殺人事件だったのです。

 

全編通して漆黒の闇に包まれて、じっとりとした湿気がまとわり付くような

なんともいえない独特の雰囲気に覆われていて、

貧困や暴力がはびこっていた時代らしく、人種差別が凄まじい。。

リンカーンによる黒人解放の直後ゆえ、それを受け入れられない白人による

理不尽な人種差別の赤裸々な実態を余すところ無く描いていて

読んでいて胸が締め付けられる思いでした。

当時、平然と行われていた黒人に対するリンチ・シーンは目を覆いたくなります。

 

でも、これだけ人間の嫌な面を見せ付けられても、心を惹き付けてやまない

感動的な人間ドラマが展開される本書の素晴らしさ。

これは、まさにハリーの成長を軸にしたコリンズ一家の再生劇なのです。

父ジェイコブが、犯人扱いされた黒人モーズを守りきれなかった挫折感から

本来の無骨な優しさを、そして良き父、正義感に溢れる治安官としての

立場を放棄し、酒に溺れていく様は、その心中を想像出来るだけに

なんとも切なくて哀しくて・・・。

コリンズ一家は崩壊寸前の危機に陥ります。

 

でもそこへ登場の救世主は、肝っ玉婆さんジューン

ハリー、トムと共に真犯人究明の為に駆けずり回る勇ましさ。

いつも思うことですが・・・イザというとき、男性って弱いですよね

例えて言うなら男性は鋼鉄、女性は竹。・・・反論あります??

 

それにしても真相が分かってからの森での死闘は凄い迫力でした。

そして不覚にも(笑)涙が溢れて止まらなかった感動のラスト・シーン。。

あ~この感動は是非多くの方に味わって頂きたいです~

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『この輝かしい日々』

2006-10-02 11:08:30 | 作家や・ら・わ行

 ローラ・インガルス・ワイルダーです。

 

ご存知『大草原の小さな家』シリーズの第7作目

アハ

なんとなくこの作品から書きたかったのだ^^。

でもこのシリーズは、どれもこれも素敵なシーン満載ですね。

開拓時代のアメリカならでは、の人々が助け合い、いたわり合って

一生懸命生き抜く様は、何度読み返しても感動的です。

 

ここでは、あの小さかったローラが初めて家を離れて

学校の先生として赴任し奮闘

そして・・・な、なんと結婚するまでのお話なのです。

シリーズ中最もロマンティックなことは言うまでもありません^^。

 

わが家を離れて他人の家で暮らすことにより、

どれだけ素晴らしい家族に恵まれていたかをしみじみ実感するローラ。

―――「おはよう」と交わす挨拶の言葉が、「こんなにも朝を楽しくさせて

くれるものだということを、ローラはいままで気がつかなかった。―――

このシーン、とても印象的です。

 

先生として初めてぶつかった困難にも必死で立ち向かい、見事克服して

最後に生徒達に感謝されるシーン。

ここで稼いだお金を微塵も惜しむ事無く、

盲学校にいるメアリーが帰省する為の費用にと喜んで差し出すローラの心。

美しい生地から素敵なドレスを紡ぎ出す様。

何度も襲う吹雪や嵐の中で生活する過酷な状況。

嵐過ぎ去った後、近隣の人達の様子を見て周り、助け合う様etcetc。。

 

そしてなんてったってプロポーズに向けての二人のシーンは素敵です 

―――「星ふる夜の歌をうたってくれないか」

と、アルマンゾがたのみ、ローラは、また小声でうたった。

 

   星ふる夜は さまよい歩かん

   あわき夕映えの 光の中を

   野ばらによせて愛をうたう

   小夜なき鳥のわかれの歌よ

   そよ風やさしく吹きそむるころ

   灯またたくわが家をあとに

   足音ひそかにしのびゆけば

   海べの岸によせる

   銀色の水はつぶやく

   星ふる夜は さまよい歩かん

   胸おどらせて 気のむくままに

 

―――「あなたにうたってあげたんですもの。

今度は、あなたの考えていることをきかせてちょうだい」

「ぼくの考えていたことは・・・・・・」といって、アルマンゾは口をつぐんだ。

それから、星の光の中で白く光っているローラの手をとり―――

 

このシリーズの大きな魅力はやはり家族愛ですね。

どのシーンも両親のチャールズとキャロラインの素晴らしさが伝わってきます。

そして寒さ厳しい冬や、過酷な生活を笑顔で乗り切る原動力の一つ、

音楽が全編通して満ち溢れ、素敵な詩がそこここに鏤められていて

作品全体の雰囲気を美しく彩り、盛り上げているところだと思います。

 

