2014年5月25日放送 日曜美術館(NHK Eテレ)
バルテュス 5つのアトリエ
[出演]節子クロソフスカ・ド・ドーラさん(バルテュス夫人)
旅をするように各地のアトリエを転々と移動し、作品制作に打ち込んだバルテュス。
パリで二ヵ所、その後はフランス・シャシー、ローマのヴィラ・メディチ、そして終の棲家となったスイスアルプスのロシニエール。
ヴィラ・メディチやロシニエールへの移住については、アカデミーへの招聘や健康上の理由などいろいろあったそうだが、結果的に移り先で新鮮なインスピレーションを得て創作に打ち込んだことは確かである。
「自分の絵を理解したことはない。作品には意味がなくてはいけないのか」というバルテュス。
そもそもがこうした立場を表明している画家だけあって、作品自体に関する説明は決して多くのこされていない。
それが、後世の我々の作品をみる眼を混乱させている部分も少なからずあるのだろう。
また、バルテュスの「ステレオタイプ」にもなっているのが「ロリータ・コンプレックス」なのではないかという点。
たしかにバルテュスは「少女を天使のように描く」といった言葉をのこしている。
しかし単純に「ロリータ・コンプレックス」のひとことで片づけられる画家ではなかろう。
以前にこのブログでバルテュス展のレビューを書いたときに、バルテュスの少女画は、西洋絵画の伝統的な裸婦像をバルテュス的に変奏したものではないかと言った。
ホルマン・ハントの《良心の目覚め》の「前段階」が描かれているかのようなバルテュスの少女画は、それゆえ、「静けさ」のなかに「覚醒」への胎動を予感させる「不安定さ」に魅力がある。
ホルマン・ハント 《良心の目覚め》
そもそも、「ロリータ・コンプレックス」どうこうという話が始まった一因は、ナボコフの『ロリータ』(の初版?)にバルテュスの少女画が使われたこと。
この「事件」に、バルテュスは憤慨したという。
「私が理想とするのは、宗教的なモチーフを使わずに宗教画を描くことだ」。
神聖で、危なげで、そして、美しく。
バルテュスの少女画を生み出した、5つのアトリエという巡礼の旅。
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