イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

GENE[ゲーン](23) 滅私の情を抱く心に宿る愛

2007年06月24日 06時30分56秒 | 小説

瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の 割れても末に逢はむとぞ思ふ by 崇徳院

 完璧に外部に対して感情を押し隠した、冷たく映る見事に抑制された表情――冷厳なる“氷の美貌”ゆえに黄金の騎士ミハイル・リンゲウバウアーは冷酷だと誤解されがちだけれど二形(両性具有)の主人公イリ・イン・ラーチョオを優しく包み込み、当初はサーシャばかりかまでが独占欲を露わに追い詰めればイリの心の拠り所が失われ、その安息が崩壊してしまうと知っていたがゆえにイリの望む“物分りの良い従者”という自分を敢えて演じる部分がありました。しかし、次第に心からイリの幸福と安寧を願うようになったミハイルイリの存在自体が己の至福であり、その愛の成就と幸福のために行動してゆきます。

 チャンシャン王国の内乱“二人の王太子の乱”の片方の主役であるタオホン道連れにしようとした刃から身を挺してイリを守り、瀕死の重傷を負い死線を彷徨いました。奇跡的に一命を取り留め回復するけれど、怪我の後遺症により右足障害を残しましたが、それはミハイルにとって愛するイリを守り抜いた勲章なのです。最初から五百香ノエルの分身(1)ロクデナシのバルトに売り渡され“スケープゴート”として闇に葬り去るつもりでイリを利用した五百香ノエルの分身(2)ホークァン・エイリー&五百香ノエルの分身(3)ラジャ・シン・ジュール宰相によって、チャンシャンを傾かせ衰退させた難癖をつけ、“傾国の咎”を負わされ終身刑に処されたイリと共に〈才様館〉に入居しました。ヤンアーチェへの愛を自覚したイリが自らの足で歩き始めても、己がイリのものであることは変わらないと告げ、イリ未来永劫の愛を捧げ生涯独身を貫く。或る貴族の嫡子として生を受けたが、レイダー公によれば正妃となるのは不可能な、貴族社会で言うところの“下賤な女”らしいですが。


 中央文庫『イズァローン伝説』第8巻(完結巻)の「11の巻 カドル(運命)の夜」での、カウス・レーゼン愛するアル・ティオキア(主人公)を救おうとイズァローン王国の現王シド・ルキシュに面談を求めて魔力で拒まれながらも、一瞬の隙を突いてイズァローン王国を守る“金の谷の乙女”王妃フレイアを捕らえ“お教えしよう、フレイア王妃。主君を守ろうとする臣下は一時(ひととき)たりと迷わない、人を殺めることすらもためらわぬ。それほど自分を捨てている、主君のために鬼畜になることすらできるのだ。あなたは一瞬、わたしの血を見ることを嫌ったが、「私(し)」を捨てた情は何ものをも超える…!”と告げた言葉、そして、“「私(し)」を捨てた情――――自分本位になればなるほど情はつのるのだと思っていた、愛するもののためだけを考える情があったのだ…。”「滅私の情」の強さを思い知ったフレイアの心の独白にあるように、“愛する者のためだけを考える情”こそが、ヤンアーチェの唯一の正妃となったチャンシャン王妃イリを守るミハイルの持ち得るものです!