   黄金の日々はすぎゆく

   しあわせな この輝かしい日々よ

   時の翼にのってすぎゆく

   この 輝かしい日々よ

   すぎゆく時をよびもどさん

   あの あまやかな思い出は

   すぎゆく時とともに さらに美し

   この 輝かしい日々よ

 

生活は豊かになっても心が貧しければ幸せは味わえません。

貧しくても心豊かな愛に溢れた生活がいかに美しいか。。

本当に多くの人に読んで頂きたい素晴らしい作品です。

 

素材提供:AICHAN WEB


『長くつ下のピッピ』

2006-05-18 09:58:24 | 作家や・ら・わ行

 アストリット・リンドグレーンです。

 

世界一強い女の子ピッピ・・・映画化もされましたね。

私の記憶では、生まれて初めて観た映画だったりしてます^^。

 

ヒロイン・ピッピは、赤毛で三つ編お下げをキュッと上に跳ね上げて、

左右違う靴下を履いていて、そばかすだらけで超がつく程の力持ち^^。

猿と馬と共にゴタゴタ荘に住んで自由奔放に暮らす元気いっぱいの女の子。

実は母親は早くに亡くし、父親は船旅で嵐の日に波にさらわれてしまった、

という少々悲しい事情の持ち主なのです。

 

お隣に住むトミーとアンニカと直ぐに仲良しになるけれど

大人たちには最初、認めてもらえず・・・

近所の人の通報でおまわりさんが孤児院に入れようとやって来ますが

大の大人を相手に、散々からかって追い出しちゃう

9歳の女の子とはとうてい思えない強気なキャラで・・・

でもなんだかんだ、大人達もピッピの魅力に惹き込まれてしまうのですね^^

 

二人から学校のお話を聞いて「自分も行く!」なんて意気込んでみたものの

結局先生の言うことが全く聞けず・・・大の学校嫌いに・・・ 

サーカスで世界一の怪力男アドルフと対決する際の言葉が

「世界一強い女の子よ!」なのです。

川下りや空を飛ぶシーン等、様々な冒険を繰り広げてハチャメチャなんだけど、

本当に夢いっぱいのお話です。

でも、ほら吹きだったり・・・ちょっぴり人種差別か!?

と思われる言動や行動もあったりで、今読むと気になる所も結構あるかも。。

 

それはともかく。。

映画は、小学校低学年の頃に観て、自分とは正反対の破天荒で元気なキャラが

も~めちゃめちゃ羨ましくて、お下げをキュッと上に跳ね上げたり

左右違う靴下を履いてみたり^^格好だけは一生懸命真似したっけ。 

う~ん。。なっつかしいな^^

 

素材提供:AICHAN WEB


ドルリー・レーン四部作

2006-04-07 21:12:44 | 作家や・ら・わ行

 エラリー・クイーンの、バーナビー・ロス名義作品、

X・Y・Zとアルファベットで始まる悲劇を含めた有名な四部作です。

 

ちょっと余談ですが・・・エラリー・クイーン名義の作品は、

実はいとこ同士の二人が協力して創作していたそうで・・・

別名義作品を用いて、この作品を発表した意図に関しては

色々憶測されているようですが・・・流石ミステリー作家!

やる事が凝ってますね^^。



この作品、中学時代に大好きだった数学の先生が、

「とにかく最初から順番に読んでみて!」と熱烈に薦めて下さり、

それ程言うなら・・・と、渋々(笑)読んだ作品です。

今思えば・・・素直に先生の言う事を聞いて良かった~と思います^^。

斉藤先生、有難うございます・・・なんてここで言ってもショーガナイって・・・

 

X・Y・Zとアルファベット順に三篇を並べ、最後に『レーン最後の事件』として

衝撃のラストを飾った四部作は、今読み返しても読み応え十分ですネ。

なんてったってドルリー・レーン

シェークスピア劇の俳優って設定がとっても魅力的です。

主要人物達も、それぞれ個性豊かで魅力的で、愛すべき人々です

このシリーズの「Zの悲劇」で登場したサム警部の愛娘ペーシェンスには

当時、とっても憧れて完全になり切っちゃってましたっけ^^

ゴードン・ロー青年との素敵な関係も羨ましかったな

 

それにしても『レーン最後の事件』は・・・悲しかったですね。。

本気で泣いちゃった記憶があります・・・。

人間の五感を扱った作品といえば、ルース・レンデルも有名なのがありますね。

ともあれ、愛書家・・・それも狂信的ともいえる人にとって

敬愛する作家の直筆って命より大切なものなのでしょうか・・・。

なんとも複雑な気持ちにさせられたシリーズでした。

 

素材提供:AICHAN WEB


『偽のデュー警部』

2006-02-27 23:23:56 | 作家や・ら・わ行

 ピーター・ラヴゼイです。



六十年の歳月が経過した今でも偽警部デューの謎を解いた人はいない。

こんな謎めいたまえがきから始まるこの作品。

時は1921年、舞台は大西洋を横断する豪華客船。

リッツホテルの窓から群衆に花を投げるチャップリンや

サウサンプトン港の大埠頭に横付けされたモーリタニア号、

その船内で行われる仮装舞踏会

そんな素敵な舞台設定に加えて、登場人物達の多彩なこと、個性豊かなこと、

さり気ない会話の中になんともいえないユーモアが潜んでいて

私の大好きな古き良き時代の上質のミステリーそのものです。

 

女優の奥さん(リディア)を持つ歯医者さん・ウォルターと、

夢見る少女アルマが企てた、リディア殺害計画・・・

船に乗り込む時に、ウォルターは様々な理由から偽名を名乗るのですが、

その偽名が名警部と名高い「デュー」だった事から

思いがけない事件に巻き込まれてしまうのです。

思いがけない事件とは、船内で起きた殺人事件の解決を依頼される事!

果たして偽のデュー警部は、船上で起こった事件を解決出来るのでしょうか??

 

この名警部として名高い本物のデュー警部とは、

自分の奥さんをバラバラに殺害し、愛人と共に外国に船で

逃亡しようとしていたクリッペン医師を、見事な推理で逮捕したという、

伝説のヒーローなのです。

ちなみにこのクリッペン事件は英国で実際に起こった有名な事件です。

この事件の犯人クリッペン医師の犯行とウォルターの行動が

酷似しているところがなんとも奇妙な展開じゃありません?^^



この偽警部ウォルターのキャラがまた不思議で、

何を考えているか全く分からない。

普通ならこんな妙な状況に置かれたら慌てるところだと思うのですが・・・ネ。

一人一人を尋問(?)する時も、彼が何も聞かないのに

相手が勝手に色々話してくるのが妙に面白い。。

この尋問される一人一人も味があって良いのですヨ。

とにかく会話が笑えます

それぞれの抱えた問題や、船の中でのロマンス等々

事件解決を巡って様々な人間模様が繰り広げられていく・・・。

 

そして最後の最後にとっても粋などんでん返し

この終わり方は・・・う~ん。。マイッタ

1983年英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作の

とても素敵なミステリーです

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


『夢織り女』

2006-02-06 20:14:42 | 作家や・ら・わ行

 ジェイン・ヨーレンです。

 

「1ペニーだよ、お客さん。夢をひとつ織って、ほんの1ペニー」

老いた盲目の夢織り女が、通りがかる人々に呼びかける・・・。

 

20世紀のアンデルセンと謳われるヨーレンの幻想的な世界は、

独特の雰囲気ですが、とても素朴で懐かしい想いにさせられます。

この夢織り女の老婆が紡ぎだした夢は全部で七編。

 

  「ブラザー・ハート」

  「岩の男、石の男」

  「木の女房」

  「猫の花嫁」

  「死神に歌をきかせた少年」

  「石心臓姫」

  「壷の子」

 

この中では「石心臓姫」が一番好きだな~。。

 

絶世の美女でした。髪は秋の紅葉の色で、

それにオレンジと金色が混じっています。

目は岩をおおう苔の緑。肌はできたてのクリームの色でした。

ほっそりとして美しく、声は低い声でした。

だのに、心臓が石なのです。

 

両親は、娘の為なら・・・と名医や詩人、画家、歌手、

更に辻芸人とピエロ、軽業師と漫談家等、

あらゆる道のプロを招いては無表情の姫を・・・石の心臓を動かそうと努力します。

が、泣くことも笑うことも出来ない石心臓姫。。

「なんてつめたいお人だ」

・・・みんな去ってしまいます。

 

そんな時、同じ王国内に住む樵のドナルが登場

タカ、キツネ、熊等の動物達から、姫は一人ぼっちと聞き、

勇敢にもお城に乗り込むのです・・・熊に乗って

 

それぞれの夢の結末は、いわゆる御伽噺と違って、少々捻ってます。

決して素敵なハッピーエンドではありません。

そして最後の最後、夢を織っていた老婆が気付く真実。。

ジェイン・ヨーレンは、自作を”魂のお話”と表し、作中にも夢織り女に

「芸術とは、心と魂を目に見える形にしたものでなくて何だろう―――」

というセリフを語らせてますが、これらの作品はまさに

人間の無意識の世界を紡ぎだしている妖精の世界なのです。

たま~に、こんな不思議世界に飛んでみたくなったりします・・・

 

素材提供:AICHAN WEB


怪盗紳士アルセーヌ・リュパン・シリーズ

2006-01-27 10:55:09 | 作家や・ら・わ行

 モーリス・ルブラン作の大人気シリーズです。



小学校時代・・・当時『リュパン対ホームズ』って作品の影響もあって

よく比較してた事、懐かしい思い出です。

私はこの作品を読んだ当初は、華麗なリュパンが大好きでした

なんといっても弱い者の味方・・・とりわけ可憐な女性に優しい、

というのがポイント、高いですよね~

 

悪徳商人等からのみ、その類まれなる泥棒の手腕を発揮する・・・

それもスマートに鮮やかに

変装の名人で、いくつもの顔を持つ謎の男。

『813』では一人三役で・・・しかも警察署にまで侵入してましたっけ・・・

 


このシリーズでは『奇巌城』がダントツ大好きでした

何度読み返して涙したか分からないくらい。。

高校生の男の子との知恵比べ合戦は凄かったですね~。

リュパンの残す僅かな手がかりを元に、追い詰めていくボートルレ君。

君は一体何者だ

この作品のホームズは・・・ちょっと(かなり?)憎まれ役でしたっけ。

美少女レイモンドとの一件はあまりにも悲しい結末で・・・。

リュパンが本気で愛した女性って、清純なタイプが多かった記憶があるのですが

このレイモンドはその筆頭に位置する女性でしたよね。。

この作品を読んでる間中、例によって例の如く・・・

レイモンドになり切っていたので・・・も~涙涙の洪水でした

 

素材提供:AICHAN WEB


リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ

2006-01-16 13:31:25 | 作家や・ら・わ行

 S・J・ロ-ザンです。

 

このシリーズは、アメリカ生れの中国人リディアと、

アイルランド系アメリカ人ビルの不思議コンビが

不定期にパートナーを組んで事件解決に挑むハードボイルド系作品で、

一作ごとに、主人公が入れ替わります。

 

第一作目『チャイナタウン』はリディアがヒロイン。

チャイナタウンの美術館から貴重な磁器が盗まれ、

盗品発見の以来を受けたリディアは、

中国人ギャングと美術品業界の調査に乗り出します。

チャイナタウンで暮らすリディアにとって、実生活にも関わりのある事件。

 

第二作目『ピアノ・ソナタ』はビルが主人公。

リンク先を是非ご参照下さいネ

 

私が読んだのは『新生の街』『どこよりも冷たいところ』と全四作です。

このシリーズはなんてったってビルとリディアの会話が良いです~。。

まさしく名迷コンビです

シリーズを読み進めて行くにつれ、徐々に気持ちが通じ合い、

素敵な関係が築かれていく過程も見どころの一つです。

リディアのお母様がビルにとってかなり難関かな。。

 

全体的に思ったよりハードボイルド色が強いです。

リディアもかなりお転婆

『チャイナタウン』で男達に囲まれて散々な目に合ったシーンはかなり強烈でした。

更にラストの思いがけない想定外の出来事・・・。

女としては悪い気はしませんがでもやっぱり迷惑なハナシ。。

・・・なのですがやっぱその辺の人間の心理描写が素敵なのですね

 

逞しいビルは常にリディアを助けてくれますが、どちらかというとビルの方が

リディアに助けられるパターンが多かった気が・・・

特に印象的だったのは、ビルが男達に囲まれてまさに危機一髪

リディアが沢山の人ごみを掻き分けて、持ってる飲み物を人にぶっ掛けながら

お馬鹿な観光客の振りして近づいて行ったシーン

リディア最高って思わず快哉を挙げてしまったのは私だけでないハズ・・・

 

このシリーズを読み始めたきっかけは「ピアノ・ソナタ」という題名に惹かれてのこと。

ビル・スミスのピアノに賭ける思い入れの深さ、情熱は、本当に心に沁みます。

ピアノ。。

現在はピアノに触れる事も減ってしまいましたが、

ある意味、私の青春時代の大きな位置を占める大切な楽器なので

ビルの気持ちに感情移入・・・とまでいかないけれど

共感するところも多々あり、とても好きなシリーズになりそうです。

このシリーズに関しては、また順を追ってご紹介したいと思っております。

ブログ友達リラさんの記事も是非ご参照下さいネ


『求婚する男』

2005-12-20 10:59:29 | 作家や・ら・わ行

  ルース・レンデルです。

 

この作品は、私が初めて読んだレンデル作品です。

異常心理小説が多い、という印象が強かったので、(実際多いです~

正直、あまり読んでみたいと思わなかった作家さんでしたが、

英国ミステリーの重鎮の一人だしな~、なんて気持ちから

読みやすそうな気がして挑戦してみた作品です。

 


幼馴染で大切に思い続けていたレオノーラから、別の男性と結婚をすると

打ち明けられたガイ。

実は随分昔に二人の関係は終わっていたのですが、ガイは納得していません。

そんな彼の気持ちを納得させる為に、毎週土曜日のランチ・デートを続けるレオノーラ。

この打ち明け話も、ランチ・デートの席での事でした。

 

ガイは、レオノーラが周りから説得されて別れざるを得なかった、と思い込み、

実はレオノーラが本当に愛しているのは自分だけ!と信じ込んでいるのです。

この辺の、思い込みから徐々に精神の均衡が保てなくなり、

狂気に走っていくガイの心理状態の描写は見事ですね~。

何度レオノーラに電話をかけても、必ず誰かに阻止される・・・。

そのうち、恒例だったランチ・デートも出来なくなる・・・。

実はレオノーラの意志だったりするのですが、ガイはそう解釈しません

ガイの心境はおそらく「周りから理不尽な目に合っているレオノーラを救うんだ!」

なのです。。う~

 

後書で訳者さんが

“恋愛をしている人間は一時的にせよ狂気の世界に生きているといえる”

と語ってますが、現在病の一つ「ストーカー」の、まさにハシリ的な小説ですね。。

でも、ガイに対しての嫌悪感はあまりなかったかも。。

哀れで切なくてかわいそうで・・・寧ろ、レオノーラの中途半端な態度が

こんな恐ろしい悲劇を招いたように感じました。

 

この作品を機に、レンデル作品を次々挑戦していくうちに感じた事ですが

一言で「異常心理」といっても、その描写の素晴らしさは、ちょっとした衝撃ですね。。

明らかに「おかしい」と分かるのではなく、その人物の行動、発言から、

精神異常を克明に描き出していく・・・。

別名義バーバラ・ヴァイン物はもっと繊細で独特で、

本当に凄い作家さんだと思います。

 

日本では、英国ミステリーの女王といえば真っ先に

アガサ・クリスティーを挙げる方が多いと思われますが、

私はD・L・セイヤーズや、このルース・レンデルの作品の方が遥かに好き

トリックや推理より、文学系を好む傾向が強いから・・・かな。。

 

AICHAN WEB


『ピアノ・ソナタ』

2005-08-26 13:00:13 | 作家や・ら・わ行

 S・J・ローザンです。

 

本当はシリーズ物なのです。

第一作『チャイナタウン』を読んでから書こうと思っていましたが

いつになるか分からないし、独立した作品としても充分通用すると思われるので、

「好きな作品」書庫でご紹介させて頂きます。

 

ブロンクスの老人ホームで警備員が無残な撲殺死体で発見され、

その残忍な手口から地元の不良グループ・コブラの仕業と判断されます。

ところが、被害者の叔父であるボビーは事件の真相は別にあるのでは?

との疑問から私立探偵ビル・スミスに調査を依頼・・・。

ビルは、かつての恩人でもあるボビーの為に、また殺された警備員マイクへの

友情の為に、危険な調査に乗り出すのです。

貴重な相棒リディア・チンへの切ない想いを抱えつつ・・・。

 

この作品のタイトル「ピアノ・ソナタ」とはシューベルトの

ピアノ・ソナタ変ロ長調のことです。

主人公の探偵ビル・スミスが、折に触れ機に触れ練習を重ねる曲であり、

彼の過去のいきさつにおいて無くてはならない曲なのです。 

このソナタはシューベルトの遺作ですね。。

他のソナタと少々趣が違う気がするのは、作曲した当時の

シューベルトの人生における様々な出来事が影響しているようです。

それはともかく、とても叙情的で、時に情熱的な美しい曲です。

私は、かのクララ・ハスキルの名演で聴くのがお気に入りです。 

ビル・スミスはリチャード・グードの演奏がお気に入りだそうです。

 

この作品のジャンルはハードボイルド系ですね。。

とても情緒豊かな描写や文章がそこここに散りばめられ、

彼の人生の過去のいきさつもさりげなく織り込まれていて、

ビル・スミスのピアノに対する想いの深さが切ないまでに伝わってきます。

なんていうか・・・とても魅力的な中年探偵です

 

ビル・スミスの身体を張った捜査によって、

事件の真相は徐々に明らかにされていきますが、これまたなんとも切ないです。

ブロンクスという貧しい地域にはびこるどうしようもない廃退・・・。

そしてその中で生れる友情、裏切り・・・。

なぜ偏屈になってしまったのか?なぜここまで悪になってしまったのか?

苦々しげに告白する刑事や、事件に関わる人々の説明を通して

様々ないきさつが明かされるシーンはジーンと胸を打たれます。

 

ここで話はちょこっとピアノへ^^

おそらく作者が相当クラシック通なのですね。

中でもピアノに関しては思い入れが深そう・・・。

ブロンクスの老人ホームに住むアイダ・ゴールドスタインは大好きなキャラです。

クラシック・ピアノ=お上品なんて思ってらっしゃる方には是非とも読んで頂きたい。

 

「この曲を知ってる?」「リストですか?」――――

「そうよ。メフィスト・ワルツの二番。一番は誰でも弾くわ。

でもこれを弾く人はいないのよ。なぜだか、わかる?」「いいえ」

「老いについての曲だから。シューベルトは若死にについて、作曲した。

誰だって理解できる。大いなる悲劇だもの。リストは老いを作曲した。

意地が悪い曲よ。あんた、これを弾くの」「いいえ」――――

 

「あんたがたくましいのは確かだわ。リストもベートーベンも弾けるわね。

あの交響曲的練習曲も弾くの?ほら、あの・・・」

「シューマンの?」わたしは言った。「ええ。弾きます」

 

ま~こういった具合に次々にあらゆる曲が登場します。

ちなみに初めてアイダがピアノを弾いている姿を見た時の曲は

ショパンのバラード第二番。

なんていうか・・・一般的な見解からすると

ショパンのバラード四曲の中では最も地味で不人気です。

分かりにくい曲なのですね。。

それをあえてもってくるあたり・・・只者じゃないぞ!なんて思ってしまうのです。

 

そうそう。。

シューマンといえば、ショパンと並んでロマン派を確立した作曲家。

むしろロマンティックな点ではショパンを超えているような気もします。

「クライスレリアーナ」「トロイメライ」等はあの最愛の人クララに

捧げられてますものね。

う~ん。。クラシック音楽界における世紀の大恋愛ですね。。

・・・大分話が脇道にそれてしまいました。

 

ラストは私立探偵小説ならではの事件解決で

警察や検事といった人々が主役の場合はあまり無い展開かもですね。

とにかく、事件そのものは悲惨極まりないのですが、

作者の一人一人に向けられる暖かいまなざしに包まれて、

とても心地良い後味が残ります。

素敵な相棒リディア・チンとの関係も気になるところ・・・。

かなりお勧めです~。。

 

素材提供:ゆんフリー写真素材集


イヴ&ローク・シリーズ

2005-08-17 14:19:03 | 作家や・ら・わ行

 J・D・ロブ・・・ロマンス作家ノーラ・ロバーツの別名義です。



米国では既に約20作刊行され、現在も続いているベストセラーの人気シリーズで、

近未来(今から約50年後)のニューヨークを舞台にした

ロマンティック・サスペンスです。



主人公はニューヨーク市警察に勤務する警部補イヴ・ダラス。

非常に優秀な刑事ですが、幼児期に経験した悪夢のような出来事により

心に深刻な傷を持ってます。

難解な事件解決に挑む事により、暗い過去を封じ込めようと

虚しい努力をするのですが・・・。



シリーズ第一弾で登場した、宇宙一の大富豪ロークとの出会いは強烈でした。

ある意味、同病相哀れむ仲・・・彼も暗い過去により心に傷を持っています。

孤児のような生活から、時には不法な事までしつつ、

実業家として大成功した謎の男性なのです。



今まで人を愛し、愛されることを知らずに生きてきたイヴ&ロークが、

お互いに感情をぶつけ合いながら成長し、人間として成熟していくこのシリーズは

妙にはまって・・・一時期夢中になりました。

登場人物も個性豊かで、ロークの執事サマーセット、イヴの親友メイヴィス等

それぞれとても良い味出してます。

三作目だったかな。。

メイヴィスが容疑者になった時のイヴの尋問はちょっと辛かったです。



近未来が舞台ですが、機械に対して口頭で命ずるだけで反応するくらいで

それ程の違和感はありません。

毎回登場するローク特性の美味しそうな珈琲に触発されつつ・・・

4作目か5作目あたりまでは楽しみに読んでましたが、

最近はなんとなくご無沙汰気味です~。。


ダイヤモンド警視シリーズ

2005-08-05 11:29:06 | 作家や・ら・わ行

 ピーター・ラヴゼイです。



昔気質で一本気。頑固で剛直。という

ダイヤモンド警視を主人公にした人気シリーズです。

最初から波乱万丈な方なんですよね。。辞めたり戻ったりの繰り返しで・・・。



三作目の『猟犬クラブ』で漸く警視として落ち着いた感じです。

この作品、ミステリー好きにはちょっと嬉しい内容ですヨ。

これでもか、これでもか、って感じで沢山のミステリー作家、

ミステリー作品が登場するんですもの。

それもそのはず。。「猟犬クラブ」とは、ミステリー愛好会の名称なのです。

その猟犬クラブのメンバーの一人が密室で殺され、その捜査に当たるのが

かのダイヤモンド警視なのです。



ダイヤモンド警視のキャラはとにかくユニークです。

デブで無神経でコンピュータ―も全く無知。その上検死も苦手とくる。。

更に自分勝手で人を振り回す・・・。どうしようもないでしょ~?^^

なのになぜか憎めないのです。



その部下、ジュリー警部もいい味出してます。

とても可愛らしい女性なのです~。。

「猟犬クラブ」で危険を覚悟で一人乗り込んでいった勇気・・・

行方不明のジュリー警部を探すために半狂乱になったダイヤモンド警部。。

う~ん。。この辺りは大好きなシーンです~^^

確か『暗い迷宮』後ひとり立ちした記憶がありますが。。

この作中、ウンベルト・エーコ好きの鼻持ちならないご婦人相手に

さり気ない一言で言い負かせてしまう件は、妙にスカっとしました。(笑)



『暗い迷宮』の中のこんな会話もお気に入りです


  「運転歴は長いのかね、ロバーツ。」

  「17の誕生日からずっと運転しています。」

  「いまいくつだ。」

  「18です。」



でもシリーズ最新作ではダイヤモンド警視の愛妻が殺される、という事で・・・

読む気になれない状態です。。

 

素材提供:Pari’s Wind


『ミドルセックス』

2005-07-15 11:18:14 | 作家や・ら・わ行

 ジェフリー・ユージェ二デスです。



この方の作品は『へびとんぼ~』に次いで二作目なのですが・・・

も~、圧倒されましたね~。

ハードカバーで総頁数726!その三分の一あたりまでは語り手であり、

事実上の主人公でもあるカリオペは産まれていません。

産まれる前の出来事においても、一人称でカリオペが語る手法は、

本来違反行為と言われても仕方ないところ・・・なのですが

全然違和感を感じませんでした。

「わたしは二度生まれた。最初は1960年1月、

空気の澄みきったデトロイトでのある日、女の赤ちゃんとして。

二度目は1974年8月、ミシガンのペトスキー近くの

救急処置室で十代の少年として…。」



衝撃的な出だしで始まるこの長い長い物語。。

ギリシャ系一族の三代に渡る壮大な大河ものです。

両性具有、近親結婚等を扱っていますが、奇をてらった作品ではありません。

特殊な肉体を持った一人の人間が、様々な苦難を乗り越え

成長していく過程の方が心に残ります。

 

物語は20世紀初頭、ギリシャの小さな村に住む姉弟が

二人で暮らしているシーンから始まります。

このデズデモーナとレフティー・・・カリオペのルーツです。

様々な紆余曲折を経て、舞台は自動車産業が盛んなデトロイトへと移って行きます。

その間、ギリシャとトルコの戦争を初めとして、アメリカの禁酒法や

工場の機械化等、人々の生活が激変していく歴史の過程も

細やかに描かれていてとても興味深いです。

ギリシャ移民が苦労してそれなりの社会的地位を築きあげていく・・・

この辺の描写も細やかでとても面白かったですヨ。



でもなんといっても、少女として育ったカリオペが、

両性具有者である事を知った時の心の葛藤が繊細で素晴らしく

書き手が男性である事が信じられない程です。

家を飛び出し、長い自分探しの旅の末、家路に着くまでの後半は圧巻でした。

一人の人間を・・・人格を、まるでモルモットのように扱う医者・・・。

カリオペが愛する両親の元を飛び出し、放浪の旅に出るにあたって

書いた一通の手紙は、短いながらも心の葛藤が克明に刻まれて

いるようで、胸が痛かったです。

 

そして長い放浪の旅を終え、母親と再会したカリオペ。。

「お母さん」わたしはいった。「ただいま」

―――わたしたちは抱きあった。わたしは背があるので、

母の肩に頭を預ける格好になった。

わたしがすすり泣く間、母はわたしの髪を撫でていた。

「どうして?」母は低い声で泣きながら、首を振っていった。―――

「どうして逃げ出したの?」

「そうしなきゃならなかったんだ」

「今までどおりにしてたら、もっと楽だったろうに、とは思わないの?」

―――「これが今までどおりなんだ」―――

 

素晴らしいシーンです。。

比較的淡々と書いているのですが、

このあたりに差し掛かると涙が溢れて止まりませんでした。

 

後書で、この作品についてアメリカ文学者、柴田氏が

「エピソードからエピソードへ移っていくなかでいろんな細かい記憶が

読み手の頭のなかに蓄積されていき、いろんな人物や出来事をつなぐ

網の目が脳内に出来上がっていく結果、最後の方になると、

一見何気ないフレーズからもこれまでの物語の様々な断片が

あざやかに喚起される・・・。

言葉の累積的な効果が、ここまで豊かな小説はそうざらにない。」

と語っていますが、まさしく!と思います。

 

ピュリッツァー賞受賞の素晴らしい感動作・・・。是非ご堪能あれ~。。

 

素材提供:Pari’s Wind


『恋はポケットサイズ』

2005-07-12 14:29:34 | 作家や・ら・わ行

 ヴォルドマール・レスティエンヌです。

 

多分これ、絶版です。

初めて読んだのはもう20年以上前ですが、とても鮮明に覚えています。

この物語のベースのなっているのがあの大好きな『椿姫』だから・・・だと思います。


   
ぼくは恋に恋する花の高校生、紅顔メガネの美少年。

ある夜、悪友とさまよい出たパリの街かどで、不思議な美少女と出会ったのが、

ことの起こり。

年上の彼女との甘い一夜が明けて、純情なぼくはすっかり恋のとりこ。

ところがなんとこの少女、綿シャツにジーンズは仮の姿、

実はシャンゼリゼ界隈の超豪華マンションに住む殿上人で、

グッチのバッグにきゃしゃなパンプス、

アダルトな絹のドレスを優雅にひるがえし、ブルーの高級車を

さっそうと乗りまわすヒトだった!

 

この作品の作者は敏腕編集長としてもかなり有名な第一級ジャーナリストだったそうで

その確かな腕前は、この作品でも冴え渡っていて、今読んでもとても瑞々しい文章です。

実際、フランスの有名な文学賞、アンテラリエ賞を受賞し、映画化もされてるのですヨ。

 

パリにおける優雅でファッショナブルな生活や最先端のファッション―――

リッツ、クラリッジ、ジョルジュ五世といった高級ホテルや、最高級レストラン〈マキシム〉

サン・ジェルマンの人気ビヤホール〈ブラッスリー・リップ〉

ピアノバー〈バール・ド・ロテル〉、モンパルナスの〈クローズリー・デ・リラ〉等の

眩いばかりのきらびやかな舞台設定。。

 

しがない庶民の高校生のぼくが、こんなきらびやかな場所に連れ込まれ、

かの美少女のお相手をするのです。

もちろん、ぼくとしてはオロオロするのが関の山。。振り回されてばかりです。

 

でもこの物語、結末は『椿姫』より、ある意味残酷です。

十九世紀の椿姫は、病気とモラルに恋を引き裂かれ死んでいきましたが、

現在の椿姫は・・・。

 

幼すぎて気付かなかった彼女の心の痛み。。

お金が総て、のような男性達に囲まれ、裕福な生活を送っていても

心は満たされず、虚しかったであろう現在版椿姫。

純粋で、お金の価値に疎い高校生の〈ぼく〉に、

心の安らぎを見出していたに違いないのです。

 

「やっと、ふたりでやっていけるかと思ったのにね」

 

なんともやるせないラストでした。

 

素材提供:Flower mau